南場智子氏の10X10X目標と日本スタートアップへの影響分析

南場智子氏が提唱する「10X10X」目標とは?スタートアップはどう受け止めるべきか

株式会社IPリッチのライセンス担当です。南場智子さん(DeNA会長)が経団連で提唱する「10X10X」という大胆な目標をご存知でしょうか。その狙いは、日本のスタートアップの裾野と成功レベルを飛躍的に拡大することにあります。本記事では、この「10X10X」が意味するところと、スタートアップがそれをどう受け止めるべきかを解説します。さらに知財(知的財産)の視点から、スタートアップの成長戦略にも触れていきます。

目次

南場智子氏が掲げる「10X10X」とは

まず、「10X10X」とは何かを確認しましょう。南場智子氏(株式会社ディー・エヌ・エー会長)は、2022年に経団連のスタートアップ委員長として「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して~」と題する提言を発表しました。ここで掲げられた「10X10X」とは、日本のスタートアップ・エコシステムを 裾野(すその)と高さの両面で10倍 に拡大するという目標です。具体的には、国内のスタートアップ企業数を現在の10倍(約10万社)に増やし、企業評価額10億ドル以上のユニコーン企業数も現在の10倍(約100社)に増やすことを目指しています[1]。この目標時期は 2027年 とされており、まさに5年間で劇的な飛躍を遂げる構想です。加えて、スタートアップへの年間投資額も約10倍の10兆円規模に拡大することが示されており、日本経済を牽引するエンジンとしてスタートアップを位置づけた大胆なビジョンとなっています。

この「10X10X」という表現には、「数量的な拡大(裾野の拡大)を10倍」と「質的な成功レベル(高さの拡大)を10倍」という二つの次元での飛躍が込められています。南場氏は、起業件数や投資額の増加だけでなく、大きな成功を収めるスタートアップ(ユニコーン企業)の数を飛躍的に増やすことが重要だと強調しています。「スタートアップの数や投資額を10倍に広げるだけでなく、ユニコーン企業を10倍にしていかないと(いけない)」と南場氏自身も述べており、世界で戦える企業をもっと輩出しようという強い意志が感じられます[2]。つまり10X10Xは、日本から生まれるスタートアップの を両面で底上げし、真に世界で存在感を示す企業群を育てるための目標なのです。

日本のスタートアップ環境と10X10Xの背景

なぜこのような大胆な目標が掲げられたのでしょうか。その背景には、日本のスタートアップ環境が長年低調であった現状があります。過去数十年、日本では大企業が経済の中心に居座り、新興企業の台頭が限定的でした。例えば、アメリカではここ数十年でGoogleやFacebook(現Meta)など若い企業が続々とトップ企業に成長していますが、日本の時価総額上位を占める企業は依然として何十年も前から存在する大企業ばかりです。このことは、日本経済の新陳代謝が弱く、イノベーション創出で後れを取ってきたことを意味します。

特に顕著なのがユニコーン企業の数の少なさです。ユニコーン企業とは企業価値10億ドル以上の未上場ベンチャー企業を指しますが、2024年2月時点でアメリカには約739社ものユニコーンが存在する一方、日本はわずか14社にとどまり、世界で12番目という状況でした[3]。この数の差は、日本のスタートアップがグローバル規模での成長を遂げられていない現状を如実に示しています。ユニコーンのみならず、国内のスタートアップ全体の数も主要国と比べて少なく、また一社あたりの事業規模も小さい傾向があると言われます。

こうした課題を打破し、日本経済に活力を取り戻すには、スタートアップの飛躍的増加と大型成功例の創出が不可欠です。そのため政府も本腰を入れてスタートアップ支援策を講じ始めており、岸田政権のもと2022年には「スタートアップ育成5か年計画」が策定されました。この計画では5年後の2027年度までにスタートアップへの投資額を現在の10倍超(10兆円規模)に引き上げることが大目標とされ、将来的にユニコーン企業を100社創出するというビジョンが掲げられています。南場氏の提唱する10X10Xは、まさにこの国家的なスタートアップ振興の流れと軌を一にするものです。日本経済団体連合会(経団連)も政府と歩調を合わせ、官民でスタートアップエコシステム強化に取り組む姿勢を鮮明にしています。

スタートアップは10X10X目標をどう受け止めるべきか

では、こうした10X10Xの目標を、現場のスタートアップはどのように受け止め、行動につなげるべきでしょうか。まず第一に、この目標はスタートアップ側にとって追い風であるということです。国を挙げてスタートアップを増やし育てようという方針が明確になったことで、規制緩和や資金供給、人材流動化など様々な面で支援策が拡充されつつあります。実際、起業の手続きを簡素化するワンストップ制度の整備[1]や、大企業の社員がスタートアップに出向してノウハウを提供する取り組みなど、起業しやすく成長しやすい環境づくりが進んでいます。スタートアップにとってはこれまで以上にチャンスが増えていると言えるでしょう。10X10Xという国の目標があるからこそ、ベンチャーキャピタルからの投資も呼び込みやすくなり、社会的な注目度も高まっています。

第二に、スタートアップ自身も目線を高く持つことが求められます。10X10Xが示すように、日本発のユニコーンを今後大量に生み出すには、一社一社のスタートアップがより大きな挑戦を志向する必要があります。南場氏が指摘するように、これまでは「日本国内で小さく成功すれば良い」という内向きの志向が多くの起業家に見られました[2]。しかしそれでは世界で勝てるプレイヤーは生まれません。スタートアップは最初からグローバル市場を視野に入れ、大胆な目標設定をするべきです。英語での情報発信や海外投資家の招致、海外市場への早期展開など、グローバル志向の経営戦略がこれまで以上に重要になります。10X10Xの達成には、日本から世界的な成功を収める企業が続々と出てくることが前提です。各スタートアップが自社を「次のユニコーン候補」に押し上げるつもりで、スケールの大きなビジョンを掲げることが期待されています。

第三に、テクノロジーと効率化を最大限に活用する姿勢です。ユニコーン企業というと巨額の資金と大規模な人員が必要な印象があるかもしれませんが、現在は状況が変わりつつあります。急速に発展するAIなどのテクノロジーにより、少人数でも大きな事業を成し遂げられる時代が来ています。実際、アメリカ西海岸では わずか7人のチームで約3000億円の企業価値を持つユニコーン企業に成長した例もあります[4]。この企業は自律型AIエンジニア「Devin」など先端のAIツールを駆使して開発を進め、驚異的な効率で成果を上げたと伝えられています。つまり、「10人でユニコーン」はもはや夢物語ではないのです。南場氏自身、2025年には自社DeNAで「現業をAIで効率化して人員を半減し、浮いた人員で10人チームの新規事業を量産する」という大胆な戦略を表明しています。スタートアップにとっても、資金や人材の制約をテクノロジーで突破し、小さなチームでも世界に通用するプロダクトやサービスを生み出す姿勢が重要でしょう。10X10X時代においては、スピード感と革新性を持ったアプローチで成長を狙うスタートアップが有利になります。

知財の収益化とスタートアップの成長

最後に、「知財の収益化」という観点にも触れておきます。スタートアップが飛躍しユニコーンを目指す過程では、自社の技術やアイデアといった**知的財産(IP)**を有効に活用することが鍵となります。開発したプロダクトに関する特許権や独自のノウハウは、競合他社との差別化や参入障壁の構築に役立つだけでなく、企業価値の向上や資金調達の円滑化にも寄与します[5]。また、取得した特許をライセンス供与して使用料収入を得たり、必要に応じて特許そのものを売却したりすることで、**知財を直接的に収益源とする(知財の収益化)**ことも可能です[5]。実際、ディープテック系のスタートアップなどでは、コア技術の特許を資産として戦略的に運用し、ライセンス料を研究開発費に充てて事業拡大するケースも見られます。

知財の収益化は、スタートアップにとって二つの意味で重要です。一つは、前述のように収益源・資金源として役立つ点で、特に研究開発型ベンチャーにとっては生命線とも言えます。もう一つは、知財を適切に管理・活用できている企業であること自体が信用力の向上につながる点です[5]。投資家や事業パートナーに対し、自社の技術的優位性を権利で守り、それをビジネスモデルに組み込めていると示せれば、成長の信頼度が増します。今後スタートアップが乱立し競争が激化する中、「知財戦略を持たない企業は淘汰される」とも言われます。10X10Xの世界で勝ち残るスタートアップになるためにも、自社の知的財産を見直し、収益化も視野に入れた戦略的な知財活用を検討してみる価値があるでしょう。

スタートアップにとって、10X10Xの目標は単なる数字上の夢物語ではなく、自らの成長戦略を再点検し高みを目指すための号令とも言えます。国や支援者からの追い風を受けつつ、世界に通用するビジョンを掲げ、テクノロジーと知財を武器に飛躍していくことが期待されています。知財の収益化も巧みに取り入れながら、自社の価値を最大化していくことができれば、次のユニコーン企業になる日も決して遠くはないでしょう。

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参考文献リスト:

  1. EXPACT「スタートアップ庁」が創設?関連政策の司令塔組織として期待される可能性 (2022年3月4日) – https://expact.jp/startupcho/
  2. 大阪大学「未来への対話」南場智子インタビュー (2024年8月27日) – https://dialogue.osaka-u.ac.jp/208/
  3. Biz/Zineニュース「日米ユニコーン企業数は約50倍差…」 (2024年2月) – https://bizzine.jp/article/detail/10669
  4. DeNAフルスイング「AI時代の会社経営と成長戦略」南場智子講演 (2025年2月14日) – https://fullswing.dena.com/archives/100153/
  5. 技術と法律メディア「スタートアップ企業の知財と法務」 (内田・鮫島法律事務所監修) – https://www.gijutsu-homu.com/start-up/
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