M&Aで見落とされる特許資産:売却・ライセンスの注意点

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
M&Aでは特許をはじめとする知的財産(無形資産)が軽視されたり見落とされたりしがちです。本記事では、そうした特許資産にスポットを当て、その評価・活用の重要性と売却・ライセンスにおける注意点を、経営者や個人事業主、起業家の方にもできるだけ分かりやすく解説します。
M&Aにおける特許資産の重要性
M&Aでは事業や企業の価値評価が行われますが、その際に特許などの無形資産は非常に重要な要素です。近年、企業価値に占める無形資産の割合は世界的に増加しており、特に米国の主要企業では企業価値の約90%が特許やブランドといった無形資産だという分析もあります[1]。一方で、日本企業では無形資産比率がまだ低い傾向があり、特許など知的財産の活用が課題とされています[1]。つまり、特許資産を適切に評価・活用できれば、M&Aにおける企業価値を大きく高める可能性があります。
特許は新技術や独自製品を保護するだけでなく、ビジネス上の競争優位や将来の収益源としてのポテンシャルを秘めた資産です。買収側から見れば、対象企業が持つ特許ポートフォリオは、将来の事業展開や技術獲得に直結する重要資産となり得ます。また、売り手企業にとっても、自社の特許を正当に評価してもらうことで、適切な譲渡価格(のれん代)を得ることができます。無形資産である特許が正しく評価されないと、せっかくの企業価値を見逃してしまうリスクがあります[3]。実際、特許などの無形の価値を正確に評価することがM&Aでは重要であり、過小評価すれば「真の企業価値を見逃す」ことにつながりかねません[2]。
M&Aで特許資産が見落とされがちな理由
しかし現実には、M&Aの場面で特許資産が見落とされてしまうケースも少なくありません。その主な理由の一つは、特許や知的財産の価値が目に見えにくく、評価が難しいことです。財務諸表には特許の価値が明確に表れないため、売上や有形資産ばかりに注目してしまうと、特許の潜在的な価値を見逃してしまいがちです。また、特許の技術的内容が難解であったり、特許評価の専門知識が必要であったりするため、経営者やM&A担当者が十分に理解できずに軽視してしまうこともあります[5]。特許資産に関する情報や分析ツールの不足も、価値を正しく認識できない原因となっています[5]。
さらに、中小企業やスタートアップ企業では、特許を取得していてもそれを事業に活かしきれていない場合があります。例えば、「特許は持っているが、自社にはそれを製品化・事業化するリソースがない」というケースです。このような場合、特許自体の価値が埋もれてしまい、M&A交渉時にも十分評価されない恐れがあります。実際に、特許があってもそれを活かす技術や人材が不足していれば価値は低く見積もられてしまうと指摘されています[2]。一方で、買い手側も特許の重要性に気づかずに買収後に活用しないままでいると、せっかく取得した資産を眠らせてしまうことになります。
このように、特許資産が見落とされる背景には、「見えにくさ」と「理解の難しさ」があります。だからこそ、M&Aを行う際には知的財産デューデリジェンス(知財DD)を適切に実施し、特許資産の有無や価値をしっかり把握することが不可欠です。近年では他社の知的財産を目的にM&Aが行われるケースも増えており、知財DDの重要性が一段と高まっています[3]。売り手・買い手双方にとって、特許資産を正しく評価する意識を持つことが成功の鍵となるでしょう。
M&Aと特許デューデリジェンス(評価とリスク管理)
M&Aプロセスでは、法務・財務など様々なデューデリジェンス(DD:事前調査)が行われますが、特許を含む知的財産のDDも重要な位置を占めます。知財DDでは、対象会社が保有する特許権などについて以下の点を重点的に調査します[3]:
- 権利の帰属状況: 特許が対象会社名義できちんと登録されているか、出願中のものや共同出願・共同権利がないか。また、過去に事業承継や組織変更で権利移転が漏れていないか。
- ライセンス契約の有無: 対象会社が第三者に特許実施権を許諾している場合や、逆に第三者からライセンスを受けて技術を使用している場合、その契約内容を確認します[3]。特に、自社が他社からライセンス供与を受けている技術が事業の要となっている場合、M&Aによりそのライセンス契約が終了したり条件変更されるリスクがないか注意が必要です[3]。
- 権利の有効性と維持状況: 特許が存続期間内であるか、年金(維持年費)がきちんと支払われ失効していないか。特許権のクレーム範囲(権利範囲)が事業にとって十分な広がりを持つか。
- 侵害リスク・紛争の有無: 対象会社の製品やサービスが他社の特許権を侵害している疑いがないか、逆に対象会社の特許が第三者に侵害されている事実や紛争(訴訟・係争中案件)はないか。また過去に警告や係争があった場合の対応状況も確認します。
- 担保提供や係属中手続: 特許権が銀行借入の担保に提供されていないか、また審査中・係争中の出願がある場合その行方。
以上のような調査によって、対象企業の特許資産がどの程度売却価値や事業価値に貢献するか、あるいは将来的なリスクを孕んでいないかを評価します。例えば、対象企業が核心技術について重要な特許を保有していれば、それは買収価格を押し上げる要因となります。一方で、重要な特許が実は既に他社に独占ライセンス提供されている場合、買収後に自由に使えない可能性があるため評価額にマイナスの影響を与えるでしょう。また、対象企業が保有する特許について侵害訴訟のリスクが高い場合、買収後に巨額の訴訟コストが発生する懸念があり、これも慎重な検討が必要です。
買い手は知財DDの結果を踏まえて、重大なリスクがあれば契約条件の調整(例えば買収対価の減額や表明保証条項の設定)を行います。売り手の側からすれば、特許資産に関する情報を正確かつ網羅的に開示し、問題点があれば事前に対処しておくことが重要です[3]。万一、不利な情報を隠してM&Aを進めると、後から発覚した際に損害賠償責任を問われるリスクもあります[3]。したがって、特許資産に関しては事前の棚卸しと整備をしっかり行い、自社の知財の強み・弱みを把握した上でM&A交渉に臨むことが望まれます。
M&Aと特許資産売却:注意点
特許資産の扱い方として、第三者への売却(譲渡)は重要な選択肢の一つです。特許を売却するとは、その特許権そのものを買い手に譲渡し、所有権を完全に移転することを意味します[6]。対価を一度に得られるため、自社では活用しきれない特許から直接資金を得る即効性のある手段です。ただし、特許を売却すると元の権利者(売り手)はその特許に基づく独占権を失い、以後その発明を自社で実施できなくなる点には注意が必要です。
M&Aの実務においては、会社ごと売却する場合でも特許など特定の資産だけを個別に売却またはスピンアウトすることがあります。これは、買い手にとって不要だったり評価が合わなかったりする特許を事前に別会社に移したり、他社に売却してしまうケースです。売り手の経営者としては、自社にとって重要度が低い特許であれば、企業売却と別途に特許売却することで全体の取引価値を最大化できる可能性があります。ただし、この際にはいくつか注意点があります:
- 自社事業との関係確認: 売却を検討する特許が現在の事業や将来の計画に不可欠なものではないか慎重に検討します。万一、売却後にその特許が無くては事業継続が困難になるようであれば、売却ではなくライセンス供与を受ける形にする(売却後に特許を使う権利だけもらう)などの工夫が必要です。
- 適正価格の把握: 特許の市場価値は専門的な評価が必要です。技術分野や特許の残存期間、権利範囲の強さ、関連する市場規模などを考慮し、適正な価格で売却することが大切です。複数の候補に当たり、競争入札や専門のブローカー・プラットフォームを活用して、できるだけ有利な条件を引き出しましょう[6]。
- 契約上の留意事項: 特許譲渡契約では、譲渡対象の特許を明確に特定し、対価や支払い条件、表明保証(売り手がその特許権について有効に保有していることや第三者権利を侵害していないことの保証)などを盛り込みます。特に、譲渡後に特許に瑕疵(実は無効だった等)が見つかった場合の対応も契約で定めておくことが望ましいでしょう。
- 秘密保持と信頼性: 特許売却を進める過程では、発明の詳細情報を開示する前に秘密保持契約(NDA)を結ぶなど、情報管理に気を配ります。また、買い手が信頼できる企業か(いわゆるパテント・トロール的な存在ではないか)も考慮に入れ、自社の技術が悪用されないようにする配慮も場合によっては必要です。
特許売却は以上の点に注意しつつ進めれば、自社では活かせない知的財産から資金を創出する有効な手段となります。実際、大企業でも保有特許の一部を売却して資金化したり、スタートアップが事業売却後に不要となった特許を別途売却する例も見られます。適切な相手に適切な価格で売却することで、眠っていた特許資産を現金化し、経営資源の効率化が図れるでしょう。
M&Aと特許ライセンス:注意点
特許資産を活用するもう一つの手段が、ライセンス(実施許諾)です。特許ライセンスとは、自社が特許権を保有したまま、他社にその特許発明を使用する権利を与える契約行為を指します[4]。ライセンス供与することで、自社は継続的にロイヤリティ収入を得たり、他社との事業提携を強化したりできます。M&Aに絡めて考えると、例えば「会社は売却するが特許は自分に残し、買収後は新オーナーに特許をライセンス提供する」といったスキームも可能です。このようにすることで、買い手は必要な技術を使い続けられ、売り手は特許から収入を得続けるという関係を構築できます。
特許ライセンス契約を結ぶ際の主な注意点は次の通りです[4]:
- 許諾の範囲を明確に: どの特許を、どの地域で、どの用途について使用許可するのかを具体的に定めます。対象特許の番号や名称だけでなく、許諾する範囲(製品や技術分野)や期間を契約書で明示することが重要です。
- 独占か非独占か: ライセンスを独占的(エクスクルーシブ)に与えるか、非独占的に与えるかで権利行使の範囲と条件が変わります。独占ライセンスにするとライセンス先はその特許を独占的に利用できますが、他社にも許諾できないため一般に高額の対価を設定します。一方、非独占であれば複数社に許諾可能ですが、その分一社あたりのライセンス料は抑えめになる傾向があります。
- ライセンス料と支払い条件: 一時金(ランプサム)にするのか、売上高に応じたロイヤリティ比例にするのか、もしくはその併用かを決めます。支払いタイミングや報告義務、監査条項(売上報告の検証)も定めておくと良いでしょう。
- 保証責任と不争義務: ライセンス供与側(特許権者)は、自身がその特許権を有効に持っており他者の権利を侵害していないこと等、一定の保証責任を負うのが通常です[4]。逆にライセンスを受ける側には、供与された特許を自己の事業で活用する際に、その特許の有効性を争わない旨(不争義務)を負わせる条項が盛り込まれることがあります[4]。
- 改良発明の扱い: ライセンス期間中に、ライセンス先が当該特許発明の改良技術を開発した場合の権利帰属をどうするかも重要です[4]。ライセンス契約では、改良発明に関する特許を原権利者に実施許諾する義務を定めたり、場合によっては共同出願や権利譲渡の取り決めをすることもあります。
以上のような点を明確に取り決めておかないと、「想定外の利用をされて自社の知的財産価値が毀損する」といったトラブルにもつながりかねません。特許ライセンス契約は非常に専門性が高いため、契約内容を十分に吟味し、不明な点は専門家(弁護士や弁理士)の助言を得ながら締結することが望ましいでしょう。
ライセンスは、売却とは異なり特許権を手放さずに済むため、自社の将来的な選択肢を残しつつ収益化が図れるメリットがあります。しかし、ライセンス料は相手の事業成果に依存する部分もあるため、不確実性も伴います。自社にとって最適な活用方法(売却かライセンスか)は、特許の性質や自社の事業戦略、資金ニーズなどによって異なります。
M&Aと特許資産の効果的な活用に向けて
本記事で述べてきたように、M&Aにおいて特許資産は見落とされがちなものの、実は企業価値や事業戦略に大きな影響を与える重要資産です。売り手としては、自社の特許を正当に評価してもらう努力が必要ですし、買い手としても、単に目に見える業績だけでなくその裏にある知的財産の価値を見極める目利き力が求められます。特許資産を適切に把握・評価し、交渉や契約に反映させることで、M&Aの成功確率は高まるでしょう。
また、特許はM&Aの場面だけでなく、平時からその価値最大化を図ることが重要です。使っていない特許は他社にライセンスしたり売却したりすることで収益化できますし、逆に他社の有用な特許を買収・ライセンスして自社事業に取り込む戦略も有効です。近年では、特許の売買やライセンス仲介を専門に行うプラットフォームやコンサルティング企業も増えてきており、特許の流動性は高まりつつあります[6]。
特許を保有する皆様は、こうしたプラットフォームも活用して自社の特許資産を眠らせずに積極的に活用することを検討してみてください。株式会社IPリッチが運営する特許の売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)への登録もぜひご検討ください。PatentRevenueでは、特許の売却・ライセンスのマッチングを支援し、特許資産の価値最大化をお手伝いいたします。
最後に、特許資産は適切に扱えばM&Aや企業成長の強力な原動力となります。見落としがちな知的財産にスポットを当て、戦略的に活用することで、皆様の事業価値向上につながることを願っております。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- TT Consultants, “Patent Monetization: How To Choose Between Licensing And Selling” (2022) – https://ttconsultants.com/patent-monetization-how-to-choose-between-licensing-and-selling/
2. 郡司浩太郎「無形資産の価値に注目する」野村総合研究所, 2021 – https://www.nri.com/content/900033116.pdf
3. 廃業支援センター「M&Aにおける『のれん代』とは? – 中小企業経営者のための完全ガイド」 – https://restart-style.com/knowledge/ma_noren/
4. 髙畑豪太郎・天野里史・嵐口拓哉「M&Aにおける知財デューデリジェンス」『知財管理』Vol.72 No.9 (2022年9月) – https://www.midosujilaw.gr.jp/_wp/wp-content/uploads/2022/10/MA%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%9F%A5%E8%B2%A1%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B9.pdf
5. 吉羽真一郎・佐藤安紘「特許ライセンス契約の留意点」Business Lawyers (2017年12月22日) – https://www.businesslawyers.jp/practices/709
6. InQuartik, “Stock Picking With Patent Assets: An Observation of the Relationship Between Company Performance and Patent Assets” (2020) – https://www.inquartik.com/blog/advanced-stock-picking-with-patent-assets/

