特許で資金調達?投資家が見るポイント

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

今日は「特許で資金調達?投資家が見るポイント」というテーマで、特許を活用した資金調達の方法や投資家が特許を評価する際の視点、知財の収益化について包括的に解説します。経営者や起業家の方々に向けて、特許と資金調達に関するポイントを分かりやすくお伝えしたいと思います。

目次

投資家が特許を見るポイント

特許はスタートアップや企業にとって技術の優位性を示す重要な資産です。現在では、企業価値の大部分がノウハウやブランドといった無形資産によって占められており、知的財産を軽視できない状況と言えます。実際、米国主要企業では1970年代には有形資産が価値の中心でしたが、2015年には企業価値の約84%を特許などの無形資産が占めるまでに逆転しました[1]。こうした背景から、投資家も知的財産、とりわけ特許を企業評価の重要なポイントとして注目しています。

ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家は、特許を取得・活用している企業に資金提供しやすい傾向があることが複数の調査で示されています[1]。投資家が特許に注目する理由はいくつかあります。第一に、特許出願し審査を経て権利化することで、その企業のアイデアや技術に新規性・価値があることを客観的に証明できます。売上実績が乏しい創業初期の企業でも、特許審査を通過した技術があれば将来性を示す材料となります。第二に、特許権は法的な参入障壁となり、競合他社による模倣を防ぐ手段になります。特許によって独自の技術領域を保護できれば、市場での競争優位を確保しやすくなります。第三に、万一スタートアップが事業に失敗し倒産しても、特許という無形資産は残ります。特許権は独立した資産として他社に売却したりライセンスしたりできるため、投資家にとって出資のリスクを下げるセーフティネットの役割を果たします。第四に、特許を有している事自体がその企業の技術力や独創性を対外的にアピールし、マーケットで注目を集める助けとなります[1]。これらの点から、特許は単なる技術の保護手段に留まらず、資金調達における企業の魅力を高める要素となり得ます。

実際のデータからも、特許を保有することの資金調達上の有利さが裏付けられています。欧州特許庁(EPO)とEU知的財産庁(EUIPO)が2023年に発表した共同調査では、特許や商標などの知的財産権を保有するスタートアップは、それらを保有しない企業に比べて早期の資金調達に成功する確率が最大で約10倍に達することが報告されました。特にバイオテクノロジーなど研究開発型の「ディープテック」分野では、特許による独占権が大きな投資呼び込み効果を持つとされています[2]。このように投資家にとって特許は、将来のキャッシュフローや競争優位性を裏付ける指標として映るのです。

もっとも、投資家は特許の「質」も重視します。事業と無関係な特許を数多く取得しても、投資家には資金の浪費と映りかねません。むしろ事業計画と一致し競合優位性を高めるコア特許をしっかり取得しているか、特許ポートフォリオに一貫した戦略があるか、といった点を評価します。知財専門家と比べれば、投資家は特許の技術的細部よりも、それが生み出すビジネス上の強みや市場での独占力に注目すると言えるでしょう。

特許を資金調達に活用する方法

特許は企業にとって、資金調達を有利に進めるための武器にもなります。まずエクイティ(株式)による資金調達の面では、前述のように特許保有がベンチャー投資家からの評価を高め、出資を受けやすくしたり企業評価額(バリュエーション)の向上につながったりします。M&A(買収)やIPO(新規株式公開)においても、保有特許がもたらす市場独占力や将来収益の裏付けが加味され、知財を有する企業は無形資産を持たない企業より高い評価を受ける傾向があります。事実、企業買収の場面でも特許ポートフォリオの充実度が取引額を左右するケースは少なくありません。

また、デット・ファイナンス(借入)による資金調達でも特許を活用できる場合があります。知的財産権を担保として銀行から融資を受ける「知財担保融資」は近年各国で注目され始めた手法です。例えば中国では政府が知財担保融資を後押ししており、ある報告によれば2018年から2019年にかけて広東省だけで特許を担保とする融資が約300億元(40億米ドル)実行され、何千社もの企業が恩恵を受けたとされています[1]。日本や欧州でも、スタートアップ向けの融資で知財を活用する試みが進みつつあり、知財担保融資が新たな資金源として期待されています[3]。

ただし、特許を担保に融資を受けるには課題もあります。特許権そのものは形のない資産であり、工場設備のように容易に現金化できません。また特許は権利行使して初めて収益を生む性質があるため、安定したキャッシュフローの裏付けに欠ける点が金融機関に敬遠される理由となります[3]。担保評価や契約手続にも専門的知識が必要で、金融機関側の負担も大きいのが実情です。このため現状では、特許単独で十分な融資を引き出すのは容易ではなく、多くの場合は不動産など他の担保と組み合わせたり、公的支援策を活用したりする形で実行されています[3]。それでも知財を事業性評価に組み入れる動きは徐々に広がりつつあり、将来的には特許の価値を積極的に評価する金融スキームが一般化する可能性も指摘されています。

さらに、公的機関からの研究開発助成金や補助金においても、プロジェクトの成果として特許の出願・取得が求められる場合があります。知財戦略を明確に持っていることは、民間投資家だけでなく公的資金の獲得においてもプラスに働くでしょう。

現在侵害されている特許の市場価値

特許の価値を考える上で、「その特許が実際に使われているかどうか」は重要な視点です。特許の権利者から見れば、自社が保有する特許を第三者が無断で実施している状態は侵害として法的措置の検討が必要な問題ですが、投資家や特許ファンドの視点では、実は「現在進行形で他社に侵害されている特許」こそ市場価値が高いとも言われます[4]。実際に他社が使用している技術ということは、その特許に基づく製品やサービスに市場ニーズがあり、収益化の機会が現実に存在することを意味するからです。

特に米国では、特許侵害に対して認められる損害賠償額を算定する際に、過去6年分まで遡って請求できる制度があります。そのため、もし自社の特許が侵害されている場合、その特許から得られたであろうライセンス料や利益を具体的に見積もることが可能です[4]。これは投資家にとって当該特許の価値を評価しやすい材料となります。言い換えれば、現に侵害が発生している特許は将来的な仮説ではなく目に見える形での収益ポテンシャルを秘めているため、未利用の特許より高額で取引される傾向があります。もちろん侵害への対応には訴訟などコストやリスクも伴いますが、少なくとも市場から“使われている”技術であること自体がその特許の希少性と価値を証明しているのです。

知財の収益化戦略と資金調達

特許は自社製品を守るだけでなく、収益を生み出す資産としても活用できます。自社が使い切れない技術や権利を他社に活用してもらい、その対価を得ることで事業資金に充てる戦略です。知財の収益化(マネタイズ)の手段として代表的なのは、ライセンス契約と特許売却、そして必要に応じて法的措置を通じた権利行使です。自社の特許を第三者に有償ライセンス供与すれば、権利を手放さずに継続的なロイヤリティ収入を得ることができますし、特許そのものを売却すれば一時金としてまとまった資金を得られます。また特許侵害訴訟に踏み切って和解金や損害賠償を得る方法も、積極的な知財マネタイズの一つです[4]。

どの手段を選ぶかは自社の事業状況や相手先の意向によります。一般論としては、自社の独自技術を完全に手放してしまう特許の売却よりも、権利を保有したまま収益化できるライセンス契約の方が企業側にとって望ましい選択となるケースが多いようです[4]。相手企業に十分な資金がなく買収が難しい場合にはライセンス提供に切り替える、逆に自社で活用予定のない特許であれば売却して研究開発資金に充てる、といった判断が行われます[4]。

知財収益化の成功事例としては、米国クアルコム(Qualcomm)社が自社の通信技術特許を世界中のデバイスメーカーにライセンスし、多額の安定収入を得ているケースや、ディズニーが自社キャラクターの著作権・商標権をライセンスして関連商品やコンテンツから巨額の収益を上げているケースが有名です。自社単独では展開しきれない知的財産も、他社との取引によって価値を開放すれば新たな収入源となり得ます。

もっとも、特許のライセンスや売却を進めるには相応の交渉力とネットワークが必要です。実際のところ、自社の特許に関心を示す企業は多くの場合同業他社であり、全く面識のない企業同士でいきなり特許取引が行われるケースは稀だと言われます[4]。そのため、知財仲介企業やオンラインプラットフォームを活用して適切な相手を見つけることが、知財収益化を成功させるポイントとなります。

なお、自社では実施せず特許を収益化する専門企業(いわゆるNPE=非実施主体)に特許を売却・ライセンスするといった手法も考えられますが、NPEによる攻撃的な権利行使は取引先との関係悪化や業界での評判リスクも伴うため、慎重な判断が必要です[4]。

特許プラットフォームの活用

こうした知財取引を支援する手段として、近年はオンライン上の特許マーケットプレイスの活用も進んでいます。特許売買・ライセンスのマッチングプラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)では、ご自身の特許を無料で登録し、興味を持つ投資家や企業とマッチングする機会を得ることができます。自社の特許を有効活用し、資金調達や事業成長につなげる一歩として、このようなプラットフォームを活用してみてはいかがでしょうか。

参考文献

  1. WIPOマガジン (Alfred Radauer) 「知的財産を活用したイノベーションのための資金調達の機会」 (2021年6月25日) https://www.wipo.int/ja/web/wipo-magazine/articles/opportunities-to-finance-innovation-with-ip-42076
  2. 欧州特許庁(EPO)・欧州連合知的財産庁(EUIPO) 「Startups with patents and trade marks are 10 times more successful in securing funding, new study finds」 (プレスリリース, 2023年10月17日) https://www.epo.org/en/news-events/press-centre/press-release/2023/945253
  3. 日本貿易振興機構(JETRO) 「スタートアップの資金調達に知的財産権の活用を(前編)デット・ファイナンスに向けて果たしうる役割とは」 (地域・分析レポート, 2021年2月16日) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/9bc84b6a37231e40.html
  4. 日本貿易振興機構ニューヨーク事務所 「米国における知財の活用状況に関する調査報告書」 (特許庁委託事業調査, 2025年3月) https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2025/202503.pdf
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