音商標の新たな地平:最長64秒の登録事例から読み解く知財戦略とブランドの未来

目次

記事の冒頭:音商標が拓くブランドの新時代

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本記事では、2015年の法改正以降、企業のブランド戦略において重要性を増している「音商標」について、特に「音の長さ」という意外な側面に焦点を当てて解説します。一般的に音商標といえば、テレビCMの最後に流れる数秒のサウンドロゴを想起される方が多いでしょう。しかし、日本において「約64秒」にも及ぶ長尺の音が商標として登録されている事実をご存じでしょうか。本稿では、この日本一長い音商標という事例を切り口に、音商標の制度的背景、登録のハードル、そして企業がいかにして「音」を知的財産として活用し、ブランド価値の向上に繋げているのかを詳しく解説します。専門的な審査基準や実際の登録事例を交えつつ、経営層やマーケティング担当者にも有益な情報を提供することを目指しています。

知財の収益化と専門人材の確保が鍵となる時代

現代のビジネス環境において、知的財産(知財)は単に自社の技術やブランドを守るための「守りの盾」にとどまりません。保有する知財を積極的にライセンスアウトしたり、事業譲渡の際の資産として評価させたりすることで、直接的なキャッシュフローを生み出す「知財の収益化」という視点が不可欠となっています。特許や商標は、眠らせておくだけではコストですが、戦略的に活用すれば強力な収益源へと変貌します。音商標もまた、消費者の聴覚に訴える強力なブランド資産として、企業の無形資産価値を高め、ひいては企業全体の収益性を底上げする重要な要素となり得るのです。

このように高度化する知財戦略を実行し、知財の収益化を推進するためには、専門的なスキルと戦略眼を持った優秀な知財人材の確保が急務となります。もし、貴社が即戦力となる知財人材の採用をお考えであれば、知財専門の求人プラットフォーム「PatentRevenue」のご活用を強くお勧めいたします。こちらは求人情報の登録が無料となっており、効率的な採用活動を支援するツールです。ぜひ、以下のURLから詳細をご確認いただき、貴社の知財戦略を加速させる人材との出会いにお役立てください。

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音商標制度の導入背景と「音」が果たす識別機能

日本において「音」が商標として正式に登録できるようになったのは、2015年4月1日のことです 。これは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉などの国際的な知財保護の流れや、企業の多様化するブランド戦略を法的にサポートするという目的の下、商標法が抜本的に改正されたことによる大きな転換点でした 。それまでの商標法では、文字、図形、記号、立体的形状といった「視覚的」に認識できるものだけが保護の対象とされていました。しかし、この改正により「色彩」や「位置」、そして「音」といった、いわゆる「新しいタイプの商標(Non-traditional trademarks)」が保護対象に追加されました 。

音商標の導入から数年が経過した2024年10月時点において、登録件数は367件に達しています 。この数字は、多くの企業が「音」を自社商品やサービスの識別標識として重要視していることを示しています。視覚情報が氾濫する現代社会において、聴覚に直接訴えかける音は、消費者の記憶に深く刻み込まれる強力なツールとなり得ます。例えば、PCの起動音や特定の医薬品のCMメロディを聞いただけで、即座に企業名や商品名が頭に浮かぶという経験は誰しもお持ちではないでしょうか。これこそが音商標の持つ「識別力(Distinctiveness)」であり、企業にとっては計り知れない資産価値を持つのです。

しかし、単に音を出願すれば登録されるというわけではありません。特許庁の審査は厳格であり、その音が「自社の商品・サービスと他社のそれを区別できるものか」が徹底的に問われます。特に、単なる楽曲や自然音、商品が発する自然な音(例えば炭酸飲料を開ける音など)は、原則として識別力がないと判断され、登録が拒絶される傾向にあります 。例外的に登録が認められるのは、長年の使用によって全国的な知名度を獲得していると証明できた場合(使用による識別性の獲得)に限られるケースも多く、そのハードルは決して低くありません 。

最長64秒!常識を覆す長尺の音商標とその独自性

一般的に、音商標として登録されているものの多くは、数秒程度の短いジングルやサウンドロゴです。インテル社の有名なチャイム音や、BMW社のサウンドなどがその代表例として挙げられます 。短い音は消費者の注意を一瞬で惹きつけ、反復して聞かせることで記憶に定着させるのに適しています。しかし、日本の商標法には音の長さそのものを制限する明示的な規定はありません(ただし、出願時の音声ファイル容量等のシステム的な制約は存在します)。

こうした中で注目すべきなのが、本記事のテーマでもある「約64秒」という長尺の音商標の存在です。ユーザーの皆様から寄せられる関心事の一つに「日本一長い音商標は何か」という問いがありますが、公開情報によれば2020年時点で約64秒の音が最長として知られています。一般的なCMソングの尺すら超えるこの長さは、単なる「合図」としての音を超え、一つの「楽曲」あるいは「ストーリー」としてブランドの世界観を表現していると言えるでしょう。

これほど長い音が商標として認められるためには、その音全体が特定の企業や商品を想起させるという強力な識別力が必要です。たとえば、短いメロディの繰り返しであっても、それが60秒以上続くことで消費者に強烈な印象を残す場合や、社歌や番組テーマソングのように、特定の文脈で長年親しまれてきた音などが考えられます。通常、30秒を超えるような音は「単なるBGM」として識別力を否定されやすい傾向にありますが 、この「64秒」という記録は、音商標の可能性が単なるジングルにとどまらず、よりリッチな聴覚体験を保護する枠組みであることを象徴しています。企業が長尺の音を商標化することは、その音源を独占的に使用する権利を確保し、他社による模倣や類似の音の使用を防ぐための高度な防衛策とも言えます。

登録事例に見る「久光製薬」や「正露丸」の戦略

具体的な登録事例を見ることで、各社の知財戦略の違いが浮き彫りになります。

まず、日本における音商標登録の第1号として知られるのが、久光製薬株式会社の事例です 。CMでおなじみの「ヒサミツ♪」という音階のついたフレーズですが、これは厳密には音の要素に加えて「ヒサミツ」という言語的要素(言葉)が含まれています。特許庁の審査実務において、言葉を含む音商標は、その言葉自体が商標としての識別機能を持つため、比較的登録の判断がなされやすい傾向にあります 。消費者がその音を聞いたとき、「ああ、あのヒサミツね」と即座に企業と結びつけることができるからです。

一方、言葉を含まない「音楽的要素のみ」からなる音商標の登録は、より難易度が高いとされています。その中で特筆すべきは、大幸薬品株式会社の胃腸薬「正露丸」のラッパのメロディです。このメロディは1951年から使用され続けており、日本国民の多くが一度は耳にしたことがあるでしょう 。大幸薬品は2015年4月1日の制度開始と同時に出願を行いました 。登録番号「第5985746号」として登録されたこの商標は、言葉を含まないメロディだけの音商標としては極めて稀な、高い知名度を背景に登録を勝ち取った事例です。

正露丸のラッパのメロディは、単なる短いジングルではなく、一定の長さを持つ旋律です。これが商標として保護されるということは、他社が類似のメロディを胃腸薬の広告などに使用することを排除できる権利を持つことを意味します。60年以上にわたる継続的な使用実績が、音そのものに「自他識別機能」という強力なブランド価値を付与した好例と言えるでしょう。また、このような「言葉のない音」の登録事例は2024年10月時点でもわずか9件程度にとどまっており、その希少性が際立ちます 。この事実は、言葉に頼らない「純粋な音」でブランドを確立することの難しさと、それを達成した際の権利の強力さを物語っています。

審査基準の壁:楽譜と音声データの厳格な整合性

音商標の出願実務において、多くの企業が直面する壁の一つが、特許庁による審査の厳格さ、特に権利の範囲を特定する「整合性」に関する要件です。

音商標を出願する際には、その音を特定するための情報として、「五線譜による楽譜」または「文字による音の長短や音色の説明」のいずれか、そして実際に再生可能な「音声ファイル(MP3等)」を提出する必要があります 。ここで極めて重要なのが、提出された「楽譜(または説明書)」と「音声ファイル」の内容が完全に一致していなければならないという点です。これは、権利の範囲を明確にし、第三者がどのような音が権利対象なのかを正確に把握できるようにするためです。

例えば、楽譜には特定の音符や休符が記載されているにもかかわらず、提出された音声ファイルではその音が微妙に異なっていたり、装飾音が抜けていたりする場合、審査において不備を指摘される可能性があります。日本の実務では、商標の権利範囲を確定する中心的な資料は「楽譜(または説明書)」であると考えられています 。したがって、もし楽譜と音声ファイルに不一致があった場合、音声ファイルを修正することは可能ですが、楽譜の方を後から変更して音声ファイルに合わせることは、商標の内容を変更する「要旨変更」とみなされ、認められないケースが多いのです 。

これは、長尺の音商標を出願する際により複雑な問題となります。64秒もの長い音になれば、その楽譜は膨大な情報量となり、演奏のニュアンスと楽譜の記載を完全に一致させる作業は困難を極めます。しかし、この厳格な運用こそが、権利範囲を明確にし、第三者の予見可能性を担保するために不可欠なプロセスなのです。審査基準においても、商標が「極めて分離して書かれている」場合や「長い音を有する場合」など、構成が複雑なものについては慎重な判断がなされる旨が示唆されています 。出願を検討する企業は、作曲家や知財専門家と連携し、楽譜と音源の完全な一致を確認するという緻密な作業が求められます。

知財の収益化と権利維持:10年ごとの更新手続

音商標も通常の文字商標や図形商標と同様に、設定登録の日から10年間の存続期間が設けられています 。この期間が満了する際には、更新登録の申請を行うことで、さらに10年間、何度でも権利を維持することが可能です。これは特許権が原則として出願から20年で消滅するのとは対照的で、ブランドという永続的な価値を保護するための制度設計となっています。

例えば、前述した正露丸の音商標(登録第5985746号)も、登録から10年が経過するタイミングで更新手続が必要となります 。更新申請期間は満了の6ヶ月前から満了日までの間と定められており、この期間を逃すと権利が失効してしまうリスクがあります(一定の救済措置はありますが、割増登録料が必要です)。

企業にとって、一度獲得した音商標を維持し続けることは、「知財の収益化」の観点からも重要です。長年使用され、顧客に浸透した音は、それ自体が信用の塊であり、ライセンスアウトの対象にもなり得ます。例えば、フランチャイズ展開を行う際に、加盟店に対して店舗での特定のBGMやサウンドロゴの使用を許諾し、その対価としてロイヤリティを受け取るモデルなどが考えられます。また、他社の参入障壁として機能することで、間接的に高い利益率を維持することにも貢献します。このように、音商標の維持管理は単なる事務手続ではなく、経営戦略の一環として捉えるべき重要なプロセスなのです。

総括:音商標が拓くブランド戦略の未来

本記事では、最長64秒の音商標というトピックを入り口に、音商標制度の深層について解説してきました。2015年の制度導入以降、久光製薬や大幸薬品といった先進的な企業が、音を知的財産として権利化し、ブランドの核として活用してきました。言葉の壁を越えて直感的に伝わる「音」の力は、グローバル化が進む現代においてますます重要性を増しています。

特に、64秒という長尺の音が登録され得るという事実は、企業が自社のブランドストーリーを表現する方法に、より自由でクリエイティブな選択肢が用意されていることを示唆しています。一方で、その権利取得には、厳格な審査基準をクリアするための緻密な戦略と、高い専門性が求められます。楽譜と音声データの整合性、識別力の立証、そして登録後の適切な権利維持管理。これらの一つ一つが、企業の知財力を試す試金石となっています。

音商標は、目に見えない資産です。しかし、その「見えない資産」こそが、消費者の心の中で最も鮮明な「像」を結ぶことがあります。今後、さらに多様な音が商標として登録され、私たちの聴覚を通じて新たなブランド体験が提供されていくことでしょう。企業における知財担当者の皆様におかれましては、ぜひ自社の「音」に耳を傾け、そこに埋蔵されているかもしれない知財価値を再発見してみてはいかがでしょうか。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献リスト

https://www.primeworks-ip.com/tmds/804/https://www.aiklaw.co.jp/en/whatsnewip/2024/10/15/5069/https://www.tsukuni.gr.jp/en/info/files/2015/04/New_letter_No.1_2015.pdfhttps://www.yuasa-hara.co.jp/english/lawinfo/1015/https://asiaiplaw.com/section/ip-analysts/are-your-sound-marks-making-a-big-noisehttps://www.j-cast.com/2015/04/21233435.html?p=allhttps://www.jpo.go.jp/e/system/laws/rule/guideline/trademark/document/syouhyoubin/55-01.pdfhttps://www.aiklaw.co.jp/en/whatsnewip/2024/10/15/5069/https://www.jpo.go.jp/e/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/all.pdfhttps://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/document/index/koshinkikan-chui.pdfhttps://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/document/index/koshinkikan-chui.pdf

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