国内スタートアップ買収動向とSaaS・AIの影響分析

株式会社IPリッチのライセンス担当です。スタートアップのM&A(企業買収)が国内でもEXIT手段として注目を集めています。本記事では、国内スタートアップ買収件数の推移やIPOとの比較、さらにSaaS・AI分野がM&Aを牽引する背景について解説します。知的財産(IP)戦略の重要性や知財収益化のポイントにも触れ、スタートアップ関係者に役立つ最新動向をお届けします。

目次

国内スタートアップM&A件数の推移

近年、日本におけるスタートアップのM&A件数は大幅に増加しています。2010年代は年間約90件前後で推移していましたが、2021年には143件と前年比58%増となり過去最高を記録しました。その後も増加傾向は続き、2022年には年間171件に達しています。直近では2024年に253件とさらに伸びており、スタートアップ買収がかつてない高水準となりました。この背景には、大企業による買収だけでなくスタートアップ同士のM&Aが活発化したことがあります。実際、2013年から2022年にかけて件数が約1.8倍に増える中で、その主因は上場直後を含むスタートアップ企業による買収増加でした。従来は買い手の中心だった大企業に加えて、成長したスタートアップ自身が他のスタートアップを買収する動きが国内でも顕著になっています。

IPOとの比較とEXIT戦略の変化

スタートアップのEXIT(投資回収)手段として、従来日本ではIPO(新規株式公開)が主流でした。しかし近年はM&AによるEXITが増え、年間件数でIPOを上回る年も出ています。例えば2021年はIPO件数123件に対し、M&A件数は143件と初めてM&AがIPOを上回りました。2023年もスタートアップ買収が約111件(判明分)とされ、その年のIPO件数96件を上回ったとの指摘があります。IPO市場が世界的な調整局面に入った2022年前後から、スタートアップ側でも上場を急がずM&Aを選択するケースが増えてきました。特に「スイングバイIPO」とも呼ばれる戦略が注目されており、ある程度成長したスタートアップが一度大企業や先行スタートアップの傘下に入って事業拡大し、後に改めてIPOを目指す動きも見られます。日本取引所のデータでも、ここ10年IPO件数は年間40~50社程度で横ばい傾向にある一方、スタートアップへの投資は増加しているため、EXIT手段をIPOに過度に依存しない動きが求められている状況です。その結果としてM&Aが実用的な選択肢として定着し始めており、ベンチャーキャピタルや起業家も早い段階からM&Aを意識した経営を行うケースが増えています。

SaaS・AI領域がM&Aを牽引

SaaS(クラウド型ソフトウェア)とAI(人工知能)分野は現在、スタートアップM&Aを牽引するホットな領域です。まずSaaS業界では市場の拡大が続いており、国内SaaS市場規模は2023年に約1.4兆円、2024年には約1.5兆円に達する見込みとされています。競争が激しいSaaS業界では技術革新が欠かせず、特にAIやデータ分析など最先端技術を取り込むためにM&Aを活用する企業が増えています。また顧客基盤の拡大新規市場への参入サービスラインナップ拡充といった目的で、補完関係にあるSaaS企業の買収が活発化しています。事実、2023年はSaaS企業のIPOが低調だった一方でM&A件数が過去最高を記録し、この流れは2024年も継続しています。

一方AI分野では、2022年末からの生成AIブームもあり、幅広い業種の大手企業がAIスタートアップ買収に動いています。「自前でAI開発していては間に合わない」という危機感から、時間とコストを節約して即戦力となる技術・人材を獲得できるM&Aが選ばれるようになりました。製造業では生産プロセス最適化や予知保全、金融では不正検知や信用スコアリング、小売では需要予測や顧客体験の個別化など、業種ごとにAI技術への期待が高まっており、それぞれの目的に沿ってスタートアップ買収が進んでいます。こうしたAI関連M&Aは日本国内でも増加傾向にあり、「AIなしにはビジネスの未来はない」と考える経営者が急増しているとも言われます。

注目のスタートアップM&A事例

最近の代表的なスタートアップ買収事例をいくつか紹介します。

  • 三菱UFJ銀行 × カンム(2023年) – メガバンクの三菱UFJ銀行は2023年、フィンテックスタートアップのカンム社を約250億円相当の評価額で買収し、連結子会社化しました。カンムはVisaプリペイドカード「バンドルカード」の開発運営企業で、累計1,000万ダウンロードを超えるユーザー基盤を持ちます。銀行はキャッシュレス化への対応デジタル金融サービス強化のため戦略的提携を選択し、カンムにとっても豊富な資金と銀行ネットワークの下で事業拡大を加速できるメリットがありました。買収額は約142億9,300万円で、MUFGはカンムの後払い決済ノウハウや顧客基盤を取り込むことで新たな収益モデル創出を狙っています。
  • モデルナ × オリシロジェノミクス(2023年) – 米国モデルナ社は2023年1月、東京大学発のバイオスタートアップであるオリシロジェノミクス社を約8,500万ドル(約116億円)で買収すると発表しました。オリシロ社は無細胞でのプラスミドDNA合成・増幅技術のパイオニアであり、モデルナはこの技術を取り込むことでmRNAワクチン製造プロセスを強化し研究開発の加速を図る狙いです。自社開発だけでなく外部の先端技術を大型買収によって補完する典型例として注目されました。
  • クラウドワークス × シューマツワーカー(2023年) – フリーランス・副業マッチングサービスの「クラウドワークス」を運営するスタートアップのクラウドワークス社は、2023年3月に副業人材マッチングプラットフォーム「シューマツワーカー」を約11.66億円で買収(株式62.6%取得)しました。副業市場の拡大を見据え、自社サービス強化とシェア拡大を狙ったものです。スタートアップ企業が同業・隣接領域のスタートアップを買収して事業シナジーを追求する例として知られます。
  • KDDI × ELYZA(2024年) – 大手通信のKDDIは2024年3月、東京大学発の日本語大規模言語モデル開発スタートアップELYZAに出資し、53.4%の株式取得による子会社化を行いました。通信事業と生成AI技術を組み合わせた新規事業創出を目指すもので、KDDIは生成AI分野への本格参入と将来的なスピンオフ上場(スイングバイIPO)も視野に入れています。大企業がAIスタートアップをグループに迎え入れ、自社アセットと組み合わせて新たな価値を生み出そうとする動きの一例です。

このほかにも、プラスアルファ・コンサルティング社による人材SaaS企業Attackの買収(2024年)や、工場向けSaaSプラットフォーム「アペルザ」の買収(日伝による、2024年)など、業界再編や新技術獲得を目的としたM&Aが相次いでいます。

日本と海外のM&A動向比較

スタートアップM&Aの動向は、日本と海外(特に米国)で事情が異なります。米国ではM&Aは古くから主要なEXIT手段として定着しており、巨大IT企業(いわゆるGAFA)をはじめ多くの企業がスタートアップ買収を繰り返して成長してきました。例えばGoogle(Alphabet)は2000年以降に200社以上の企業を買収しており、近年は年間15~30社程度を買収する年もあるほどです。このように積極的な買収戦略によって最先端技術や優秀な人材を取り込み、競争力を高める文化が米国には根付いています。

一方、日本企業は伝統的に内部育成志向が強く、長らく大企業によるスタートアップ買収件数は経済規模の割に少ないと指摘されてきました。しかし近年は状況が変わりつつあります。上場企業や未上場の成長企業が買い手となるスタートアップM&Aが全体の8割以上を占め、大企業(1999年以前上場の伝統企業)が買収するケースも2020年の11件から2022年には22件へと増加しました。さらに米国型に近い動きとして、スタートアップによるスタートアップ買収が日本でも増えています。米国では2024年時点で、スタートアップを買収する主体の約4割がVC支援を受けたスタートアップとなっており、日本でも同様に起業家出身企業が買い手となるケースが増加中です。

欧州に目を移すと、近年は景気変動の影響でIPO・M&A件数が抑制された時期もありましたが、2024年はやや回復傾向にあります。特にヘルスケア領域で大型案件が出るなど、市場を牽引する分野が見られました。もっとも、米国に比べると欧州・日本はいまだM&Aによるイグジット規模は小さいとの指摘もあり、各国ともスタートアップエコシステム強化のため買収促進策や法規制の見直しなどに取り組んでいる段階です。

総じて、米国は桁違いのM&A規模とスピード、日本は徐々にM&Aが増えている移行期、欧州はその中間といった状況と言えるでしょう。

知的財産の評価と収益化

スタートアップM&Aにおいては、買収対象企業が保有する知的財産(IP)の価値評価が極めて重要です。技術系スタートアップの場合、特許やソフトウェアなどの無形資産が企業価値の大半を占めるケースも少なくありません。実際、近年の重要なM&A取引では「技術(IP)を買う」目的が増えており、IPポートフォリオそのものが最も貴重な資産とみなされることもあります。強力な特許群を持つスタートアップであれば、買収交渉時に優位に立ち提示される買収額が高まる可能性があります。逆に、自社コア技術に関連する特許の権利関係が不明瞭だったり他社権利との衝突リスクが判明した場合、デューデリジェンス段階で取引が破談になることさえあります。買い手企業はターゲットのIPを詳細に調査・評価し、将来の収益源としてどの程度活用できるか、あるいは潜在的な係争リスクはないかを慎重に見極めます。この知財デューデリジェンスは成功するM&Aの鍵を握るプロセスであり、買収後の統合戦略にも直結します。

また、知的財産はM&Aだけでなくライセンスや売却による収益化(モネタイズ)も可能です。スタートアップが自社で事業化しきれない技術や特許については、他社にライセンス提供したり特許自体を売却することで収入を得る道があります。近年、企業や大学、公的機関の「休眠特許」を掘り起こして活用する動きが活発化しており、特許流通市場や仲介サービスも整備されつつあります。実際、強力な特許ポートフォリオを有する企業はライセンス契約による収入やクロスライセンス交渉で有利な条件を引き出すなど、知財をビジネス戦略の武器として活用しています。個人発明家や中小企業でも、有望な特許を適切に評価してもらいライセンシングすることで事業資金を得たり、大企業との提携につなげる事例が出てきています。

なお、収益化したい特許をお持ちの方へは、専門サービスの活用も選択肢です。例えば弊社が提供する PatentRevenue(特許収益化支援サービス)(https://patent-revenue.iprich.jp)では、眠っている特許のライセンシングや売却をサポートしています。知財のプロによる評価・マッチングを通じて、お宝特許をキャッシュに換えるお手伝いをしておりますので、興味のある方はぜひご覧ください。

スタートアップM&A市場の展望と知財活用

国内スタートアップM&A市場は、今後も拡大が続く見通しです。2024年には買収件数が過去最高を更新し、2025年以降も大型ディールが相次ぐと予想されています。背景には、買い手となる企業の層が厚みを増していることがあります。既存の大企業に加え、資金力を持った上場スタートアップやPEファンド、海外企業など多様な買い手が市場に参入し始めました。政府もスタートアップ育成の一環でオープンイノベーション促進策を打ち出しており、大企業によるスタートアップ買収に係る規制緩和や情報開示の整備、マッチングイベント開催など環境整備が進められています。例えば経済産業省では「スタートアップ育成5か年計画」においてEXIT多様化を掲げ、M&Aを円滑にする税制・制度の検討が行われています。

スタートアップ側も、M&Aを前提としたビジネスプランを描くケースが増えています。創業当初から大企業との資本業務提携を視野に入れて知財戦略を構築したり、将来的に買収されることを念頭にプロダクトを特定領域に特化させている例もあります。また、近年盛り上がる生成AIやクリーンテックなどの分野では、大手が技術獲得のためにスタートアップを次々と買収する動きが予想されており、有望な技術・特許を持つスタートアップほど高値で買収されるチャンスが高まるでしょう。

そのような中で重要性を増すのが知的財産の戦略的活用です。スタートアップは自社のコア技術を特許などで適切に権利化し、価値ある知財ポートフォリオを構築することで、将来のEXITの選択肢と企業価値を拡大できます。一方、買い手企業はターゲットの知財を評価して適正な価値を提示し、買収後も知財を最大活用して収益に結びつけることが求められます。知財の収益化はスタートアップエコシステム全体の循環にも寄与するため、「知財を稼ぐ力」に注目した投資が今後ますます重要になるでしょう。スタートアップM&A市場の発展とともに、知的財産をめぐる取り組みも高度化していくと考えられます。

以上、国内スタートアップM&Aの最新動向とSaaS・AIの影響、さらには知財の視点から分析しました。IPOだけでなくM&Aを含めた多様なEXIT戦略を描きつつ、自社の知的財産を武器に成長するスタートアップが今後も増えていくことを期待したいと思います。

(本記事はAIを用いて作成しています。)


参考文献リスト

  1. EYスタートアップM&A動向調査2021 – 日本M&Aセンター(2023年6月22日)nihon-ma.co.jpnihon-ma.co.jp
    URL: https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2023/s20231124-5/
  2. 経済産業省 総合政策部会資料「スタートアップによるM&Aを促進するための政策提言について①」(JVCA提出、2025年2月13日)meti.go.jpmeti.go.jp
    URL: https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/innovation/pdf/006_07_00.pdf
  3. JICスタートアップ・ファイナンス市場レビュー2024(産業革新投資機構, 2025年4月)j-ic.co.jp
    URL: https://www.j-ic.co.jp/jp/research/.assets/20250411_JIC_Research.pdf
  4. SaaS市場の再編が進む?M&A動向から読み解く業界の未来 – SaaS Career Lab(2025年2月17日)cano-pus.comcano-pus.com
    URL: https://cano-pus.com/lab/2025/02/17/knowledge-mergersandacquisitions-002/
  5. Mastory編集部「SaaS業界のM&A動向【2025年最新】」(2025年2月20日)mastory.jp
    URL: https://mastory.jp/SaaS業界におけるM&A
  6. 株式会社M&A共創パートナーズ「AI企業のM&A事例10選【2025年最新版】」(note, 2025年6月3日)note.comnote.com
    URL: https://note.com/maco0411/n/n1aa462d067a9
  7. INITIAL, スピーダ「2023年上半期スタートアップ調達トレンド」(2023年7月31日)initial.inc
    URL: https://initial.inc/articles/japan-startup-finance-2023h1
  8. FIRST CVC「三菱UFJ銀行によるカンム買収事例」(2025年4月1日)firstcvc.jpfirstcvc.jp
    URL: https://www.firstcvc.jp/story/ma-243
  9. MixOnlineニュース「米・モデルナ 東京拠点のオリシロジェノミクス社を8500万ドルで買収」(2023年1月6日)mixonline.jp
    URL: https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=74163
  10. CHIP Law Group「知的財産と新技術がM&Aを促進する」(2017年2月2日)chiplawgroup.comchiplawgroup.com
    URL: https://www.chiplawgroup.com/知的財産と新技術がmaを促進する/?lang=ja
  11. Google買収事例紹介 – Mastoryコラムmastory.jp
    URL: https://mastory.jp/会社買収-とは
  12. その他出典:帝国データバンク「2023年IPO企業動向」(2024年1月)、内閣府・特許庁 公表資料 等
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