カップヌードル「Wタブ」の立体商標登録に見る、企業の知財戦略とブランドの永続性

はじめに:株式会社IPリッチのライセンス担当です
こんにちは、株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、日清食品が実施した「Wタブ」と呼ばれるカップヌードルの新しい蓋形状の立体商標登録について、その背景にある知財戦略を深掘りします。日清食品は2021年、プラスチック削減の一環として長年の定番であった「フタ止めシール」を廃止し、代わりに蓋の開け口を二つにした「Wタブ」を採用しました。そして翌2022年、この形状を「立体商標」として登録することに成功しています。通常、製品の形状変更は「意匠権」で保護されることが多い中、なぜ同社は取得難易度の高い「立体商標」を選んだのでしょうか。そこには、権利の存続期間やブランドの資産価値に関する明確な戦略的意図が存在します。本稿では、意匠権と商標権の法的な違い、機能的な形状を商標登録する際のハードル、そして知財を活用した長期的なブランド形成について、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
近年、企業の経営戦略において「知財の収益化」が極めて重要なテーマとなっています。特許や商標を単に「守る」だけでなく、ライセンスアウトやブランド価値向上を通じて「稼ぐ」資産へと変えていく動きが活発化しています。このような攻めの知財戦略を実行するためには、高度な専門知識を持った人材が不可欠です。もし、貴社が知財戦略を強化するための人材採用をお考えであれば、知財専門の求人プラットフォーム「PatentRevenue」のご活用を強くお勧めします。専門性の高い知財人材に特化した求人情報を無料で登録・掲載することが可能です。貴社の事業成長を加速させる優秀な人材との出会いに、ぜひ「 https://patent-revenue.iprich.jp/recruite/ 」をご活用ください。
日清食品の「Wタブ」導入とプラスチック削減への取り組み
日清食品が2021年6月に導入した「Wタブ」は、カップヌードルの歴史において非常に大きな変更点となりました。発売以来、長年にわたって消費者に親しまれてきた底面の「フタ止めシール」を廃止したのです。この決断の背景には、世界的な課題であるプラスチック廃棄物の削減があります。発表によると、このシールを廃止することによって、年間で約33トンものプラスチック原料を削減できるとされています 。
しかし、単にシールをなくすだけでは、消費者がお湯を注いでからの3分間、フタが開いてしまうという不便益が生じます。そこで開発されたのが、フタの開け口(タブ)を従来の1つから2つに増やした「Wタブ」という形状です。この2つのタブを容器の縁に引っ掛けることで、シールがなくてもしっかりとフタを固定できるようになりました。この形状変更は、消費者の利便性を維持しつつ環境負荷を低減させる、機能美を追求したデザインと言えます 。
企業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組む際、コスト増や利便性の低下が課題となることが少なくありませんが、日清食品はこの課題をデザインの力で解決し、さらにその形状を知的財産として権利化するという高度な戦略をとりました。この「Wタブ」は、単なる環境対策の成果物にとどまらず、新たなブランドアイコンとしての役割も担うことになったのです 。
意匠権と立体商標の決定的な違いとは?
製品の新しい形状を法的に保護する場合、主に「意匠権」と「立体商標(商標権)」という二つの選択肢があります。日清食品がWタブについて立体商標を選択した理由を理解するためには、この二つの権利の決定的な違いを知る必要があります。
まず「意匠権」について解説します。意匠法は、新しく創作された美的なデザイン(意匠)を保護するための法律です。意匠権を取得するためには、そのデザインが「新しいこと(新規性)」や「容易に創作できないこと(創作非容易性)」などが求められます。意匠権の最大のメリットは、独占的にそのデザインを使用できる強力な権利が発生することですが、その一方で「存続期間」に限りがあります。現在の日本の意匠法では、出願日から最大で25年経過すると権利が消滅し、その後は誰でも自由にそのデザインを使用できるようになります 。つまり、意匠権は「新しいデザインへの投資回収期間」を保護する性質が強いと言えます。
一方、「立体商標」は商標法に基づく権利です。商標の本来の目的は「自社の商品と他社の商品を区別すること(自他商品識別機能)」にあります。消費者がその形を見ただけで「あ、これは〇〇社の製品だ」と認識できる場合、その形状はブランドとしての価値を持ちます。商標権の最大の特徴は、10年ごとに更新手続きを行うことで、半永久的に権利を保有し続けられる点にあります 。
カップヌードルのような超ロングセラー商品にとって、25年という期間は決して長くありません。もしWタブの形状を意匠権だけで保護した場合、権利期間満了後は他社が同じような2つのタブを持つ容器を製造しても、意匠権に基づいた差止はできなくなります。しかし、立体商標として登録されれば、更新料を払い続ける限り、未来永劫その形状を日清食品が独占することができます。これは、長期的なブランド戦略において極めて強力な武器となります。日清食品は、Wタブを一時的な流行のデザインではなく、カップヌードルのアイデンティティの一部として長く育てていく決意を示したと言えるでしょう。
機能的な形状における立体商標登録のハードル
しかし、立体商標の登録は、意匠権の取得に比べて非常にハードルが高いことで知られています。特に、Wタブのような「機能的な役割を持つ形状」を商標として登録することには、法的な難しさがあります。
商標法には、商品の機能を確保するために不可欠な形状については、商標登録を認めないという考え方があります(商標法第4条第1項第18号など)。これは、もし機能的な形状(例えば、タイヤの円形や、握りやすいハンドルの形状など)に半永久的な独占権(商標権)を与えてしまうと、特許権や意匠権の存続期間が終了した後も特定の企業がその技術や機能を独占し続けることになり、自由競争を阻害する恐れがあるためです 。
Wタブの「2つのタブでフタを留める」という形状は、プラスチック削減とフタの固定という明確な「機能」に基づいています。通常、こうした機能的形状は「誰が作っても似たような形になる」「その機能を使うためにはその形にせざるを得ない」と判断されやすく、特定の企業に独占させることが不適切とされるケースが多いのです。
それにもかかわらず登録が認められた背景には、その形状自体が「他社製品と区別できる顕著な特徴を持っている」と判断されたか、あるいは「カップヌードルという著名なブランドの一部として、形状のみで出所を表示できる(識別力がある)」と認められた可能性があります。日清食品はWタブの導入時に大規模なプロモーションを行い、「猫耳」の愛称で親しまれるなど、短期間で消費者にその形状を認知させることに成功しました。こうしたマーケティング活動も、商標登録の審査において有利に働いた可能性があります。
ヤクルトやコカ・コーラの事例から学ぶ知財戦略
立体商標の難しさと価値を理解するために、過去の有名な事例と比較してみましょう。日本において立体商標の重要性が広く認知されるきっかけとなったのが「ヤクルト容器」と「コカ・コーラのボトル」の事例です。
ヤクルトのプラスチック容器は、1968年に著名なデザイナーである剣持勇氏によってデザインされました。独特のくびれを持つ形状は、子供や高齢者でも持ちやすく、落としても割れにくいという機能性を備えています。ヤクルト本社はこの容器の形状について立体商標を出願しましたが、当初、特許庁は登録を認めませんでした。理由は前述の通り、「この形状は機能に基づくものであり、形状そのものに自他商品を識別する力はない(文字を見ればヤクルトだと分かるが、形だけでは不十分)」というものでした 。
しかし、ヤクルト側は諦めず、知財高等裁判所まで争いました。その中で、長期間にわたる圧倒的な販売実績や、アンケート調査によって「容器の形を見ただけで98%以上の消費者がヤクルトを想起する」という事実を立証しました。その結果、裁判所は「長年の使用によって、形状そのものが他社製品と区別する目印(識別標識)としての機能を獲得した」と認め、立体商標登録が実現しました 。
この判決は、単なる容器の形状であっても、企業努力によってブランドの象徴(アイコン)にまで育て上げれば、法的な独占権を与えられるという画期的な事例となりました。コカ・コーラの「コンツアーボトル」も同様に、暗闇で触っただけでもコカ・コーラだと分かるほどの独自性と周知性が認められ、立体商標として登録されています。
今回の日清食品のWタブは、ヤクルトのように数十年かけて認知を獲得してから登録されたわけではありません。導入からわずか1年程度での登録 は、近年の知財戦略のスピード感が早まっていることや、製品開発の初期段階から「商標登録を見据えた形状デザイン」が行われていることを示唆しています。日清食品は他にも、カップヌードルの容器上下にある帯状の図形(キャタピラ模様)についても「位置商標」として登録を受けており 、ロゴの文字がなくても商品が認識される状態を作り上げています。Wタブの立体商標化も、こうした強固なブランド防衛網の一つとして機能することになります。
知財の収益化とブランド防衛の相乗効果
日清食品がWタブを立体商標化した目的は、単なる権利保護だけではありません。ここには「知財の収益化」につながるブランド戦略が見て取れます。
知財の収益化には、大きく分けて二つの方向性があります。一つは、特許技術などを他社にライセンスしてロイヤリティ収入を得る直接的な収益化。もう一つは、強力なブランドを構築することで、製品のプレミアム価格を維持し、競合他社の参入障壁を高めることで得られる間接的な収益化です。立体商標は後者の戦略において極めて重要な役割を果たします。
カップヌードルのような世界的ブランドにとって、模倣品の存在は深刻なリスクです。特に食品業界や雑貨業界では、人気商品のパッケージや形状を真似た「コピー商品」が後を絶ちません。日清食品の担当者へのインタビューによると、カップヌードルのロゴやデザインは、食品だけでなく、Tシャツやグッズなど意外な分野で不正使用されるケースが多いといいます 。
もし、Wタブの形状が商標登録されていなければ、他社が「機能的に必要だから」という理由で全く同じ形状の蓋を採用したコピー商品を販売した際、それを止めることが難しくなります。しかし、立体商標権があれば、ロゴや商品名が微妙に異なっていたとしても、「形状が似ている」というだけで商標権侵害を主張し、差止請求や損害賠償請求を行うことが可能になります。
これは、模倣品を市場から排除し、正規品の売上を守る(=逸失利益を防ぐ)という意味で、立派な「収益化」活動です。さらに、確固たるブランド権威を確立することで、他社とのコラボレーション商品を展開する際に有利な条件でライセンス契約を結ぶことも可能になります。知財を「守り」に使うだけでなく、ブランドの価値を高め、ビジネスの収益性を最大化するためのツールとして活用しているのです。
環境配慮と知財戦略の融合による新たな価値創造
今回の事例で特筆すべきもう一つの点は、環境対策(SDGs)と知財戦略が見事に融合していることです。
一般的に、環境配慮型のパッケージ変更はコスト増になる場合や、機能性が下がる場合があります。しかし、日清食品は「プラスチック削減」という社会的要請に応えつつ、Wタブという「新しい機能美」を創出し、それを「立体商標」として自社の独占的な資産に変えました。「環境に良いことをしました」というCSR(企業の社会的責任)活動で終わらせるのではなく、その活動から生まれた成果物を知的財産権として権利化し、永続的な競争優位性に結びつける。これこそが、現代の企業に求められる高度な知財経営の姿と言えるでしょう。
投資家や消費者の目が厳しくなる中、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営は必須となっています。環境対応技術やデザインを知財化することは、企業のサステナビリティへの取り組みを対外的にアピールする上でも有効です。「Wタブ=環境に配慮した日清食品のカップヌードル」というイメージが定着すれば、消費者が店頭で商品を選ぶ際の強力な動機付けとなり、結果として売上向上に寄与します。
まとめ:これからの知財人材に求められる視点
本記事では、日清食品のカップヌードルWタブの立体商標登録を題材に、意匠権との違いや、知財収益化の視点について解説しました。要点をまとめます。
- 長期的な保護の選択:日清食品は25年で切れる意匠権ではなく、更新すれば永続する立体商標を選択し、長期的なブランド資産の形成を図りました。
- 機能と独占のバランス:機能的な形状であっても、識別力を認めさせる戦略的な出願により、法的保護を勝ち取りました。
- 環境と知財の融合:プラスチック削減という社会的課題への対応を、自社のブランド価値向上と知財資産形成に結びつけました。
- 収益化への意識:模倣品排除による利益確保や、ブランド価値向上による間接的な収益化を視野に入れた戦略が展開されています。
知的財産の世界は、単なる法律の手続き代行から、経営戦略の中枢を担うコンサルティング領域へと進化しています。今回の日清食品の事例のように、開発、マーケティング、法務、そして経営が一体となった知財戦略を描ける人材が、今まさに求められています。
これから知財業界を目指す方、あるいは自社の知財部門を強化したい経営者の方々にとって、この事例が「知財の可能性」を再認識するきっかけになれば幸いです。そして、そのような高度な知財戦略を共に推進できる仲間を探している企業様は、ぜひ冒頭でご紹介した求人プラットフォームなどを活用し、次世代の知財リーダーとの出会いを広げてください。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 日清食品. “フタ止めシール” を廃止して、年間33トンのプラスチック原料を削減! 「 カップヌードル」に新形状のフタ “Wタブ” を2021年6月より採用.
- 日清食品. プラスチック削減への取り組み.
- ヤクルト本社. ヤクルト容器の立体商標が認められる.
- 棚村法律事務所. ヤクルト立体商標事件 – 知財コラム.
- GVA 商標登録. 立体商標と意匠の違いを解説.
- 日本弁理士会 関西会. 日清食品ホールディングス㈱ カップヌードル インタビュー.
- Ip Force. 商標照会(商願2021-149990).
- 富山・高岡 弁理士ブログ. 立体商標と意匠の違いを解説.

