プロフェッショナルが知るべき特許権存続期間の延長制度:最新の最高裁判例が実務に与えた影響と「権利の効力範囲」の詳細解説

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本記事は、企業の知財部員、弁理士、法務担当者、特に製薬・バイオ分野の専門家といった「プロフェッショナル」を対象に、日本の特許権存続期間の延長制度について、その法的根拠と最新の判例動向を深く掘り下げて解説するものです。日本の延長制度には、大きく分けて2つの明確に異なる柱が存在します。一つは、特許庁の審査プロセスが長期化したことによる遅延を補償する制度(特許法第67条第2項)です。もう一つは、医薬品や農薬のように、市場に出す前に他法令(例:医薬品医療機器等法)に基づく厳格な承認審査を必要とし、そのために特許発明を実施できなかった期間を回復する制度(特許法第67条第4項)です。

特に後者の医薬品延長は、巨額の投資を伴う中核分野の収益性に直結するため、その解釈をめぐり長らく実務上の重要な論点となってきました。本記事の核心は、この医薬品延長の「延長要件」に関する議論です。かつて特許庁は、有効成分や効能・効果が同一の先行医薬品(先行処分)が存在する場合、その後に改良された用法・用量や革新的な製剤技術を用いた医薬品(後行処分)に対する延長を一律に認めないという厳格な運用を行ってきました 。しかし、平成27年(2015年)の最高裁判決は、この実務を根本から覆す歴史的な規範を示しました 。

本稿では、まず2つの延長制度の基本的な仕組みと要件を整理し、その上で、この最高裁判決(アバスチン事件)が「延長の可否」の判断基準をどのように変革したのかを詳細に分析します 。さらに、延長が認められた場合、その「権利の効力範囲」(特許法第68条の2)はどこまで及ぶのか、という次の重要な論点について、知財高裁大合議判決(オキサリプラチン事件)が示した「実質同一」の基準についても踏み込んで解説します 。これらの最先端の判例の射程を正確に理解することは、現代の知財戦略、特に医薬品のライフサイクルマネジメントを策定する上で不可欠です。

目次

特許権の存続期間を延長する2つの制度(第67条第2項・第4項)の概要

日本の特許法において、特許権の存続期間は、原則として「特許出願の日から20年」をもって満了します。この20年という期間は、発明を公開する代償として特許権者に与えられる独占排他権の期間を画するものです。

しかし、この原則的な20年という期間が、特許権者の責めに帰すことができない理由によって実質的に短縮されてしまう2つの大きな要因が存在します。

  1. 特許庁における審査手続の遅延: 特許出願から権利化(設定登録)までに、特許庁側の事情で想定以上に長い時間がかかった場合、権利行使できる実質的な期間が短縮されます。
  2. 他法令に基づく承認審査のための長期間: 特に医薬品や農薬の分野では、特許権を取得した後も、安全性や有効性を確認するための臨床試験や承認審査(例:医薬品医療機器等法に基づく承認)に数年単位の長期間を要します。この期間中、特許権者は特許発明を「実施」(製造販売)することが法的に禁止されます。

日本の特許法は、これら2つの異なる「失われた期間」を補填するため、特許法第67条に2種類の延長制度を設けています。

第1の制度が、特許法第67条第2項に基づく「期間補償のための延長」です 。これは、特許庁側の手続的遅延を権利者に補填することを目的としています。

第2の制度が、特許法第67条第4項に基づく「医薬品等のための延長」です 。これは、医薬品医療機器等法などの他法令の規制により、特許発明を実質的に実施できなかった期間を権利者に補填することを目的としています。

この2つの制度は、その発生原因と救済のロジックが根本的に異なります。第67条第2項は「特許庁(JPO)のプロセスの遅れ」に対応するものであり、第67条第4項は「他省庁(厚生労働省など)の安全規制」に対応するものです。プロフェッショナルな実務家が認識すべき重要な点は、この2つの制度が独立しており、要件を満たせば併用が可能であるという点です。例えば、ある医薬品特許が、まず特許庁の審査遅延(第67条第2項)によって1年間延長され、さらにその後、薬事承認に時間を要したこと(第67条第4項)によって5年間延長される、というシナリオは法的に十分あり得ます。

したがって、特許ポートフォリオを管理する知財部門は、これら2つの制度を明確に区別し、それぞれの異なる要件と厳格な申請時期を個別に、かつ正確に管理・実行することが極めて重要となります。

審査遅延を補償する延長登録(特許法第67条第2項)の要件と期間計算

特許法第67条第2項に基づく延長登録(以下、「期間補償延長」)は、特許権の設定登録が、想定される標準的な期間を超えて遅延した場合に、その遅延期間を補償する制度です。これにより、特許権者が権利行使できる実質的な期間を確保することが意図されています 。

延長の対象となる「基準日」

期間補償延長の出願の対象となるのは、特許権の設定登録が、以下の二つの日付のうち、いずれか遅い日(これを「基準日」と呼びます)以後になされた特許権です 。

  1. 特許出願の日から起算して5年を経過した日
  2. 出願審査の請求があった日から起算して3年を経過した日

この「5年/3年」という期間は、特許庁が標準的に審査を完了すべき「期待値」として設定されたものです。この基準日を過ぎても設定登録がなされない場合、延長の対象となる可能性が生じます。

申請手続きと時期

  • 出願人: 延長登録を出願できるのは、当該特許権者に限られます。特許権が共有に係る場合は、共有者全員が共同で出願しなければなりません 。
  • 出願時期: 期間補償延長の出願は、特許権の設定登録の日から3ヶ月以内に行わなければなりません。この期間は非常に短く、権利化と同時に延長出願の要否を判断し、手続を進める必要があります 。

延長可能期間の計算方法

延長が認められる期間は、以下の計算式によって算出される「延長可能期間」を超えない範囲内となります 。

延長可能期間 = (A: 基準日から設定登録の日までの期間) – (B: 控除される期間)

この計算式こそが、本制度の核心です。

(A) 基準日から設定登録の日までの期間 これは、特許庁が標準処理期間(基準日)を超えて審査に要した、一見すると特許庁側の責任とみなされる期間を示します。

(B) 「控除される期間」(第67条第3項各号) しかし、上記の(A)の期間から、実質的に出願人側の事情によって生じた期間は、延長期間から差し引かれなければなりません。これが「控除される期間」です 。

特許法第67条第3項各号には、この控除期間が具体的に列挙されています。例えば、以下のような期間が含まれます 。

  • 出願人が、特許庁からの通知(拒絶理由通知など)に対する応答期間の延長を申請したことによって生じた期間。
  • 拒絶査定不服審判によって生じた期間(ただし、最終的に特許すべき旨の審決があった場合)。
  • 出願人の申出やその他の行為により、手続が中断または中止した期間。

実務上の戦略的トレードオフ

この期間補償延長の仕組みは、特許庁と出願人との間の「責任分担」の思想に基づいています。基準日(5年/3年)を超えた遅延は、原則として特許庁側の責任ですが、そのうち出願人が自らの手続(例:期間延長の請求)によって能動的に消費した時間は、出願人側の責任として延長期間から控除(マイナス)されます。

このロジックは、プロフェッショナルな実務家(弁理士や知財部員)に対して、審査段階での対応に重要なトレードオフを突きつけます。

例えば、拒絶理由通知への応答に際し、十分な検討時間を確保するために「応答期間の延長」を請求することは、日常的な実務として広く行われています。しかし、この安易に見える手続が、将来の特許権存続期間に直接影響を与えることになります。応答期間を延長した日数分、第67条第2項に基づく延長可能期間が(控除期間として)確実に短縮されるのです。

したがって、審査の質を担保するために十分な時間を確保するという短期的な目標と、特許権の存続期間を1日でも長く確保し、その価値を最大化するという長期的な目標は、時に相反する戦略目標となり得ます。このトレードオフを正確に認識し、個々の案件の重要性に応じて、期間延長を請求するか否かを戦略的に判断することが、専門家には求められます。

医薬品・農薬の承認(政令で定める処分)に基づく延長登録(特許法第67条第4項)の核心

特許法第67条第4項に基づく延長登録(以下、「医薬品等延長」)は、期間補償延長とは全く異なる目的と要件を持つ、もう一つの重要な制度です。これは、特許発明の実施(製造販売)が、安全性の確保等を目的とする他の法律の規制によって長期間妨げられた場合に、その「実施できなかった期間」を回復(補填)することを目的としています 。

対象となる「政令で定める処分」

この延長制度の対象となるのは、特定の法律に基づく許可や承認(「政令で定める処分」)に限られます。特許法施行令第2条により、以下の2つが具体的に規定されています 。

  1. 農薬取締法の規定に基づく農薬に係る登録
  2. 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)の規定に基づく医薬品体外診断用医薬品再生医療等製品に係る承認・認証

これらの処分は、その的確な実施に相当の期間(例:長期の臨床試験)を要するため、特許権者が特許権を取得しても、長期間にわたり製品を市場に出すことができません。

延長期間の計算と上限

  • 延長期間: 延長が認められる期間は、「その特許発明の実施をすることができなかった期間」の範囲内です 。
  • 上限: ただし、延長できる期間は5年が限度とされています 。
  • 「実施できなかった期間」の起算日: この期間は、延長の理由となった処分(薬事承認など)を受けるために必要な試験(例:臨床試験)を開始した日から計算されます 。
  • 「実施できなかった期間」の満了日: 期間の終わりは、処分の承認書等が申請者に到達した日(=申請者が承認を了知した日)の前日まで、とされています 。

厳格な申請手続きと時期:「デッドライン・トラップ」

医薬品等延長の申請手続は、期間補償延長以上に厳格であり、実務上、致命的なミスを誘発しやすい「デッドライン・トラップ」が存在します。

  • 出願人: 延長登録を出願できるのは、当該特許権者に限られます(共有の場合は共同出願) 。
  • 出願時期: 出願は、「政令で定める処分を受けた日」から3ヶ月以内にしなければなりません 。

しかし、この「3ヶ月以内」というルールには、極めて重要な但し書きが存在します。それは、この出願は**「特許権の存続期間の満了後は、することができない」**という規定です 。

この2つの期限(「処分から3ヶ月」と「満了前」)が、実務上のトラップを生み出します。

例えば、ある医薬品特許の存続期間満了日が2030年10月1日だと仮定します。その医薬品の薬事承認(政令で定める処分)が、満了日直前の2030年8月1日に下りたとします。

出願人は、「処分を受けた日(8月1日)から3ヶ月以内」(すなわち11月1日まで)に出願すればよいと誤解するかもしれません。しかし、実際には「存続期間の満了後(10月2日以降)」は出願ができないため、この場合の真のデッドラインは2030年10月1日となります。もし10月5日に出願しても、それは「3ヶ月以内」ではありますが「満了後」であるため、不適法として却下されます。

この事態は、企業の知財部門と薬事(Regulatory Affairs)部門との間の連携が、いかに致命的に重要であるかを物語っています。薬事承認の取得見込み時期と、関連する特許ポートフォリオの満了日を常にクロスチェックする体制が不可欠です。特に、薬事承認が特許権の満了日直前になることが予想される場合、知財部門は「承認が下りてから準備を始める」のでは間に合いません。承認取得前に延長出願の書類をほぼ完璧に準備しておき、承認が下りた当日に即時出願できる体制を構築しておく必要があります 。

【プロ向け最重要論点】先行処分と延長要件:最高裁判決による実務の変革

医薬品等延長(第67条第4項)の要件の中で、最も複雑で、長年にわたり実務上の最大の争点となってきたのが、「その特許発明の実施にその処分を受けることが必要であったと認められること」(以下、「処分の必要性」)という要件の解釈です 。

旧来の特許庁の運用(~2015年)

この「処分の必要性」に関し、特許庁は長らく、非常に厳格な解釈(いわゆる旧運用)を採用していました。

具体的には、延長出願に係る医薬品(後行処分)と「有効成分」および「効能・効果」が同一である医薬品の承認(先行処分)がすでに存在する場合、後行処分は「処分の必要性」の要件を満たさないとして、延長登録を一律に拒絶する運用をとっていました 。

この運用の下では、製薬企業が多大な努力を払って改良を行った場合であっても、延長が認められないという事態が頻発していました。例えば、

  • 既存の医薬品の「用法・用量」を最適化し、新たな治療法として承認を得た場合
  • DDS(ドラッグデリバリーシステム)などの革新的な「製剤技術」を採用し、副作用の低減や服薬コンプライアンスの向上を実現した場合

これらの場合でも、元となる「有効成分」と「効能・効果」が先行処分と同一であるという理由だけで、延長出願は拒絶されていました。

実務を転換させた最高裁判決(アバスチン事件)

この特許庁の旧運用を根本から覆し、医薬品延長実務に歴史的な転換をもたらしたのが、平成27年11月17日の最高裁判所第三小法廷判決(平成26年(行ヒ)第356号、通称「アバスチン事件」)です 。

  • 事案の概要: 本件は、有効成分「ベバシズマブ」に関する特許権の延長登録出願でした。この有効成分については、既に先行処分(用法・用量:「1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」)が存在していました。 これに対し、出願人が延長の理由とした後行処分は、特定の抗がん剤(XELOX療法)との併用療法において、用法・用量を「1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」という、先行処分とは異なるものでした 。 特許庁は旧運用に基づき、「有効成分(ベバシズマブ)が同一」であるため「処分の必要性」なしとして、延長を拒絶しました。
  • 最高裁が示した新規範: 最高裁は、特許庁のこの判断ロジックを明確に否定しました。 最高裁が示した新しい判断枠組み(フレームワーク)は、「延長の可否は、特許発明の内容と先行処分を対比するのではなく、あくまで**『先行処分』と『後行処分(出願理由処分)』とを比較して判断すべき**である」というものです 。
  • 新基準(「包含」基準): その上で、最高裁は「処分の必要性」を判断するための具体的な新基準(「包含」基準)を提示しました。それは、 「先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分(後行処分)の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるとき」 に限り、後行処分の「必要性」が否定される(=延長が拒絶される)、というものです 。

判決の具体的な影響と射程

この新しい「包含」基準を本件(アバスチン事件)に適用すると、結論は逆転します。

先行処分(5mg/10mgを2週間間隔)の承認内容では、後行処分(7.5mgを3週間間隔)の用法・用量での製造販売は、医薬品医療機器等法上、法的に許されていませんでした。つまり、先行処分は後行処分を「包含」していなかったのです。 したがって、後行処分(7.5mg)の用法・用量でベバシズマブを製造販売するためには、この後行処分を**新たに取り直すことが「必要であった」**と認められました。その結果、延長は許可されるべきである、と結論付けられました 。

この最高裁判決の最大の功績は、延長制度の判断軸を、それまでの「特許庁の論理(特許発明との対比)」から、「厚生労働省(薬事承認)の論理(処分の範囲との対比)」へと明確に移行させた点にあります。

医薬品医療機器等法上、「用法・用量」や「製剤」は、医薬品の承認事項の根幹をなす要素であり、これらが異なれば法的に区別されるべき別個の製品です。最高裁は、この薬事法上の「区別」を、特許延長の要件判断(処分の必要性)にそのままストレートに反映させたのです。

この判決により、製薬企業は、既存の有効成分であっても、用法・用量の最適化製剤技術の改良 によって新たな薬事承認を取得すれば、それに基づき新たな特許期間延長を勝ち取る道が(一定の条件下ではありますが)開かれました。これは、医薬品のライフサイクルマネジメント戦略(LCM)において、極めて強力な法的根拠となり、研究開発のインセンティブを大きく高めるものとなりました。

ただし、この最高裁判決は、先行医薬品が「特許発明の技術的範囲に属しない」ケースについて判断したものであり 、すべての論点が解決したわけではない点には、専門家として留意が必要です。

延長された特許権の「効力の範囲」(特許法第68条の2)の解釈

アバスチン事件最高裁判決(2015年)により、医薬品延長の「入口(延長の可否)」に関する実務は大きく変更されました。では、延長が認められたとして、次に生じる最も重要な論点は、「その延長された特許権の効力は、一体どこまで及ぶのか?」という「出口(権利の範囲)」の問題です。

特許法第68条の2の規定

この「効力の範囲」については、特許法第68条の2に特別な規定が置かれています。 この条文によれば、延長登録が認められた特許権(延長された存続期間の部分)の効力は、元の特許発明の全体には及ばず、厳しく制限されます。

具体的には、「その延長登録の理由となつた処分(=薬事承認)の対象となつた(その処分において特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施」の範囲に限定されます 。

知財高裁大合議判決(オキサリプラチン事件)

この抽象的な「物」や「用途」とは、具体的に何を指すのか。この解釈について、平成29年1月20日の知的財産高等裁判所大合議判決(平成28年(ネ)10046、通称「オキサリプラチン事件」)が、非常に重要な基準を示しました 。

  • 判断の枠組み: 知財高裁大合議判決は、第68条の2が効力範囲を画する基準として用いている「物」および「用途」とは、延長の理由となった処分の承認書に記載された事項、すなわち「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって具体的に特定される対象である、と判示しました 。
  • 「実質同一」基準の提示: さらに、この判決の核心部分として、延長された特許権の効力範囲は、その承認された医薬品と**「実質同一」**なものにも及ぶ、としました 。

「実質同一」とは何か?

では、この「実質同一」とは何を意味するのでしょうか。

判決によれば、これは、承認された医薬品と、比較対象となる製品(例:後発医薬品(ジェネリック))との相違点が、**「僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないとき」**を指すとされています 。

  • 「均等論」との明確な違い: ここでプロの実務家が絶対に誤解してはならないのは、この「実質同一」の判断は、通常の特許侵害訴訟で用いられる「均等論(Doctrine of Equivalents)」とは全く異なる概念である、という点です。大合議判決は、第68条の2の解釈において、均等論の適用および類推適用を明確に否定しました 。これは、第68条の2独自の解釈基準です。

延長実務における根本的なジレンマと新戦略

アバスチン事件最高裁判決と、オキサリプラチン事件知財高裁大合議判決。この2つの重要な判決は、表裏一体の関係にあり、現代の医薬品延長実務における根本的なジレンマと、新たな戦略的バランスを示唆しています。

  1. アバスチン最高裁判決(入口): 「用法・用量」が異なれば(例:5mgと7.5mg)、それは薬事法上「別物」である。したがって、新しい用法・用量(7.5mg)の承認は「必要」であったと認め、延長の入口を広げました 。
  2. オキサリプラチン知財高裁大合議判決(出口): 延長された権利の効力範囲は、承認された「用法・用量」(例:7.5mg)に厳格に紐づけられる。したがって、「用法・用量」が異なる製品(例:5mg)は「別物」であり、延長された権利の効力範囲の外である、と解釈される可能性が極めて高くなりました 。

つまり、製薬企業が直面する現実はこうです。

(アバスチン判決に基づき)LCM戦略として、7.5mg/3週間の新用法で延長登録Aを取得する。 ↓ (オキサリプラチン判決に基づき)この延長登録Aの効力範囲は、あくまで「7.5mg/3週間」とその「実質同一」物に限定される。 ↓ この延長登録Aの効力は、元の「5mg/2週間」の用法・用量のジェネリック医薬品には、原則として及ばない(侵害を問えない)。

この2つの判決が導き出す戦略的なインプリケーションは明確です。もはや、「一つの強力な基本特許で、その有効成分の市場全体をカバーし続ける」という旧来の延長戦略は通用しなくなりました。

現代のプロフェッショナルがとるべき戦略は、「製品ライフサイクル(用法・用量)ごとに、個別の延長登録を積み重ねていく」という、より緻密で複雑なポートフォリオ戦略です。延長制度は、「市場全体を守る」ものから、「承認された製品(用法・用量)ごとに、その製品の市場を個別に守る」ものへと、その法的性質を変貌させたのです。

日本製薬工業協会も、この大合議判決を一定評価しつつ、効力範囲の解釈には未だ不明確な部分が残されているとし、今後の判例の蓄積や、場合によっては法改正の必要性にも言及しており 、引き続き専門家による動向の注視が不可欠な分野となっています。

特許権の存続期間延長と「知財の収益化」戦略

これまで詳細に分析してきたように、特許権の存続期間の延長制度は、特に巨額の先行投資と長い開発・承認期間を要する医薬品や農薬の分野において、「知財の収益化」の根幹をなす、最も重要な制度の一つです。

原則である出願から20年という期間の多くは、基礎研究、臨床試験、そして医薬品医療機器等法に基づく承認審査といった、法規制をクリアするために必要なプロセスに費やされます。特許権者が、特許権に基づいて実際に市場で独占的な地位を享受し、天文学的な投下資本を回収できる「実質的な収益化期間」は、特許権の満了間際のわずか数年間に過ぎないことが多々あります。

この「実質的な収益化期間」を、法律の範囲内で適法に確保し、最大化する唯一の手段が、本稿で解説した延長制度(特に第67条第4項)に他なりません。

特に、アバスチン事件最高裁判決 以降、用法・用量の改良や、DDSといった製剤技術の進歩 など、製品の価値を高めるライフサイクルマネジメント(LCM)戦略そのものが、新たな延長の可能性を拓く道となりました。

しかし同時に、オキサリプラチン事件知財高裁大合議判決 が示したように、そのようにして得られた延長された権利の効力範囲は、延長の根拠となった個別の承認内容に厳格に紐づけられます。

したがって、現代における高度な「知財の収益化」戦略とは、単に強力な基本特許を取得して待つことでは完結しません。製品開発の進捗(新たな用法・用量の開発、新製剤の承認)と、薬事承認戦略、そして特許延長出願戦略を、組織横断的に、かつ時間軸に沿って緻密に連動させることが求められます。

そして、基本特許の満了が近づくにつれて、LCM製品(例:新用法・用量)ごとに個別の延長登録を意図的に積み重ね、複数の「狭くとも強固な」権利の束(バンドル)を構築していくこと。この高度なポートフォリオ戦略こそが、現代の製薬企業における知財の収益化を最大化する鍵となるのです。

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(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

参考文献

  1. 特許庁. 「医薬品等の特許権の存続期間の延長(特許法第67条第4項、第67条の5~8の条文解読)」(小山特許事務所ブログ 2022年5月24日). https://www.koyamapat.jp/2022/05/24/encho_iyakuhin/
  2. 特許庁. 「第IX部 特許権の存続期間の延長 第2章 医薬品、医療機器等の特許権の存続期間の延長」『特許・実用新案審査基準』. https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/ht/09_0200.html
  3. 特許庁. 『特許・実用新案審査基準』「第IX部 特許権の存続期間の延長 第2章 医薬品、医療機器等の特許権の存続期間の延長」(PDF). https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/09_0200.pdf
  4. 特許庁. 「特許権の存続期間の延長登録に関する最高裁判決後の審査基準の改訂について」(産業構造審議会 知的財産政策部会 資料). https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/saiseiiryo-wg/document/seisakubukai-06-shiryou/05.pdf
  5. 特許庁. 「特許権の存続期間の延長登録制度について」(INPIT-FAQ). https://faq.inpit.go.jp/FAQ/09_0100.pdf
  6. 一般財団法人 発明推進協会. 「特許権存続期間延長登録出願の拒絶審決取消訴訟における最高裁判決(平成27年11月17日判決)について」『判決ニュース』. https://www.hanketsu.jiii.or.jp/hanketsu/jsp/hatumeisi/news/201603news.pdf
  7. 弁護士法人イノベンティア. 「オキサリプラチン事件知財高裁大合議判決-延長された特許権の効力範囲(実質同一)」(2017年2月1日). https://innoventier.com/archives/2017/02/2731
  8. 特許業務法人 T. (tokkyoteki.com). 「製薬協 オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について意見表明」(2017年8月21日). https://www.tokkyoteki.com/2017/08/blog-post-17.html
  9. e-Gov法令検索. 「特許法施行法(昭和三十四年法律第百二十二号)」. https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000122
  10. e-Gov法令検索. 「特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)」. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
  11. 特許庁. 「特許権の存続期間の延長について(審査基準の改訂)」(平成23年12月28日). https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/kaitei2/tokkyoken_encyo_kaitei.html
  12. 弁護士法人内田・鮫島法律事務所. 「存続期間の延長後の特許権の効力(特許法68条の2)の範囲―東京地裁平成28年3月30日判決―」(判例研究(22)). https://www.noandt.com/publications/publication14694/
  13. KOREANA特許法律事務所. (韓国特許庁の新型コロナウイルス対応に関する資料). https://www.koreanap.co.kr/_controllers/down.php?tb=bbs_data&no=1008&ano=1
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