IPブリッジによるBYDへのブラジル特許差止仮処分の勝訴とその戦略的意義

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

今回は、日本の特許ライセンス企業IPブリッジがブラジルで中国BYD社に対して特許侵害の仮処分命令を勝ち取った事例について、その背景や技術内容、両社への影響、ブラジル市場の知財実務への意義、そして今後の国際特許戦略への示唆を平易に解説します。本記事では、この事例から見える知財戦略上のポイントを、ビジネスパーソンにも分かりやすくお伝えします。

目次

IPブリッジ対BYD:ブラジル仮処分訴訟の背景

まず、本件訴訟の当事者について簡単に整理します。IPブリッジは日本の特許管理会社(いわゆるNon-Practicing Entity、NPE)で、多数の特許を保有・ライセンスしており、その中には通信技術の標準必須特許(SEP)も含まれます。一方、BYD(比亜迪)は中国の大手電気自動車メーカーで、世界的に事業を拡大しています。BYDは近年ブラジル市場にも積極的に進出し、現地工場の建設やEV販売台数の拡大によってブラジルはBYDにとって中国国外では最大の市場となっています【3】。2024年にはBYDはブラジルで約7.6万台の車両を販売し前年比で300%以上の成長を記録するなど、ブラジルにおける存在感を急速に高めています【4】。

このように重要市場となったブラジルで、2025年にIPブリッジとBYDの間で特許を巡る争いが表面化しました。IPブリッジは、自社が権利を持つ4G通信関連の特許について、BYDの電気自動車が無断で使用しているとして問題提起しました。実は近年、コネクテッドカー(車載通信機能を備えた車両)の普及に伴い、自動車メーカーはスマートフォン同様に通信標準(4G/5G)の特許ライセンスが必要になっています。IPブリッジはBYDに対しライセンス交渉を試みたとみられますが、合意に至らなかったため法的措置に踏み切り、ブラジルの裁判所に特許差止めの仮処分を申し立てたのです【1】。

争点の技術:4G通信モジュールと特許内容

本件の争点となったのは、電気自動車に搭載される4G通信モジュールに関する特許です。IPブリッジが保有するこの特許(複数存在し、報道によれば2件が問題とされています)は、車両のテレマティクスやコネクティビティ機能を実現する技術に関するものです。具体的には、4G LTEネットワークを使って車両が外部と通信する仕組みに関わる標準必須技術が含まれています。現代のEVはインターネット接続を通じて遠隔操作やソフト更新、車両位置の追跡などのサービスを提供しており、4G接続は顧客にとって魅力的な付加価値となっています【1】。しかし、こうした特許で保護された技術をライセンスなしに使えば侵害となり得るため、メーカーには適切なライセンス契約が求められます。

IPブリッジ側は裁判所に対し、「BYDは必要な特許ライセンス契約を結ばずに4G通信技術を車両に実装している」と主張しました【1】。さらに興味深い点として、IPブリッジは「同様の4G/LTEモジュールを車両で使用している自動車メーカーの85%以上は正規のライセンス契約を締結しているのに、BYDだけが契約していない」と指摘しています【1】。この事実は、BYDの姿勢が通信分野の業界標準から逸脱していることを示唆し、裁判所におけるIPブリッジ側の主張の説得力を高めるものとなりました。

仮処分命令の内容と両社への影響

リオデジャネイロの第一商業裁判所(ビジネス裁判所)は2025年6月、IPブリッジの申立てを認め、BYDに対する特許差止めの仮処分決定を下しました。その内容は、BYDがブラジル国内で販売した電気自動車に搭載された4G通信機能の使用を直ちに停止するよう命じるというものです【1】。具体的には、裁判所から正式に通知を受けてから5日以内に該当技術の使用を中止することが求められ、もし従わない場合には1日あたり2万レアル(約35万円)の罰金が科されるとされました【1】。この罰金は累積し、上限は60万レアル(約1070万円)に設定されています【1】。さらに裁判所は、BYDに対し本件特許技術を搭載した車両が何台販売され、それによってどれだけの収益を得たかについても10日以内に報告するよう命じています【1】。これは、将来的な損害賠償額の算定に備える目的があるとみられます。

この仮処分決定の影響は、両社にとって大きなものとなりました。まずBYDにとっては、主力商品の機能停止という重大なリスクが突如生じたことになります。4G接続を停止せざるを得ない場合、BYDのEVユーザーは遠隔サービスやアップデートが受けられなくなり、製品魅力の低下は避けられません。また販売継続の可否にも影響しかねず、成長著しいブラジル市場でのビジネス計画に狂いが生じる可能性があります。実際、BYDは2025年上半期だけでブラジルに約5万台以上を出荷したとも報じられており【4】、本仮処分が恒久的な差止めに発展すれば年間販売計画に深刻な打撃となるでしょう。

一方、IPブリッジにとっては大きな交渉上の成果です。NPEであるIPブリッジにとって訴訟の目的は最終的にはライセンス料収入を得ることにありますが、今回のように販売差止め(それも仮処分での早期段階)を勝ち取ったことで、BYDに対する優位な立場を確立しました。仮処分とはいえ裁判所が侵害の蓋然性を認めた形となったため、BYDにとっては早期に和解交渉に応じる動機が高まります。BYDは決定直後に「まだ正式通知を受けておらずコメントできないが、動向を注視しつつブラジル法に則り適切に対処する」との声明を出しています【1】。今後BYDが上級審に不服申し立て(控訴)を行う可能性はありますが、並行してIPブリッジとのライセンス交渉や技術的な回避策の検討を進めることが予想されます。

ブラジル知財実務における本件の意義

今回の仮処分決定は、ブラジルの知財実務においても注目すべき前例となりました。ブラジルは市場規模が大きい一方で、これまで特許係争の主戦場としては欧米や中国ほどは語られない傾向がありました。しかし、本件のように世界的企業に対してブラジルの裁判所が果断に仮処分を発令したことは、同国の知財司法の実効性を示すものと言えます。裁判所は今回、権利が侵害されている蓋然性(おそらく権利が有効かつ侵害が成立すること)と、放置すれば原告に生じる回復困難な損害の恐れという、仮処分発令の要件が充足されたと判断しました【1】。標準必須特許に関してはFRAND(公平合理的無差別)条件でのライセンス提供義務との関係で、差止め救済が慎重に判断されるケースも多い中、ブラジルの裁判所は被告BYD側の無許諾の実態や市場での影響を重く見て、迅速な救済を認めたことになります。

この決定により、ブラジルにおける特許権保護への信頼は高まり、特に海外企業も含めた権利者にとってブラジル法執行の選択肢が現実的なものとなったことが示されました。自動車業界では、本件以前にも携帯電話技術の特許侵害紛争が各国で相次いでおり、ブラジルでもノキア対OPPOの事例などが報じられています。今回のIPブリッジ対BYDの件は、ブラジル市場がそうした国際的なSEP紛争の舞台として浮上してきたことを象徴する出来事です。また、ブラジル現地でEVの生産・販売を行う企業にとって、知財リスクへの対応が不可欠であることも改めて浮き彫りになりました。グローバルに展開するビジネスほど、各国の知財実務に精通し、適切な戦略を講じる重要性が増していると言えるでしょう。

今後の国際特許戦略への示唆

本件から得られる示唆は、国際的な特許戦略の重要性です。BYDのように海外市場で成功を収めつつある企業は、自社製品が現地の特許を侵害していないかを事前に精査し、必要であればライセンスを取得する戦略を取るべきでしょう。とりわけ標準必須特許(SEP)の分野では、業界のほとんどの企業が参加するライセンスプール(例えば自動車向け通信技術のAvanciなど)が存在します。実際、多くの自動車メーカーはAvanciを通じて4G/5G通信の包括ライセンスを取得していますが、中国系メーカーの多くは業界団体の方針もあり未加入となっている状況があります【2】。こうした背景も、今回のような個別の訴訟を誘発する一因となっています。複数の特許権者から個別に提訴されれば、各国で訴訟対応を迫られライセンス費用以上のコストが発生し得るため、BYDにとっても包括的なライセンス契約(プール参加など)を検討する動機が高まっているでしょう【2】。

一方、特許権者側にとっても、本件は貴重な成功事例です。IPブリッジは今回ブラジルでの仮処分勝訴によりライセンス交渉上の強力なカードを得ました。加えて、IPブリッジはドイツ・ミュンヘンの裁判所でもBYDを相手に4G特許侵害訴訟を提起しており(現時点では差止請求は留保し損害賠償を請求中)、EUの統一特許裁判所にも関連する訴訟が提起されたと報じられています【2】。このように複数の管轄で同時に圧力をかける国際戦略は、特許権者にとって侵害製品を包囲し早期解決を図る有効な手段となりえます。グローバル企業にとって、自社の知財ポートフォリオを積極的に活用し、必要に応じて各国での法的措置も辞さない姿勢を示すことがライセンス収入の極大化につながるでしょう。

今回のケースは、知的財産を巡る攻防がビジネスの収益に直結することを改めて示しました。特許を適切に保有・活用することで、自社技術を守るだけでなく他社からライセンス収入を得る「知財の収益化」が可能となります。もし自社で活用しきれていない特許資産をお持ちであれば、ぜひ特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)に無料登録してみてください。貴社の知財を収益につなげる新たな機会が開けるかもしれません。

(本記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献一覧

  1. Alisson Ficher “Why did the court order BYD to suspend 4G on electric cars and fine it R$20 per day? Understand the patent controversy that’s rocking the automotive sector.” (Click Petróleo e Gás, 2025年7月12日公開) – https://en.clickpetroleoegas.com.br/por-que-a-justica-mandou-a-byd-suspender-o-4g-nos-carros-eletricos-e-aplicar-multa-de-r-20-mil-por-dia-entenda-a-polemica-de-patentes-que-movimenta-o-setor-automotivo-afch/
  2. Florian Mueller “Another Avanci licensor sues China’s BYD in Germany over cellular SEP” (China IP Lawyers Network, 2025年3月12日公開) – https://www.ciplawyer.com/articles/156267.html
  3. Luciana Magalhaes “China’s BYD to start assembling electric cars in Brazil” (Reuters, 2025年7月7日) – https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinas-byd-start-assembling-electric-cars-brazil-2025-07-07/
  4. 36Kr Global (KrASIA) “Chinese automakers rush to beat Brazil’s EV tariffs, but the real race is just starting” (2025年7月4日公開) – https://kr-asia.com/chinese-automakers-rush-to-beat-brazils-ev-tariffs-but-the-real-race-is-just-starting
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