特許収益化によるイメージ悪化?知財とビジネスのバランス

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、特許の収益化(特許をライセンス供与したり売却したりして収益を得ること)が企業イメージの悪化につながるのかどうか、経営者や起業家の視点で解説します。知的財産をビジネス戦略として積極的に活用する意義と、その際に注意すべきイメージ面の課題、そしてビジネスとのバランスの取り方について考えてみましょう。
特許収益化とは何か:眠る特許をビジネス資源に変える
特許収益化とは、自社の保有する特許権を活用して直接的な収益を上げることを指します。具体的には、特許技術を他社にライセンスしてロイヤリティ収入を得たり、特許自体を売却したり、あるいは特許侵害に対して損害賠償や和解金を得ることも含まれます。企業が研究開発に投じたコストを回収し、眠っている知的財産を「隠れた資産」から「収益源」へと変換するのが特許収益化の目的です。
実際、世界中で登録されている特許の大半は十分に活用されていません。米国では「現存する特許の95%はライセンスや商業化がされていない」とも報告されており【1】、膨大な知財が眠ったままになっています。これは言い換えれば、多くの企業が潜在的な収益機会を逃していることを意味します。特許庁の試算によれば、過去20年間で米国だけでも5兆ドル以上が研究開発に費やされ、その成果として大量の特許が生まれましたが、その大部分が未収益化のままだと指摘されています【1】。こうした背景から、近年では企業が保有特許の棚卸しを行い、自社では使っていない技術を外部にライセンスする「オープンイノベーション」戦略や、不要特許の売却による収益化に注目が集まっています。
ビジネス戦略としての特許収益化:収益と競争力強化の両立
特許収益化は、防御的な「守り」の特許戦略から一歩進み、攻めのビジネス戦略として位置付けることができます。特許は従来、自社製品や技術を守るための盾として考えられがちでした。しかし優れた企業は、特許を盾であると同時に収益を生む剣として活用しています。その代表例がIBMです。IBMは長年にわたり特許ライセンスによる収入で大きな成功を収めてきました。同社の知的財産部門は「収益を生み出す部門」と言われ、例えば2009年にはライセンス供与や特許関連収入で11億ドル超の利益を計上したとの報告があります【2】。このように、特許を自社事業に使うだけでなく他社に活用させることでロイヤリティ収入を得るビジネスモデルは、巨額の研究開発投資のリターンを最大化する有効な手段です。
また、特許の収益化は単にお金を得るだけでなく競争力強化につながる側面もあります。他社にライセンスすることで業界標準として自社技術を広めたり、クロスライセンス(特許の相互供与)によって自社も相手の技術を利用できるようにしたりすることで、技術面・市場面での優位性を築けます。未使用の特許を抱えているだけでは維持費(年金)ばかりかかり負担ですが、それらを収益化すれば会社の財務体質改善にも寄与します。事実、特許の価値を評価する調査では「質の高い特許ポートフォリオ」を持つ企業ほど市場評価も高いことが示されており【2】、投資家から見ても知財を有効活用する姿勢はプラスに映ります。こうした理由から、スタートアップから大企業まで特許収益化を積極的に検討する動きが広がっています。
特許収益化に対するイメージと誤解:ネガティブな印象は本当か?
一方で、「特許を収益目的で活用するなんて強欲だ」「訴訟を起こすと企業イメージが悪くなるのではないか」といった懸念の声があるのも事実です。特許収益化にネガティブなイメージがつきまとう最大の理由は、いわゆる「パテント・トロール」(特許不実施主体)への嫌悪感でしょう。パテント・トロールとは、自らは製品やサービスを展開せず特許権の行使だけで利益を得ようとする企業や団体を指す俗称です。他社に特許侵害で訴訟を仕掛けて高額の和解金やライセンス料をせしめる彼らの手法は、しばしば「イノベーションを阻害する」と批判されます。そのため、「特許権を行使して収益を上げる=悪徳なパテントトロール行為」という短絡的なイメージを持たれることがあります。
しかし、このイメージには誤解も含まれています。まず大前提として、特許権の行使自体は法律で認められた正当な権利行使です。特許はイノベーションの成果を保護し奨励するための制度であり、特許侵害に厳正に対処することは健全なビジネス環境に不可欠です【3】。実際、多くの専門家や政策立案者は「特許侵害には厳しく対処すべきだ」という点で一致しており、たとえパテントトロールと呼ばれる主体であってもその行為自体が直ちに違法ではない以上、一概に規制すべきではないとの意見もあります【3】。重要なのは誰が権利行使をするかより、その特許が本当に価値ある発明かつ正当に取得・保有されているかです。自社で開発・取得した特許を収益化するのであれば、それは研究開発投資の回収という正当なビジネス行為であり、不当なことではありません。
また、「訴訟=悪」というイメージも状況によっては見直す必要があります。むしろ企業イメージの悪化リスクが高いのは、「特許侵害を放置している企業」や「他社の知財を無断使用している企業」の方です。現代では知財コンプライアンスも重要視されており、故意でなくとも特許侵害をしてしまうと「技術を盗用する企業」という汚名を着てブランド価値が下がる恐れがあります【4】。実際の例として、イギリスのDyson社が自社特許侵害で韓国のSamsung社を提訴した際、Samsungは「無責任な訴訟でコピーキャット(模倣者)との印象を植え付けられブランドイメージが傷ついた」として逆に損害賠償を請求する事態になりました【4】。しかし、このケースでは世界的にもSamsung側の過剰反応との見方が強く、SamsungがDysonを「パテントトロール」呼ばわりしたことも不適切だと批判されました【4】。むしろDysonは常に自社の革新的技術を特許で守り抜く姿勢を貫いており、正当な権利行使をしたに過ぎません。このように、適切な特許行使であれば必ずしも企業イメージを損なうものではなく、逆に自社のイノベーションと顧客・株主の利益を守る責任ある態度と評価される場合もあるのです。
「現在侵害されている特許こそ最も価値が高い」という視点
特許の価値評価に関して、しばしば「現在侵害されている特許こそ最も価値が高い」という逆説的な格言が引用されます。この言葉だけ聞くと奇異に感じられるかもしれませんが、これは特許収益化の現場を踏まえた実践的な視点です。特許が他社に“侵害されている”ということは、その発明が実際に市場で使われており、需要があることの証拠です【5】。言い換えれば、誰も使わないような技術の特許よりも、他社が使いたがる(あるいは黙って使ってしまっている)特許の方が経済的ポテンシャルが高いということです。
例えば、ある特許技術を自社では製品化していなくても、他社がその技術を製品に取り入れて大きな売上を上げているなら、その特許をライセンスしたり訴訟で差し止め・賠償請求したりする余地があります。特許先進国である米国では、意図的な侵害に対して最長で過去6年間に遡って損害賠償を請求できる制度があり【5】、侵害の事実が確認できれば将来だけでなく過去の利用分も含めて収益化できる可能性があります。まさに「侵害されている特許=お金を生む可能性が実証された特許」と言えるでしょう。企業や投資ファンドが特許ポートフォリオの中からライセンス交渉や訴訟の対象とする特許を選ぶ際も、「既に市場で使われている技術かどうか」は重要な価値判断基準になります【5】。
したがって、もし自社の特許が他社に無断使用(侵害)されている疑いがあるなら、それは放置しておくにはあまりにも惜しい「金の卵」です。特許収益化の観点では「権利を侵害されている状態こそがビジネスチャンス」であり、適切な対応によって自社にも利益をもたらす可能性があります。ただし、その“適切な対応”を取るためには冷静な判断と準備が必要です。次のセクションでは、実際に特許収益化を図る際に留意すべきポイントや、ビジネスとのバランスの取り方について述べます。
知財収益化と企業経営のバランス:戦略的アプローチの重要性
特許収益化を成功させるためには、企業全体の経営戦略とのバランスを考慮することが大切です。闇雲に権利行使すれば良いわけではなく、収益と企業イメージ・関係性の両立を図る戦略的アプローチが求められます。以下に、知財収益化を進める上で現実的に押さえておきたいポイントをまとめます。
- ライセンス交渉ファースト:いきなり訴訟に踏み切るのではなく、まずは友好的なライセンス交渉を検討しましょう。相手企業にとってもビジネス上有用な特許であれば、訴訟よりもライセンス契約によってwin-winの関係を築ける可能性があります。訴訟は最後の手段と位置付け、交渉段階から法務・技術の専門家を交えて冷静に対応することで、過度な対立を避けつつ収益化を図れます。
- エビデンスの確保と専門家の活用:特許侵害であることを主張するには確固たる証拠が必要です。製品の技術分析や特許クレームとの照合など、専門的な調査を十分行いましょう。また、ライセンスや訴訟の経験豊富な弁護士・弁理士、技術専門家の助言を得ることで、主張の妥当性を高められます。専門家チームの客観的な評価により「強い特許」と「そうでない特許」を見極め、資源を注ぐべき案件を選定することも重要です。
- ビジネス関係への配慮:特許を行使する相手が自社の重要な取引先や顧客である場合、その後の関係悪化リスクも考慮しなければなりません。こうしたケースでは、直接交渉が難しければ特許譲渡や仲介会社の活用という選択肢もあります。自社が表に立たずに、特許を専門業者に売却したりライセンス交渉を委託したりすることで、ビジネス関係への波及を最小限にとどめつつ収益化を実現する方法です。ただし、譲渡先がいわゆるNPE(特許主導の収益企業)である場合、結果的に相手企業との訴訟になる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
- 社内の理解と方針統一:経営陣や事業部門に対して、特許収益化の目的や方針を明確に説明し、社内合意を得ておくことも欠かせません。特許行使による収益だけでなく、競合他社へのけん制効果や自社技術の価値アピールといった長期的メリットも共有しましょう。社内で方針がブレると「やはりイメージが…」と尻込みして機会損失を招きかねません。トップダウンで戦略として位置付け、必要なリソース(予算や人材)を投下する決断力が求められます。
- リスクとコストの管理:特許紛争には時間も費用もかかるため、費用対効果の見極めが重要です。訴訟になれば勝訴するまで収益は得られず、敗訴リスクもあります。そこで最近では、訴訟費用を専門のファンドが肩代わりし、得られた賠償金から成功報酬を取るといった訴訟ファイナンスの仕組みも登場しています【5】。自社のリスク許容度に応じてこうした外部資金の活用も検討し、最悪のケースでも会社が傾かない範囲で戦略を進めることが肝要です。
以上のように、特許収益化は決して場当たり的に訴訟を乱発することではなく、周到な準備と戦略の下に行う経営判断です。適切に実行すれば、企業にも株主にも利益をもたらし、技術革新への正当な対価を得ることができます。そして何より、自社の技術に対して相応のリターンを得ることは、研究開発に携わった技術者たちのモチベーション向上にもつながります。発明が正当に評価され報われる仕組みを示すことで、社内外に「この会社はイノベーションを大事にし、知財をうまく活用している」というポジティブなイメージを築くことができるでしょう。
まとめ:知財の収益化は攻めの経営の一環
特許収益化は一歩間違えば「強権的だ」「イメージが悪い」と思われがちですが、見方を変えれば知的財産を宝の持ち腐れにしない健全な経営努力です。重要なのはその方法とバランスであり、誠実かつ戦略的に取り組めば企業価値の向上に寄与する施策となります。本稿で述べたように、「現在侵害されている特許」が示すビジネスチャンスを見逃さず、適切に権利行使することは、自社のイノベーションを守り育てることにもつながります。もちろん闇雲な訴訟で周囲と軋轢を生まないよう十分配慮しつつ、それでも権利を主張すべき時には堂々と主張することが長期的には企業の信頼を高めるのではないでしょうか。
経営資源としての知財と企業イメージのバランスを取りながら、収益機会を最大化する——それが現代の知財戦略に求められる姿です。特許の収益化は、決して後ろめたいものではなく現実的かつ価値あるビジネス戦略と言えます。自社の特許ポートフォリオを今一度見直し、眠っている「宝」を掘り起こしてみてはいかがでしょうか。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- Daniel Fisher「The Real Patent Crisis Is Stifling Innovation」Forbes (2014年6月18日) – https://www.forbes.com/sites/danielfisher/2014/06/18/13633/
- ブライアン・P・ファー「特許の収益化」パテントメディア第88号(2010年5月)– 弁理士法人オンダ国際特許事務所 知財レポート掲載記事 https://www.ondatechno.com/jp/report/patent/patet-report/p5941/
- ジェトロ・ニューヨーク事務所「ライセンス交渉や訴訟だけで稼ぐパテントトロール−高まる特許訴訟リスク」ビジネス短信 (2009年7月) – https://www.jetro.go.jp/biznews/2009/07/4a553e0c38a40.html
- Charles Arthur “Samsung plans to sue Dyson over ‘copycat’ allegations on vacuum cleaner” The Guardian (2014年2月17日) – https://www.theguardian.com/technology/2014/feb/17/samsung-dyson-vacuum-cleaner-patent-copyright
- 独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨーク事務所「米国における知財の活用状況に関する調査報告書」(特許庁委託事業, 2025年3月)– https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2025/202503.pdf

