スタートアップにおける特許のコストと価値

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
今回のテーマは「スタートアップに特許は高すぎる?コストと価値の考え方」です。スタートアップの経営者や個人事業主、起業家の皆様に向けて、特許取得や維持にかかる費用、知的財産の収益化、スタートアップにおける特許戦略の必要性について包括的に解説します。「現在侵害されている特許ほど価値が高い」という視点も取り上げながら、限られたリソースの中で特許に投資する価値とその活用法を実用的に考えてみたいと思います。
特許取得・維持のコストとスタートアップへの負担
まず、特許を取得し維持するためには相応のコストがかかります。日本国内で特許を一件出願し権利化するまでに、特許庁に支払う出願料・審査請求料・登録料などの庁費用に加え、明細書作成や手続きを依頼する弁理士費用が発生します。具体的には、特許出願から登録までに要するトータルコストは、一般的なケースで「約80万~100万円」にもなるとされています(初年度3年分の特許料を含む)【1】。バイオテクノロジー等の分野ではさらに費用が嵩み、100万円を超えるケースもあります。これは資金や人材に限りのあるスタートアップにとって決して小さくない負担でしょう。
さらに、特許を維持するためには毎年「年金」と呼ばれる維持年料を支払う必要があります。特許は最長20年間存続しますが、年を追うごとに維持費用が増加し、例えば15年程度維持すると合計で数十万円規模の維持費が発生します(請求項数によって増減) 。また、自社の事業を海外にも展開する場合、各国ごとに出願しなければならず、国ごとの出願・代理人費用が重なるため、グローバルに特許を確保しようとすればコストはさらに跳ね上がります。
こうした費用面のハードルに対し、日本にはスタートアップや中小企業向けの特許費用軽減制度があります。特許庁の「特許料等の減免制度」では、一定の要件を満たす中小企業・スタートアップ企業であれば特許庁に支払う審査請求料や最初の1~10年分の特許料が1/3または1/2に減額されます【2】。具体的には、小規模なベンチャー企業(設立10年未満・小規模企業等)の場合庁費用が1/3に、大企業に属さない一般の中小企業でも1/2に軽減される措置です【2】。例えば通常15~20万円程度かかる審査請求料が5~10万円程度に削減され、特許維持費用も大幅に圧縮できる計算になります。また、海外出願に関しても各都道府県や国の補助金制度があり、外国特許出願費用の半額を補助してもらえるケースもあります(上限額・条件あり)。スタートアップにとって特許は「高すぎる」と尻込みしがちですが、これらの支援策を最大限に活用することで費用負担を軽減しやすくなっています。
スタートアップに特許戦略は必要か?
限られた資金・人員の中で事業開発を進めるスタートアップにとって、「特許を取るべきか」は悩ましい問題です。特許出願・維持には前述のとおりコストがかかり、権利化までに時間も要します。その間に市場投入や顧客獲得を優先したいという声もあるでしょう。しかし知的財産戦略を無視することには大きなリスクも潜んでいます。
まず、他社の特許によって自社ビジネスが妨げられるリスクです。中小企業庁の解説によれば、中小・スタートアップ企業ほど一つの技術や製品が事業に占める割合が大きいため、もし自社の中核技術が他社の特許を侵害して訴えられれば、事業継続が困難になるほどの打撃を受ける可能性があります【3】。実際、特許紛争で敗訴し多額の損害賠償や製品販売の差止めを命じられれば、小さな企業にとって致命傷になりかねません。そのため、「自社には関係ない」と知財戦略を軽視するのは危険であり、最低限自社の技術が他社特許に抵触していないか(FTOの確認)や、将来競合になりうる企業に先に特許を押さえられないかといった点には注意が必要です。
また、特許を取得しないことで機会損失が生まえる場合もあります。例えば革新的な技術を開発したにもかかわらず特許を出願せず公開してしまった場合、模倣を許すだけでなく、後から第三者に類似技術を特許出願されてしまうリスクがあります(自社が先に公開した技術は原則特許になりませんが、煩雑な争いを招く可能性があります)。スタートアップ自身が将来取るべきだった権利を取り逃すことにもなりかねません。
さらに、投資家や提携先からの評価という観点でも特許は重要です。ベンチャーキャピタル(VC)など投資家は、スタートアップの技術的な革新性や将来性を客観的に判断する指標として知的財産を重視する傾向があります。実際、多くのVCがスタートアップに対し「成長市場のニッチをカバーする特許など知的財産権を取得していること」をチェック項目に挙げているとされています【6】。知財に精通した一部のVCを除けば、特許の質そのものを深く評価できない場合もありますが、それでも「特許出願済み」「特許権保有」といった事実はスタートアップの技術力や独自性をアピールする材料になります。特許が一件もないよりは、コア技術に関する特許を持っている方が投資を受けやすい、というケースも多いのです。
競争戦略上も、特許はスタートアップにとって攻守両面の武器になり得ます。特許権は独占排他権ですから、自社の特許を取得すれば自社だけがその発明を独占できると同時に、他社が無断で真似した場合には差止めや損害賠償を請求できる法的な手段を手にします【4】。極端な例では、従業員数数十人の中小企業が保有する特許をめぐり、従業員数数万人規模の大企業を相手取って訴訟を起こし、多額の損害賠償を勝ち取るようなケースも現実に起こり得ます【4】。小規模なスタートアップであっても、優れた特許を有していれば業界の大企業に対して交渉力を発揮したり、自社の市場ポジションを守る盾とすることができるのです。
以上のように、スタートアップにとって特許戦略は「コストに見合う価値があるのか?」を吟味しつつも、ビジネスの土台を守り、将来の収益機会を広げる上で重要な選択肢と言えます。もちろん、やみくもに特許出願すれば良いわけではなく、事業戦略に即した知財戦略を策定することが大切です。次章では、特許の価値を収益に結びつける観点から、知財の「価値」とその収益化について考えてみましょう。
特許の価値と知財収益化のポイント
特許の本当の価値とは何でしょうか? 単に特許権という「権利証」を持っているだけでは、それ自体がお金を生み出すわけではありません。特許の価値は、それによってどれだけのビジネス上の利益を生み出せるかにかかっています。企業が特許から得られる価値には、大きく分けて二種類あります。一つは、自社だけで独占的に実施することによって得られる競争優位性(独占利益)、もう一つは他社に実施許諾(ライセンス)すること等によって得られる収入(ライセンス料や売却益)です。いずれにせよ、特許権というのは手段であり、それを活用して初めて経済的価値が具現化します。
では、スタートアップにとって知財の収益化とは具体的にどのような形があるのでしょうか。考えられる主な方法を挙げてみます。
- 自社製品・サービスで独占活用する: 特許技術を自社だけで使用し市場を独占することで、競合不在の高い利益率を享受できます。他社が真似できなければ価格競争を回避でき、独自技術によるブランド価値で差別化も図れます【3】。例として、ある地方の金型メーカーはオンリーワンの特許技術を武器に大手メーカーのサプライヤーとして地位を確立し、長期的な競争優位を実現しています【3】。
- ライセンス供与によるロイヤリティ収入: 自社では製品化しない技術や、自社市場以外で有用な特許は、他社にライセンスしてロイヤリティ収入を得ることができます。不使用特許であっても他社にとって有用であればライセンス料や特許譲渡金という形で収益化が可能です【3】。実際、特許ライセンスによって大きな収益を上げた中小企業の事例も報告されています。例えば自社開発の技術を積極的に特許取得・開放し、他社との共同開発やライセンス提供に取り組んだ結果、ライセンス収入が自社利益の4割を占めるまでになった企業もあります【3】。
- 特許の売却(譲渡): 特許権そのものを売り渡して一時金収入を得る方法です。事業転換や資金確保の手段として、特許を売却する企業も増えてきています【5】。売却価格は特許の内容や市場性によりますが、侵害の可能性が高い(すでに市場に類似製品が出回っている)特許や、市場規模の大きい分野の特許ほど高額になりやすいとされています【5】。特に、自ら事業化しない特許でも、他社が必要としている特許であれば、高値で買い取られる可能性があります。
こうした収益化の手段の中で、近年注目される視点が「現在進行形で侵害されている特許ほど価値が高い」という点です。これは一見すると皮肉にも聞こえますが、特許の市場価値を端的に表しています。もし他社があなたの特許技術を無断で使用しているとすれば、それはその技術に市場ニーズがあり、実際に製品やサービスとして実装されていることの証です。つまり「誰も使わない特許」より「使われている(侵害されている)特許」の方が、権利行使によって得られる見返りが大きい可能性が高いのです。実際、特許の価値評価においては、その特許がカバーする製品・市場の広さや成長性が重要な要素となります。【5】たとえば「自社でしか使っていないニッチすぎる特許」や「将来性の乏しい市場の特許」は買い手(ライセンス先)を見つけにくいでしょう【5】。逆に、多くの企業が使用している技術を含む特許や市場規模が大きく今後も拡大が見込まれる分野の特許は、その分ライセンス交渉力が高く、場合によっては特許買収ニーズも強いため高額な価値が付き得ます【5】。
特許が侵害されている場合、特許権者は裁判で差止めや損害賠償を請求できます。侵害規模が大きければ、得られる賠償金や和解金、ライセンス料も巨額になる可能性があります。これはまさに特許が持つポテンシャルな価値が顕在化した瞬間と言えるでしょう。前述のように、小さな企業が大企業から多額の賠償金を得るケース【4】もその一例です。もちろん、実際に訴訟を起こすかどうかは別問題ですが、「他社が使いたがる特許」を保有していること自体が価値であり、平時でもライセンス契約や共同開発の提案を受けるなどビジネスチャンスにつながります。
以上を踏まえると、特許は単なるコストセンターではなく、使い方次第でスタートアップに収益をもたらす武器になり得ることが分かります。ただし、特許の収益化には戦略と工夫も必要です。むやみに特許を取得しても、活用されなければ維持費だけがかかるお荷物になりかねません。次に、スタートアップが特許のコストに見合う価値を引き出すための戦略ポイントをまとめます。
スタートアップが特許のコスト以上の価値を得るには
スタートアップが限られたリソースの中で特許から最大のリターンを得るためには、戦略的な知財マネジメントが欠かせません。以下に、特許のコストと価値のバランスを最適化するためのポイントを整理します。
- 特許費用の軽減制度・補助金をフル活用する: 前述の特許庁の減免制度や各種補助金を積極的に利用し、出願・維持コストを可能な限り抑えましょう。例えば審査請求料や年金の減免措置を申請するだけで、支出を1/3〜1/2に圧縮できます【2】。コストハードルを下げることで、必要な特許に投資しやすくなります。
- 核心技術に経営資源を集中し、出願対象を選別する: 全てのアイデアを特許化しようとすると費用がいくらあっても足りません。自社の事業の核となる発明、競争優位の源泉となる技術に的を絞って出願することで、限られた費用で最大の防御範囲を確保します。周辺的なアイデアやすぐ陳腐化する技術は場合によっては特許出願せずノウハウ(営業秘密)として保護する選択も有効です。公開しても模倣されにくいものは無理に特許にせず、コスト削減と機密保持を両立させる判断も必要です。
- 権利化の段階から収益化を見据える: 特許明細書を作成する際には、自社での実施だけでなく他社にライセンスする可能性も意識しましょう。「他社が使いたいポイント」をクレームに含めることで、ライセンス交渉力の高い特許に仕上げることができます。【1】例えば将来的に標準技術になり得る要素や、競合他社が回避困難な重要要素を網羅しておくことで、特許の価値は格段に高まります。権利範囲を広く確保しつつ、実施しやすい柔軟なクレーム設計を心がけましょう。
- 未活用の特許は「開放特許」として収益化を検討: 自社では使っていない特許があるなら、眠らせて維持費を払い続けるよりもオープンに公開してライセンス先を募集することを検討しましょう。他社がその特許を必要としていれば、ライセンス料収入や特許譲渡による収益を得るチャンスです【3】。特許庁やINPITが運営する開放特許情報データベース(J-PlatPat等)に登録すれば、特許を探している企業とのマッチング機会も生まれます【3】。不要特許の有効活用は収益化とコスト削減の両面にメリットがあります。
- 知財ポートフォリオを定期的に見直し最適化する: 事業の方向性や市場環境の変化に応じて、特許のポートフォリオも見直しが必要です。毎年の維持費に見合う価値がその特許にあるか、ライセンスの引き合いはあるか、といった観点で費用対効果を評価しましょう。将来性の低い特許は思い切って権利放棄することでコスト削減し、浮いたリソースを新たな有望技術の特許化に振り向ける判断も大切です。常に「この特許は自社にもたらす価値がコストに見合っているか?」を問い続け、知財資産の質を高めていきましょう。
最後に、スタートアップは特許戦略を自社の成長戦略と統合的に考えることが重要です。特許は単なる防御手段ではなく、時には資金調達や事業提携の切り札となり、他社と協業する際の交渉材料にもなります。知財の専門人材が社内にいない場合でも、特許事務所や支援機関の協力を得て戦略を練ることが可能です。幸い、日本ではスタートアップ支援に特化した知財コミュニティや、VCに知財の専門家を派遣するプログラム【6】も整備されつつあります。ぜひそうしたリソースも活用しながら、「コスト以上の価値」を生む知財戦略を構築してください。
なお、自社で保有する特許がある方は、スタートアップ向け特許マッチングプラットフォームの「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)に特許を無料登録し、ライセンス希望者を募ることもできます。社内に眠る特許を収益源に変える機会として、ぜひ活用を検討してみてください。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 内田 誠 「スタートアップの知財戦略(特許出願)」 Business & Law(2021年10月5日)
https://businessandlaw.jp/articles/a20211005-1/ - 特許庁 IP BASE「特許料等の減免制度」
https://ipbase.go.jp/support/supportxip/page02.php - 中小企業庁 ミラサポPlus「事例から学ぶ!『知財戦略』」
https://mirasapo-plus.go.jp/hint/18346/ - 日本弁理士会東海会「特許権の価値」(吉安 裕史)
https://www.jpaa-tokai.jp/media/detail_1212.html - 株式会社ロジック・マイスター「【特許マネタイズ】高く売れる特許、売れない特許の違いとは?」
https://logic-meister.com/pages/62/ - Tokyo IP Consulting「知財価値評価とスタートアップ企業の知財戦略」(渡邉 康治)
https://tokyo-ip-consulting.com/ipr_valuation_and_ipr-related_strategies_of_startups/

