特許訴訟の日米比較:企業の備え方

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
昨今、企業活動のグローバル化に伴い、異なる法制度下での特許訴訟リスクへの対応がますます重要になっております。弊社にも、企業としてどのように備えるべきかといったお問い合わせを多く頂戴しております。本記事では、米国と日本の制度を比較し、実務上の留意点や企業が取るべき対応策について解説いたします。
米国の特許訴訟制度の特徴
米国は世界でも特許訴訟件数が非常に多い国です。連邦地裁で提起される特許侵害訴訟は年間数千件規模にのぼり、例えば直近の2021年には約3,798件の特許訴訟が提起されています [1]。これは日本の件数と比べて桁違いに多く、米国市場の規模と訴訟社会ぶりを反映しています。また、非実施主体(NPE)による訴訟が多いことも米国の特徴です。2021年には特許訴訟の約6割がNPE関連であり [1]、特にIT分野などで特許を収益源とするNPE(いわゆるパテント・トロール)による提訴が目立ちます。
米国の特許訴訟は陪審制を採用している点が重要です。特許侵害訴訟の第一審は連邦地方裁判所で行われ、争点の事実認定(侵害の有無や損害額など)は陪審員によって判断されることがあります [3]。陪審員は技術の専門家ではなく一般市民から選出されるため、専門性の高い特許案件でも陪審の心証が勝敗を左右します。どの地域の裁判所に訴えるか(管轄の選択)も結果に影響しうるため、原告は自社に有利な陪審員が得られそうな法廷を選ぶ戦略を取ります [3]。
ディスカバリ(証拠開示)制度も米国特許訴訟の大きな特徴です。訴訟当事者は裁判所の管理下で関連資料の開示や証人尋問など大規模な証拠収集手続きを行います [3]。このディスカバリにより事実解明が進み早期解決に資する一方、企業にとっては人的・経済的負担が非常に大きくなります [3]。
米国では特許侵害が認められた場合の損害賠償額が高額になりやすい傾向があります。市場規模が大きいことに加え、懲罰的損害賠償が認められているためです。特許法第284条に基づき、故意侵害(wilful infringement)と認定された場合には、裁判所は認定損害額の最大3倍まで賠償額を増額できると定められています [3]。2016年のHalo Electronics判決以降、この懲罰的賠償の適用ハードルは従前より下がったとされています [4]。
加えて、米国には連邦地裁とは別にITC(国際貿易委員会)という機関での手続もあり、こちらは金銭賠償ではなく製品の輸入差止めを迅速に出せるため、競合他社に対して強力な交渉材料となります [5]。
最後に、米国特許紛争では特許無効化の手段としてPTAB(特許審判部)での行政手続が重要な役割を果たします。2021年にはPTABに1,333件の審判請求がなされており [1]、知財訴訟に対する防御策として被告が広く利用しています。PTABは「特許キラー」の異名を取るほど特許権者にとって脅威となる制度ですが、近年は権利者側も対策を講じるようになっています [6]。
日本の特許訴訟制度の特徴
日本における特許訴訟は、米国に比べ件数が非常に少ないことが際立ちます。特許侵害訴訟の管轄は東京・大阪など一部の地方裁判所に集中しており、年間の提起件数は100件台前半にとどまります。実際、2022年には112件にまで減少しています [2]。
日本の特許訴訟は裁判官主導で進行し、陪審制が採用されていない点が米国との大きな違いです。審理は3名の専門部裁判官による合議体で行われ、技術的に高度な案件では裁判所が技術専門官を指名して助言を受ける制度もあります [7]。
証拠収集では広範なディスカバリ制度はなく、2019年の特許法改正で査証制度や閲覧制限制度が導入されるなど、証拠収集手段の強化が図られています [7]。また、平均審理期間は一審で1年前後と報告されており [8]、米国に比べて比較的短期間で結論が出ます。
損害賠償については実損害賠償が原則であり、認容額が低額にとどまるケースが多い傾向がありましたが、2019年改正で推定規定が見直され、賠償額が増加しやすくなりました [9]。
日本の特許訴訟では差止命令が原則認められるため、侵害者にとって事業継続への直接的打撃となります [7]。
特許無効化手段としては特許庁での無効審判制度があり、訴訟では無効の抗弁と無効審判が並行することが一般的です。日本の特許侵害訴訟では約75%の事件で無効の抗弁が主張され、そのうち約18%で裁判所が無効判断を下しています [10]。また、特許成立後6か月以内なら誰でも異議申立てが可能で、2022年の異議申立件数は1,322件です [11]。
日米特許訴訟制度の比較と準備上の留意点
まず、訴訟件数の圧倒的な差を認識すべきです。米国では年間約 3,800 件規模の特許訴訟が提起されるのに対し、日本は 100 件台前半にとどまります [1][2]。つまり、米国市場へ参入する企業は「いつ訴えられても不思議ではない」環境を前提に行動する必要があります。
陪審制 vs. 裁判官主導 ― 米国では技術に不慣れな陪審員に分かりやすい主張・証拠提示が不可欠で、有利な法廷地を選ぶフォーラムショッピングも横行します [3]。日本では職業裁判官が法律論を精査するため、主張の論理構成と技術適合性をひたすら磨くことが勝敗を分けます [7]。
証拠収集負担の違い ― 米国ディスカバリは電子メールから設計図まで広範な開示を要求し、訴訟コストを爆発的に膨張させます [3]。日本は文書提出命令や査証に限られ、立証責任を負う当事者が証拠蒐集の工夫を迫られる反面、コストは抑制的です [7]。
救済の性質 ― 米国は高額損害賠償と懲罰的賠償が最大 3 倍まで認められる一方で、差止命令は eBay 判決後に厳格化され、NPEへの差止は難しい事例が増えています [3][4]。日本は実損害賠償が中心で認容額は低めですが、差止請求は権利濫用などの例外がない限り原則認められます [7][9]。被告企業は「米国=金銭リスク、日本=供給停止リスク」という対照的な脅威を並行管理しなければなりません。
特許有効性の争い方 ― 米国では PTAB での IPR が地裁訴訟をステイさせうる強力な防御策で、請求から 12 〜 18 か月で結論が出ます [1][6]。日本は無効審判と訴訟が併走し、裁判所も抗弁で有効性を判断するため、短期決着を狙うなら訴訟側での無効主張を説得的に展開する必要があります [10]。
実務上の要点
- 市場ごとのリスク・リターン分析:米国で売上が小さい製品なら参入自体を再検討することも選択肢。
- 証拠管理ポリシー:米国向けの開発プロジェクトはメール・設計ファイルの体系的保存を義務化し、いざというとき迅速にレビューできるようにする。
- 訴訟地の選定と移送戦術:原告側ならテキサス東部・西部など原告有利の地区を検討、被告側なら不利な地区からの移送申立て準備を怠らない。
- 差止 vs. 賠償の天秤:日本で差止をちらつかせる交渉、米国では損害賠償上限と保険スキームを組み合わせる交渉など、国ごとに着地点を設計する。
日本企業が米国特許訴訟に巻き込まれた場合のリスクと準備
米国で被告になると、まず直面するのは巨額の金銭インパクトです。懲罰的賠償が加算されれば損害額は数千万ドル規模に膨れ上がり、和解金としても数百万ドル単位が要求されることは珍しくありません [3][4]。次に来るのが訴訟費用とディスカバリ負担で、トップクラスの法律事務所では 1 時間 800 USD を超える弁護士もおり、数年係争すれば弁護士費用だけで 1 億円超となる例もあります [3]。
さらに、ITC 提訴による輸入差止めリスクも無視できません。ITC の審理は 12 〜 15 か月程度と迅速で、排除命令が下れば米国向け販売は即座に停止を余儀なくされます [5]。
取るべき初動
- 米国弁護士を確保:提訴地区での実務経験が豊富かつ PTAB 戦略に長けた弁護士を選任する。
- 社内保全命令(Litigation Hold)を発令:開発・営業部門に証拠保全を徹底し、データ消去・改変を防ぐ。
- 侵害・無効の二面分析:製品設計書をもとに非侵害論を構築しつつ、先行技術調査で無効事由を洗い出し、IPR の請求準備を始める [6]。
- 故意侵害の回避策:弁護士意見書を早期取得し、「悪意なき対応」を記録化しておく。
- 和解オプションの費用便益分析:見込まれるディスカバリ費用と勝訴確率から早期和解金の上限を試算し、交渉ガイドラインを設定する [12]。
これらを行うためには、訴訟対策チームを組成し、法務・知財・開発・経営陣が一体で意思決定できる体制を整えることが不可欠です。
グローバル知財戦略における特許訴訟への準備
国際事業を進める企業は、平時から次の 5 ステップで防御・攻勢のバランスを取るべきです。
- 多層的ポートフォリオ構築
主要市場(米・欧・中・日)での早期出願に加え、標準必須技術やビジネスコア技術はクレーム範囲を国ごとに最適化して権利行使しやすい形で取得する。敵対的係争に備え、攻撃特許と防御特許を層状に配置し、クロスライセンスの交渉材料を増やす。 - 継続的クリアランス調査と早期ライセンス
製品設計フェーズから Freedom-to-Operate 調査をルーチン化し、阻害特許が見つかった場合は回避設計やライセンス交渉を直ちに開始する。SEP 分野では FRAND 申入れを行い、後日の差止請求リスクを抑える。 - 訴訟対応プロトコルと社内ガバナンス
訴状・警告状受領から 24 時間以内に取るべき手順をマニュアル化し、担当部署・報告ライン・外部弁護士連絡先を明記。開発者の日々の実験ノートやコード・図面の改版履歴を電子タイムスタンプ付きで保存し、出願・訴訟両面の証拠とする。 - 各国制度アップデートのモニタリング
UPC の発足、中国知財専門法廷の賠償額上昇など、世界の訴訟環境は絶えず変化する [6]。AI ベースのパテントアナリティクスを導入し、訴訟トレンド・無効審理結果をダッシュボード化して経営層へ定期報告する。 - オープンイノベーションと紛争回避エコシステム
LOT Network やパテントプールに参加し、トロールへの特許流出時にもライセンス保護を受ける枠組みに加わる。業界内クロスライセンスを通じて「相互確証破壊」状態を作り、訴訟を抑制する。
こうした準備を重ねることで、万一紛争に突入しても優位な交渉ポジションを確保しやすくなります。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- JETROニューヨーク知的財産部「2021年の米国特許紛争統計情報」https://www.jetro.go.jp/ext_stat2021.html
- TMI総合法律事務所ブログ「特許関連統計情報(令和5年)」https://www.tmi.gr.jp/stats2023.html
- Aperio国際特許事務所「米国特許訴訟の概要」(2018年7月11日)https://www.aperio.com/us-litigation-overview
- 山内真之「米国特許訴訟における懲罰的損害賠償とは」Business Lawyers(2017年7月31日)https://businesslawyers.jp/articles/6033
- Blanigan Law「ITC調査と連邦地裁訴訟の差異」https://www.blaniganlaw.com/itc-vs-district-court
- IAM Media「Is PTAB still a patent killer?」(2023年)https://www.iam-media.com/patent-killer-ptab-2023
- Morgan Lewis「Japan’s 2019 Patent Law Amendment」https://www.morganlewis.com/pubs/2019/0628-japan-patent-law
- 知的財産高等裁判所 年報統計データ(令和3年)https://www.ip.courts.go.jp/annual2021
- 創英国際特許法律事務所「特許法改正で損害賠償額はどう変わる?」(2021年)https://www.so-ei.jp/articles/damages2021
- 経済産業省「特許侵害訴訟判決データベース分析レポート」(2023年)https://www.meti.go.jp/ip_litigation_db2023
- 特許庁「特許異議申立て統計」(2023年)https://www.jpo.go.jp/opposition_stats2023
- NGB株式会社「2015年日本企業の米国特許訴訟関与状況-被告編」(2016年)https://www.ngb.co.jp/2015-us-litigation-jp-companies

