株式譲渡と事業譲渡:知財の扱いの違いと買い手のチェックポイント

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

この記事では、株式譲渡と事業譲渡という2つのM&A手法における知的財産(特に特許)の扱いの違いについて解説します。経営者や個人事業主、起業家の皆様が、買い手の立場から知財の取扱いを正しく理解し、特許の収益化に活かすことの重要性を確認し、事業戦略に役立てていただければ幸いです。ぜひ最後までお読みください。

目次

株式譲渡と事業譲渡の基本的な違い(知財に直結するポイント)

まず、株式譲渡と事業譲渡の概念と違いを押さえましょう。株式譲渡とは、対象会社の株主が保有する株式を買い手に譲り渡すことで会社の経営権を移転する手法です。買い手は会社そのものを手に入れるため、会社が保有する資産・権利義務(特許などの知的財産権も含む)は会社に残ったまま引き継がれます。一方、事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を個別に切り出して買い手に譲渡する手法です。契約によって譲渡対象とする資産や権利を特定し、その範囲だけが買い手に移転されます。

この違いは知財の扱いにも直結します。株式譲渡では会社自体が存続するため、特許権や商標権などの知財は形式上「移転」されず、対象会社の資産としてそのまま残ります。買い手は会社を所有することで間接的にそれら知財を手に入れることになります。これに対し、事業譲渡では知財を含む特定の資産を直接に移転するため、特許権などは個別に譲渡契約に組み込み、買い手に帰属させる必要があります。言い換えれば、株式譲渡は「包括承継」(会社丸ごと承継)であり、事業譲渡は「特定承継」(個別の権利ごとに承継)と言われます。

また、株式譲渡は売買の対象が株式そのものであるため、買い手は会社の有する全ての知財や契約、負債も含めてひとまとめに引き継ぐことになります。対して事業譲渡では、譲渡対象の資産・権利義務を取捨選択できるので、必要な知財だけを取得したり不要な負債の承継を避けたりする柔軟な調整が可能です。この柔軟性は、特許の収益化を図る上でも重要なポイントです。たとえば、買い手がある事業の特許技術だけに価値を見出す場合、事業譲渡によってその特許権だけを取得することも交渉次第で可能になります。一方で株式譲渡では会社単位の承継となるため、特定の特許だけを売り手側に残す(または取得対象から外す)ことは基本的にできません。したがって、買い手のニーズや戦略によって適切なスキームを選択することが肝要です。

株式譲渡における知財(特許)の扱いと買い手の注意点

株式譲渡では、買い手は対象会社の株式を取得するだけで知財を含む会社の全資産を間接的に取得できます。特許権の名義も会社名義のまま変わらず、特許庁への権利移転登録などの手続きをする必要はありません(権利者である会社自体は変わらないため)。これは手続き面では大きな利点で、複数の特許や商標を抱える企業でも一括で知財を支配下に置けるメリットと言えます。

しかし、株式譲渡ならではの留意点もあります。まず、買い手は対象会社の知財ポートフォリオの内容と質を事前に把握する必要があります。特許がどの程度事業価値に寄与しているか、権利期間や維持年金の状況、権利に瑕疵がないか(無効審判や係争の有無)といったデューデリジェンスが欠かせません。特に、買収目的が特許技術の獲得や知財の収益化である場合、対象会社が保有する特許群の価値評価を誤ると、期待した収益が得られないリスクがあります。

また、既存の契約や権利関係の扱いにも注意が必要です。株式譲渡では原則として会社との契約関係に変動は生じないため、例えば対象会社が他社から特許実施権(ライセンス)を受けている場合や、あるいは対象会社が自社の特許を第三者にライセンス提供している場合でも、その契約自体は存続します。ただし契約によっては、株主の変動や親会社の交代といったチェンジ・オブ・コントロール条項が盛り込まれていることがあります。これは、会社の支配権が移転した際に契約の解約や再交渉が可能となる条項です。買い手にとって重要なライセンス契約等にこの条項がある場合、株式譲渡が引き金となって契約条件が変わったり解除されたりするリスクがあるので、事前に契約内容を確認し、必要に応じて取引先との合意を取っておくことが重要です。

さらに、株式譲渡では対象会社の負債や法的リスクも丸ごと承継する点を忘れてはいけません。知財面でも、例えば対象会社が他社の知的財産を侵害して訴訟リスクを抱えている場合、会社ごと引き継げばそのリスクも買い手に移ります。一方、特許権自体に関する担保権設定や質権といった権利上の負担がないかも確認が必要です。株式譲渡ではこれらの負担もそのまま残るため、後から「買ったはずの特許が実は担保に入っていて自由に活用できない」という事態にならないよう、事前チェックと必要なら債権者との調整が求められます。

総じて、株式譲渡では「会社」という箱ごと取得するため、その中身である知財群を「余さず丸ごと受け取る」形になります。買い手はこの利点を活かしつつ、箱の中に潜むリスクも見逃さないよう十分な調査と対策を講じることが、知財の価値を活かした収益化への第一歩となります。

事業譲渡における知財(特許)の扱いと買い手の注意点

事業譲渡では、譲渡契約で合意した特定の資産・権利のみが買い手に移転します。したがって特許権など知的財産を確実に取得するには、契約書上で漏れなく特定することが不可欠です。通常、譲渡する特許の番号や発明の名称を列挙して明示し、当事者間で「〇〇特許権を譲渡する」との合意を契約に盛り込みます。ここで一つでも記載漏れがあると、その特許は譲渡対象に含まれず売り手側に残ってしまい、後から「肝心な特許を取得できていなかった」という事態にもなりかねません。買い手にとって重要な特許や商標は、契約書の段階で漏れなく洗い出して特定することが肝要です。

契約で合意した知財を移転するには、その後の法的手続きも必要です。特許法上、特許権の譲渡は特許庁への譲渡登録をしなければ効力が生じないと定められています(特許法第98条)。そのため、事業譲渡契約を締結しただけではまだ不十分で、契約に基づき速やかに特許権移転登録の手続きを行う必要があります。同様に、商標権や意匠権なども移転登録が必要です。移転登録を怠ると、第三者に対して新所有者として権利を主張できず、最悪の場合は売り手が権利を持ったままになってしまう恐れがあります。買い手としては、契約締結からクロージングまでの間に必要な知財移転登記を確実に実行することが重要です。

さらに、事業譲渡では第三者の関与する権利や契約の取扱いにも注意が必要です。対象事業が他社の特許をライセンス利用している場合、そのライセンス(通常実施権)は事業譲渡によって自動的には移りません。ライセンスは譲渡契約による包括承継の対象とはならず、ライセンサー(権利者)の同意を得て譲受企業に契約を移すか、改めて買い手がライセンス契約を結び直す必要があります。契約上譲渡禁止とされているケースもあるため、重要なライセンスについては事前に許諾元と協議し、必要な同意取得や契約再締結の手配を行うべきです。また反対に、対象事業が自社特許を第三者にライセンス供与して収益を得ている場合、そのライセンス契約も原則として承継されません。事業譲渡では契約関係も個別移転となるため、買い手がその収益源を引き継ぐには、ライセンス先との契約も併せて譲渡する旨を契約書に明記し、必要に応じて相手方の承諾を得る必要があります。

もう一つ、共同出願・共同特許の扱いも要注意ポイントです。もし譲渡対象の事業に関連する特許が売り手企業と第三者の共有になっている場合、事業譲渡によってその特許持分を譲り受けるには、共有者全員の同意が必要です。日本の特許法では共有特許権の持分譲渡には他の共有者の同意が不可欠と規定されているため(特許法73条)、事前に共同出願人や共有者との調整を行わなければ譲渡自体が完了しません。これも株式譲渡との対比で重要な点です(株式譲渡であれば会社の帰属する特許権は動かないため、共有者の同意は不要でした)。買い手としては、共有特許が絡む場合には慎重に手続きを踏み、必要な同意取得を怠らないようにしましょう。

以上のように、事業譲渡では一つひとつの知的財産権や契約について個別の移管作業と確認が必要となります。その分、欲しい知財だけをピックアップできる自由度がある反面、手続コストや関係者との調整負担が大きくなる点はデメリットとも言えます。しかし、こうした手間を惜しまず適切に対処することで、買い手は必要な特許技術を確実に自社のものとし、後々の活用・収益化に繋げることができるのです。

知財面から見た株式譲渡と事業譲渡のメリット・デメリット

以上を踏まえ、知財の扱いに関する観点から株式譲渡と事業譲渡それぞれのメリット・デメリットを整理しましょう。

  • 株式譲渡のメリット: 手続きが簡便で、知財を含む資産を包括的に取得できます。特許や商標の権利移転登録が不要で事業継続性も高く、取引先との契約や許認可もそのまま引き継げるため、買収後すぐに特許の活用や製品展開、ライセンス収入の確保といった収益化施策に移りやすいです。また、共有特許の同意取得問題なども発生しにくい点は安心材料です。
  • 株式譲渡のデメリット: 対象会社の不採算事業や不要資産、簿外負債まで一緒に抱えるリスクがあります。知財に限っても、例えば期待した特許が既に他社に独占実施権を与えていた場合(買収前から他社に独占ライセンス提供していた等)、買い手は自由にその特許を活用・収益化できない恐れがあります。また、知財戦略以外の要因(従業員や設備の引継ぎ等)にも配慮する必要があり、純粋に特許だけ取得したい場合には効率が悪いこともあります。
  • 事業譲渡のメリット: 譲渡対象を選別できるため、欲しい知財だけを取得し不要なものは切り離せる柔軟性があります。これにより、買い手は自社の事業戦略や知財収益化計画に必要な特許・技術だけを効率的に獲得できます。また、不安な債務や訴訟リスクを避けて資産だけ引き取ることも可能なため、余計なコストやリスクを抑制できます。取得した特許権は自社名義に変更されるので、その後は自社資産として自由にライセンス展開や売却を検討できる点も、知財の収益化を目指す上で魅力と言えます。
  • 事業譲渡のデメリット: 個別の資産移転ゆえに、手続きが煩雑で時間とコストがかかります。特許・商標の移転登録手続、ライセンス契約の引継ぎ同意、共同特許の同意取得など、クリアすべき項目が多岐にわたります。重要な取引先や従業員との関係も承継には再契約等の手間がかかり、M&Aのスピードが遅くなる可能性もあります。さらに、一部資産のみを取得する場合、事業全体のシナジー効果が得られにくい(会社全体を買収した方が統合効果が高い)ケースもあり得ます。知財の価値評価を誤ると必要な特許を取りこぼしたり、逆に過剰な資産を買ってしまったりといったリスクもあるため、周到な計画と専門家の関与が求められます。

買収時の知財デューデリジェンスと譲渡手法別リスク管理

買い手が知財、とりわけ特許の価値を最大化し収益化するためには、M&Aプロセスの初期段階で徹底した知財デューデリジェンス(資産調査)を行い、リスクに応じた対策を講じることが不可欠です。以下に、知財デューデリジェンスで注目すべきポイントと、発見されたリスクへの対応策をまとめます。

  1. 権利帰属の確認: 対象事業の重要な特許・商標が確実に対象会社に帰属しているかを調査します。特許出願中のものや海外特許、さらには従業員の職務発明の扱い(譲渡契約の有無)なども洗い出し、漏れがないようにします。
  2. 権利状況・有効性: 特許が有効に存続しているか、年金(年次登録料)が滞りなく納付されているか、権利範囲に致命的な欠陥がないかを確認します。権利無効リスクが高い特許しかないような場合、そのままでは収益化が困難なので、価値のある特許を見極めることが重要です。
  3. 契約・許諾状況: 対象会社が関与する知財関連契約を精査します。他社からライセンスを受けて製品化している場合、そのライセンスがM&A後も有効か(譲渡や株式移転による解除条項の有無)をチェックし、問題があれば契約先との事前調整を検討します。また、対象会社が自社特許を第三者に提供している場合、その契約がどの程度収益を生んでいるか、また独占的な権利を与えていないか(独占ライセンスの存在)を確認します。独占的な許諾が既にある場合、新たに別のライセンシーに許諾することは契約上制限されるため、収益化戦略に影響します。
  4. 担保設定・係争: 特許権に質権・担保権が設定されていないか、あるいは対象会社が知財係争(特許侵害訴訟など)に巻き込まれていないかも重要なチェック事項です。担保が付いた特許は自由に譲渡・実施できず、返済完了まで収益化を図れない恐れがあります。また係争中の案件は買収スキームの選択にも影響し、リスクが大きければ事業譲渡で当該案件を切り離すといった判断も必要でしょう。

デューデリジェンスでこれらの問題が浮かび上がった場合、買い手は契約条件の調整やスキーム変更によるリスクヘッジを検討します。たとえば、重要な特許が実は対象会社の所有ではなく親会社からの借用だった場合(ライセンス提供だった場合)は、株式譲渡ではなく事業譲渡でその特許権自体を親会社から買い取る交渉が必要かもしれません。逆に、対象会社にどうしても切り離せない負債や紛争リスクがある場合には、事業譲渡に切り替えて当該負債部分を承継しないようにするなど、柔軟な対応策で知財価値の確保を図ることが可能です。

知財の収益化を見据えた譲渡スキームの選択

M&Aにおけるスキーム選択は、単に法律や会計の問題だけではなく、知財をどう収益に結び付けるかという戦略面でも考える必要があります。特許権をはじめとする知的財産は、適切に取得・活用すれば自社にもたらす利益の源泉となります。したがって買い手は、自社が目指す知財の収益化モデルに照らして、株式譲渡と事業譲渡のどちらが有利かを判断することが大切です。

例えば、買い手企業が自社の不足する技術を補完するために相手先の特許ポートフォリオ全体を手に入れたい場合や、既存事業とのシナジーを重視する場合には、株式譲渡による統合が適しています。会社ごと取り込むことで特許群をまとめて支配下に置き、既存製品への技術応用や競合牽制、将来的な特許ライセンス収入など包括的な収益化策を講じやすくなるためです。

一方、純粋に特定の特許発明そのものに価値を見出しているようなケースでは、事業譲渡(または特許譲渡)によるピンポイントな取得が有効です。余分な事業資産を伴わずに済むためコスト効率が高く、得た特許を自社他部門で活用したり、ライセンスアウトや特許売却によって直接収益を上げたりといった展開がしやすくなります。特許自体の売買やライセンス供与は、近年ではベンチャー企業や大学発技術のエグジット戦略としても注目されており、必要な技術だけを取得できるスキームは双方にメリットが生まれます。

重要なのは、どのスキームを選ぶにせよ知財の価値をしっかり把握し、権利の承継漏れや利用制限のない状態で取得することです。最終的に手にした特許権を自由に活用できなければ収益化は実現できません。M&Aの契約交渉段階から、自社が狙う知財の範囲と活用計画を明確にし、それを確実に実行できる譲渡方法を採用することが、知財の価値最大化に繋がります。

まとめ:株式譲渡・事業譲渡を正しく理解し、知財の収益化につなげよう

株式譲渡と事業譲渡では、知的財産の引き継がれ方に大きな違いがあります。本記事で解説したように、包括承継か特定承継かという違いから生じるメリット・デメリットを正しく理解することが、買い手にとって極めて重要です。特許を中心とした知財は、現代の企業価値の重要な構成要素であり、その取り扱い如何で買収後のビジネス成功や収益に直結します。適切なデューデリジェンスと専門家の助言を得て、最適なスキームで必要な知財を手に入れ、ぜひ「知財の収益化」を実現してください。

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(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

  1. Business Lawyers「特許権や実施権の承継に関する留意点」(2017年12月25日公開) https://www.businesslawyers.jp/practices/715
  2. 有斐閣ローライブラリー「知的財産法×M&A —M&Aにおける知的財産権・知的財産関連契約の取扱い」(2025年)https://yuhikaku.com/articles/-/27179
  3. 特許庁「出願人名義変更届の手続について(Q&A)」問14 名義変更には特定承継、一般承継の2種類があります https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/07-14.pdf
  4. J-Net21(中小企業基盤整備機構)「第三者承継の方法と注意点」https://j-net21.smrj.go.jp/handbook/succession/third.html
  5. 小西法律事務所「事業承継 ~株式譲渡のメリット・デメリット~」https://www.konishilaw.jp/column/20200928204556/
  6. M&A総合研究所「事業承継で知的財産は最重要の切り口!ポイントや留意点、流れを解説」(2022年10月5日更新) https://mastory.jp/事業承継の知的財産
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