休眠特許活用における士業の役割:知財の流通促進

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本記事では、士業(弁理士・弁護士など)の専門家が知財の流通、とりわけ自社で活用されていない「休眠特許」の活用をどのように支えているかを解説します。知財戦略の重要性が高まる中、眠っている特許を再活用して新たな価値を生み出す取り組みに注目が集まっています。

目次

知財流通と休眠特許の現状

企業や大学が保有する特許の中には、自社で製品化や事業展開に使われずに維持されている「休眠特許(未使用特許)」が数多く存在します。実際、日本企業が保有する特許のうち自社で使われていない休眠特許の割合は非常に大きく、必ずしも有効活用されていないのが現状です【1】。特許の取得・維持には費用がかかるため、活用されていない特許は企業にとって負担となる一方、潜在的な資源でもあります。こうした休眠特許を他社にライセンスしたり売却したりする「知財の流通」を促進すれば、特許保有者には収益機会が生まれ、技術の実用化によって社会全体のイノベーションにつながる可能性があります。

しかし、休眠特許の活用は容易ではありません。特許の存在は公開情報ですが、どの企業がどんな技術を必要としているか、お互いに情報が行き届かずマッチングが進まないケースが多々あります【5】。実際、特許庁傘下のINPITが運営する開放特許情報データベースには、740社の企業と219の大学・公的研究機関がライセンス可能な特許を約25,000件登録していますが、その多くは一度も問い合わせが来ないまま成約にも至っていないのが実情です【2】。このように、情報の非対称性やニーズのミスマッチが障壁となり、単に特許を公開しただけでは休眠特許の流通は進みにくい状況にあります。

休眠特許活用における士業の専門的役割

休眠特許を活用するプロセスでは、弁理士や弁護士といった士業の専門知識・スキルが欠かせません。まず権利調査の面では、専門家が特許の権利状態を精査します。特許が有効に存続しているか年費の支払い状況を確認したり、関連する他社特許との関係や権利範囲を調べたりすることで、ライセンス可能かどうか、活用上のリスクはないかを判断します。また、技術内容や市場動向の調査も行い、その特許の価値や活用ポテンシャルを評価します。専門家によるこうした調査は、特許の提供者・利用者双方に安心感を与え、マッチングの土台作りとなります。

契約および交渉の局面でも士業の役割は大きいです。弁理士や知財に詳しい弁護士は、特許ライセンス契約や譲渡契約のドラフトを作成し、契約条件の適切さを担保します。ライセンス範囲(独占か非独占か)、実施料(ロイヤルティ)の設定、秘密保持や紛争時の対応策など、知財契約には専門的な検討事項が多岐にわたります。契約交渉では、当事者同士では難航しがちな条件調整を専門家が仲介し、公平で実現可能な合意点を見出すようサポートします。実際、弁理士は特許や商標など知的財産に関する契約書の作成・交渉支援も行っており【4】、その経験値を活かして円滑な合意形成に貢献します。また、全国各地の知財総合支援窓口においても、ライセンス契約の準備段階から弁理士・弁護士・中小企業診断士などの専門家のアドバイスが受けられる体制が整っています【3】。

さらに、仲介・橋渡しの場面でも士業が頼りになります。特許の権利者と、それを必要とする技術ニーズを持つ企業等との間をつなぐ役割です。例えば、企業OBの弁理士が技術コンサルタントとして、自社では活用しきれない特許を保有企業から預かり、適切な活用先を探すケースもあります。また、各地の知財支援機関では「知財コーディネーター」などの専門家(多くは弁理士)が配置され、技術マッチングやライセンス交渉の仲介を行っています【5】。士業の広い人的ネットワークや業界知見は、新たなパートナー探しや交渉過程で非常に有用です。

大学・企業による知財活用と士業支援

休眠特許の活用は、企業内の知財だけでなく大学などの公的機関の特許にも関わる重要なテーマです。大学の知財活用では、各大学に設置された技術移転機関(TLO: Technology Licensing Organization)や産学連携部門が中心となり、大学の研究成果特許を民間企業へライセンスしたり、大学発ベンチャーへの技術移転を行ったりしています。大学は保有特許数自体は企業ほど多くないものの、積極的な技術移転の結果、大学等が保有する特許権の未利用率は企業に比べて低いとの調査結果もあります【2】。例えば、大学から企業へのライセンス契約件数は年々増加傾向にあり、令和元年度には全国大学・TLO等で1300件以上のライセンス・技術契約が成立したとの報告もあります(※令和2年度大学等における産学連携実績調査より)。このように大学では、特許を企業に活用してもらうことで研究成果の社会実装を図り、ライセンス収入を得る取り組みが定着しつつあります。

一方、企業における知財活用にも動きが見られます。大企業では自社のコア事業と関係の薄い特許や事業再編で不要となった特許を社外にライセンスアウトし、中小企業やスタートアップの製品開発に役立ててもらうケースが増えています【5】。自社では使わない技術でも、他社が使えば新製品の種(シーズ)になる可能性があります。たとえば富士フイルムやシャープなど複数の大企業が、自社の保有特許を公開して中小企業とのマッチングを自治体等と協力して進める取り組みを表明しています。また富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション)は、自治体主催の知財マッチング事業に2016年から参加し、2018年には横浜市の中小企業と特許ライセンス契約を締結するなど、休眠特許の外部提供を本格化させました【5】。このように、企業側にもオープンイノベーションの一環として「眠らせていた特許を社会で役立てる」動きが広がりつつあります。

もっとも、大学・企業いずれの場合も、こうした知財の流通を実現するには専門家のサポートが欠かせません。大学では特許の出願からライセンス交渉まで弁理士の協力を得ることが多く、企業でも知財部門や顧問弁護士が外部との契約を取り仕切ります。また、中小企業側から見ると、大学や大企業が持つ高度な特許を活用するには契約交渉や技術導入のハードルが高いため、公的支援や士業の仲介を得て初めて成立するケースが多々あります【5】。中小企業庁も2020年に「知的財産取引に関するガイドライン」を策定しており、契約条項例や留意事項を提示することで、中小企業が安心して知財取引できる環境整備が進められています。

知財流通を促進する支援スキームと成功例

休眠特許の流通促進に向けて、官民さまざまなスキーム(仕組み)が構築されています。公的な取り組みとして代表的なのが特許流通データベースマッチングイベントです。前述したINPITの開放特許情報データベースは、公的機関が運営する全国規模の特許マッチング基盤と言えます。また各自治体や地域団体も独自に知財マッチング事業を展開しており、その中でも先駆的なのが「川崎モデル」と呼ばれる川崎市の取り組みです【5】。川崎市は2007年に国内で初めて、大企業が保有する休眠特許を地域の中小企業へ移転するプロジェクトを開始しました。その知的財産交流会では、大企業側が提供可能な特許を提示し、中小企業側が自社の事業に役立つ技術を探索する場を設けています。川崎市の知財コーディネーター(弁理士等)が双方の仲介役となり、技術説明会の開催、個別マッチングのセッティング、契約交渉支援まで一貫してフォローします【5】。

この川崎モデルは成果も上がっており、2007年から2018年2月までに29件のライセンス契約が成立し、それを元に20件の新製品・新事業が創出されています【5】。参加した大企業は富士通、東芝、日立、トヨタ、NTT、キヤノンなど多岐にわたり、川崎市内外の中小企業とのマッチングが成功しました【5】。具体例としては、川崎市の仲介で富士通が保有していた視覚拡大装置に関する特許を市内中小企業の光和電機がライセンスを受け、自社製品の改良に活用したケースがあります(川崎モデル第1号案件)。このプロジェクトでは、自治体職員や弁理士がチームとなって中小企業の事業計画策定から補助金申請まで支援し、単なる特許の紹介に留まらない包括的サポートを行ったことが成功要因と報告されています【5】。

川崎モデルの成功を受け、現在では他の自治体でも類似の知財マッチング施策が展開されています。例えば横浜市や大阪府などでも、大企業と地域企業の特許マッチングイベントが開催され、成約事例が生まれています。さらに国策としても、オープンイノベーション促進のため大企業・大学の特許をスタートアップが活用できるようにする仕組みを整備する方針が、知的財産推進計画2022に盛り込まれました【5】。

資金面では、政府系ファンドのINCJが出資して2013年に設立されたIP Bridge社が、国内企業の休眠特許をまとめて引き受けて運用するビジネスモデルを打ち立てています【1】。IP Bridgeは大手企業から特許を買い取り・信託される形で集約し、必要に応じて中小企業等にライセンス供与することで収益化すると同時に、特許の海外流出防止にも寄与しています【1】。こうした公的・民間の新たなスキームにより、以前は埋もれていた技術シーズが日の目を見る例が徐々に増えてきています。

また、近年では特許売買・ライセンスのオンラインプラットフォームなど民間主導のサービスも登場しています。インターネット上で特許情報を公開し、興味を持った企業同士が直接コンタクトして交渉できる仕組みで、仲介者を介さない分スピーディーなマッチングが期待されています。士業専門家が裏方で契約書雛形の提供や相談対応を行うサービスもあり、こうしたプラットフォームは今後の知財流通を活発化させる一助として注目されています。

知財流通における制度的課題

休眠特許の流通促進には期待が高まる一方で、克服すべき制度的課題も指摘されています。第一に情報・マッチングの課題です。前述のように、特許保有者と利用希望者のマッチングは容易ではなく、公的データベースに登録しても問い合わせが来ない事例が多々あります【2】。技術ニーズとシーズを結びつけるためには、行政・支援機関による仲介制度やマッチングの場をさらに充実させる必要があります。また、特許情報の開示方法や検索性を改善し、必要な特許を探しやすくする工夫も求められます。

第二に評価・価格設定の課題があります。特許の価値は一義的に定めにくく、提供側と利用側で評価額に大きな開きが生じることもしばしばです。特許権者は研究開発に投下したコストや将来の可能性を踏まえて高い対価を求めがちですが、ライセンスを受ける側は事業化の不確実性や追加投資のリスクを考慮して慎重になります。適正な取引のためには、第三者的な知財評価手法の普及や、実績を積んだ評価人材の活用が重要となります。特許庁も「知的財産価値評価ガイドライン」を公表し企業に活用を促していますが、実務に定着するには時間を要すると言われます。

第三に法制度・契約面の課題です。現在の日本の特許法では、特許権者が自ら実施しない特許を公開してライセンス許諾の意思表示をする制度(いわゆるライセンス・オブ・ライト制度)が限定的にしか用意されていません。諸外国では特許維持年金の減免と引き換えにライセンス可能であることを登録できる仕組みがありますが、日本でも同様の措置が検討されてきました。2020年の法改正で通常実施権の登録に関する制度整備が進んだものの、企業への周知や実利用はこれからです。また、特許を第三者に譲渡・実施させることへの企業文化的ハードルも指摘されます。自社で使わない特許であっても、他社に使わせることで将来競争相手を利するのではないかとの懸念や、万一特許を譲渡した相手がその特許で自社を訴えるリスク(いわゆるパテント・トロールへの流出リスク)も完全には否めません【1】。このため、大企業の中には休眠特許を安易に手放さず「死蔵」してしまうケースもあります。こうした心理的・制度的な障壁を低くするには、信頼できる仲介機関の存在や、取引契約上のリスクヘッジ策(例えば逆施行禁止条項の盛り込み等)を整備することが求められます。

最後に、継続的な支援策の課題があります。マッチング成立や契約締結がゴールではなく、その後の事業化フォローまで含めた支援が欠かせません。特許を得ただけでは中小企業がすぐに製品化できるとは限らず、追加の開発資金や技術指導が必要になることもあります。川崎モデルでは契約後も自治体が補助金提案や試作品開発の相談に乗る体制を敷いて成果につなげました【5】。このように、「特許を移転して終わり」ではなく事業化まで伴走する支援スキームを各地でどれだけ展開できるかが、休眠特許活用の今後の鍵を握っています。

まとめ

以上のような課題解決に向け、政府・支援機関・士業専門家が連携して知財流通のエコシステムを整備していくことが重要です。休眠特許の活用は、企業・大学に眠る技術を社会に役立てるだけでなく、新規事業の創出や中小企業の競争力強化にも寄与します。知財立国を掲げる日本において、士業が支える知財流通の仕組みをさらに強固にしていくことで、眠れる知財資産を動かしイノベーションを創出していくことが期待されています。

なお、収益化を検討中の特許保有者の方は、特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」に特許を無料で登録することが可能です。自社の眠れる特許を収益源に変えたい場合は、ぜひご活用ください。(https://patent-revenue.iprich.jp

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

  1. INCJプレスリリース「日本企業の知財の有効活用を目指す知財マネジメント会社(株)IP Bridgeの設立及び当該会社が運用する知財ファンドへの出資について」(2013年7月25日) – https://www.incj.co.jp/news/2013/20130725.html
  2. 内閣府 知的財産戦略推進事務局「知財の見える化を起点としたマッチング・エコシステムの構築」(令和4年3月14日) – https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/startup/dai3/siryou4.pdf
  3. INPIT知財総合支援窓口 FAQ「他社や大学等のライセンス可能な特許を利用したい」(閲覧2025年) – https://chizai-portal.inpit.go.jp/faq/
  4. アガルート弁理士試験コラム「弁理士の独占業務(専権業務)とは?業務範囲はどこまでかも解説」(2025年2月14日更新) – https://www.agaroot.jp/benri/column/exclusive_business/
  5. Satoshi Watanabe, “Local government strongly supports patent licensing between large companies and SMEs”, IAM Media (2018年4月11日) – https://www.iam-media.com/article/local-government-strongly-supports-patent-licensing-between-large-companies-and-smes
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