企業価値の9割が「見えざる資産」:日本企業が学ぶべき無形資産経営と知財の収益化

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
現代の企業経営において、その価値を測る尺度が根本的に変わりつつあります。かつて企業の強さの象徴であった広大な工場、最新鋭の機械設備、潤沢な土地といった「有形資産」は、今や企業価値の決定的な要因ではなくなりました。現代の企業価値は、特許、ブランド、技術ノウハウ、顧客データ、ソフトウェアといった「見えざる資産」、すなわち「無形資産」によってその大半が占められています 。
この「経済の逆転」とも呼べる世界的な潮流は、特に米国企業において顕著です。米国の主要企業500社(S&P 500)の市場価値を分析した調査によれば、その企業価値に占める無形資産の割合は、2020年時点で実に90%に達しています 。これは、投資家が企業の物理的な資産の10倍近くの価値を、その企業が持つアイデアやブランド、技術力に見出していることを意味します。
一方で、日本市場に目を向けると、この世界的な潮流から取り残されている可能性が指摘されています。多くの日本企業が、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ、すなわち市場価値が解散価値(純資産)を下回るという深刻な評価に直面しているのです 。これは、市場がこれらの企業の将来性、すなわち無形資産の価値を「ゼロ」あるいは「マイナス」と評価しているに等しい状態です。
しかし、これは日本企業全体の宿命ではありません。国内にも、キーエンスのように、無形資産を経営の核に据え、圧倒的な収益性と企業価値を実現している卓越した事例も存在します 。
本記事では、この日米の「無形資産ギャップ」がなぜ生じているのかを深く掘り下げます。S&P 500の90%という数字の背景、日本政府が危機感を募らせるPBR問題の本質、そしてキーエンスやNVIDIA、クアルコムといった国内外の先進企業が実践する無形資産戦略を徹底的に分析します。結論として、日本企業がこのギャップを埋め、持続的成長を遂げるための鍵が「知財の収益化」にあることを明らかにします。
企業価値の9割が「見えざる資産」:世界の無形資産シフト
現代の企業価値評価において、最も劇的な変化は「価値の源泉」が物理的なモノから情報やアイデアへ移行したことです。この現象は「経済の反転(Economic Inversion)」とも呼ばれ、金融アナリストや経営戦略家にとって常識となりつつあります。
このシフトを最も明確に示しているのが、米国の知的財産コンサルティング会社Ocean Tomoによる「無形資産市場価値調査」です 。この調査は、S&P 500構成企業の市場価値(時価総額)と帳簿上の価値(純資産)の差額から、無形資産の価値を推定するものです。
その結果は衝撃的です。
- 1995年時点では、S&P 500の企業価値のうち無形資産が占める割合は68%でした 。
- 2015年には、この割合は84%まで上昇しました 。
- そして2020年7月、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響を分析した最新の調査更新で、この割合はついに**90%**に達しました 。
パンデミックがこの傾向を「加速させた」 という事実は、非常に重要です。世界的な危機により、物理的なサプライチェーンや工場、オフィス(有形資産)が機能不全に陥った一方で、企業の競争力を支えたのは、ソフトウェア、リモートワークを可能にするプラットフォーム、ブランドロイヤルティ、そして治療薬開発を支える研究開発パイプライン(無形資産)でした。この危機は、企業価値がもはや物理的な存在に依存していないことを決定的に証明したのです。
世界知的所有権機関(WIPO)も、この無形資産の重要性を強調しています。WIPOによれば、無形資産とは「物理的な形態を持たず、アイデア、知識、イノベーション、評判からその価値を引き出す資産」と定義されます 。具体的には、特許、商標、著作権、営業秘密といった知的財産権(IP)のほか、ソフトウェア、ブランド、データベース、組織のスキルなどが含まれます 。
WIPOが引用するBrand Finance社の調査によれば、これらの無形資産の全世界における総価値は、過去25年間で急速に成長し、2025年には史上最高の97.6兆ドルに達すると推定されています 。米国市場は特にこの傾向が強く、市場全体の価値の78%が無形資産で構成されているとされます 。
「会計上のブラックホール」と企業価値のギャップ
ここで一つの重大な問題が浮かび上がります。企業価値の90%が無形資産であるにもかかわらず、なぜ私たちはそれを日常的に意識しないのでしょうか。その答えは、現代の「会計ルール」そのものにあります。
現在の会計基準(米国のGAAPや国際会計基準であるIAS)では、原則として、企業が自社で生み出した無形資産の価値をバランスシート(貸借対照表)に「資産」として計上することを認めていません 。
例えば、ある企業が100億円の研究開発(R&D)費を投じて画期的な特許を生み出したとしても、その100億円は「費用」として計上され、利益を押し下げる要因となります 。同様に、数十億円の広告宣伝費をかけて構築した強力なブランド価値も、バランスシート上では「資産」として認識されません 。
その結果、私たちが目にする財務諸表(バランスシート)は、企業価値の「氷山の一角」である有形資産、すなわち約10%の部分しか映し出していないことになります 。残りの90%、すなわち企業価値の本体である無形資産は、会計上は存在しない「ブラックホール」に沈んでいるのです。
コロンビア大学の研究者が指摘するように、無形資産集約型の企業にとって、既存の財務報告システムは「ますます無関係なものになっている」 のです。
投資家は、この「会計上の価値」と「市場が見ている真の価値」との巨大なギャップを理解しています。彼らがS&P 500の企業に高い株価をつけるのは、バランスシートには載っていない90%の「見えざる資産」が、将来とてつもないキャッシュフローを生み出すと信じているからです。
日本企業が直面する「PBR1倍割れ」と無形資産ガバナンスの課題
S&P 500の企業価値の90%が無形資産で占められている という事実は、世界経済の「常識」です。しかし、日本市場に目を転じると、この常識が当てはまらない、憂慮すべき実態が見えてきます。
前述のOcean Tomoの調査では、パンデミックが米国企業の無形資産価値の割合を押し上げたのとは対照的に、日本(日経225)や中国、韓国を含むアジア市場では、同期間に無形資産価値の割合が「減少した」ことが指摘されています 。
この「無形資産への評価の低さ」が、日本市場の構造的な問題である「PBR1倍割れ」の根本的な原因となっています。
PBR(Price-to-Book Ratio:株価純資産倍率)とは、株価が1株当たりの純資産(帳簿上の解散価値)の何倍であるかを示す指標です。
- PBRが1倍を「超える」:市場が、その企業の帳簿上の価値に「将来性(無形資産)」を上乗せして評価している状態です。
- PBRが「1倍」:市場が、その企業の価値を「帳簿上の解散価値と等しい」と評価している状態です。これは、その企業の将来性、すなわちブランド、技術力、経営戦略といった無形資産の価値を「ゼロ」と評価しているのと同じです。
- PBRが1倍を「下回る」:市場が、その企業の価値を「解散価値以下」と評価している状態です。これは、市場が「この企業は存続するよりも、今すぐ解散して資産を株主に分配した方がマシだ」と考えていることを意味します。経営陣の戦略やR&D、ブランドが、価値を生み出すどころか、むしろ「価値を破壊している」と見なされているのです。
2022年7月時点で、東証株価指数(TOPIX)500の構成銘柄のうち、実に43%もの企業がこのPBR1倍割れの状態にありました 。これは、米国のS&P 500の5%、欧州のストックス600の24%と比較して、異常なほど高い比率です 。
政府が鳴らす警鐘:「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」
この深刻な事態に対し、日本政府は強い危機感を抱いています。このPBR1倍割れ問題の根幹には、日本企業が無形資産を「生み出す力」あるいは「投資家に伝える力」の欠如があるという認識が広がっています。
こうした背景から、内閣府や経済産業省は、2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂 に続き、2022年1月に「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」(知財・無形資産ガバナンスガイドライン)を公表し、2023年3月にはVer. 2.0へと改訂しました 。
このガイドラインの目的は、企業と投資家の間の「思考構造のギャップを埋める」 ことにあります。特に重要なのが、ガイドラインが提示する「5つのプリンシプル(原則)」です 。
- 「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる:無形資産を活用し、安易な価格競争から脱却する。
- 「費用」でなく「資産」の形成と捉える:R&Dや知財投資を、単年度の「費用」ではなく、将来の「資産」形成と捉え、安易に削減しない。
- 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信:自社の無形資産が、いかにして将来のキャッシュフロー創出につながるか、その論理的な「物語」を投資家に対して説明する。
- 全社横断的な体制整備とガバナンス構築:知財戦略を取締役会が監視・監督する体制を構築する。
- 投資家・金融機関における、中長期視点での投資への評価・支援:投資家側も、短期的な収益圧迫を許容し、中長期的な無形資産投資を支援する。
これらの原則、特に「費用でなく資産と捉える」(原則2)や「ロジック/ストーリーとして発信する」(原則3)は、日本企業の長年の課題を的確に突いています 。
多くの日本企業がPBR1倍割れに甘んじているのは、まさにこの逆を行ってきたからです。業績が悪化すると、真っ先にR&D費や広告宣伝費といった「費用」(=将来の無形資産)を削減し、自ら将来性を切り捨ててきました。また、優れた技術(特許)を持っていても、それがどう事業収益に結びつくのかという「ストーリー」を投資家に語る努力を怠ってきました。
その結果、投資家からは「将来価値ゼロ」というPBR1倍割れの烙印を押されてきたのです。このガイドラインは、その悪循環を断ち切るための、経営改革の処方箋と言えます。
無形資産経営の国内最適解:キーエンスの知財戦略分析
PBR1倍割れが日本市場の風土病のように語られる一方で、その対極に位置し、無形資産経営の「国内最適解」とも言える企業が存在します。それがキーエンスです。
同社は、時価総額で長らく日本企業トップクラスに君臨し、営業利益率50%超という驚異的な収益性を誇ります。その価値の源泉は、まさに「無形資産」にあります。日経クロステックが報じたある分析では、キーエンスの市場評価のうち、実に6割以上にあたる約6.7兆円が「知財価値(無形資産由来の価値)」であると推定されています。
なぜキーエンスは、これほど圧倒的な無形資産価値を生み出せるのでしょうか。その理由は、同社の経営モデルと知財戦略の完璧な融合にあります。
経営モデル:ファブレス(工場を持たない)経営
キーエンスの強さの第一は、自社で工場を持たない「ファブレス経営」にあります 。これは「最小の資本と人で、最大の付加価値をあげる」という経営理念 を実現するための戦略です。
工場という巨大な「有形資産」を意図的に持たないことで、同社の企業価値は、必然的に企画・設計力、販売ノウハウ、顧客基盤、ブランド力といった「無形資産」に集中します。これにより、設備投資や在庫リスクといった有形資産に縛られることなく、高い利益率と柔軟な経営を実現しています。
知財戦略1:「マーケットイン」型の研究開発
多くの製造業が、自社の技術シーズ(種)を起点に製品開発を行う「プロダクトアウト」型であるのに対し、キーエンスは顧客の潜在ニーズを起点とする「マーケットイン」型を徹底しています 。
その中核を担うのが、同社の直販営業網です。営業担当者が顧客の製造現場で直接収集した課題や要望は、「ニーズカード」と呼ばれる仕組みで開発部門にフィードバックされます 。研究開発は、この「市場価値が証明された課題」を解決するためだけにスタートします。
このプロセスにより、キーエンスは「売れない製品」を開発するリスクを最小限に抑え、「世界初」「業界初」 となる高付加価値なソリューションを生み出し続けています。
知財戦略2:「製販知一体」のガバナンス体制
キーエンスの知財戦略が他社と一線を画すのは、その組織体制にあります。開発部門(製)、営業部門(販)、そして知財部門(知)が、開発の初期段階から緊密に連携する「製販知一体」の体制を構築しているのです 。
知財部門は、単に開発された技術を特許出願する「後処理」の部署ではありません。開発の上流工程から深く関与し、営業が持ち帰った「ニーズカード」 を分析し、特許調査を行い、どの技術を、どのように権利化すれば、競合他社に対して最も強力な参入障壁を築けるかを戦略的に設計します。
これは、まさに前述の「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」が求める「全社横断的な体制整備」(原則4) を、理想的な形で実践している例です。
知財戦略3:「量より質」の厳選された特許ポートフォリオ
「製販知一体」の体制は、同社の特許ポートフォリオの「質」に直結しています。キーエンスの年間特許出願数は約100件前後と、その企業規模に比して「抑制的」です 。
しかし、これらの特許は、市場ニーズに直結した「世界初」「業界初」の製品の約7割を効果的に保護するために、戦略的に厳選されたものです 。特に、単なる基本特許ではなく、競合が模倣しにくい「ユーザビリティに関わる改良特許」や、近年のトレンドである「機械学習を活用したデータ分析技術」といったソフトウェア関連の特許に注力していることが分析されています 。
この「少数精鋭」の特許ポートフォリオの価値は、競合他社の反応によって証明されています。ある調査では、キーエンスは競合他社から年間平均15件(異議申立7件、情報提供8件)もの挑戦を受けていることが示されています 。特許に対する異議申立は、その特許が自社のビジネスにとって「脅威」である(=価値が高い)場合にのみ行われる、コストのかかる行為です。この高い被挑戦率こそ、キーエンスの知財戦略が的確に競合の弱点を突き、高い収益性を守る「砦」として機能していることの「名誉の負傷」であり、動かぬ証拠なのです。
GAFAからNVIDIAへ:グローバル・テックジャイアントの無形資産価値
無形資産経営の最先端を走るのは、米国のテックジャイアントです。かつてGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)と呼ばれた企業群は、検索アルゴリズム、OS、プラットフォーム、ブランドといった無形資産を基盤に、世界経済を席巻してきました。
しかし、その勢力図は今、AI(人工知能)の爆発的な進化によって塗り替えられようとしています。最新の企業価値分析は、無形資産経済が新たなフェーズに入ったことを示しています。
Brand Finance社による「Global Intangible Finance Tracker (GIFT™)」レポートの2024年版では、無形資産価値のトップはApple(約3.3兆ドル)、2位はMicrosoft(約3兆ドル)、3位はNVIDIA(エヌビディア、約2.9兆ドル)でした 。
ところが、2025年版のレポート(2025年11月5日発表)では、この順位が劇的に変動しました。AIチップ市場を席巻するNVIDIAが、前年比50%増となる4.3兆ドルの無形資産価値を叩き出し、AppleやMicrosoftを抜いて世界第1位となったのです 。
このNVIDIAの企業価値は、その構成比において「純粋な無形資産」と呼ぶにふさわしいものです。WIPOとBrand Financeによる別の分析では、NVIDIAの企業価値に占める無形資産の「強度(Intensity)」は**98.75%**と算出されています 。これは、Appleの96.62%やMicrosoftの95.15%をも上回る数値です 。
この順位変動は、単なる企業の入れ替わり以上の、重大な意味を持っています。
それは、無形資産経済の価値の源泉が、Appleのような「ブランド、デザイン、顧客エコシステム」といった、いわば「ソフトな無形資産」の時代から、NVIDIAのような「AIチップの独自アーキテクチャ、それを動かすソフトウェア(CUDA)、そして中核となる特許群」といった「ハードな知的財産」の時代へと移行しつつあることを示唆しています。
AI革命を支える「中核的なIP(知的財産)」そのものが、今や地球上で最も価値のある資産であると、市場が宣言したのです。NVIDIAの98.75%という数字 は、物理的な半導体チップ(有形資産)はもはやコモディティであり、数兆ドルという価値のほぼ全てが、その設計図である特許やソフトウェア(無形資産)に宿っていることを示しています 。
表1:世界の無形資産価値ランキング トップ5(2025年)
| 順位 | 企業名 | 無形資産価値(推定) | 無形資産の強度 | 主な無形資産 |
| 1 | NVIDIA | 4.3兆ドル | 98.75% | AIチップアーキテクチャ (IP/特許), ソフトウェア (CUDA) |
| 2 | Microsoft | (2025年版データ ) | 95.15% | ソフトウェア (Windows/Office), クラウド (Azure), OS |
| 3 | Apple | (2025年版データ ) | 96.62% | ブランド, エコシステム (iOS), デザイン, IP |
| 4 | Amazon | (2025年版データ ) | – | プラットフォーム, ブランド, 物流データ, 顧客基盤 |
| 5 | Alphabet (Google) | (2025年版データ ) | – | 検索アルゴリズム, AI技術, プラットフォーム, ブランド |
(出典:Brand Finance , WIPO のデータを基に作成)
特許を「コスト」から「利益」へ変える、知財の収益化モデル
キーエンスやNVIDIAの事例は、無形資産が「製品やサービス」と一体化し、間接的に莫大な利益を生み出す「防御的・事業的な活用」の頂点を示しています。
しかし、無形資産、特に「特許」の活用法はそれだけではありません。特許そのものを「商品」として扱い、直接的なライセンス収入や売却益を得る「攻撃的・金融的な活用」、すなわち「知財の収益化(パテント・マネタイゼーション)」というモデルが存在します。
多くの日本企業では、知財部門は特許出願の「費用」を管理するコストセンターとして認識されがちです。しかし、世界の先進企業は、知財部門を「利益」を生み出すプロフィットセンターとして経営の根幹に組み込んでいます。
ケーススタディ1:クアルコム(Qualcomm)の「2事業部」モデル
知財収益化モデルの代表格が、米国の半導体大手クアルコムです 。同社の事業は、明確に二つの部門に分かれています 。
- QCT (Qualcomm CDMA Technologies):半導体チップや関連製品を開発・販売する「製品部門」。
- QTL (Qualcomm Technology Licensing):クアルコムが保有する「膨大な特許ポートフォリオ」 を、世界中のスマートフォンメーカーなどにライセンス供与する「ライセンス部門」 。
この二つの部門の収益性(EBTマージン、税引前利益率)を比較すると、知財の「真の価値」が浮き彫りになります。
クアルコムの2024年度(Fiscal 2024)の決算報告によれば :
- QCT(製品部門):
- 売上高: 331億9,600万ドル
- 税引前利益率(EBT as % of revenues): 29%
- QTL(ライセンス部門):
- 売上高: 55億7,200万ドル
- 税引前利益率(EBT as % of revenues): 74%
この数字が示す事実は明白です。クアルコムは、物理的な製品(チップ)を売るビジネス(QCT)でも29%という高い利益率を上げていますが、その製品の基盤となっている特許(アイデア)をライセンスするビジネス(QTL)では、**74%**という桁違いの利益率を叩き出しているのです 。
QTL部門は、巨大な工場も、複雑なサプライチェーンも、在庫も必要ありません。その「商品」は、特許という純粋な「無形資産」です。クアルコムのモデルは、アイデアそのものが、アイデアを実装した物理的な製品よりも、はるかに高い収益性を持ちうることを証明しています。
ケーススタディ2:IBMの「プロフィットセンター」モデル
知財を利益源として確立した先駆者としては、IBMが挙げられます 。IBMは、1990年代初頭から特許を「武器」として認識し、専門の部署を設立した最初の企業の一つです 。
同社は、自社の特許ポートフォリオを防御的に使うだけでなく、積極的に他社にライセンス供与するビジネスモデルを構築しました。その結果、2012年時点で、IBMは保有する特許からのライセンス収入だけで**年間10億ドル(当時のレートで約800億~1,000億円)**規模の「利益」を生み出すに至りました 。
IBMやクアルコムの事例は、特許ポートフォリオが、単なる研究開発の「コスト」や、訴訟に備える「盾」ではなく、それ自体が独立してキャッシュフローを生み出す「収益資産」であることを示しています。これはまさに、日本政府のガイドラインが求める「費用でなく資産の形成と捉える」(原則2) 経営の、究極的な姿と言えるでしょう。
「知財の収益化」が日本企業のPBRを改善する最終手段
本記事で見てきたように、現代の企業価値の9割は無形資産にあり 、世界のトップ企業はその価値を経営の核に据えています。その一方で、日本企業の4割以上がPBR1倍割れ という市場の厳しい評価に直面しています。この深刻なギャップの根底にあるのは、日本企業が保有する「見えざる資産」の価値を、経営者自身が認識し、投資家という外部のステークホルダーに「証明」できていないという事実に他なりません。
この問題を解決する最も直接的かつ強力な手段が、本稿のテーマである「知財の収益化」です。
PBR1倍割れに陥っている企業は、市場から「あなたの会社が持つ技術やノウハウ(無形資産)には、将来価値がない」と宣告されている状態です 。この評価を覆すには、その無形資産が「実際にキャッシュを生み出す」ことを証明する以外にありません。
多くの日本企業には、優れた技術でありながら、自社の事業戦略の変更などで活用されていない「休眠特許(未使用特許)」がポートフォリオ内に眠っています。これらは、会計上は価値ゼロとして放置されている「死んだ資産(デッド・キャピタル)」です。
これらの「休眠特許」を、必要とする他社へ売却・ライセンスすること(知財の収益化)は、二重の劇的な効果をもたらします。
第一に、クアルコムのQTL部門が74%の利益率を上げるように 、売却やライセンスによる収益は、製造業の平均的な利益率をはるかに上回る、極めて高マージンなキャッシュフローを企業にもたらします。これは、PBRの構成要素であるROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)を直接的に改善します。
第二に、そしてより重要なことに、この収益化活動は、政府のガイドラインが求める「ロジック/ストーリー」(原則3) を、投資家に対して「現金」という最も雄弁な形で語ることになります。「我々が『費用』として処理してきたR&D投資は、実際にはこれだけのキャッシュを生み出す『資産』であった」と、市場に対して実証するのです。
「知財の収益化」は、これまでバランスシートの「外」にあり、PBR1倍割れの原因となっていた「見えざる資産」を、P&L(損益計算書)上の「利益」として顕在化させる行為です。それは、日本企業がPBR1倍割れの呪縛を解き、自社の真の価値を市場に認めさせるための、最も有効な戦略的アクションなのです。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
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