知財金融(IPファイナンス)の現状 – 特許担保の資金調達

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

この記事では、知財金融(IPファイナンス)の現状について、日本国内を中心に、「特許を担保に資金調達は可能か?」という観点から解説します。専門家の方にも新たな知見を提供できるよう、特許担保融資を軸に、知財を活用した資金調達のさまざまな手法や国内外の動向、今後の展望を考察します。

目次

知財金融の概要と重要性

近年、多くの企業において無形資産(知的財産など)の価値が増大し、企業価値の大半を占めるに至っています。その代表例として、米国S&P500企業の時価総額に占める無形資産の割合は1995年の68%から2020年には90%に達したとの報告があります【1】。つまり現代では、特許やブランドなどの知的財産(IP)が企業の主要資産となっているにも関わらず、それらを活用した資金調達は十分に行われていないのが実情です。世界知的所有権機関(WIPO)によれば、多くの企業が成長や継続のため資金を必要とする一方で、自社の最も価値ある資産の一つである知的財産を資金調達に活用できていないケースが多いと指摘されています【2】。知的財産を担保に融資を受けたり、知財から生まれる収益を資金源として活用する「知財金融」は、この資金調達ギャップを埋めるゲームチェンジャーになり得ると期待されています【2】。実際、各国の政府や民間金融機関も知的財産を活用した融資制度や支援策に着目し始めており、日本でも「知財金融」という概念が注目されるようになってきました。

知財金融とは、特許権・商標権・著作権などの知的財産権や、それらから生まれるキャッシュフローを活用して資金調達を行うことを指します。具体的には、知的財産そのものを担保に銀行から融資を受ける、知財に裏付けられた売上債権やロイヤリティ収入を元に資金を調達する、といった手法が含まれます。また、知財を多く保有していること自体を企業価値の指標として評価し、無形資産の価値に着目した融資判断を行うケースもあります【2】。言い換えれば、知財金融は企業が持つ知的財産を「見える化」して金融取引に組み込む取り組みであり、知財立国を標榜する日本においても重要性が増しています。

知財を担保にした資金調達の現状と課題

知財金融の中でも、特許権を担保に銀行融資を受ける「特許担保融資(知財担保融資)」は特に注目される分野です。日本では実は1990年代から公的機関による知財担保融資の試みが始まっていました。1995年、当時の日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)はベンチャー企業向けに知的財産権を担保とする融資制度を創設し、2007年までに約300件・累計180億円超の融資を実行しています【3】。しかし、このような知財を直接担保とする融資は一般の民間金融機関には広がらず、1999年頃から一部の大手銀行で個別に事例が見られたものの、決して主流にはなりませんでした【3】。2000年代後半以降、地方銀行や信用金庫でも知財担保融資の動きが出始めましたが、その件数はごくわずかに留まっています。

実際、直近の国内における特許担保融資の実行件数は年間で1~2件程度と報告されており、その融資金額も1件あたり数千万円と小口に留まっています【3】。なぜ知財を担保にした融資がこれほどまでに広がらないのか、その課題として指摘される点がいくつかあります。

第一に担保評価の難しさがあります。特許権などの価値評価は専門的で不確実性が高く、金融機関にとって適正な評価額を算定することが容易ではありません。また、事業で活用中の特許の場合、その価値は特許単体ではなく事業計画との結びつきで初めて意味を持つため、単独での担保価値を認めにくい側面もあります。

第二に換価処分の困難さが挙げられます。万一、借り手がデフォルトした場合に銀行が不動産担保であれば競売で換金できますが、特許権を担保に取った場合、その特許を市場で売却して現金化することは容易ではありません。特許流通市場が未発達で、担保権を実行しても買い手を探すのに苦労するためです【4】。特に、継続的なライセンス収入が見込める特許や明確な需要がある特許でなければ、担保としての魅力は限定的にならざるを得ません。

第三に、日本の従来の融資慣行では、経営者保証や不動産担保などに依存する傾向が強く、無形資産を積極的に担保として評価する文化が根付いていないことも背景にあります。知財金融の推進にあたっては、金融機関側の知見不足やリスク管理上の慎重姿勢も課題として指摘されています。

こうした課題に対応するため、日本政府や関係機関も取り組みを進めています。特許庁は中小企業向けに知財ビジネス評価書を発行する事業(知財金融促進事業)を展開し、地域金融機関と知財専門家が連携して企業の知的財産と事業計画を評価する仕組みを整えてきました。多くの金融機関がこの評価書を企業理解の参考資料として活用し始めていますが、依然として融資判断に直接結びつける例は限定的です。また、信用保証協会による知財担保融資への特別保証枠の設置や、知財価値に着目した融資制度(例えば銀行と調査会社が連携した評価融資商品)の導入なども試みられています。

しかしながら、2020年度の調査によれば、知的財産の価値評価に基づく融資制度を有している金融機関はわずか2%程度に過ぎません。多くの金融機関が知財を「将来的な成長性を評価する材料」として関心は示しつつも、実際の融資商品として制度化できていないのが現状です【5】。結果として、最近では特許権そのものを担保に差し入れるケースは稀であり、代わりに知財を活用した事業性評価融資(無担保融資だが知財の保有状況や活用計画を評価して審査する手法)が主流となりつつあります【3】。これは多少の資金ニーズには応えられるものの、研究開発や事業化に多額の資金を必要とするベンチャー・中小企業に十分な資金を提供するには不十分であり、知財担保融資の本格的な普及が望まれている状況です。

知財金融の多様な手法:IPファンドや知財担保社債

知財金融には、銀行融資以外にもさまざまな形態があります。特許を担保に現金を借り入れる以外のアプローチとして、知的財産を直接売却・投資の対象とするIPファンドや、知財を裏付け資産として資本市場から資金を調達する**知財担保社債(知財の証券化)**などが注目されています。それぞれの手法がどのように知財の価値を資金に変えているのかを見てみましょう。

IPファンドによる知財の資金化

IPファンドとは、企業が保有する特許や技術をファンドが買い取り・集約し、それを他社へのライセンス供与や事業化支援に活用することで収益を上げる投資ファンドです。企業側から見ると、利用しきれていない知財をIPファンドに売却または提供することで、一種の知財の現金化を図ることができます。日本で初の本格的な知財ファンドとして設立されたのがIP Bridge株式会社で、2013年に官民ファンド(産業革新機構(INCJ))や民間企業(パナソニック、三井物産など)の出資により約30億円規模で始動しました【6】。同ファンドは将来的に規模300億円までの拡大を目指し、日本企業が持つ眠れる特許資産を外部で有効活用する受け皿となることが期待されています【6】。

IP Bridgeの事例に象徴されるように、IPファンドは大企業の休眠特許や大学の未活用特許をまとめて取得し、それらを必要とする企業にワンストップでライセンスするビジネスモデルを展開しています【6】。これにより、特許の遊休資産が市場に流通し、中小企業やスタートアップは必要な特許技術を利用しやすくなります。一方、特許の元所有者である企業は、ファンドからの売却代金やライセンス収入の分配を得ることで資金調達につなげることができます。IPファンドは知財の価値を「見える化」し、市場原理でその価値を引き出す仕組みとして、知財金融の重要な手段となりつつあります。

知財担保社債(知財の証券化)

知財金融のもう一つの手法が、知的財産を裏付けとした社債発行や証券化スキームです。これは、特許や著作権から生み出される将来の収益を担保にして債券を発行し、投資家から資金を募るものです。知的財産に基づく証券化の有名な例としては、音楽業界で1997年にイギリスのロック歌手デヴィッド・ボウイが自らの音楽著作権収入を担保に発行した「ボウイ債」が挙げられます。ボウイ債は約5,500万ドル(当時の為替レートで60億円前後)を調達し、知的財産(著作権)を担保とした世界初の大規模な証券化事例として注目されました。

特許分野に目を向けると、日本でも2003年に経済産業省の主導で特許を証券化する実証的な試みが行われました。このスキームでは、特許から生まれるライセンス料収入などを裏付けに証券を発行し資金調達を図るものでしたが、実際のところこのケースは未だに国内唯一の事例に留まっています【4】。特許の証券化は理論上、有望な技術を持つ企業が研究開発資金を一括調達する手段となり得ます。しかし、投資家側から見ると特許に基づくキャッシュフローの予測が難しく、また途中で特許無効や技術陳腐化のリスクもあるため、実現した事例は極めて少ないのが現状です。

とはいえ、知財担保社債の可能性は引き続き模索されています。特許や商標から生じる安定したロイヤリティ収入がある場合、その収益を担保に社債を発行したり貸付を受けたりすることで、大型の資金調達が可能となります。特に製薬業界では、新薬特許のロイヤリティを担保に資金を調達する動きが欧米で見られ、知財の証券化が研究開発投資の一手段として活用されています。また、映画・エンターテインメント分野でもコンテンツの将来収入を担保にしたファイナンス(いわゆるハリウッドファイナンス)が行われており、知財を基盤とした資金調達のスキームは多岐にわたっています。

知財金融と資金調達の国内外動向

知財金融の動向を見ると、日本国内では前述のように特許担保融資の普及は限定的ですが、海外に目を向けると異なる展開が見られます。ここでは、米国と中国を中心にグローバルな知財金融の潮流を概観します。

米国における知財金融

米国では、知的財産をビジネス上の資産と捉え金融取引に組み込む動きが日本より進んでいます。その一例として、特許庁への担保権設定登録データから、2010年以降に出願された米国特許の約6%に担保権(リーエン)が設定されているとの調査報告があります【3】。この割合は年々上昇傾向にあり、多くの企業が特許を融資の担保として活用していることを示唆します【3】。実際、IBMやマイクロソフトといった大企業からスタートアップ企業まで、銀行や専門の金融会社からの借入時に特許ポートフォリオを担保提供する例が見られます。

米国の特徴は、特許担保融資が比較的短期的な資金ニーズに用いられている点です【3】。前述の調査によれば、担保に取られた特許の約46%は既に担保権が解除(返済完了)されており、その93%は設定後5年以内に解除されています【3】。これは、米国では5年未満の短期ローンに特許を担保として利用し、返済が終われば速やかに担保権を外しているケースが多いことを示しています。裏を返せば、借り手がデフォルトして金融機関が特許を処分せざるを得なくなる事態は極めて少なく、知財を担保とした融資が円滑に回っているとも言えます。このように、米国では知財そのものの価値を金融取引に組み込む文化が根付き始めており、知財金融が一部で実務に定着しつつあります。

中国における知財金融

中国は知財金融を国家的に推進している代表例と言えます。同国では政府の後押しもあり、特許や商標を担保とした融資が飛躍的に拡大しています。世界知的所有権機関(WIPO)の報告によれば、2022年に中国で実行された特許・商標権の質押融資(担保融資)は総額4,869億元(約9兆5千億円)に達し、2016年から2022年まで年平均28.4%という驚異的な成長率で増加しています【7】。2022年には少なくとも1.8万社以上の企業がこの知財担保融資を利用しており、1社あたり1,000万元以下の融資が多く、中小企業の資金繰り支援に大きな役割を果たしています【7】。

さらに、中国では知的財産を活用した証券化商品も数多く発行されています。2023年9月までに上海証券取引所や深セン証券取引所で累計119件の知財担保証券(知的財産支援資産証券)が発行され、調達額は合計268億元(約5,200億円)に上りました【7】。政府系保険会社による知財保険の提供や、地域ごとの知財オペレーションセンターの設置など、知財金融を促進するエコシステムが官民協力のもと整備されています【7】。中国政府は知財を軸とした中小企業支援を経済政策の一環として位置づけており、その結果がこれらの数字に表れています。

このように、中国は知財金融において世界でも突出した実績を上げており、知財を信用補完の手段として最大限に活用しています。一方、日本では中国ほど政府主導の大規模な支援策はないものの、上述の特許庁の評価書制度や金融庁の事業性評価融資の推進など、徐々に環境整備が進められています。グローバルな潮流として、知財を活用した資金調達は今後ますます重要性を増すと考えられ、日本もその流れの中で自国の強みである知的財産を金融面で活かす方策を模索していく必要があります。

知財金融による資金調達の展望

以上の現状を踏まえ、特許を担保とした資金調達の可能性と今後の展望について考察します。結論から言えば、「特許を担保に資金調達は可能か?」という問いに対して、現時点では「限定的ではあるが可能性はある」という答えになります。日本国内では知財担保融資の事例はまだ少数に留まっていますが、海外の動向や知財金融の新たなスキームの登場は、日本における知財金融の活性化に示唆を与えています。

今後、特許担保融資を含む知財金融を普及させるためには、いくつかの鍵となる要素が考えられます。第一に、知財の適正評価手法の確立と人材育成です。銀行が安心して特許を担保評価できるよう、評価手法の標準化や評価人材の育成が不可欠です。特許庁や経済産業省、民間の評価機関が連携して知財評価モデルの高度化に取り組むことで、知財の価値算定に対する信頼性を高める必要があります。

第二に、知財流通市場の整備が挙げられます。特許の売買・ライセンスの市場が活発化し、適正価格で特許を処分できる環境が整えば、金融機関も担保として特許を受け取りやすくなります。企業や大学が保有する知財を売買・共有できるプラットフォームの拡充や、知財オークションの開催など、知財の流動性を高める取り組みが望まれます。

第三に、政策的支援と制度設計です。日本政策金融公庫や信用保証協会による知財担保融資の保証・保険制度を拡充することは、民間金融機関のリスクを軽減し、知財金融を促進する大きな後押しとなるでしょう。また、税制優遇や補助金によって知財金融を利用する企業や金融機関のインセンティブを高めることも有効です。海外ではシンガポールや韓国などが知財担保融資に対する保証制度を設けていますが、日本でも同様の仕組みを本格化させる余地があります。

最後に、知財金融を成功させるには産学官の連携が重要です。企業の知財部門や知財専門家(弁理士など)、金融機関の融資担当者、さらには政策立案者が一体となって知財金融のエコシステムを築いていく必要があります。知財は専門性が高いため、金融サイドと技術サイドの橋渡し役が求められます。そうした連携によって成功事例が蓄積されれば、「知財を持っていれば資金調達に有利になる」という認識が広がり、知財戦略と金融戦略の融合が進むでしょう。

知財金融の発展は、イノベーション促進と企業価値向上の両面に寄与します。特許という形で蓄積された技術やアイデアが適切に評価され、資金に結び付くことで、新たな研究開発や事業拡大への再投資が可能となります。専門家の皆様におかれましても、知財金融の最新動向を注視し、自社あるいはクライアント企業の知的財産を活かした資金調達戦略を検討してみる価値があるでしょう。「特許を担保に資金調達」は決して絵空事ではなく、工夫次第で実現し得る未来の選択肢なのです。

なお、収益化したい特許をお持ちで、売却やライセンスによる資金化をご検討中の方は、弊社が運営する特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)にぜひご登録ください。知財の流動化を促進し、価値ある特許から新たな資金創出を実現する場としてご活用いただけます。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

  1. INTA「Intellectual Property Reporting for Brands」(2024年1月25日公開)https://www.inta.org/perspectives/inta-research/intellectual-property-reporting-for-brands/
  2. WIPO (世界知的所有権機関) “Intellectual Property Finance” (知財金融に関する解説ページ)https://www.wipo.int/en/web/ip-financing
  3. デロイトトーマツ グループ「事業性評価による融資における日本の課題」(知的財産アドバイザリー コラム、2021年)https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/strategy/articles/ipa/finance-business-valuation.html
  4. 内田・鮫島法律事務所 知財弁護士.COM「特許権による資金調達」(2016年)https://www.ip-bengoshi.com/archives/1538
  5. 特許庁「知財金融の実態に関するアンケート調査結果(令和2年度)」※知財金融ポータルサイト掲載PDF https://chizai-kinyu.go.jp/cms/wp-content/uploads/case-ref-r02.pdf
  6. INCJニュースリリース「日本企業の知財の有効活用を目指す知財マネジメント会社㈱IP Bridgeの設立及び知財ファンドへの出資について」(2013年7月25日)https://www.incj.co.jp/news/2013/20130725.html
  7. WIPO「Unlocking IP-Backed Financing – Country Perspectives: China’s Journey」(2023年)https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo-pub-rn2023-46-en-country-perspectives-china-s-journey.pdf
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