外部委託作品の著作権は誰のもの?発注者が気を付けたいこと

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、企業の広報担当者、新規事業開発の責任者、あるいはプロダクトマネージャーの方々に向けて、外部のフリーランスや制作会社(受託者)に業務を委託した際に生じる「著作権」の帰属と取り扱いについて、実務的な観点から徹底的に解説します。近年、コンテンツマーケティングやDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、記事作成、デザイン、システム開発などを外部へ発注する機会が急増しています。しかし、契約書における権利関係の定めが曖昧であったために、後になって「Webサイトの修正ができない」「キャラクターを別媒体で使えない」「追加費用を請求された」といったトラブルに発展するケースが後を絶ちません。本稿では、著作権法の原則から、実務上不可欠な「特掲条項」、著作者人格権の不行使特約の有効性、さらには下請法(下請代金支払遅延等防止法)や独占禁止法上の留意点に至るまで、発注者が押さえておくべき法的論点を網羅的に詳説します。
知財の収益化と戦略的活用の視点
知的財産権は、単なる法的保護の対象にとどまらず、企業の競争力を高め、収益を生み出す源泉となる経営資源です。「知財の収益化」という視点に立てば、発注した成果物の権利を自社で適切に確保することは、将来的なライセンスビジネスやM&A(合併・買収)における企業価値評価(バリュエーション)にも直結する極めて重要な戦略となります。特に、コンテンツの二次利用や海外展開を見据えた事業モデルにおいては、権利の所在が不明確であることが致命的なボトルネックとなりかねません。一方で、適切な対価を支払わずに権利の譲渡を強要することは、法的リスクを招くだけでなく、クリエイターとの信頼関係を損ない、長期的には質の高い成果物を享受できなくなる恐れがあります。企業は「守り」のコンプライアンスと「攻め」の知財活用を両立させる高度な判断が求められています。
私たち株式会社IPリッチでは、こうした知財戦略を担い、企業の無形資産価値を最大化するプロフェッショナルを求めています。もし、あなたが知財の知識を活かして企業の収益最大化に貢献したいとお考えであれば、ぜひ知財人材向け求人プラットフォーム「PatentRevenue」にご登録ください。詳細はこちら( https://patent-revenue.iprich.jp/recruite/ )からご確認いただけます。
業務委託における著作権の原則的な帰属先と著作者の定義
外部委託における著作権トラブルの多くは、「お金を払って発注したのだから、当然、著作権も自社のものになるはずだ」という発注者側の誤解から生じます。この誤解を解くためには、まず日本の著作権法における「著作者」の定義と、権利発生のメカニズムを正確に理解する必要があります。
法的原則:著作権は「創作的行為をした者」に発生する
著作権法第2条第1項第2号において、著作者とは「著作物を創作した者」をいうと明確に定義されています。また、同法第17条第1項では、著作権は「著作物の創作の時に始まる」と規定されており、何らかの登録手続きを必要としない「無方式主義」が採用されています。
この原則は、業務委託契約においても貫かれています。すなわち、著作権(財産権)は、発注者ではなく、実際に手を動かして創作を行った「受託者(クリエイター、制作会社、エンジニア等)」に原始的に帰属します。たとえ発注者が詳細な指示書を出し、企画の骨子を提供し、制作費の全額を支払ったとしても、それだけで著作権が自動的に発注者に移転することはありません。発注者が単なるアイデア出しや監修にとどまり、具体的な表現の創作に関与していない場合、発注者は著作者にはなり得ないのです。
職務著作(法人著作)との決定的な違い
企業の実務担当者がしばしば混同するのが、「職務著作(法人著作)」の概念です。社内の従業員が業務の一環として作成した著作物については、著作権法第15条の規定が適用され、以下の要件を満たす場合、特約がない限り著作者は「使用者(会社)」となります。
- 法人等の発意に基づくこと
- 法人等の業務に従事する者が職務上作成すること
- 法人等が自己の著作の名義の下に公表すること
- 作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
しかし、外部委託(業務委託契約や請負契約)の場合は、受託者は発注者の指揮命令下に置かれる労働者ではなく、独立した事業者として扱われます。したがって、原則として職務著作の規定は適用されず、受託者個人(または受託企業)が著作者となります。このため、外部委託において発注者が著作権を取得するためには、受託者との間で明示的な「著作権譲渡契約」を締結し、権利を移転させる手続きが不可欠となるのです。
発注者が「共同著作者」となる可能性
例外的に、発注者が制作プロセスに深く関与し、具体的かつ創作的な表現部分について受託者と共同で作業を行った場合には、両者が「共同著作者」となる可能性があります。共同著作物となった場合、その権利を行使するには共同著作者全員の合意が必要となり(法65条)、単独での利用や処分ができなくなるため、権利関係はより複雑化します。したがって、通常は契約によって権利の帰属を一本化することがリスク管理上推奨されます。
著作権譲渡契約において翻訳権・翻案権等の特掲が必要な法的理由
発注者が成果物を自由に利用・改変・展開するためには、受託者から著作権の譲渡を受ける契約を結ぶのが一般的です。しかし、契約書に「著作権をすべて譲渡する」と記載するだけでは、不十分なケースがあることをご存じでしょうか。ここでは、著作権法第61条第2項が定める「特掲(とっけい)」のルールと、第27条・第28条の権利について詳細に解説します。
著作権法第27条・第28条の権利とは
著作権は単一の権利ではなく、複製権、上演権、公衆送信権、頒布権など、複数の「支分権(権利の束)」から成り立っています。その中でも、コンテンツの二次利用や改変に関わる重要な権利が以下の2つです。
- 第27条(翻訳権、翻案権等): 著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、その他翻案する権利です。これを持っていなければ、例えば「イラストの色や形を変える」「日本語の記事を英語に翻訳する」「2Dキャラクターを3Dモデル化する」「小説を漫画化する」といった、原著作物に修正や変更を加える行為ができなくなります。
- 第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利): 原著作物を基に作成された二次的著作物(翻訳物や改変物など)を利用する際に、原著作者が二次的著作物の著作者と同じ権利を持つという規定です。例えば、発注者がイラストを改変して新しいバナー広告を作った場合、そのバナー広告(二次的著作物)を利用するには、原著作者(受託者)の許諾も必要になるという強力な権利です。
「特掲」がない場合の「留保推定」のリスク
著作権法第61条第2項には、著作権譲渡契約に関する極めて重要な特則があります。それは、「著作権を譲渡する契約において、第27条および第28条の権利について特掲(契約書に具体的に明記)されていない場合、これらの権利は譲渡した者(受託者)に留保されたものと推定する」という規定です。
この「推定規定」の意味するところは重大です。契約書に単に「著作権は甲に譲渡する」「著作権など一切の権利を譲渡する」としか書かれていない場合、法的には翻訳権や翻案権は受託者の手元に残っていると解釈される可能性が高いのです。その結果、発注者が納品物を改変したり、別の媒体に流用したりしようとした際に、受託者から「翻案権の侵害である」と主張され、別途利用許諾料を請求されたり、使用差止を求められたりするリスクが生じます。
実際に、判例においても、第61条第2項の推定規定に基づき、翻案権の譲渡が否定された事例が存在します。一方で、契約の経緯や対価の額、当事者の意思などを総合的に考慮して、特掲がなくとも翻案権の譲渡を認めた(推定を覆した)事例もありますが、そのような不安定な解釈に依拠することはビジネス上のリスク管理として適切ではありません。
実務的な契約条項の記載例(完全な譲渡を受けるために)
このような事態を防ぎ、確実にすべての権利を自社に移転させるためには、契約書の権利譲渡条項において、以下のように明確に記述する必要があります。
「受託者は発注者に対し、本成果物に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む)を譲渡する。」
このように、括弧書きなどで特定の条文番号や権利の内容を明記(特掲)することで、初めて第61条第2項の推定を排除し、完全な権利譲渡を受けたと言える法的状態になります。
著作者人格権の壁と「不行使特約」の有効性・限界に関する司法判断
著作権(財産権)を法的に不備なく譲り受けたとしても、発注者が作品を完全に自由に扱えるわけではありません。著作者には、財産権とは別に、譲渡することができない一身専属的な権利である「著作者人格権」があるからです。これはクリエイターの精神的利益を保護するためのもので、非常に強力な効力を持ちます。
譲渡できない3つの人格権
著作者人格権には主に以下の3つがあり、いずれも著作者が生存している限り存続し、相続や譲渡の対象にはなりません(法59条)。
- 公表権(法18条): 未公表の著作物を公表するかどうか、いつ、どのような方法で公表するかを決める権利です。ただし、著作権を譲渡した場合や、未公表の著作物の利用許諾を与えた場合は、公表に同意したものと推定されます。
- 氏名表示権(法19条): 著作物に著作者名を表示するかどうか、表示する場合に実名か変名(ペンネーム)かを決める権利です。発注者が勝手にクレジットを削除したり、別の名前に変えたりすることは原則としてできません。
- 同一性保持権(法20条): 著作物の内容や題号を、著作者の意に反して改変(変更、切除、その他の改変)されない権利です。
特にビジネスの現場で頻繁に問題となるのが「同一性保持権」です。例えば、納品されたロゴマークのバランスを微調整する、長すぎる記事を短縮・要約する、システムをバージョンアップやバグ修正のために書き換えるといった行為は、著作者の同意がなければ同一性保持権の侵害となる可能性があります。
「著作者人格権不行使特約」の役割と重要性
著作者人格権は譲渡できないため、契約で「人格権を譲渡する」と定めても無効です。そこで実務上は、契約書に「受託者は、発注者および発注者が指定する第三者に対し、本成果物に関する著作者人格権を行使しない」という趣旨の特約(著作者人格権不行使特約)を盛り込むことで対処します。
この特約により、受託者は「権利は持っているが、契約上の義務としてそれを行使しない(文句を言わない)」ことを約束したことになり、発注者は安心して修正や改変、二次利用を行うことができるようになります。
不行使特約の限界と判例の動向
では、不行使特約さえあれば、発注者はどんな改変も許されるのでしょうか。近年の裁判例では、著作者人格権の不行使特約の有効性について、一定の制限を加える解釈も見られます。特約は万能の免罪符ではありません。
1. 差別的取扱いの禁止(氏名表示権)
ある判例では、複数の著作者による共著であるにもかかわらず、特定の著作者の名前だけを表示しなかったケースにおいて、たとえ不行使特約があったとしても「そのような差別的な取り扱いまで甘受する義務はない」として、氏名表示権の行使を認めたものがあります。
2. 黙示の許諾と必要な改変(同一性保持権)
一方で、特約がない場合でも、改変が許容されるケースがあります。裁判所は、著作者が「第三者に対し、必要に応じて変更、追加、切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合」には、その範囲内での改変は同一性保持権の侵害にはならないと判断しています。
例えば、研修用教材の改訂に関する事案では、教材の性質上、時代の変化や法令改正に合わせて内容を更新することが予定されている場合、著作者は当初からそのような改変を予見し、許諾していたと解釈されました。
3. 信義則による権利行使の制限
また、特約がない場合でも、著作者による権利行使が「権利の濫用」や「信義則違反」に当たる場合には、その主張が退けられることがあります。裁判所は、改変が「通常の利用に伴う範囲内」であり、著作者の名誉や声望を害するような特段の事情がない限り、権利行使は許されないとする傾向にあります。
実務上の対策
発注者としては、不行使特約を入れることは必須ですが、それに頼り切るのではなく、以下のような配慮がトラブル回避のために重要です。
- 大幅な改変や、作品の意図を大きく変えるような利用を行う場合は、事前に受託者に連絡し、仁義を通す。
- 契約書において、あらかじめ想定される改変の範囲(例:サイズの変更、トリミング、要約、翻訳、色調補正など)を具体的に列挙し、同意を得ておく。
システム開発・ソフトウェア委託における「成果物」定義とソースコードの権利
IT・ソフトウェア開発の分野では、著作権の帰属を巡る争いが特に複雑化しやすい傾向にあります。プログラムは文学作品や美術作品とは異なり、機能的な側面が強く、また既存のコードを流用して作られることが多いためです。ここでは、システム開発契約における特有の論点と、重要な判例について解説します。
「成果物」とは何か?ソースコードとオブジェクトコードの違い
システム開発において、納品される「成果物」が何を指すのかを定義することは極めて重要です。
- ソースコード: 人間が読み書きできるプログラミング言語で書かれたテキストファイル。システムの改修、バグ修正、機能追加を行うために不可欠なものです。
- オブジェクトコード(実行ファイル): コンピュータが処理できる形式(0と1の羅列など)に変換(コンパイル)されたもの。これだけでは、人間が内容を理解したり修正したりすることは極めて困難です。
契約書で「成果物」の定義が「本件システム一式」のように曖昧だと、発注者は「当然ソースコードももらえる」と思っていたのに、ベンダー(受託者)は「実行ファイルのみの利用許諾だ。ソースコードは当社のノウハウが含まれるため渡せない」と主張し、納品後にトラブルになるケースが頻発しています。ソースコードの権利や引渡しを受けていないと、発注者は将来的に別のベンダーに保守を依頼したり、自社で内製化したりすることが事実上不可能になり、特定のベンダーに依存し続ける「ベンダーロックイン」の状態に陥ります。
知財高裁の判例(令和元年6月6日判決)から学ぶ教訓
システム開発における著作権帰属と成果物の範囲が争われた重要な事例として、知財高裁の判例(平成30年(ネ)10052号)があります。この事案では、契約書に明示されていなかったソースコードが「成果物」に含まれるかどうかが争点となりました。
裁判所は、契約書(基本契約)における成果物の定義や、契約の目的、対価の支払い状況などを総合的に考慮し、以下のような判断を下しました。
- ソースコードの成果物性: 特定の「共通環境設定」プログラムのソースコードについて、契約書上の納入物件リストには明記されていなかったものの、それが発注者の新システムに合わせてベンダーの既存プログラムを改変したものであり、その改変作業に対して対価が支払われていること、実行ファイル単体では機能せずシステム全体の一部として組み込まれる性質のものであること等から、「成果物」に該当すると認定しました。
- 権利の帰属(切り分け): しかし、著作権の帰属については、契約書の条項に基づき判断されました。この契約では「新規に作成された部分は共有」「従前から保有していた部分は保有者に留保」「既存プログラムを改変した部分は、原プログラムの保有者に留保」と定められていました。裁判所は、当該ソースコードはベンダーの既存プログラムを改変したものであるため、著作権はベンダーに留保されると判断しました。
- 利用権の範囲(自社利用に必要な範囲): 著作権はベンダーにあるとされましたが、裁判所は同時に、契約上の「自社利用のための使用権」に基づき、発注者がサーバー移行や保守のために当該プログラムを複製・翻案することは「自ら使用するために必要な範囲」に含まれるとして、適法と認めました。
この判決が示唆するのは、「一から開発した部分(スクラッチ開発)」と「ベンダーの既存資産を流用した部分(ライブラリ、モジュール等)」で著作権の帰属が分かれる可能性が高いということです。発注者としては、システム全体を一括して自社の権利にしたいと考えがちですが、ベンダーの競争力の源泉である汎用モジュールの著作権まで譲渡させることは、実務上困難な場合も多く、また後述する独占禁止法上の問題になるリスクもあります。
契約実務への反映:トラブルを防ぐ3つのポイント
したがって、システム開発契約では以下の点を明確にする必要があります。
- 成果物の範囲の特定: 契約書や仕様書において、納品物に「全ソースコード」が含まれることを明記する。もしベンダー独自のライブラリ等が含まれる場合は、その部分を除外するのか、あるいはライブラリ部分についてもソースコードの開示を受けるのか(エスロー契約等の利用も含め)を取り決める。
- 権利の切り分けと利用許諾:
- 発注者のために新規作成された部分(特注部分)は、著作権を発注者に譲渡する。
- ベンダーの既存資産(汎用モジュール等)は、ベンダーに権利を留保しつつ、発注者には「独占的ではないが、改変や複製を含む広範な利用許諾」を与える。
- 第三者の権利物(オープンソースソフトウェア等)が含まれる場合の処理方針を確認する。
- 著作者人格権の不行使: 第三者(別のベンダー)による保守・改修を可能にするため、著作者人格権を行使しない旨の特約を入れる。特にシステムは機能維持のために継続的な修正が不可欠であるため、この条項は必須です。
下請法と公正取引委員会のガイドラインから見る「買いたたき」および知財リスク
発注者が比較的優位な立場にある場合(資本金規模等による)、著作権の取り決めにおいて「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」や「独占禁止法」の規制に抵触しないよう細心の注意が必要です。特に近年、公正取引委員会は、大企業がスタートアップや中小企業(クリエイター)から不当に知的財産を吸い上げる行為に対する監視を強化しています。
知的財産の不当な譲渡強要(買いたたき・不当な給付内容の変更)
下請法や独占禁止法(優越的地位の濫用)では、発注者(親事業者)がその地位を利用して、下請事業者(クリエイター等)に対し、正当な対価を支払わずに著作権やノウハウ(知的財産権)の譲渡を強要することを問題視しています。
具体的には、以下のような行為が「買いたたき」や「不当な経済上の利益の提供要請」とみなされるリスクがあります。
- 一方的な権利譲渡の強要: 当初の契約や見積もり段階では「利用許諾」のみの条件で金額を決めていたのに、発注後に「著作権も全て譲渡してくれ」と、追加費用なしで要求すること。
- 無関係なノウハウの吸い上げ: 発注した制作物とは直接関係のない、受託者の背景技術、特殊なノウハウ、金型図面などの開示・譲渡を無償で強要すること。
- 著しく低い対価: 二次利用権や翻案権を含む全ての権利を譲渡させるにもかかわらず、それに見合う対価を上乗せせず、通常の制作費のみで契約させること。
公正取引委員会の運用強化と「知的財産取引に関するガイドライン」
公正取引委員会は「知的財産取引の適正化」に向けたガイドラインを策定しており、発注者と受託者の間で十分な協議を行わずに一方的に権利帰属を決定することに対して警鐘を鳴らしています。
ガイドラインでは、知的財産権の帰属について「譲渡」とするか「許諾」とするかは、本来当事者間の自由な合意によるべきとしつつも、一方が他方に様式を押し付ける形での契約は独禁法違反の恐れがあるとしています。
また、2026年1月に施行される予定の下請法改正(通称:取引適正化法)では、協議を経ずに一方的に代金を据え置く行為の禁止など、規制がさらに強化される見通しです。これにより、知財の譲渡対価を含まない価格での発注に対する監視がより厳しくなると予想されます。
無償譲渡のリスクと「対価」の明記
発注者としては、「お金を払うのだから全て自分のもの」と安易に考えず、権利の範囲に見合った対価を設定し、合意形成のプロセス(協議の記録など)を残しておくことが、コンプライアンス(法令遵守)の観点から求められます。
もし、契約書に「対価には著作権譲渡料を含む」と記載する場合でも、その対価が譲渡に見合う適正な金額であるかどうかが重要です。著しく低い金額での譲渡や、無償譲渡(タダで権利をもらうこと)は、契約条項自体が公序良俗違反(民法90条)等により無効と判断されるリスクすらあります。
実務的には、見積書の項目として「制作費」とは別に「著作権譲渡費」や「独占利用許諾料」を設け、権利の対価を支払っていることを明確にするのが安全策と言えます。
トラブルを回避するための契約書作成と保証条項の実務的ポイント
最後に、これまでの議論を踏まえ、発注者が外部委託契約書を作成・締結する際にチェックすべき実務的なポイントを整理します。契約書は「転ばぬ先の杖」であり、トラブル発生時の解決指針となるものです。
1. 納品物と権利範囲の明確化
何が納品物で、どの範囲まで権利が譲渡されるのかを具体的に定義します。曖昧な表現はトラブルの元凶です。
- NG例: 「制作物一式」「本件成果物」
- OK例: 「本件Webサイトのデザインデータ(PSD形式、レイヤー統合なし)、コーディングデータ(HTML/CSS/JavaScript)、およびこれらに付随するアイコン素材を含む一切の電子データ」
また、制作過程で生じた「中間成果物」や、採用されなかった「ボツ案(ラフスケッチ、未採用のデザイン案)」の権利は、原則として受託者に残る点にも注意が必要です。もしボツ案も自社で管理したい(他社への提案に使われたくない)場合は、その旨を契約に明記し、場合によっては追加の対価を支払う必要があります。
2. 第三者の権利侵害に関する保証条項(表明保証)
受託者が制作した成果物が、他人の著作権を侵害していた場合(パクリ、無断転載、無断サンプリングなど)、発注者が善意であっても、著作権者から差止請求や損害賠償請求を受けるリスクがあります(過失がなくとも差止は受けます)。
これを防ぐため、契約書には「表明保証条項」を入れます。
- 条項例:「受託者は、本成果物が第三者の著作権、著作者人格権、特許権、商標権、その他いかなる権利も侵害していないことを保証する。万一、第三者から権利侵害の申し立てがあった場合、受託者は自己の責任と費用でこれを解決し、発注者に一切の迷惑および損害を与えないものとする。」
この条項により、万が一トラブルが起きた際に、受託者に法的責任を追求し、かかった費用(弁護士費用や賠償金)を求償する根拠となります。ただし、条項があっても受託者に支払い能力がなければ実質的な救済は得られません。したがって、発注前に受託者の実績やコンプライアンス意識を確認すること(デューデリジェンス)が第一の防衛線となります。
3. 二次利用と対価の合意
当初の目的以外(例:Web記事を紙のパンフレットに転載、Web用イラストをグッズ化、動画広告をTVCMに転用)で成果物を利用する可能性がある場合は、契約時に「二次利用の範囲」と「対価」について取り決めておくべきです。
- 包括的な譲渡: 将来のあらゆる利用を含めて権利譲渡を受け、その分高い報酬を支払う。「あらゆる媒体での利用を含む」等の文言を入れる。
- 限定的な許諾: 当初の利用目的(例:〇〇キャンペーンサイトでの掲載)のみ許諾を受け、二次利用の際は別途協議して追加料金を支払う。
どちらのパターンを選択するかは、ビジネスモデルや予算に応じて戦略的に判断する必要があります。ここを曖昧にしたまま二次利用を行うと、「契約外使用」としてトラブルになる典型的なパターンです。
4. 商標権との抵触確認
ネーミング(商品名、サービス名)やロゴマークの制作を委託する場合、著作権だけでなく「商標権」の確認も不可欠です。著作権は創作と同時に自然発生しますが、商標権は特許庁への出願・登録が必要です(先願主義)。
受託者が作ったロゴが、著作権的にはオリジナルであっても、他社の登録商標に類似していると、商標権侵害となり使用できなくなります。著作権侵害の要件(依拠性=マネしたこと)とは異なり、商標権侵害は知らずに似てしまった場合でも成立します。
したがって、ロゴやネーミングの納品前には、必ず商標調査(クリアランス調査)を行うフローを組み込むか、受託者に調査を義務付ける(ただし専門的な調査は弁理士に依頼するのが通常)ことをお勧めします。
5. 個人事業主(フリーランス)特有の留意点
相手が個人事業主の場合、再委託の禁止や契約解除時の条件についても注意が必要です。
- 再委託の制限: 個人事業主のスキルを見込んで発注したのに、勝手に別の安価なライターやデザイナーに再委託(丸投げ)されては品質が担保できません。原則として再委託を禁止するか、事前の承諾を要件とする条項を入れます。
- 連絡途絶リスク: 個人事業主は病気や事故などで突然連絡が取れなくなるリスクが法人より高いため、緊急時の連絡先や、履行不能時のデータ引渡し義務などを定めておくことも有効です。
まとめ
外部委託における著作権管理は、単なる契約書の「ひな形」埋め作業ではありません。それは、企業の将来の事業展開を守り、リスクをコントロールするための重要な経営課題です。
- 原則はクリエイター帰属であることを認識し、契約で権利を移転させる必要があると理解する。
- **特掲(翻訳権・翻案権)**を含む明確な譲渡契約を結び、二次利用や改変の自由を確保する。
- 著作者人格権不行使特約を入れつつ、クリエイターへの配慮(信義則)を忘れない運用を行う。
- 下請法・独禁法を遵守し、不当な買いたたきを行わず、適正な対価で権利を取得する。
- 権利侵害の保証条項を設け、万が一の第三者トラブルに備える。
これらを徹底することで、発注者と受託者の双方が権利関係の不安なくビジネスに邁進できる環境が整います。透明性の高い公正な契約関係こそが、優れたクリエイティブと、そこから生まれる事業の成功を支える強固な土台となるのです。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
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