ダイソン対サムスン:100億ウォンの名誉毀損訴訟が教える知財戦略の死角と教訓

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本記事では、2013年から2014年にかけて英国の家電大手ダイソン(Dyson)と韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)の間で繰り広げられた、激しい特許紛争の全貌を物語形式で紐解きます。この事例は、単なる技術論争にとどまらず、攻撃的な権利行使が招いた「カウンター訴訟」という予期せぬ展開、そして企業ブランドを揺るがす名誉毀損問題へと発展した稀有なケーススタディです。特許侵害訴訟という「攻め」のアクションが、徹底的な先行技術調査という「守り」の欠落によって無力化され、逆に巨額の賠償請求を受けるリスクを浮き彫りにしました。結論として、特許の収益化や権利行使においては、感情的な対立を避け、客観的なデューデリジェンス(適正評価)に基づいた冷静な判断こそが、企業の利益とブランドを守る最善の道であることを示唆しています。本稿が、知財戦略に携わる専門家の皆様にとって、実践的な教訓となれば幸いです。

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目次

ベルリンの熱狂とジェームズ・ダイソン卿の激昂:特許紛争の幕開け

物語の舞台は2013年9月、ドイツ・ベルリンで開催された欧州最大の家電見本市「IFA 2013」です。世界中のメディアや技術者が集まるこの華やかな会場で、サムスン電子は満を持して新型掃除機「Motion Sync(モーションシンク)」を発表しました。この製品は、本体と車輪が独立して動くことでスムーズな方向転換を可能にする「ピラミッド構造のキャンバードホイール」を搭載し、従来のキャニスター型掃除機の欠点であった転倒しやすさを克服したと謳われていました。

しかし、この発表を冷ややかな、いや、怒りに燃える目で見つめる人物がいました。サイクロン掃除機の生みの親であり、ダイソン社の創業者であるジェームズ・ダイソン卿(Sir James Dyson)です。彼にとって、サムスンの「Motion Sync」が採用しているステアリング機構は、ダイソンが3年の歳月と巨額の研究開発費を投じて完成させ、既に「DC37」や「DC39」に搭載していた特許技術そのものに見えました。

ダイソン卿の怒りは収まりませんでした。彼はBBCなどの主要メディアに対し、サムスンの行為を「シニカルな模倣(cynical rip-off)」と呼び、激しい言葉で非難しました。「サムスンには多くの特許弁護士がいるのだから、これが意図的、あるいは全くの無謀さによる特許侵害であると信じざるを得ない」。彼は、自社の技術革新を守るためには法的措置も辞さない姿勢を鮮明にし、英国高等法院(High Court of England and Wales)への提訴を宣言しました。

英国高等法院での提訴と「先行技術」という名の落とし穴

2013年9月、ダイソン社は宣言通り、サムスン電子を相手取り、英国高等法院に特許侵害訴訟を提起しました。争点となったのは、掃除機の操縦性を高めるステアリング機構に関する特許でした。ダイソン側は、サムスンの「Motion Sync」がダイソンの特許(EP 1748848に関連する技術群等)を侵害していると主張し、製品の販売差し止めや損害賠償を求めました。

この時点での世論は、革新的な技術を持つダイソンが、巨大な資本力を持つコングロマリットによる模倣に立ち向かう「正義の戦い」という構図で捉えがちでした。ダイソン卿の「研究開発に投資するよりも、訴訟にお金を使わなければならないのは残念だ」という発言は、多くの技術者やクリエイターの共感を呼びました。

しかし、知財訴訟の世界は、感情や外見の類似性だけで勝敗が決まるほど単純ではありません。そこには「先行技術(Prior Art)」という、特許の有効性を根本から覆す冷徹なルールが存在します。訴えられたサムスン電子の法務チームは、まさにこの一点に勝機を見出しました。彼らは世界中の技術文献や過去の特許を徹底的に調査し、ダイソンが特許を出願するよりも前に、同様のステアリング機構のアイデアが既に存在していたことを示す証拠を発掘したのです。

特許法において、出願前に公知となっている技術(先行技術)と同じ発明には、「新規性」や「進歩性」が認められず、特許権は無効となります。サムスンが提示した先行技術は、ダイソンの特許を無効化するのに十分な破壊力を持っていました。この反撃を受け、ダイソン側は窮地に立たされます。2013年11月、提訴からわずか2ヶ月後、ダイソンは自ら訴訟を取り下げるという苦渋の決断を下しました。勝算が薄いと判断した上での撤退でした。

サムスンの逆襲:ブランド毀損に対する100億ウォンの請求

通常であれば、原告が訴訟を取り下げた時点で紛争は収束します。しかし、この件には続きがありました。ダイソンによる「シニカルな模倣」「意図的な侵害」という公然の非難が、サムスンのプライドと企業イメージを深く傷つけていたのです。サムスンにとって、自社が「コピーキャット(模倣者)」であるというレッテルを貼られることは、グローバル市場での競争において看過できない損害でした。

2014年2月、今度はサムスン電子が攻勢に出ました。サムスンはソウル中央地方裁判所に対し、ダイソンを相手取り、名誉毀損や業務妨害を理由に100億ウォン(当時のレートで約9億5000万円)の損害賠償を求める訴訟を起こしたのです。

サムスンの主張は極めて戦略的でした。彼らは、ダイソンが特許侵害の事実が確定する前からメディアを通じてサムスンを攻撃し、結果的に根拠のない訴訟であったことが明らかになったにもかかわらず、謝罪がないことを問題視しました。サムスンの担当者は、「ダイソンの根拠のない訴訟によって、当社のマーケティング活動が悪影響を受けたことは許容しがたい」と述べ、ダイソンの振る舞いを、訴訟をマーケティングツールとして利用する「特許トロール(Patent Troll)」のような行為であると痛烈に批判しました。

この「特許トロール」という言葉は、通常、製品を製造・販売せずに特許権行使のみで収益を上げる団体(NPE: Non-Practicing Entity)を指す蔑称として使われます。しかし、サムスンはあえてこの言葉を、製品メーカーであるダイソンに対して使うことで、ダイソンの訴訟提起が「正当な権利行使」ではなく「不当な嫌がらせ」であることを強調したのです。このカウンター訴訟は、知財業界に大きな衝撃を与えました。特許権者であっても、PR戦略を誤れば、逆に巨額の賠償リスクを背負う可能性があることが示されたからです。

タイムライン出来事詳細
2013年9月IFA 2013での発表サムスンが「Motion Sync」を発表。ダイソン卿が「模倣」と非難。
2013年9月ダイソン提訴英高等法院へ特許侵害訴訟を提起。
2013年10-11月先行技術の発見サムスンが先行技術を提示。ダイソンが訴訟を取り下げ。
2014年2月サムスン逆提訴ソウル地裁へ名誉毀損で100億ウォンの賠償請求。
2014年4月和解・仲裁ダイソンが費用負担等に合意し、サムスンが訴えを取り下げ。

仲裁による決着と欧州特許庁での権利放棄

泥沼化の様相を呈していたこの紛争は、最終的に法廷外での決着を見ることになりました。2014年4月、サムスン電子とダイソンは、韓国での仲裁手続きを通じて和解に合意しました。報道によれば、その条件はダイソン側にとって厳しいものでした。ダイソンは、一連の訴訟にかかった費用を負担すること、そして欧州特許庁(EPO)における関連特許の権利の一部を取り下げる(または権利範囲を縮小する)ことなどが含まれていたとされています。

さらに皮肉なことに、この騒動の間、韓国国内におけるサムスンの掃除機市場のシェアは、製品発売当初の18%から75%へと急上昇しました。ダイソンによる訴訟騒ぎが、結果としてサムスンの新製品に対する注目度を高め、その技術力をアピールする絶好の機会になってしまったとも解釈できます。

この事例から学べる教訓は、以下の3点に集約されます。

  1. 攻撃前のデューデリジェンスの徹底:訴訟を起こす前に、自社特許の有効性を徹底的に検証する必要があります。特に、相手がサムスンのような大企業である場合、膨大なリソースを使って先行技術を探し出してくることは明白です。
  2. PRと法的アクションの分離:法的な勝算が確定する前に、メディアを使って相手を感情的に攻撃することは極めて危険です。それが「名誉毀損」や「業務妨害」の口実を与え、ブーメランのように自社に跳ね返ってくる可能性があります。
  3. 「トロール」認定のリスク:正当なメーカーであっても、権利行使の態様によっては「パテント・トロール」と同様の批判を受ける可能性があります。特に、マーケティング目的で訴訟を利用したとみなされると、企業のブランド価値は大きく損なわれます。

知財の収益化と戦略的パートナーシップの構築

今回のダイソンとサムスンの事例は、特許権の行使(Litigation)がいかに諸刃の剣であるかを示しました。しかし、これは「特許を行使すべきではない」という意味ではありません。むしろ、強力な特許ポートフォリオは、適切に管理・運用されれば、企業にとって最強の収益源となり得ます。IBMのような企業は、長年にわたり特許ライセンスだけで年間10億ドル以上の収益を上げてきました(近年はその額は減少傾向にありますが、依然として重要な戦略です)。

「知財の収益化」において重要なのは、訴訟という「対立」の手段だけでなく、ライセンスや売却といった「協調」の手段を戦略的に組み合わせることです。特に中小企業や個人の場合、大企業と全面的に争う資金力がないことが多いため、訴訟リスクを冒すよりも、友好的なライセンス交渉や、特許売買プラットフォームを通じた権利の譲渡の方が、現実的かつ高収益な出口戦略となることが多いでしょう。貴社の保有する特許が、実は他社にとっては喉から手が出るほど欲しい技術であり、それが新たなビジネスの種になる可能性があります。眠っている知財を「隠れた資産」のままにせず、適切な市場で価値を問うことこそが、真の知財戦略と言えるでしょう。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献リスト

  1. BBC News. “Dyson sues Samsung for ‘ripping off’ its patented vacuum steering mechanism”. 2013-09-10.
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  3. Silicon Republic. “Dyson sues Samsung for allegedly ripping off its vacuum designs”. 2013-09-11.
  4. The Independent. “Dyson claims Samsung stole its design for ball steering”. 2013-09-11.
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  8. The Guardian. “Samsung sues Dyson for £5.6m over ‘copycat’ claims”. 2014-02-17.
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  11. Engadget. “Samsung countersues Dyson over vacuum copycat claims”. 2014-02-17.
  12. Korea Times. “Samsung files 10 billion won suit against Dyson”. 2014-02-16.
  13. The Register. “Samsung sues Dyson compensation”. 2014-02-17.
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  15. Stanford Law School. “Introduction to the Stanford NPE Litigation Dataset”. 2017-10-23.
  16. Korea Bizwire. “Samsung-Dyson Suit Over Vacuum Cleaner Ends in Arbitration”. 2014-04-19.
  17. IP CloseUp. “IBM’s drop in direct IP licensing revenue may be a reflection of secular changes in tech law”. 2021-05-04.
  18. Fortune Business Insights. “Patent Analytics Market”. 2023.
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