M&A前に確認したい特許の整理

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、M&A(企業の合併・買収)を控える企業が事前に行うべき「特許の整理」について包括的に解説します。知財デューデリジェンスの重要性、特許ポートフォリオの棚卸し・分類・評価の方法、現在進行形で侵害されている特許が持つ価値、特許の整理と収益化(売却・ライセンス・放棄等)の選択肢、そして実務に役立つフレームワークやチェックポイントを順に取り上げます。
M&Aにおける知財デューデリジェンスの重要性
企業のM&Aでは、特許をはじめとする知的財産(無形資産)が企業価値の鍵を握ります。実際、米国S&P500企業では企業価値の約90%をブランドや特許等の無形資産が占める一方、日本企業ではその割合が約32%にとどまるとの報告があります[1]。昨今のデジタル化やイノベーションの潮流で無形資産の重要性は一層高まっており、知財を正当に評価・活用することが企業価値(のれん)向上の大きな余地となります[1]。
買収側の企業は、M&Aの過程で対象会社の知的財産について詳細な調査(知財デューデリジェンス)を行い、その権利の有効性や事業上の重要度、リスクの有無を綿密にチェックします。もしデューデリジェンスで重大なリスク(例えば他社権利の侵害訴訟リスクなど)が見つかれば、提示価格の引き下げや最悪の場合取引中止も起こりえます[3]。逆に、対象企業の特許群が競争優位をもたらす戦略的資産であると認められれば、買収額に上乗せが期待できます[3]。このように知財デューデリジェンスの結果次第でM&Aの成否や条件が左右されるため、売り手企業も事前に自社の特許資産を整理・評価し、適切に価値をアピールすることが極めて重要です。
しかし実際には、売り手側が知財を軽視したままM&A交渉に臨み、自社の真の価値を十分に評価してもらえないケースも少なくありません[2]。例えば、特許やライセンス契約に関する情報整理が不十分で、買い手に自社の技術資産の価値を説明しきれず交渉で不利になる、あるいは過去に締結した契約上の制約に気づかずM&A後にトラブルとなる例もあります[2]。知財面の備えを怠れば、「もっと特許の価値をアピールしていれば…」「重要な知財を安値で手放してしまった…」と後悔する結果にもなりかねません[2][3]。こうした事態を避け、M&Aを成功させるには、売り手自らが主体的に知財デューデリジェンス(いわゆるSeller’s DD)を行い、リスク低減と価値向上の両面で万全を期すことが望まれます[4]。
特許ポートフォリオの棚卸し・分類・評価方法
M&A準備の第一歩として、まず自社の特許ポートフォリオを棚卸しします。過去から現在まで保有する全ての特許を洗い出し、権利状況(出願中/登録済み、存続期限、年金納付状況など)や対応する製品・技術分野を整理します。各特許について、自社事業や業界における位置づけ(コア技術か周辺技術か、主力製品に使われているか、等)も把握しましょう。この棚卸し作業により、特許資産の全貌を把握でき、後の評価・戦略立案の土台が築かれます。
次に、棚卸しした特許を分類します。一般的には特許はその重要性や事業との関連性から「コア」「ノンコア」「無価値(不要)」の3つに大別できます[8]。コア特許とは自社の中核事業を支える発明で競争優位に直結するものです。これは自社で維持・活用すべき極めて重要な資産であり、容易にライセンス供与すべきでないものの、クロスライセンスの切り札となる場合もあります。ノンコア特許は自社の競争力には直接寄与しないものの、他社にとって価値があり得る特許です。これらは自社では使っていなくても、防衛的に保有する価値があるほか、売却やライセンスによる収益化が見込めます。無価値な特許とは、自社にとっても他社にとっても利用価値のない特許です。技術的に陳腐化していたり市場ニーズが失われたりしており、維持しても年金コストに見合うリターンが期待できません。このような特許は思い切って放棄・権利終了させることで、維持費負担を削減し、その分の経営資源を他に振り向けるのが賢明です[8]。
こうした分類に基づき、各特許に対する方針を検討します。コア特許は原則として買い手にも重要資産として評価してもらえるよう継続保有し、技術優位性や独占効果をしっかり説明します。一方、ノンコア特許は価値評価次第では、M&A交渉前に売却や外部へのライセンス供与を検討する余地があります(詳細は後述)。無価値特許については、M&Aまでに権利整理(放棄)しておくことで、買収先に引き継ぐ負担を減らしつつ、自社の簿外負債的なコスト要因を取り除けます。
続いて、特許一件一件の価値評価を行います。特許価値の評価手法としては大きく以下の3つが知られています[5]。
- コストアプローチ:発明を再現・再取得するのに要したコストから価値を算出する方法(再調達原価法等)
- インカムアプローチ:その特許が将来生み出すであろう収益に基づき現在価値を割り出す方法(収益還元法等)
- マーケットアプローチ:類似技術の特許が取引された事例(市場価格)と比較して価値を見積もる方法(取引事例比較法)
自社内で概算評価する場合は上記アプローチを参考にできますが、重要特許については第三者機関による評価レポートや鑑定書の取得も有効です。さらに、形式的な価値算定だけでなく実質的な価値の評価視点も持つことが重要です[6]。具体的には、①実施可能性(その特許発明が実際の事業で活用できるか、自社に必要な設備・技術・人材が揃っているか、権利化しても残存期間が十分か)、②独占力(権利範囲の広さや代替技術の有無、無効化耐性など競合他社に対する排他効果の強さ)、③市場性(当該特許発明に関連する市場の規模・成長性、その技術に対する需要の大きさ)といった観点で各特許の実効的な価値を見極めます[6]。こうした多面的評価により、買い手にとって真に価値ある特許とそうでないものを峻別でき、適切な戦略判断につながります。
侵害されている特許の価値: 「証拠のある特許」の強み
知財デューデリジェンスでは、自社が他社の特許権を侵害していないか(クリアランス)と同時に、自社の特許が第三者に侵害されていないかも調査されます[3]。前者(自社による他者権利の侵害)はM&A後に訴訟リスクや損害賠償を招く恐れがあり大きなマイナス要因です。一方、後者(自社特許が他社に無断使用されている場合)は、実はその特許の技術に市場ニーズがあることを示すポジティブな証拠でもあります[3]。適切に権利行使すればライセンス料収入や賠償金を得られる可能性があり、現在進行形で侵害されている特許は潜在的に非常に高い価値を秘めると言えるでしょう[3]。事実、特許マーケットの分析によれば、他社による利用実績(エビデンス)が示された特許は、そうでない特許に比べて取引価格が3割から倍以上も高値で売買されるケースがあると報告されています[7]。これは特許の実施例や侵害の“証拠”があることで、権利行使による収益獲得の確度が増し、ライセンス交渉や売買で強い交渉力を発揮できるためです[7]。
もっとも、侵害されている特許だからと言って必ずしも利益を生み出せるとは限りません。権利行使には相応のコスト(訴訟費用等)や時間がかかり、相手企業との関係悪化リスクも伴います[3]。したがって、その特許について訴訟やライセンス交渉を起こすべきか、起こすとしてM&A前後のどのタイミングで行うかは、費用対効果や買い手の意向も踏まえて慎重に判断する必要があります。いずれにせよ、売り手企業としては侵害の事実とその経済効果(見込まれるライセンス料や損害賠償額)の試算を把握し、買い手に対し「眠れる収益機会」として提示する準備をしておくことが重要です。ネガティブに見られがちな侵害リスクを、将来的なプラス価値としてアピールすることで、知財交渉を有利に進められる可能性があります[3]。
特許の整理と収益化の選択肢(売却・ライセンス・放棄等)
上記の棚卸し・分類・評価を経て、自社の特許ポートフォリオの全体像と各特許の価値が明らかになったら、次に特許資産の取捨選択と活用方針を決定します。M&Aに臨むにあたっては、「残す特許」「手放す特許」の整理を事前に行うことで、交渉を円滑にし企業価値の最大化を図ることができます。
まず、買収後も自社(または買い手)が活用すべき重要特許は確実に保持します。これらは事業上不可欠であり、売却範囲から除外できないものです。これに対し、事業に直接寄与しない遊休特許やノンコア特許については、収益化を検討します。収益化の方法として代表的なのが売却(特許の譲渡)とライセンスです。特許売却は権利そのものを第三者に売り渡すことで一時金を得る方法、ライセンスは自社が権利を保有したまま他社に実施許諾し継続的なロイヤリティ収入を得る方法です。それぞれメリットがありますが、売却は即時にまとまった資金を得られる反面、以降その特許から利益を得る機会を失います。一方ライセンスは継続収入が期待できますが、相手を探し交渉するコストや、相手がきちんと実施料を支払うかといった信用リスクもあります。自社の資金ニーズや特許の性質(相手に独占的に使わせる必要があるか等)に応じて最適な手法を選ぶとよいでしょう。いずれの場合も、特許庁への譲渡登録や契約書締結など一定の手続きが必要になるため、専門家のサポートを受けることが望まれます。
一方、評価の結果「価値が乏しい」と判断した特許については放棄(権利維持の中止)も選択肢です。前述の無価値特許に該当するものが典型で、今後も自社・他社いずれからも活用可能性が低ければ、年金支払いを止め権利を失効させます[8]。これにより無益なコスト支出を削減でき、経営資源を他の有望な知財に振り向けられます[8]。ただし、放棄の判断は慎重に行う必要があります。一見使い道がなくとも、将来市場環境が変わって脚光を浴びる技術となる可能性もゼロではありません。また放棄手続きをした直後に買い手から「あの特許も評価に入れてほしかった」と言われるリスクもあります。そのため、放棄の前には念入りに市場性や代替手段の有無を確認し、社内関係者とも十分協議することが大切です。
なお、M&A交渉の中では、特許の扱いについて柔軟に戦略を練ることも求められます。例えば、どうしても評価の折り合わない特許がある場合、その特許を取引対象から外し、売り手側で引き続き保有して後日別途売却・ライセンスするといった方法も考えられます。逆に、買い手にとって価値が高いが売り手には不要な特許があるなら、譲渡範囲に含めて価格交渉の材料にすることもできます。重要なのは、自社特許群全体を俯瞰して「どの資産をどう扱えば最も価値を生むか」を見極めることです。
特許整理・評価の実務フレームワークとチェックポイント
最後に、実際に特許の整理・評価を行う際に役立つフレームワークと主なチェックポイントをまとめます。以下の点を体系立てて確認しておくことで、知財デューデリジェンスへの備えが万全になります。
- 知財資産リストの整備: 保有する全特許・商標・著作権等の一覧表を作成します(権利名、登録番号、出願/登録日、存続期限、対応製品・技術、権利状況など)。抜け漏れがないよう網羅的に洗い出し、一覧化しておくことが基本です[9]。
- 権利帰属・法的状況の確認: 各特許について、発明者から会社への権利譲渡(職務発明規程に基づく承継)が適切に行われているか、共同出願やライセンス契約による権利拘束(他社との共有、質権設定など)はないかを確認します[9]。万一権利者名義の不備や係争中の案件があれば、M&A前に解決策を検討しておきます。
- 技術実施状況の把握: 対象特許が現在どの製品・サービスに実際に使われているか、あるいは休眠状態かを整理します。自社で未利用の特許については、その理由(技術的課題、製品化の中止等)も記録します。逆に自社事業で重要な技術なのに特許出願していないものがないか(権利の抜け漏れ)もチェックが必要です。
- 他社権利との関係調査: 自社製品・技術が他社の特許権を侵害していないかを専門家に調査させます(FTO調査)。特に重要製品については、訴訟リスクを洗い出し、問題があれば設計迂回やライセンス交渉等の対策を検討します。また、自社特許を他社が無断使用していないか、市場調査や特許マップ解析により確認します。見つかった場合、その証拠(製品カタログや技術文献等)と想定される損害額・ライセンス料試算を用意します。
- 知財関連契約・規程の点検: 特許ライセンス契約や共同研究契約など、知財に関わる過去の契約書を洗い出し、M&A後に権利関係の問題が生じないか検証します。例えば「他社に実施権を許諾している特許」「契約で譲渡禁止の特約がある特許」などがあれば、買い手への開示準備と対策が必要です。また社内の職務発明規程やオープンソースソフトウェア利用ポリシーなども見直し、運用に不備がないか確認します[9]。
- 重要特許のエビデンス準備: 価値評価で特に重要と判定した特許については、その強みを示すデータや資料を揃えます。市場規模や成長率のデータ、関連製品の売上高、特許技術の優位性を示す実験結果など、買い手にとってその特許の価値が直感的に理解できる材料を準備します。必要に応じて特許評価書や鑑定意見も取得し、客観的なお墨付きを用意します。
- 知財専門家の活用: 自社内に知財の専門知識が不足している場合、早めに弁理士や知財コンサルタントに相談し、棚卸し・評価プロセスに助言を仰ぎます。第三者の視点を入れることで見落としを防ぐと共に、評価結果の信頼性も高められます。
まとめ
以上のような準備を経て、自社の特許ポートフォリオの実態と価値を「見える化」できれば、M&A交渉において買い手から適正な評価を引き出せる可能性が大きく高まります。知財は専門性が高く、その価値を示すには裏付け資料や論理的な説明が欠かせません。売り手企業として周到に特許の整理・評価を行い、自社の知財価値を自信を持って提示することが、成功裏にM&Aを成立させる秘訣と言えるでしょう。
最後に、保有する特許の収益化を検討している方は、特許売買・ライセンスマッチングの専門プラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)に無料登録してみてはいかがでしょうか。知財交渉のプロがサポートし、休眠特許の有効活用や最適な売却先の開拓を支援してくれます。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- 特許庁『知財経営への招待〜知財・無形資産の投資・活用ガイドブック』(2023年) – https://www.jpo.go.jp/support/example/chizai-mukei-toushi-katsuyou-guide/document/index/all_guidebook.pdf
- MoneyForward Biz『知的財産デューデリジェンス(知財DD)とは?目的や手順などの全体像を解説』(2024年7月17日更新) – https://biz.moneyforward.com/ipo/basic/7061/
- Business & Law『M&Aにおける知的財産デューデリジェンスのエッセンス』(2024年11月5日公開) – https://businessandlaw.jp/articles/a20241105-1/
- 特許庁 IP BASE『知的財産デュー・デリジェンス標準手順書 Seller’s DDのススメ』(2018年) – https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/skipdd.pdf
- 特許庁『知的財産の価値評価について』(産業財産権研修テキスト, 2017年) – https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/Valuation_of_Intellectual_Property_JP.pdf
- IP Base (IPキーパーソン)『知財の価値の評価方法は?主な評価手法と評価の視点を弁理士が解説』(2022年) – https://ipkeyperson.com/businesscolumn/how-to-evaluate-value-of-intellectual-property/
- GreyB “Power of Patent Infringement Analysis to get Higher Value for your IP-Assets” (2023年) – https://www.greyb.com/blog/power-of-patent-infringement-analysis/
- General Patent Corporation “Portfolio Triage” – https://generalpatent.com/consulting/portfolio-triage.html
- MONOist『スタートアップに潜む知財紛争リスクにご用心、M&A前に調査検討すべき項目』(2022年12月26日) – https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2212/26/news018.html

