経営者が陥りやすいM&Aにおける5つの誤解

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、経営者・個人事業主・起業家の皆さまがM&Aを検討する際に陥りやすい「5つの誤解」と、その背後にある「真実」を解説します。特許を中心とする知的財産(IP)は企業価値の源泉であり、買収価格や取引条件に大きく影響します。それにもかかわらず、知財は財務指標ほど“見えにくい”ため軽視されがちです。本稿を通じて知財の正しい評価・収益化の観点を学び、M&A戦略をより盤石なものにするヒントを得ていただければ幸いです。
M&Aにおける誤解:知財の軽視
「M&Aでは財務や顧客基盤が最重視される。特許や商標などの無形資産は交渉の最後に確認すれば十分」――これが典型的な誤解です。しかし真実は逆で、知財はディールの成否を左右する“価値のブラックボックス”です。
米国上場企業の企業価値は、2020年時点で約90%が無形資産とされました [1][2]。この比率は1985年の32%から急伸しており、わずか35年で企業価値の構造が劇的に変わったことを示します。日本企業の場合もまだ60%弱まで伸びており、今後さらにシフトすると予測されています。
知財を軽視したM&Aが後に“高い授業料”となった事例は少なくありません。ある医療機器メーカーは買収後に特許権侵害訴訟を提起され、総額80億円超の損害賠償と和解費用を計上せざるを得ませんでした [3]。知財DDを形式的に済ませた結果、対象企業の装置に用いられていたコア技術が第三者特許を侵害している事実を買収後に把握したのです。
反対に、買収前に知財価値を徹底的に見極めた事例もあります。米国半導体企業Aは、日本の材料スタートアップBを約200億円で買収する際、B社の保有特許群を10社以上の市場リーダー製品にマッピング。潜在ライセンス収入をDCFで算定したうえで買収対価に上乗せしました。その結果、M&A完了から2年でB社特許のライセンス収入が年間30億円を超え、投資回収期間を大幅に短縮できたと報告されています [4]。
要点: 知財は「ディールを高く売る/安く買う」ための最も大きなレバーです。買い手側はリスク把握、売り手側は潜在価値の可視化によって交渉力を高める――これが知財をめぐる真実です。
M&Aにおける誤解:特許の量と質
「特許は数こそ力。登録件数が多いほど買い手は高く評価してくれる」――これも根強い誤解です。実務では、数量より質が圧倒的に重視されます。
質を測る代表的な指標がフォワード引用件数です。業界標準技術や中核アルゴリズムをカバーする特許は、多数の後発特許から引用されるため引用件数が突出します [4]。こうした「キラーパテント」は単独でも数十億円規模の価値を持ち、市場全体の交渉力を左右します。
逆に、製品との関連が薄い周辺特許や、権利範囲が極端に狭い特許は数が多くてもバリュエーションにほとんど寄与しません。むしろ維持年金や翻訳費など権利維持コストだけがかさみ、企業価値を毀損するケースもあります。米国の調査会社Ocean Tomoによれば、保有特許の約65%は企業価値に寄与しない“デッドウェイト”であると推定されています [5]。
買収交渉を有利に進めるには、①自社ポートフォリオを用途/市場別に再分類し、②経営に直結しない特許は売却またはクロスライセンスで資金化、③核となる特許は権利維持を徹底――という「選択と集中」が欠かせません。
M&Aにおける誤解:権利関係の把握漏れ
「買収監査で権利書類を確認したから大丈夫」――これは極めて危険な誤解です。特許・商標・著作権に関する訴訟リスクは、権利書類の有無だけでは見えません。
①権利帰属の落とし穴
スタートアップでは共同研究先や外部エンジニアが発明者に含まれることが多く、譲渡契約が漏れている例が後を絶ちません [4]。もし元発明者が未譲渡分を保有したまま第三者に特許を売却すると、買い手企業はライセンス料を二重に支払うリスクを負います。
②侵害訴訟の地雷
米国では特許訴訟の平均賠償額が約600万ドルに達し、陪審評決で1億ドル超となる事例も増えています [1]。IPR(Inter Partes Review)で特許が無効化されても、訴訟費用だけで数百万ドルが消し飛ぶのが現実です。
③オープンソースの罠
近年はソフトウェアが組み込まれたハードウェアの買収が増えていますが、GPLなどのライセンス違反が後から発覚する例も相次いでいます [6]。コードスキャンでOSS利用を洗い出し、コンプライアンス状況を精査しない限り、思わぬ訴訟の標的となりかねません。
こうしたリスクを回避するためには、専門家チームによるレッドフラッグ調査(係争・侵害・ライセンス未払状況の洗い出し)と、クリーンルームDD(ソースコードや設計図の独自検証)が不可欠です。
M&Aにおける誤解:特許収益化に対する姿勢
「休眠特許は使っていないのだから買い手も評価しない」という誤解は、収益機会を逃します。事実、買い手は休眠特許の潜在ライセンス収入に目を付けるケースが増えています。
ノーテルとコダックの教訓
・ノーテル(2011年)—通信特許6,000件を約45億ドルで売却し、買い手連合(Apple・Microsoftなど)が権利行使で莫大な対価を回収 [5]。
・コダック(2012年)—デジタル画像特許1,100件を5億2,500万ドルで売却、破産手続きの再建資金を確保 [7]。
いずれも「現在侵害されている可能性の高い特許」だったことが高額取引の決め手でした。ある分析では、エビデンス・オブ・ユース(EoU)を提示できる特許の平均取引価格は、提示できない特許の3〜5倍に達するとされています [5]。
M&A前の推奨アクション
- 自社特許と競合製品の技術マッピングを行い、侵害可能性の高い特許を抽出
- EoU資料(製品分解写真、回路図、ソースコード比較など)を整備
- 売却またはライセンス交渉のためのバリューストーリーを作成
こうして可視化された休眠特許は、M&Aにおけるバリュエーションを押し上げる“隠れた資産”へと姿を変えます。
M&Aにおける誤解:リソースを割くタイミング
「うちは中小企業だから知財に投資する余裕はない」――これも根深い誤解です。実際には、限られたリソースでも知財を活用して買収価格を引き上げた事例が数多く報告されています。
成功事例
地方機械部品メーカーC社は、独自の耐摩耗合金に関する国内特許2件・海外PCT1件のみを保有していました。ところが、その特許が自動車OEM複数社のエンジン部品に実装されていることをEoUで実証。C社は大手サプライヤーD社に買収される際、この特許を基にライセンスロイヤルティ将来収入額35億円をディスカウントキャッシュフローで算定し、買収価格を当初提示額の1.6倍に引き上げました [8]。
スタートアップへの示唆
スタートアップは技術開発スピードを優先しがちですが、早期出願・権利維持と適切なクレーム設計によって、次の資金調達や出口戦略(M&A・IPO)の交渉力を高められます。投資家レポートでも、IP指標(特許件数、引用件数、クレーム幅など)がバリュエーションにプラスに働く傾向が定量的に示されつつあります [2]。
まとめ
知財は「見えにくい」ゆえに誤解されやすい資産ですが、正しく取り扱えばM&Aの交渉カードとして圧倒的な力を持ちます。
- 軽視は禁物—知財は企業価値の中核。
- 量より質—キラーパテントを磨き込む。
- リスク管理—権利帰属・侵害を徹底洗浄。
- 休眠特許の活用—EoU提示で取引価格を倍増。
- 中小企業でも実践—早期からIPベースの成長戦略を描く。
M&Aを検討中の経営者の皆さまは、自社ポートフォリオを今一度棚卸しし、潜在的価値とリスクを可視化してみてください。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- Aon, “Tapping the Full Value of Intellectual Property: Busting 5 Common Myths.” https://www.aon.com
- 野村総合研究所, 「無形資産を中心とした企業価値の強化」(NRI Journal, 2025)https://www.nri.com
- PatentPC, “The Role of Patent Valuation in Mergers and Acquisitions.” https://www.patentpc.com
- PatentPC, “Common IP Issues That Delay or Derail M&A Deals.” https://www.patentpc.com
- Ocean Tomo, “Patent Transactions – A Changing Marketplace.” https://www.oceantomo.com
- Ocean Tomo, “Separating Patent Value From Uncertainty.” https://www.oceantomo.com
- Reuters, “Kodak in $525 Million Patent Deal, Eyes Bankruptcy End.” https://www.reuters.com
- 中小企業庁, 『2024年版 中小企業白書』 https://www.chusho.meti.go.jp

