イノベーションと特許収益化の両立:企業戦略のジレンマ

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本日は「イノベーションと特許収益化の両立:企業戦略のジレンマ」というテーマでお話しします。本記事では、企業が自社のイノベーションを促進しつつ特許を収益化する戦略について、幅広い事例やデータを交えながら考察します。知財専門家の皆様にとって、有益な示唆となれば幸いです。

目次

イノベーションと特許収益化のジレンマ

企業にとって、自社の技術革新(イノベーション)を守りながら、特許から収益を得ることは大きな課題です。このジレンマの背景には、多くの特許が事業に活用されず眠っている現状があります。経済産業省の調査によれば、日本国内の特許の約半分は実際の収益に結びついていない「未利用特許」であり、防衛目的の保有を除いた「死蔵特許」は全体の16%にも上ります[1]。つまり、企業が保有する知的財産の相当部分が十分に活用されていないのが実態です。

一方で、近年は特許の収益化に対する企業姿勢も変化しています。特許取得・維持に多大な投資をしながら十分なリターンを得られていないとの反省から、経営層(CFOや知財部門)は特許ポートフォリオを「コストセンター」ではなくビジネス価値を生む「資産」として捉え直す動きを強めています[3]。実際、2024年の国際調査では、社内弁護士の約70%が「10年前に比べて自社は特許の収益化に積極的になっている」と回答し、73%が「過去10年で特許収益(ライセンス料や売却益)が増加した」と報告しています[3]。それでも依然として約8割の知財担当者が、自社の特許資産の四分の一以上は活用されずに価値を生んでいないと認めており[3]、多くの企業が「眠れる特許資産」に収益機会を見出しきれていないのが現状です。

このように、特許を収益源として活用すること(特許の収益化)は大きな可能性を秘める一方、自社の競争優位性やイノベーション推進との両立が難しい局面もあります。特許を独占的に活用すれば自社製品の優位を守れますが、その特許を他社にライセンスすれば短期的な収益と技術普及につながる反面、競合の台頭を許すリスクもあります。また、特許権を積極的に行使(訴訟)すればライセンス収入や損害賠償を得られる可能性があるものの、関係先との摩擦や訴訟コスト増大といった副作用で自社のイノベーション環境が損なわれる懸念もあります[4]。このジレンマにどう向き合うかが、まさに企業知財戦略の要となっています。

特許収益化戦略の主要手法

特許収益化を実現するために、企業が取り得る戦略には様々な手法があります。主なものとして以下が挙げられます。

  • ライセンス供与(特許ライセンス): 自社の特許技術を他社に実施許諾してロイヤリティ収入を得る方法です。自社で事業化できない技術でもライセンスすれば他社の製品・サービスで活用され収益になります。例えば、半導体や通信分野では技術標準に関わる特許を標準必須特許として幅広くライセンス供与し、産業全体で技術を共有しつつライセンス料収入を上げるモデルがあります。実際、特許ライセンス契約を活用することで、自社の技術が直接事業化されなくとも「他社に使わせて稼ぐ」ことが可能です[4]。ライセンス供与は比較的安定した収入源となり得ますが、自社競合にも技術が渡る点は戦略上の検討が必要です。
  • 特許の売却・譲渡: 特許権そのものを第三者に売却して対価を得る方法です。一括売却により将来の不確実なロイヤリティよりも確実な収入を早期に得たい場合に有効です[2]。特に事業整理時や保有特許が自社で活用予定のない場合、売却によって資金化し他の成長分野に投資する戦略が取られます。実例として、カナダの通信企業ノーテルが破綻時に約6,000件の特許を競売にかけ、AppleやMicrosoftなど6社連合が45億ドル(当時約4,000億円)もの巨額で落札しました[5]。このケースは、不要となった特許資産が他企業にとっては戦略的価値を持ちうることを示しています。また、近年では大手電機メーカーのLG電子がスマートフォン事業から撤退するにあたり、当該分野の豊富な特許群を活用すべくライセンシング専門の子会社を設立し収益化を図ると報じられています[4]。
  • 特許訴訟(エンフォースメント): 他社による自社特許の無断利用に対して法的措置を取り、ライセンス契約や損害賠償金による収益を得る方法です。特許権侵害訴訟を提起することで、相手にライセンス料の支払いを迫ったり、市場からの排除(差止め)を交渉材料に使ったりする強硬な戦略です[4]。著名な例として、米IBM社は膨大な特許ポートフォリオを背景に様々な企業に特許ライセンス料を要求し、支払わなければ提訴も辞さない構えを見せることで収入を得てきたとされます[6]。このようなアプローチによりIBMは年間数億ドル規模のライセンス収入を長年確保してきました。ただし、訴訟には多大な費用がかかり、実際に得られるライセンス料や賠償額が費用対効果に見合わないリスクもあります[4]。調査では、企業側が特許訴訟を思い留まらせる要因として「訴訟コストの高さ」が指摘されており、約72%の弁護士がコスト負担を訴訟の抑止要因に挙げています[3]。したがって、訴訟戦略を用いる際は費用対効果や風評リスクも慎重に考慮する必要があります。
  • クロスライセンス・パテントプール: 複数企業間で互いの特許を利用できるようにする契約(クロスライセンス)や、関連分野の特許を束ねて一括ライセンス提供する仕組み(パテントプール)も収益化戦略の一環です。他社とクロスライセンス契約を結べば、自社も相手企業の特許を利用できる代わりに自社特許も提供し、直接の収入は伴わないものの特許紛争リスクを減らすことができます[9]。一方、パテントプールでは複数の権利者が特許を持ち寄り、一括して第三者にライセンス供与することで利用促進と収益配分を図ります。有名な例として映像圧縮技術MPEG関連の特許プール(MPEG LA)があり、多数の企業・機関が参加することでライセンス手続を簡素化しつつ各権利者が実施料を得ています[4]。クロスライセンスは主に防御的・協調的な戦略ですが、結果として開発競争の重複投資を避けイノベーションを効率化する効果もあります。また、パテントプールは新規参入企業でも必要な技術を入手しやすくなるため、市場全体の技術普及と収益化機会の拡大に寄与します。
  • その他の手法: 上記以外にも、特許を用いた事業連携やスタートアップへの技術供与(オープンイノベーション的な提携)、特許資産を担保とした融資(知財ファイナンス)など、特許の価値をマネタイズする手段は多岐にわたります。特許ブローカーやオンラインプラットフォームを活用して売買・ライセンスの相手を探索することも一般的になりつつあります。例えば、日本発のプラットフォーム「PatentRevenue」は企業や大学が保有する特許を無料登録し、ライセンス先・買い手をマッチングするサービスを提供しています。このような仲介ネットワークの整備により、従来は接点のなかった特許需要者との取引機会を創出しやすくなっています。

収益化戦略の事例とイノベーションへの影響

特許収益化戦略の実践事例は多岐にわたり、その成果も分野によってさまざまです。いくつか代表的な事例を見てみましょう。

まず、ICT(情報通信技術)業界では特許収益化が巨額のビジネスとなっています。前述のIBMは典型例で、同社は年間約60億ドルの研究開発費を投じる一方[6]、その10〜30%を特許収入で回収してきたとされています[6]。しかし近年、特許法の改正や市場環境の変化によりIBMの特許収入は減少傾向にあり、2000年に17億ドルあったライセンス収入が2020年にはその3分の1程度に落ち込んだとも報じられます[6]。一方、スウェーデンのエリクソンは5Gなど通信標準必須特許を多数保有し、2020年に知的財産収入だけで100億ドル規模を稼いだとも伝えられています[6]。このように、自社製品以上に特許ライセンスが重要な収益源となっている企業も存在します。

また、スマートフォン業界では、特許を巡る巨額訴訟やクロスライセンス網が産業構造に大きく影響しました。カメラ技術や無線通信特許を巡りAppleやSamsung、Nokiaなどが世界各地で係争した「スマホ特許戦争」を経て、大手各社は和解・クロスライセンスによる棲み分けを進めました。その結果、主要企業間では特許紛争が沈静化する一方、新規プレイヤーには高額の特許ライセンス料負担が課される構図も生まれています。つまり、特許収益化戦略が既存企業には収益と相互安心をもたらす一方、市場参入障壁として作用しうることも示唆されています。

製造業以外でも、大学や研究機関による特許収益化も注目に値します。大学発の研究成果を民間にライセンスする動きは1990年代以降活発化し、トップ大学では年間数百億円規模のライセンス収入を得ています。例えばカリフォルニア大学は約4,882件の特許を有し、年間1億8,200万ドル(約200億円)ものライセンス収入を得ているとの報告があります[7]。米カーネギーメロン大学は自ら特許訴訟で権利行使し、半導体企業から7億5,000万ドルの和解金を勝ち取った例もあります[7]。2011年には米国の大学上位100校だけで特許ライセンス収入が18億ドルに達し、以降も年々増加傾向が報告されています[7]。大学のような非営利組織においても、特許収益化は研究資金を生み出す重要な手段となっているのです。

他方、特許収益化には負の側面も指摘されます。自ら事業を行わず特許権の行使だけで収益を上げようとする主体、いわゆる「パテントトロール(NPE: 非実施主体)」の存在はその典型です。彼らは安価に取得した特許を武器に訴訟をしかけ、企業からライセンス料名目の金銭を得るビジネスモデルを取ります。これにより訴訟リスクが高まり、真摯に製品開発を行う企業に過度なコストが生じるとして批判も強いです。しかし皮肉なことに、独自に製品化する資源のない個人発明家や大学にとって、NPEへの特許売却は発明の価値を実現する数少ない道でもあります[8]。実際、IBMですら自社で事業化しない特許を若い企業に売却し、相手が自社ポートフォリオを強化するケースがあります[6]。このように特許収益化の在り方は、一概に善悪で割り切れない複雑な側面を持っています。

以上の事例から浮かび上がるのは、特許収益化戦略は業種や企業の置かれた状況に応じて功罪両面を持つということです。そして肝要なのは、自社のイノベーションを阻害せずに収益化を図るバランス感覚と言えるでしょう。

イノベーション戦略と特許収益化の両立に向けて

最後に、企業がイノベーション推進と特許収益化を両立させるためのポイントを考えてみます。鍵となるのは「オープン&クローズ戦略」の発想です[9]。これは、自社の特許をすべて囲い込む(クローズ戦略)のではなく、あえて一部を外部企業に開放・活用してもらう(オープン戦略)ことで、自社単独では得られない価値を創出しようという考え方です[9]。自社だけで抱え込めば技術流出リスクは減りますが、開発や市場展開のスピードも限られます。他社と特許を共有し合えば、共同開発によるイノベーション創出や市場拡大が期待でき、その成果を各社で分け合う形で新たな利益機会が生まれます[9]。実際、日本企業もかつては自前主義で特許を囲み競争優位を守る戦略が主流でしたが、現在では社外企業とのアライアンスやエコシステム形成が不可欠となりつつあります[9]。知財を開放しつつ自社の核となる技術は押さえておく、そのメリハリが重要です。

また、特許収益化を推進する社内体制の整備も欠かせません。研究開発部門と知財・経営戦略部門が連携し、特許の棚卸しや資産価値評価を定期的に行うことで、眠っている有望特許を掘り起こし収益化候補を特定できます[3]。その際、特許を維持するコストと潜在価値を比較し、売却すべきかライセンスすべきか、あるいは防衛のため保持すべきかを戦略的に判断することが求められます。また、訴訟による収益化を検討する際は、専門の法務・資金パートナー(例えば訴訟ファイナンス企業)と組むことでリスクとコストを分担し、過度な先行投資なしで権利行使に臨むことも可能です[3]。社内の意思決定プロセスにおいても、短期的収益と長期的技術競争力のバランスを評価する枠組みを設けることが望まれます。

さらに、企業文化としてイノベーションを促進しつつ知財マネタイズを奨励する仕組みも有効です。社員の発明報奨制度や特許活用による事業貢献を評価するKPIを導入することで、研究者とビジネス側双方に「知財で価値を生み出す」意識が根付くでしょう。実際、特許出願件数世界一を長年維持するIBMでは、従業員に対する発明報奨と特許活用へのコミットメントが企業文化として定着していると言われます[6]。その結果、生み出された知財を積極的にライセンスや事業展開に結びつけることができています。ただしIBMの例が示すように、時代の変化で特許収益モデルが揺らぐこともあるため[6]、常に市場動向や法制度の変化を注視し戦略修正していく柔軟性も欠かせません。

まとめ

以上、イノベーションと特許収益化の両立という難題について、様々な観点から概観しました。重要なのは、自社の知的財産を静的に蓄えるのではなく動的な戦略資産として位置づけ、攻守バランスを取りながら経営目標に資する形で活用することです。特許収益化で得たリターンは次なる技術開発への原資となり[3]、そうした好循環を生み出すことがこれからの知財戦略には求められます。企業がこのジレンマを乗り越え、イノベーションと収益の双方を実現できるよう、知財担当者は引き続き戦略的な舵取りを迫られるでしょう。

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(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

  1. 経済産業省 (2015) 「民間企業のイノベーションを巡る現状」 オープンイノベーション推進会議(参考資料). https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/pdf/001_s01_00.pdf
  2. 牛田特許商標事務所 「特許をお金に変える3つの方法」. https://www.ryupat.com/patent-royalty/
  3. Burford Capital (2024) “New Burford Capital Research Reveals Significant Opportunities for Businesses through Patent Monetization”. https://www.burfordcapital.com/insights-news-events/news-press-releases/new-burford-capital-research-reveals-significant-opportunities-for-businesses-through-patent-monetization/
  4. 大平 恵美 (2023) 「米国における特許の利活用」 WIPOウェビナー資料. https://www.wipo.int/edocs/mdocs/mdocs/ja/wipo_webinar_wjo_2023_16/wipo_webinar_wjo_2023_16_1.pdf
  5. Reuters (2011) “Apple/RIM group top Google in $4.5 billion Nortel sale”. https://www.reuters.com/article/business/applerim-group-top-google-in-45-billion-nortel-sale-idUSTRE7600PF/
  6. The Spokesman-Review (2021) “IBM’s patent income slips as companies resist ‘godfather’ deals”. https://www.spokesman.com/stories/2021/mar/12/ibms-patent-income-slips-as-companies-resist-godfa/
  7. GreyB (アクセス 2025) “Patent Licensing – A Way for Universities to Generate More Revenue”. https://www.greyb.com/blog/how-universities-can-generate-revenue/
  8. Abril, Patricia S. & Plant, Robert (2007) “The Patent Holder’s Dilemma: Buy, Sell, or Troll?” Communications of the ACM, 50(1). https://cacm.acm.org/practice/the-patent-holders-dilemma/
  9. PwC (2022) 「知的財産×戦略──高収益企業のビジネス戦略の実現のための知的財産を活かした事業開発・アライアンス戦略」 PwC’s View 第36号. https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202201/36-04.html
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