JINS対Zoff「跳ね上げ式メガネ」意匠権訴訟の全貌と企業が学ぶべき知財戦略

意匠権侵害判決の概要と本記事の 趣旨
株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本日は、アイウエア業界に大きな衝撃を与えた「JINS対Zoff」の意匠権侵害訴訟について、その判決内容とビジネスへの影響を詳細に解説します。2025年7月17日、東京地方裁判所は、株式会社ジンズホールディングス(以下、JINS)が保有する「跳ね上げ式メガネ」の意匠権を、競合である株式会社インターメスティック(以下、Zoff)が侵害したと認め、Zoff側に約140万円の損害賠償支払いを命じる判決を下しました。Zoff側は控訴を行わず、この判決は確定しています。
本件は、単なる「パクリ騒動」にとどまらず、機能的な製品デザインをどのように保護すべきか、また、知財紛争が企業のブランドや経営にどのようなインパクトを与えるかを浮き彫りにした極めて重要な事例です。140万円という賠償額の多寡だけでなく、その算定ロジックや、両社の対応の違いから見える経営戦略の差、そしてこれからの企業に求められる「攻めと守りの知財戦略」について、専門家の視点で深く掘り下げていきます。5000字を超える長文となりますが、経営者や知財担当者、商品開発に携わる皆様にとって、実務に直結する有益な情報を提供できるものと確信しております。
知財の 収益化 と組織を強化する人材採用戦略
本題に入る前に、現代の企業経営において避けては通れない「知財の収益化」というテーマについて触れておきましょう。かつての知財部門は、他社からの攻撃を防ぐ「防衛」が主な役割でしたが、現在は保有する特許や意匠を積極的に活用し、ライセンス料収入や事業提携を通じてキャッシュを生み出す「収益化(マネタイズ)」の視点が不可欠です。今回のJINSの勝訴も、自社のデザイン資産を法的に保護し、競合他社の参入障壁を築くことで、間接的に自社製品の市場シェアと収益を守る高度な収益化戦略の一環と捉えることができます。知財を単なるコストセンターではなく、プロフィットセンターへと転換させることが、企業の競争力を決定づけるのです。
しかし、こうした高度な戦略を実行するためには、法務知識だけでなく、ビジネス感覚に優れた「知財人材」の存在が欠かせません。もし、この記事をお読みの事業者様で、自社の知財戦略を担う即戦力人材の採用にお悩みであれば、ぜひ「PatentRevenue」をご活用ください。知財領域に特化した専門人材と企業をマッチングするプラットフォームであり、求人情報の登録は無料で行えます。優秀な知財人材の確保こそが、貴社の技術とデザインを収益に変えるための第一歩です。 PatentRevenueの求人登録はこちら: https://patent-revenue.iprich.jp/recruite/
訴訟の背景にある 跳ね上げ式メガネ の技術革新と意匠登録
JINS Switchの開発と市場投入
今回の争点となった製品は、JINSが主力商品の一つとして展開している「JINS Switch」シリーズの「Flip Up(跳ね上げ)」モデルです。この製品の最大の特徴は、マグネット式のプレートをフレームのフロント部分に装着することで、瞬時にメガネからサングラスへと切り替えられる点にあります。さらに「Flip Up」モデルでは、装着したプレート部分を跳ね上げることができる構造を採用しており、トンネルに入った際や手元を見たい際など、暗所での視認性を確保するためにサングラス部分をワンタッチで持ち上げることが可能です。
従来の跳ね上げ式メガネは、跳ね上げ機構を実現するために、金属製の複雑な丁番(ヒンジ)やクリップをフロント部分に取り付ける必要がありました。そのため、どうしてもメカニカルで重厚な見た目になりがちで、「機能的だがデザイン性に欠ける」という課題を抱えていました。これに対しJINSは、独自のマグネット機構とヒンジ構造を組み合わせることで、通常のメガネとほとんど変わらないスマートでシンプルな外観を実現しました。この「機能性を維持しながら、極限までノイズを削ぎ落としたデザイン」こそが、JINSが多大なリソースを投じて開発した核心部分であり、意匠権によって保護を図った対象でした。
意匠権による多面的な保護網
JINSは、この画期的なデザインを守るために、単一の意匠権だけでなく、複数の関連する意匠権(登録第1663216号、第1663217号、第1671258号など)を取得していました。意匠権とは、物品の形状、模様、色彩などの「見た目」を保護する権利ですが、製品のデザインにはバリエーションが存在するため、メインとなるデザイン(本意匠)だけでなく、それに類似したデザイン(関連意匠)もあわせて登録することで、権利範囲を面で広げる「ポートフォリオ戦略」をとることが一般的です。
JINSが取得していたこれらの意匠権は、跳ね上げ機構を持つメガネフレームの形状、特にフロント部分と跳ね上げパーツの接合部の処理や、全体的なシルエットに関するものであったと推測されます。Zoffが販売した製品(品番:ZO221G01-14E1、ZO221G01-49A1など)は、これらの登録意匠と極めて類似した外観を有しており、JINS側は「Zoff製品は、JINSの登録意匠に係る物品と類似しており、意匠権の侵害にあたる」として、製造販売の差止めと損害賠償を求めて提訴に踏み切りました。
意匠権侵害の 判断基準 と機能性デザインの法的保護
物品の同一性と形態の類似性
意匠権侵害が成立するか否かは、主に「物品の同一・類似」と「形態の同一・類似」の二点から判断されます。 まず「物品」についてですが、JINSの登録意匠もZoffの被告製品も「メガネ」あるいは「メガネフレーム」という同一の物品分野に属しているため、ここは争点になりません。最大の争点は、デザインそのもの、すなわち「形態」が似ているかどうかです。
裁判所における形態の類似判断は、以下のステップで行われます。
- 意匠に係る物品の性質、用途、使用態様の認定: メガネという商品は、顔に装着するものであり、機能性が重視される一方で、ファッションアイテムとしての側面も強く、デザインの細部が購買意欲に大きく影響する物品であると認定されます。
- 公知意匠の参酌: 過去にどのようなデザインが存在していたか(公知意匠)を調査し、それらと比べて登録意匠のどの部分が新しいのか、創作のポイント(要部)はどこかを特定します。
- 要部の認定: 登録意匠の中で、見る者の注意を最も惹く部分(要部)を認定します。本件では、従来の跳ね上げメガネに見られるような目立つ金具を排し、フロントフレームと一体感を持たせたスマートな接続構造や、マグネット配置によるフラットな形状などが要部とされた可能性が高いでしょう。
- 対比と総合判断: 登録意匠と被告製品(Zoff製品)を対比し、共通点と差異点を洗い出します。そして、共通点が要部にあり、差異点が微細な部分やありふれた部分にとどまる場合、両者は「類似する」と判断されます。
機能と美観の分離
本件のような機能性製品の意匠訴訟で頻繁に問題となるのが、「機能確保のために不可避な形状」の扱いです。意匠法は「美感」を保護する法律であり、特許法が保護する「機能」そのものを独占させることは意図していません。もし、ある機能を実現するために「その形にするしかない」のであれば、その形状は意匠権による保護の対象外となるか、権利範囲が極めて狭く解釈されるべきです。
おそらくZoff側は、「跳ね上げ機能とマグネット着脱機能を両立させるためには、このような形状にならざるを得ない(機能的必然性がある)」といった反論を展開したと考えられます。しかし、判決結果が侵害認定であったことから、裁判所は「同じ機能を実現するとしても、別の形状やデザインの選択肢は存在した」と判断したことになります。つまり、Zoff製品の形状は機能的必然性によるものではなく、JINSのデザイン上の工夫(創作性)を模倣したものであると認定されたのです。 これは、機能性製品であっても、そこにデザイナーの美的配慮や選択が介在する余地がある限り、意匠権による強力な保護が可能であることを示す重要な判例と言えます。
損害賠償額「140万円」の 算定根拠 とビジネス的意味
なぜ賠償額は140万円だったのか
今回の判決で命じられた「約140万円」という賠償額について、一部では「安すぎるのではないか」という声も聞かれます。JINSとZoffという業界大手同士の争いであることを考えると、数千万円から億円単位の賠償を想像する方も多いでしょう。しかし、知財訴訟における損害賠償額は、懲罰的な意味合いで決まるのではなく、客観的なデータに基づいた厳密な計算によって導き出されます。
意匠法39条には、損害額の算定方法として主に以下の3つが規定されています。
- 逸失利益(39条1項):
- 計算式:
(権利者の単位当たり利益)×(侵害品の販売数量) - 考え方:もし侵害品がなければ、権利者の製品がその分売れていたはずだ、というロジックです。ただし、権利者の生産能力の限界や、競合品の存在による「寄与率(デザインが売上に貢献した割合)」の減額が行われることがあります。
- 計算式:
- 侵害者利益(39条2項):
- 計算式:
(侵害者の売上高)-(侵害者の経費) - 考え方:侵害者が侵害行為によって得た利益を、そのまま権利者の損害と推定します。
- 計算式:
- 実施料相当額(39条3項):
- 計算式:
(侵害品の売上高)×(想定されるライセンス料率) - 考え方:最低限保証されるべき金額として、仮にライセンス契約を結んでいた場合に支払われるべきロイヤリティ相当額を請求します。意匠の料率は通常3%〜10%程度です。
- 計算式:
賠償額が抑制された要因
140万円という金額から逆算すると、いくつかの要因が推測されます。 まず、対象製品の販売数量が限定的であった可能性です。JINSのプレスリリースによると、対象製品(ZO221G01-14E1など)は判決時点ですでに販売終了となっています。販売期間が短かった、あるいはニッチなモデルであって爆発的なヒット商品ではなかったため、Zoffが得た利益、あるいはJINSが失った利益の総額自体がそれほど大きくなかった可能性があります。
次に、寄与率の考慮です。メガネの購買決定要因はデザインだけではありません。ブランドイメージ、価格、店舗の立地、レンズの性能、接客サービスなど、複合的な要素が絡み合っています。「Zoffのメガネが売れたのは、JINSのデザインに似ていたからだ」という主張は認められても、その寄与度が100%とされることは稀です。裁判所が「デザインの寄与率は限定的である(例えば全体の利益の10%〜20%程度)」と判断した場合、算定される損害額は大幅に圧縮されます。
例えば、仮にZoffが当該製品で1000万円の粗利を得ていたとしても、デザイン寄与率が14%とされれば賠償額は140万円になります。あるいは、Zoffの当該製品の売上高が約2000万円〜3000万円程度で、実施料率(ロイヤリティ)として5%〜7%程度が適用された結果、140万円前後になったという計算も成り立ちます。 金額自体は巨額ではありませんが、JINSにとっては「模倣を許さない」という姿勢を司法の場で認めさせたこと自体に、金額以上の価値があると言えるでしょう。
JINSとZoffの 経営戦略 における対照的なアプローチ
JINS:知財を「経営資源」と定義する攻めの姿勢
JINSは今回の判決を受けて、「今後も知的財産権を重要な経営資源として重視し、自社の技術とデザインを公正に保護する」という力強い声明を発表しました。同社は創業以来、「Magnify Life」というビジョンを掲げ、単なる視力矯正器具の枠を超えた新しい価値の創造に取り組んでいます。 特に近年は、センサー搭載メガネ「JINS MEME」の開発や、著名デザイナーとのコラボレーションなど、技術とデザインの両面で独自性を高める戦略を強化しています。独自性が高まれば高まるほど、それを模倣から守る知財戦略の重要性は増します。今回の提訴は、同社がデザインを単なる「見た目」ではなく、投資回収すべき「資産」として明確に定義し、その侵害に対しては断固たる措置をとるという、極めて合理的な経営判断に基づいています。
また、JINSは意匠権だけでなく、特許権や商標権も含めた知財ミックスでの保護を推進しており、今回の勝訴は、業界全体に対して「JINSの製品を安易に真似ると法的リスクを負う」という強力な牽制球(シグナリング効果)となりました。これは、将来的な競合の参入障壁を高め、長期的なブランド価値を維持するための投資と言えます。
Zoff:早期決着によるリスクコントロール
一方、敗訴したZoff側(インターメスティック社)の対応もまた、一つの経営判断として興味深いものです。同社は判決に対し、「当社の主張が認められた部分もあるが、一部で認められなかったことは遺憾」としつつも、控訴は行わず判決を確定させました。 ここには、「損切り」の論理が働いていると推測されます。140万円という賠償額は、上場企業の事業規模からすれば軽微なものです。控訴して争いを長引かせれば、弁護士費用などの訴訟コストがさらに嵩むだけでなく、「JINSのデザインを模倣した企業」というネガティブな報道が続き、ブランドイメージ(レピュテーション)を毀損するリスクが高まります。
対象製品がすでに販売終了していることもあり、これ以上リソースを割いて争うよりも、早期に支払いを済ませて幕引きを図り、次の商品開発に注力する方が合理的であると判断したのでしょう。この迅速な撤退判断もまた、企業のリスク管理(クライシスマネジメント)としては定石通りの対応と言えます。
知財訴訟が業界全体に与える インパクト と教訓
「似ている」の境界線が厳格化
この判決は、アイウエア業界のみならず、アパレル、雑貨、家電など、デザインが重視されるすべてのBtoCメーカーに対して警鐘を鳴らすものです。これまで業界内には、「トレンドだから似るのは仕方ない」「機能的な構造だから意匠権は関係ない」といった甘い認識が少なからず存在しました。しかし、今回の判決は、機能性製品であっても、そこに独自のデザイン的工夫があれば意匠権侵害が成立することを明確に示しました。
特に、OEM/ODMメーカーに製造を委託している企業は注意が必要です。「工場が持ってきたデザインだから大丈夫だろう」と安易に採用した結果、そのデザインが実は他社の意匠権を侵害していたというケースは後を絶ちません。自社で企画する場合も、他社製品をサンプルとして購入し、「ここを少し変えれば大丈夫」と安易なアレンジを加える手法(いわゆる「パクリ」)は、今まで以上に高い法的リスクを伴うことになります。
「インスパイア」と「侵害」を分かつもの
デザインの世界では、過去の優れたデザインから着想を得る(インスパイアされる)ことは創作活動の一部ですが、法的リスクを回避するためには、以下のプロセスが不可欠です。
- 徹底したクリアランス調査(意匠調査): 商品開発の初期段階で、他社の登録意匠を調査すること。J-PlatPatなどのデータベースを活用し、類似のデザインが登録されていないかを確認する作業は必須です。
- 抵触判断の専門化: 調査で見つかった他社意匠と自社デザインが類似するかどうかは、素人判断では危険です。弁理士などの専門家の意見(鑑定)を仰ぎ、「非類似」の論理構成が可能かどうかを検証する必要があります。
- 独自性の確保: 他社デザインと似通ってしまう場合、意図的にデザインの方向性を変える、あるいは機能的構造を根本から見直すなどして、明確な差異(非類似性)を作り出す努力が求められます。
今後の 知財実務 に求められる視点
意匠ポートフォリオの構築
JINSが勝訴できた最大の要因は、製品発売に合わせて適切な意匠権を取得し、かつそれを「群(ポートフォリオ)」として管理していたことにあります。一点の意匠権だけでは、相手に「回避設計(デザインアラウンド)」を許してしまう隙が生まれやすくなります。しかし、基本デザインだけでなく、部分意匠制度や関連意匠制度を活用して、デザインの要部やバリエーションを網羅的に権利化しておけば、相手にとって逃げ道のない強固な包囲網を築くことができます。 開発コストと同様に、知財取得コストも予算化し、商品リリースと同期した権利化戦略を実行することが、模倣品対策の決定打となります。
デザイン部門と知財部門の共創
今回の事例から学ぶべき最大の教訓は、知財活動はもはや法務部門だけの仕事ではないということです。
- デザイナー: 「かっこいい」だけでなく「権利侵害しない」「権利化できる」デザインを意識する。
- 知財担当: 開発の早い段階からプロジェクトに参加し、リスクの芽を摘むとともに、生まれたアイデアを即座に権利化へ繋げる。
- 経営層: 知財をコストではなく投資と捉え、訴訟も辞さない毅然とした態度で市場に向き合う。
この三者の連携(共創)が機能して初めて、知財は企業の利益を生み出す源泉となります。JINSの事例は、まさにこの連携が高度なレベルで実現されていたことを示唆しています。
まとめ
JINS対Zoffの跳ね上げ式メガネ意匠権訴訟は、JINSの勝訴(一部認容)により確定しました。約140万円という賠償額は一見少額に見えますが、その背後には「機能美も意匠権で守られる」という司法の明確なメッセージと、「知財を軽視すればブランド毀損という大きなコストを払うことになる」というビジネスの教訓が含まれています。
- 機能的な製品であっても、デザインに創作性があれば意匠権侵害は成立する。
- 侵害のリスクは賠償金だけでなく、レピュテーションリスクや販売機会損失を含む。
- 攻めの権利取得と、守りの調査・予防体制の両輪が企業の収益力を支える。
市場の変化が激しく、商品のライフサイクルが短期化する現代において、自社の独自性を守り抜くための「武器」としての知的財産権の重要性は、今後ますます高まっていくでしょう。貴社におかれましても、今一度自社の知財戦略と、それを実行する人材体制を見直し、攻守ともに隙のない経営基盤を構築されることを強くお勧めいたします。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 株式会社ジンズホールディングス. (2025). 意匠権侵害訴訟の判決に関するお知らせ..
- サムライツ. (2025). ZoffがJINSの意匠権を侵害――跳ね上げ式メガネ訴訟から学ぶ、知財リスクと対応力..
- 特許庁. (n.d.). 意匠権侵害への救済手続..
- 株式会社ジンズ. (n.d.). JINS Switch Flip Up 商品詳細..
- 独立行政法人工業所有権情報・研修館. (n.d.). 特許情報プラットフォーム J-PlatPat..
- 裁判所. (2025). 令和4年(ワ)第70137号, 70138号 意匠権侵害請求事件..
- 経済産業省. (2024). 意匠法第39条(損害の額の推定等)の解説..

