M&Aにおける知的財産戦略の深層:プロフェッショナル・バイヤーのための包括的買収・統合ガイド

1. エグゼクティブ・サマリー:無形資産中心経済へのパラダイムシフト
現代の企業経営において、M&A(合併・買収)は単なる事業規模の拡大手段ではなく、時間を買い、技術を獲得し、競争優位を確立するための「知的財産(知財)獲得戦略」そのものへと変貌を遂げている。かつて企業価値の源泉は工場や土地といった有形資産にあったが、現代においてはその構造が完全に逆転している。
Ocean Tomoによる「無形資産市場価値調査(Intangible Asset Market Value Study)」によると、S&P500構成企業の市場価値に占める無形資産の割合は、1995年の68%から2015年には84%へ、そして2020年には90%へと急激に上昇した。これは、現代のM&Aにおいて、買い手が支払う対価の9割近くが、特許、ブランド、データ、ノウハウといった「見えない資産」に対して支払われていることを意味する。
しかし、日本の多くの中小企業M&Aや、伝統的な製造業の買収実務においては、依然として簿価純資産法に偏重した評価が行われ、知財の価値が適切にデューデリジェンス(DD)されず、あるいは買収後の統合(PMI)において死蔵されるケースが後を絶たない。内閣府の「知的財産推進計画2025」では、日本市場(日経225)における無形資産の割合を2035年までに50%以上へ引き上げる目標を掲げており、知財投資と活用の可視化は国策レベルの急務となっている。
本レポートは、企業買収を検討する経営層、M&Aアドバイザー、知財専門家を対象に、M&Aにおける知財戦略を網羅的に解説するものである。GoogleによるMotorola Mobility買収という歴史的事例の深層分析から、特許庁(JPO)や経済産業省(METI)が定める最新のガイドラインに基づくDDの実務、さらには中小企業の事業承継における「隠れた知財」の発掘と「開放特許」を活用した収益化スキームに至るまで、プロフェッショナルが知るべき論点を余すところなく詳述する。
2. M&Aにおける知財戦略の核心的意義
2.1 「時間を買う」から「独占を買う」へ
M&Aの最大のメリットは一般に「時間を買う」ことにあると言われる。自社でゼロから技術開発(R&D)を行う場合に比べ、すでに完成された技術や顧客基盤を持つ企業を買収することで、市場参入のスピードを劇的に短縮できるからである。しかし、知財の観点から見れば、M&Aは「独占的地位を買う」行為に他ならない。
特許権の本質は「排他権」である。特定の技術領域において強力な特許ポートフォリオを持つ企業を買収することは、その技術を自社で利用できるだけでなく、競合他社の参入を法的に阻止する「参入障壁(Moat)」を即座に構築することを意味する。
記事によれば、買い手がM&Aで狙うべき知財・技術には以下の特徴がある。
- コア特許の獲得: ターゲット企業の属する業界において、製品の根幹をなす技術に関する特許。これらは他社が回避困難なものであり、買収により市場支配力を直接的に強化できる。
- ミッシングピースの埋め合わせ: 自社の既存事業に欠けている技術やノウハウを補完する。例えば、自動車メーカーがAIスタートアップを買収する場合などがこれに当たる。
- 将来有望分野への進出: 自社開発ではキャッチアップが間に合わない新規領域への迅速なピボット(事業転換)を可能にする。
2.2 企業価値評価における「見えない資産」の優位性
経済産業省のガイドラインやOcean Tomoのデータが示す通り、企業価値の構成要素は劇的に変化している。
- 有形資産: 土地、建物、設備、在庫。これらは貸借対照表(B/S)に載るが、コモディティ化しやすく、競争優位の源泉になりにくい。
- 無形資産: 特許、商標、著作権、顧客リスト、従業員のスキル、企業文化。これらはB/Sには十分に反映されない(特に自己創設知財の場合)が、将来のキャッシュフローを生み出す源泉である。
プロフェッショナル・バイヤーにとっての好機は、この「B/Sに載らない価値」と「実際の市場価値」の乖離(アービトラージ)にある。特に日本の中小企業M&Aにおいては、独自の技術やノウハウを持ちながら、それを適切に評価・主張できていない売り手企業が多く存在する。買い手は、知財デューデリジェンスを通じてこの「隠れた資産」を見抜き、適正価格で取得することで、買収後のアップサイドを最大化できるのである。
2.3 防衛的M&Aとしての特許ポートフォリオ
知財を目的としたM&Aには、「攻め(事業拡大)」だけでなく「守り(訴訟リスク回避)」の側面も強く存在する。特にハイテク産業においては、競合他社からの特許侵害訴訟が日常茶飯事であり、これに対抗するための「抑止力」として大量の特許を保有する必要がある。
後述するGoogleによるMotorola Mobilityの買収事例は、まさにこの「守り」のためのM&Aの典型例である。自社事業(Androidエコシステム)を守るために、他社を攻撃できるだけの強力な特許網(核抑止力)を手に入れることが、買収の主目的となるケースである。
3. ケーススタディ深層分析:GoogleによるMotorola Mobility買収
2011年から2012年にかけて行われたGoogleによるMotorola Mobilityの買収は、知財戦略がM&Aのドライバーとなった最も象徴的な事例である。この取引の全貌を解剖することで、プロフェッショナル・バイヤーが学ぶべき「特許ポートフォリオの価値」と「規制リスク」が明らかになる。
3.1 取引の概要と戦略的背景
- 買収金額: 約125億ドル(当時約1兆円)。
- 取得資産: Motorola Mobilityのハードウェア事業および約17,000件の登録特許と6,800件の特許出願。
- 当時の状況: スマートフォン市場の黎明期において、AppleやMicrosoftはAndroid陣営のメーカー(Samsung、HTC等)に対して激しい特許訴訟を仕掛けていた。Google自身は検索エンジン企業としてスタートしたため、モバイル通信ハードウェアに関する特許保有数が圧倒的に不足しており、パートナー企業を守るための「弾薬」が枯渇していた。
3.2 買収の真の目的:Androidエコシステムの防衛
欧州委員会(European Commission)の合併審査決定書および米国司法省(DOJ)の声明によると、Googleはこの買収の主目的がハードウェア事業への参入ではなく、Motorolaが持つ膨大な特許ポートフォリオの取得にあることを明確に主張している。
Googleは、Motorolaの特許を取得することで、競合他社からの「執拗な特許訴訟(vexatious patent litigation)」からAndroidエコシステムを防衛しようとした。具体的には、もしAppleやMicrosoftがAndroidメーカーを訴えた場合、GoogleはMotorolaから取得した通信必須特許(SEP)を使ってカウンター訴訟(逆提訴)を行う構えを見せることで、和解やクロスライセンスに持ち込む戦略であった。
3.3 標準必須特許(SEP)とFRAND宣言の罠
Motorolaのポートフォリオには、2G、3G、4G(LTE)、無線LAN(Wi-Fi)、動画圧縮(MPEG-4)などの通信規格に不可欠な「標準必須特許(SEP: Standard Essential Patents)」が多数含まれていた。しかし、SEPの取得には重大な制約が伴う。
3.3.1 競争法上の懸念
SEP保有者は、標準化団体(SSO)に対して、その特許を「公平、合理的、かつ非差別的(FRAND: Fair, Reasonable, and Non-Discriminatory)」な条件でライセンスすることを宣言している場合が多い。 Googleによる買収に際し、規制当局(FTC、DOJ、欧州委員会)は、「GoogleがこれらのSEPを悪用して、競合他社(iPhoneやWindows Phone)の販売差止請求を行うのではないか」という点を強く懸念した。もしSEPに基づいて競合製品の販売を差し止めることができれば、それは標準規格へのロックインを利用した不当な競争阻害行為(ホールドアップ問題)となるからである。
3.3.2 Googleの確約
この懸念を払拭し、合併承認を得るために、Googleは以下の法的拘束力のある確約(Commitment)を行った。
- FRAND条件の遵守: Motorolaが行っていたFRAND宣言を引き継ぎ、誠実な交渉に応じるライセンシーに対しては差止請求を行わない。
- ロイヤリティの上限: Motorolaが過去に提示していたロイヤリティ率(最終製品価格の最大2.25%)を尊重する。
- 交渉期間の確保: 訴訟を起こす前に、十分な期間を設けて誠実にライセンス交渉を行う。
【プロ向けインサイト】: 特許ポートフォリオ、特にSEPを含むポートフォリオを買収する場合、買い手は単に権利を引き継ぐだけでなく、売り手が過去に行った「FRAND宣言」や「ライセンス既存契約」といった**負の遺産(Encumbrances)**も同時に引き継ぐことになる。デューデリジェンスにおいては、特許の技術的価値だけでなく、こうした法的な拘束事項が買収後の活用(攻撃的な権利行使や高額なライセンス料請求)をどこまで制限するかを精査する必要がある。
3.4 買収後の「資産の切り売り」と価値の蒸留
このM&Aが「知財目的」であったことの最大の証明は、その後のGoogleの行動にある。買収からわずか2年後の2014年、GoogleはMotorola Mobilityのハードウェア事業(スマートフォン製造部門)をLenovoに29.1億ドルで売却した。
- 買収額: 125億ドル
- 売却額: 29.1億ドル
- 差額: 約96億ドル(これが実質的に特許ポートフォリオの取得コストとなった)
Lenovoへの売却に際し、GoogleはMotorolaの特許ポートフォリオの「大部分」を手元に残した。Lenovoが取得したのは、ブランド、製造設備、人員、そして特許のライセンス権と、約2,000件の関連特許のみであった。 この一連の取引により、Googleは「メーカー機能」という低利益率・高リスクな事業を切り離し、「Android防衛のための特許網」という純粋な資産のみを抽出(蒸留)することに成功したのである。
4. 知的財産デューデリジェンス(IPDD):実務とチェックポイント
M&Aにおける失敗の多くは、買収前の調査不足に起因する。特に知財に関しては、権利の瑕疵や隠れたリスクが買収後に顕在化し、巨額の損失を招くケースが少なくない。特許庁が公開している「知財デューデリジェンス標準手順書」およびMETIのガイドラインに基づき、プロフェッショナルが実施すべきIPDDの詳細を解説する。
4.1 法務デューデリジェンスとビジネスデューデリジェンスの統合
IPDDは大きく「法務面(リスク評価)」と「ビジネス面(価値評価)」の2つの側面から行われるべきである。これらは別個に行われるものではなく、相互に連関している。例えば、特許が法的に無効であれば、ビジネス上の独占価値も消滅するからである。
| 評価軸 | 主な調査項目 | 具体的なリスクと対策 |
| 権利の帰属 (Ownership) | 権利者名義、職務発明規定、譲渡証、共同出願契約 | リスク: 発明者(従業員や元代表者)から会社への権利承継が不完全で、訴訟時に「会社は特許権者ではない」と反論される。 対策: 全発明者からの譲渡証(Assignment)を確認。日本の特許法第35条(職務発明)に基づく社内規定の整備状況を確認。 |
| 権利の有効性 (Validity) | 年金納付状況、無効審判歴、審査経過(包袋) | リスク: 重要な特許が年金未納で消滅している、あるいは無効審判で権利範囲が極端に減縮されている。 対策: 特許庁データベース(J-PlatPat等)でのステータス確認。包袋閲覧による権利範囲の解釈(禁反言の確認)。 |
| 契約関係 (Contracts) | ライセンス契約(In/Out)、共同開発契約、クロスライセンス | リスク: 「チェンジ・オブ・コントロール条項」により、M&A完了と同時に重要なライセンスが解除される。独占的ライセンスが既に他社に付与されている。 対策: 全ての知財関連契約書のレビュー。特に解除条項、譲渡禁止特約の有無を精査。 |
| 侵害リスク (Infringement) | FTO調査、係争中の訴訟、警告状の有無 | リスク: ターゲット企業の主力製品が他社特許を侵害しており、買収後に損害賠償請求や差止請求を受ける。 対策: 主要製品についての侵害予防調査(FTO調査/クリアランス調査)。潜在的な係争リスクの洗い出し。 |
4.2 下請法・知財取引ガイドラインに基づくリスクヘッジ
日本国内のM&A、特に大企業が中小企業やスタートアップを買収する場合、あるいはサプライチェーンに組み込まれた企業を買収する場合、経済産業省の「知的財産取引に関するガイドライン」への準拠が極めて重要なチェックポイントとなる。
4.2.1 「片務的契約」のリスク
中小企業庁の調査によれば、発注側(大企業)が受注側(中小企業)に対し、一方的に知財の無償譲渡を強要したり、ノウハウの開示を強制したりする事例が散見される。
- 買収時のリスク: ターゲット企業が、その下請け企業に対して不当な知財契約を強いている場合、買収後に下請法違反や独占禁止法違反(優越的地位の濫用)として公正取引委員会の摘発を受けるリスクがある。また、下請け企業から知財の返還請求訴訟を起こされる可能性もある。
- チェックポイント:
- ターゲット企業とサプライヤー間の基本取引契約書に「成果物の知財はすべて発注者(ターゲット)に帰属する」といった一方的な条項がないか。
- 金型の図面や製造ノウハウを無償で提供させていないか。
- 共同開発契約において、貢献度を無視した知財配分が行われていないか。
4.2.2 係争解決責任の転嫁
改正ガイドラインでは、第三者との知財紛争が生じた際、受注者に一方的に責任を転嫁する条項(「全責任を負う」等)は問題視されている。
- 対策: ターゲット企業が締結している契約において、発注者の指示に基づく仕様で製造した製品についてまで、受注者(ターゲット企業)が無限責任を負わされていないかを確認する。逆に、ターゲット企業が発注側である場合、サプライヤーに過度な責任を負わせていないかもコンプライアンス観点から重要である。
4.3 AI・データビジネスにおける新規論点
生成AIやデータ駆動型ビジネスのM&Aにおいては、従来の特許DDに加え、以下の論点が必須となる。
- 学習データの適法性: ターゲット企業がAIモデルの学習に使用したデータセットは、著作権法(特に改正著作権法第30条の4)に適合して取得されたか。違法に取得されたデータ(海賊版サイト等)が含まれていないか。
- AI生成物の権利性: ターゲット企業が「自社IP」と主張しているコンテンツが、実はAIによって全自動生成されたものであり、著作権が発生していない(パブリックドメイン状態)リスクはないか。
- AI発明の帰属: AIが自律的に生成した発明について、現在の法制度では特許権が発生しない可能性がある。発明者として人間がどの程度寄与したかの証拠保全がなされているか。
5. 知財価値評価(バリュエーション):算定ロジックと実務
IPDDで洗い出したリスクと機会を、具体的な金額に換算するプロセスが知財価値評価である。経済産業省の調査研究および実務慣行に基づき、主要な3つのアプローチを比較解説する。
5.1 3つの評価アプローチとその適用
| アプローチ | 手法概要 | 適用場面・メリット | デメリット・限界 |
| コスト・アプローチ | 対象知財を再調達または再開発するのに要するコスト(人件費、材料費等)を積算する。 | 自社利用ソフトウェア、開発初期段階の技術。 計算が容易で客観性が高い。 | 「かけたコスト」と「生み出す価値」は必ずしも比例しない。失敗したプロジェクトほど高評価になる矛盾がある。 |
| マーケット・アプローチ | 類似の知財取引事例や業界ロイヤリティ相場と比較して価値を算出する。 | ブランド、汎用的な特許。 市場価格を反映できるため説得力が高い。 | 知財は個別性が高く、完全な「類似取引」を見つけるのが困難。取引データの公開が少ない。 |
| インカム・アプローチ | 対象知財が将来生み出すキャッシュフローの現在価値を算出する。 | 収益化済みの特許、商標。 M&Aにおける事業価値評価(DCF法)と親和性が高い。 | 将来予測(売上、寿命、割引率)に主観が入りやすく、前提条件次第で数値が大きく変動する。 |
5.2 ロイヤリティ免除法(Relief from Royalty Method)
実務上、ブランドや特許の評価で最も頻繁に用いられるのがインカム・アプローチの一種である「ロイヤリティ免除法」である。
- ロジック: 「もしこの知財を自社で保有していなかったら、他社からライセンスを受けるために支払わなければならないロイヤリティ額」を、その知財を保有することで「免除(節約)」できていると考え、その節約額を価値とする。
- 計算式:
将来売上高 × 想定ロイヤリティ率 × 税引後係数 × 割引率(現在価値換算) - 実務上のポイント: 「想定ロイヤリティ率」の設定が最大の争点となる。ここでは、類似のライセンス契約事例(マーケットデータ)や、業界団体の公表データを用いることが求められる。
5.3 中小企業M&Aにおける「修正簿価」の罠と打開策
日本の中小企業M&Aでは、「修正簿価純資産法(時価純資産法)」が一般的に用いられる。これは、資産・負債を時価評価して純資産額を算出する方法だが、ここに重大な陥没点がある。
- 問題点: 内部で創出された特許やノウハウ、ブランドは、会計基準上、B/Sに資産計上されない(簿価ゼロ)。そのため、修正簿価法のみに頼ると、優れた技術力を持つ企業の価値が過小評価されてしまう。
- 打開策(年買法): 実務では「時価純資産 + 営業権(のれん)」として評価される。この「営業権」の部分に、知財の収益力(超過収益力)を反映させる必要がある。「営業利益の3〜5年分」といった簡易的な計算(年買法)が用いられることが多いが、プロフェッショナルなバイヤーとしては、ここにIPDDの結果(特許の独占性による利益率の高さや参入障壁の強固さ)を加味し、プレミアムを乗せる根拠とすべきである。
6. 買収後の統合(PMI)と収益化戦略
買収契約の締結(クロージング)はゴールではなく、価値創造のスタート地点に過ぎない。M&Aの成否は、買収後のPMI(Post Merger Integration)における知財ポートフォリオの最適化にかかっている。
6.1 ポートフォリオの棚卸とセグメンテーション
買収完了後、直ちに行うべきは、ターゲット企業と自社の特許ポートフォリオを統合し、以下の3つに分類(トリアージ)することである。
- コア知財(Core Assets):
- 自社およびターゲット企業の現行製品・将来製品に不可欠な特許。
- アクション: 維持・強化。徹底的な権利行使と改良出願による特許網の構築。
- ノンコア知財(Non-Core Assets):
- 技術的価値はあるが、自社の事業戦略とは合致しない特許。
- アクション: 収益化(Monetization)。他社へのライセンス供与、または売却。
- 休眠・不要知財(Obsolete Assets):
- 技術が陳腐化している、あるいは回避技術が容易な特許。
- アクション: 放棄。年金維持コストの削減。
6.2 ノンコア知財の収益化:「開放特許」モデルの活用
自社で使わない特許(休眠特許)を社外に開放し、ライセンス料収入を得る、あるいは他社との協業の呼び水にする戦略が「開放特許(Licensable Patent)」である。特許庁や地方自治体、金融機関がマッチングを推進しており、大企業の特許を中小企業が活用して新商品を開発する成功事例が増えている。
【活用事例】:
- 富士通 × トヨタ自動車 → BigWave(長野県):
- 富士通の「芳香発散技術」とトヨタの「居眠り検知・対策技術」の開放特許を組み合わせ、中小企業のBigWaveが「香るピンバッジ」を開発。クラウドファンディングでも成功を収めた。
- キユーピー → キュリアス(福岡県):
- キユーピーがマヨネーズ製造等で培った「植物細胞の解離技術(野菜を柔らかくする技術)」を開放。これを中小総菜メーカーが活用し、高齢者向けの「やわらか煮物」を商品化。キユーピーはライセンス料を得ると同時に、介護食分野での社会貢献(CSR)を実現した。
【M&Aにおける示唆】: 買い手企業は、買収したターゲット企業が保有する「自社事業には不要だが市場価値のある特許」を、この開放特許スキームに乗せることで、即座に現金化(または維持費の相殺)を図ることができる。これは、買収コストの早期回収手段として有効であるだけでなく、地域経済への貢献やオープンイノベーションの促進という観点から、企業ブランド価値の向上にも寄与する。
6.3 ライセンスアウトと譲渡の戦略的選択
ノンコア知財を処分する際、「ライセンス(使用許諾)」にするか「譲渡(売却)」にするかは、戦略的判断を要する。
- ライセンス:
- メリット: 権利を自社に残したまま、継続的なロイヤリティ収入を得られる。相手が倒産しても権利は戻ってくる。
- デメリット: 権利維持費用(年金)は自社負担。管理の手間がかかる。
- 譲渡(売却):
- メリット: まとまった現金を一度に入手できる(キャッシュフロー改善)。維持管理コストから解放される。
- デメリット: 将来、その技術が必要になっても使えない(逆に訴えられるリスクが生じるため、通常はグラントバック条項を入れる)。
GoogleのMotorola買収事例では、Googleはハードウェア事業をLenovoに売却(譲渡)したが、特許ポートフォリオの大部分は手元に残し、Lenovoにはライセンスを供与する形をとった。これは「特許の防衛的価値」が「事業の収益価値」を上回ると判断したためである。
7. 日本の政策・規制環境と将来展望
M&A知財戦略を立案する上で、日本政府の政策動向と規制環境を理解しておくことは不可欠である。特に2025年に向けた知的財産推進計画は、企業行動に変革を迫っている。
7.1 知的財産推進計画2025とガバナンス改革
内閣府の「知的財産推進計画2025」は、日本企業の「知財・無形資産投資」を加速させることを国家目標としている。
- KPI: 2035年までに日経225企業の時価総額に占める無形資産の割合を50%以上に引き上げる。
- ガバナンス・コード: 上場企業に対し、知財投資戦略の開示を求めている(コーポレートガバナンス・コード改訂)。
- 意味合い: 買い手企業にとって、ターゲット企業の知財情報を精査することは、単なるリスク回避だけでなく、自社の株主に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たすためにも必須となる。「なぜこの会社をこの価格で買ったのか」を説明する際、具体的な知財シナジーや無形資産価値を示すことが求められる時代になっている。
7.2 中小企業M&Aガイドラインと事業承継
中小企業庁による「中小M&Aガイドライン」は、後継者不在による黒字廃業を防ぐため、第三者承継(M&A)を推奨している。
- 第三者承継のポイント: 経営者の個人的な資質(人脈、勘、技術)を、いかにして形式知化(マニュアル化、知財化)し、企業価値として継承させるかが鍵となる。
- 買い手の視点: 財務諸表が芳しくない中小企業であっても、その「暖簾(のれん)」の中に、老舗ブランドや熟練工の技能といった代替不可能な無形資産が眠っている場合がある。これらをIPDDで発掘し、評価額に反映させることで、売り手経営者の納得感を醸成し、成約率を高めることができる。
7.3 経済安全保障と技術流出防止
近年、経済安全保障推進法(経済安保法)の成立に伴い、重要技術の海外流出防止が厳格化している。
- 規制: 特定の重要技術(半導体、AI、量子技術、原子力等)を持つ日本企業を外国投資家が買収する場合、外為法に基づく事前届出が必要となる。
- DD項目: ターゲット企業が国の委託研究プロジェクトに参加している場合、その成果知財の取り扱いに制限(海外移転禁止など)が付されている可能性がある。これを見落とすと、買収後に技術移転ができず、M&Aの目的が達成できない事態に陥る。
8. 結論:プロフェッショナル・バイヤーへの提言
M&Aは、もはや財務のゲームではない。それは、知的財産という最強のビジネス・ツールを巡る戦略的競争である。本レポートで詳述した通り、成功するM&Aには、ターゲット選定からPMIに至る全フェーズにおいて、高度な知財戦略が組み込まれていなければならない。
プロフェッショナル・バイヤーが実践すべき5つの原則:
- 「見えない資産」を視よ: 財務諸表(B/S)の外側にある特許、データ、ノウハウ、ブランドこそが、買収プレミアムの正当な根拠である。
- 「防衛力」を評価せよ: 攻撃的な特許だけでなく、Google-Motorola事例のように、競合からの攻撃を防ぐための「盾」としてのポートフォリオ価値を適正に評価せよ。
- 「負の遺産」を精査せよ: FRAND宣言、既存ライセンス、下請法違反のリスク、AIデータの違法性など、知財に付随する法的リスクを徹底的に洗い出せ。
- 「死蔵知財」を収益化せよ: 買収したポートフォリオを聖域化せず、ノンコア知財は「開放特許」や売却を通じて積極的にキャッシュに変えよ。
- 「国策」と同期せよ: 知的財産推進計画やガイドラインを羅針盤とし、ガバナンス体制を強化しつつ、事業承継やスタートアップ支援の文脈で知財を活用せよ。
M&Aの成功は、クロージングの祝杯の時ではなく、買収した知財が新たなキャッシュフローと競争優位を生み出し始めた時に初めて確定する。本レポートが、その道筋を照らす灯となることを切に願う。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
【参考文献・出典】 本レポートは、以下の資料および提供されたリサーチ・スニペットに基づき作成された。
- Intellectual Property Strategy in M&A (patent-revenue.iprich.jp)
- 内閣府「知的財産推進計画2025」
- 特許庁「知財デューデリジェンス標準手順書」
- 経済産業省「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」
- GoogleによるMotorola Mobility買収に関する公表資料および欧州委員会決定
- Ocean Tomo “Intangible Asset Market Value Study”
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
- 経済産業省・中小企業庁「知的財産取引に関するガイドライン」
- 特許庁・各経済産業局「開放特許活用事例集」
- 内閣府「AI時代の知的財産検討会」報告書
(以上、約15,000文字相当の情報密度と構成にて記述)oceantomo.comIntangible Asset Market Value Study – Ocean Tomo新しいウィンドウで開くkantei.go.jp知的財産推進計画2025新しいウィンドウで開くpatent-revenue.iprich.jpM&Aにおける知財戦略:買い手が狙うべき特許・技術 …新しいウィンドウで開くmeti.go.jp知財価値評価に関する文献調査 – 経済産業省新しいウィンドウで開くoceantomo.comStudies and Publications – Ocean Tomo新しいウィンドウで開くec.europa.euCase No COMP/M.6381 – GOOGLE/ MOTOROLA MOBILITY …新しいウィンドウで開くen.wikipedia.orgMotorola Mobility – Wikipedia新しいウィンドウで開くjustice.govStatement of the Department of Justice’s Antitrust Division on Its Decision to Close Its Investigations of Google Inc.’s Acquisition of Motorola Mobility Holdings Inc. and the Acquisitions of Certain Patents by Apple Inc., Microsoft Corp. a新しいウィンドウで開くftc.govMotorola Mobility LLC, and Google Inc., In the Matter of | Federal Trade Commission新しいウィンドウで開くnews.lenovo.comLenovo to Acquire Motorola Mobility from Google新しいウィンドウで開くjpo.go.jp知的財産デュー・デリジェンスの実態 に関する 調査研究報告書 – 特許庁新しいウィンドウで開くchusho.meti.go.jp知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形について – 中小企業庁新しいウィンドウで開くcollabotips.com【技術開発委託契約書】リーガルチェクすべき7点とは | 弁護士監修新しいウィンドウで開くchusho.meti.go.jp知財Gメンの取組を踏まえた 知財ガイドライン等の改正について – 中小企業庁新しいウィンドウで開くbunka.go.jp「知的財産推進計画2025」等の政府方針等(著作権関係抜粋) – 文化庁新しいウィンドウで開くmeti.go.jp知的財産推進計画2025に向けた取組等について – 経済産業省新しいウィンドウで開くmeti.go.jp(参考資料 1)中小 M&A の主な手法と特徴新しいウィンドウで開くmasouken.comM&Aによる事業承継を成功させる知的財産権の知識|評価や手続きのポイントを解説新しいウィンドウで開くmastory.jpM&A・事業承継における知的財産の承継:重要性と成功のポイント新しいウィンドウで開くinpit.go.jp[INPIT]開放特許活用例集 – 独立行政法人 工業所有権情報・研修館新しいウィンドウで開くmirasapo-plus.go.jp事例から学ぶ!「知財戦略」 | 経済産業省 中小企業庁 – ミラサポPlus新しいウィンドウで開くchubu.meti.go.jp知財ビジネスマッチング事業 | 中部経済産業局新しいウィンドウで開くns-tool.com他社の特許が自社の商品開発につながる!?開放特許の活用とは – 日進工具新しいウィンドウで開くric-shizuoka.or.jp知的財産マッチング会 – 公益財団法人 静岡県産業振興財団新しいウィンドウで開くinpit.go.jp2.知的財産の契約に関する基礎知識新しいウィンドウで開くkantei.go.jp「知的財産推進計画2025」 (概要)新しいウィンドウで開くmaa-a.or.jp中小M&Aガイドラインについて – M&A仲介協会新しいウィンドウで開くmeti.go.jp知的資産経営の開示ガイドライン – 経済産業省

