「失った新規性を取り戻せる?」特許のグレースピリオドと申請方法:徹底解説レポート

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はじめに:株式会社IPリッチのライセンス担当です

こんにちは、株式会社IPリッチのライセンス担当です。

研究開発の現場において、「学会発表が終わった後に特許出願の必要性に気づいた」「製品のプレスリリースを打ってしまったが、まだ出願していなかった」というご相談を頻繁にいただきます。原則として、一度世の中に出してしまった技術は「新規性」を失い、特許を取得することはできません。しかし、日本の特許法には、特定の条件下でその公開を「なかったこと(例外)」として扱う救済措置、「新規性喪失の例外(グレースピリオド)」が存在します。

本記事では、2018年の法改正により「6ヶ月」から「1年」に延長されたこの制度の詳細について、要件、申請手続き、そして最も注意すべき「海外出願における致命的なリスク」までを網羅的に解説します。結論から申し上げますと、この制度はあくまで「最後の命綱」であり、安易な利用は推奨されません。特に欧州や中国などへの展開を考えている場合、この制度を利用しても権利化できない可能性が極めて高いためです。本稿が、皆様の貴重な知的財産を守り、将来的な収益化につなげるための確かな指針となれば幸いです。

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特許法における「新規性」の定義とその喪失がもたらす重大な影響

特許制度の大原則として、「新規性(Novelty)」という絶対的な要件が存在します。これは、特許出願の時点で、その発明が「まだ世の中に知られていない新しいもの」でなければならないというルールです。日本の特許法第29条第1項では、出願前に以下のいずれかに該当した発明は、新規性を喪失し、特許を受けることができないと定めています。

  1. 日本国内または外国において公然知られた発明
  2. 日本国内または外国において公然実施された発明(販売など)
  3. 日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明、または電気通信回線(インターネット等)を通じて公衆に利用可能となった発明

つまり、たとえ自分自身の画期的な発明であっても、特許出願をする前に自身のブログで技術詳細を公開したり、学会で発表したり、製品を市場で販売したりした瞬間に、その発明は「公知の技術(Prior Art)」となります。審査官はこの「公知となった事実」を引例として、あなたの特許出願を拒絶します。これを「自己公知」による拒絶と呼びます。研究者や技術者が陥りやすい最大の落とし穴がここにあります。

2018年法改正による「新規性喪失の例外期間」の延長詳細

この厳格な新規性の原則に対し、研究活動や産業発展を阻害しないために設けられているのが、特許法第30条に基づく「新規性喪失の例外」規定です。そして、この制度を利用する上で最も重要な転換点となったのが、2018年(平成30年)の法改正です。

期間が「6ヶ月」から「1年」へ倍増

かつて、日本の特許法における例外期間は「公開日から6ヶ月」でした。しかし、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の締結に伴う法整備の一環として、平成30年6月9日以降の出願については、この期間が「1年」に延長されました。これにより、学会発表や製品発表から出願までの猶予期間が大幅に延び、出願人の利便性が向上しました。

対象となる法域の広がり

この改正は特許法だけでなく、実用新案法や意匠法にも適用されています。したがって、製品デザイン(意匠)を先行して発表してしまった場合でも、公開日から1年以内であれば、新規性喪失の例外規定の適用を受けて意匠登録出願を行うことが可能です。

適用対象となる公開行為の包括性

現在、この例外規定の適用対象となる公開行為は非常に広範囲に認められています。「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知となった発明」であれば、原則として適用可能です。

  • 学会や論文での発表
  • ウェブサイトやSNSでの公開
  • 展示会・見本市への出展
  • プレスリリース、テレビ取材への対応
  • 製品の販売、配布
  • 試験・実験の公開

ただし、特許庁や外国の特許庁が発行する「公報」に掲載されたことによって公知となった場合は、この例外規定の対象外となるため注意が必要です。

例外規定の適用を受けるための厳格な「申請手続き」と要件

「1年以内なら自動的に許される」と誤解されている方がいらっしゃいますが、これは大きな間違いです。この制度はあくまで「申請」に基づき適用されるものであり、出願時に適切な手続きを行わなければ、救済措置を受けることはできません。手続きのミスは致命的であり、後からの補正が認められないケースがほとんどです。

1. 出願時の願書への記載(必須)

特許出願を行う際、願書(特許願)の中に「特許法第30条の適用を受けようとする旨」を明記する必要があります。具体的には、願書の【特記事項】の欄に「特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする特許出願」と記載します。この記載を忘れて出願してしまうと、原則として例外規定の適用を受けることはできません。出願の瞬間に「私は例外規定を使います」と宣言することが不可欠です。

2. 証明書の提出(出願から30日以内)

出願時の宣言に加え、出願日から30日以内に「証明書」を提出しなければなりません。この証明書には、以下の事実を客観的に証明する内容が含まれている必要があります。

  • 公開の事実: どのような行為によって公開されたか(学会発表、ウェブ掲載、販売など)
  • 公開日: 年月日
  • 公開場所: 学会名・会場、ウェブサイトのURL、販売店舗など
  • 公開者: 特許を受ける権利を有する者(またはその許諾を得た者)
  • 公開内容: 公開された技術的内容(論文のコピー、ウェブサイトのスクリーンショット、製品カタログなど)

以前は、学会等の主催者が発行する証明書が必要な場合がありましたが、運用の緩和により、現在は出願人自身が作成した証明書に、客観的な証拠資料を添付する形式で認められています。例えば、ウェブサイトでの公開であれば、公開日時とURLが表示された画面のキャプチャ画像などが証拠となります。

3. 複数の公開行為がある場合の注意点

ここも見落としがちなポイントです。もし、発明をAという展示会で発表し、その翌月にBというウェブサイトにも掲載し、さらにCという学会でも発表したとします。この場合、原則として「最も早い公開日(A)」について証明書を提出すれば足りますが、実務上は「全ての公開行為」について網羅的に証明書を提出することが強く推奨されます。なぜなら、もしAの公開事実と出願発明の内容に差異があり、Bの公開事実の方がより詳細であった場合、Bの公開事実によって新規性が否定されるリスクが残るからです。安全策として、把握している全ての公開事実についてリストアップし、証明書を作成すべきです。

インターネット公知における「証拠保全」の技術的課題

現代において最も一般的な公知形態はインターネットです。しかし、ウェブ情報は容易に変更・削除される性質を持つため、特許庁に対する立証責任を果たすためには、確実な証拠保全が求められます。

  • タイムスタンプの重要性: ウェブサイトのスクリーンショットを撮る際は、単に画面を印刷するだけでなく、そのページが「いつ」公開されていたかを特定できる情報が必要です。投稿日時が明記されているブログ記事などは比較的容易ですが、単なる製品ページなどは更新日時が不明確な場合があります。可能であれば、インターネット・アーカイブ(Wayback Machineなど)に記録が残るようにするか、公証人による事実実験公正証書を作成するなどの対策が必要になるケースもあります。
  • 動画サイトでの公開: YouTubeなどで技術を公開した場合、動画の公開日だけでなく、動画の中で具体的にどのような技術が開示されているかが重要になります。動画の主要なシーンをキャプチャし、説明文を加えた資料を作成する必要があります。

海外出願における致命的な「グレースピリオドの罠」と国際比較

ここからが本レポートの核心部分であり、最も警告を要する内容です。「日本の制度で1年猶予があるから大丈夫」と考えて公開してしまった場合、海外での権利取得が絶望的になる可能性があります。

新規性喪失の例外(グレースピリオド)の制度は、国際的に統一されていません。国によって期間も要件も全く異なります。日本で救済されたとしても、その効力は外国には及びません。

主要国・地域におけるグレースピリオド制度の比較表

国・地域期間適用要件・特徴
日本 (JP)12ヶ月出願時に申し出が必要。証明書提出が必要。あらゆる公開形態が対象。
米国 (US)12ヶ月非常に寛容。発明者自身による公開であれば、特別な手続きなしで先行技術から除外される(宣誓書等は必要)。
韓国 (KR)12ヶ月日本と類似。出願時に主張し、証明書を提出する。
欧州 (EP)なし原則として救済なし。 ここが最大の落とし穴。自己の公開であっても新規性喪失とみなされる。例外は「明らかな職権濫用」や「認定された国際博覧会」のみ(6ヶ月)。
中国 (CN)6ヶ月非常に限定的。「政府が認定した国際展示会」「特定の学術会議」での初公開などに限られる。インターネット公開や販売は救済対象外となる可能性大。

「欧州全滅」のリスクシナリオ

上記の表の通り、欧州(EPO)には実質的なグレースピリオドが存在しません

例えば、日本で画期的な新技術を開発し、学会で発表したとします。その半年後に日本で特許出願を行い、例外規定を適用して無事に特許化されました。その後、ビジネスが拡大し、欧州市場へ進出するためにPCT出願(国際出願)を行って欧州へ移行しました。

しかし、欧州特許庁の審査では、「あなたが日本で行った半年前の学会発表」が先行技術文献として引用されます。欧州では、発明者自身の発表であっても例外扱いされないため、「この発明は出願前に公知であった」として拒絶されます。結果として、日本と米国では特許が取れても、巨大市場である欧州では特許が取れず、模倣品が野放しになるという事態に陥ります。これを防ぐ手段は、「公開する前に出願する」以外にありません

中国市場におけるリスク

中国も同様に厳しい基準を持っています。中国専利法における例外規定は、中国政府が認めた国際展示会や特定の学術会議での発表に限られ、期間も6ヶ月と短いです。自社ウェブサイトでの発表や、通常の商業活動(販売、カタログ配布)による公開は、救済の対象となりません。中国市場での権利化を狙う場合、日本での安易な公開は致命傷となります。

期間徒過後の「権利の回復」と救済措置の限界

万が一、出願から30日以内に証明書を提出し忘れてしまった場合や、そもそも1年の期間を過ぎてしまった場合、もはや打つ手はないのでしょうか?

近年、手続き期間を徒過した場合の救済規定が緩和されています。以前は「正当な理由(天災など)」が必要でしたが、現在は「故意でない(unintentional)」ことが証明できれば、権利が回復される可能性があります。

  • 回復要件: 手続き期間内に手続きができなかったことが「故意によるものでない」こと。
  • 申し立て期間: 期間徒過の理由がなくなった日から2ヶ月以内、かつ期間経過後1年以内。
  • 費用: 回復手数料が必要(高額になる場合があります)。

しかし、この「権利の回復」に頼るのは極めて危険です。まず、回復が認められるかどうかの審査があり、必ずしも認められるとは限りません。また、回復が認められたとしても、その期間中に第三者が善意で技術を実施していた場合、その第三者には「中用権(通常実施権)」が発生する可能性があります。つまり、独占的な権利行使ができなくなるリスクが残るのです。あくまで「30日以内の証明書提出」と「1年以内の出願」を厳守することが基本です。

知財ポートフォリオの毀損と事業への悪影響

特許を取得できないまま技術を公開・販売し続けることには、計り知れない事業リスクが伴います。

1. 模倣品の排除不能と価格競争

特許権がなければ、競合他社が貴社の製品を分解(リバースエンジニアリング)し、全く同じ技術を用いた製品を安価で販売しても、法的に差し止めることができません。先行者利益は一瞬で消え去り、価格競争に巻き込まれ、開発投資の回収が不可能になります。

2. ライセンス収益の機会喪失と企業価値の低下

スタートアップや技術系企業にとって、特許は企業の評価額(バリュエーション)を決定づける重要な資産です。特許があれば、他社へのライセンス供与によってロイヤリティ収入を得ることができますが、特許がなければその道は閉ざされます。投資家やVC(ベンチャーキャピタル)は、技術が法的に保護されているかを厳しくチェックします。「技術はあるが特許はない」状態は、資金調達において著しいマイナス評価となります。

3. 他社による「後出し特許」の脅威(冒認出願のリスクは低いが…)

貴社が公開した技術であれば、本来は他社も特許を取れないはずです(貴社の公開が公知例となるため)。しかし、審査官が貴社の公開事実を見落とした場合、他社に特許が成立してしまう可能性があります。これを無効にするには「無効審判」などの多大なコストと労力を要します。最悪の場合、自社技術であるにもかかわらず、他社から権利行使を受け、事業停止に追い込まれるリスクさえあります。

結論:知財の「収益化」を見据えた戦略的特許管理

本記事で解説してきた通り、特許法第30条の「新規性喪失の例外」は、不測の事態における重要なセーフティネットです。しかし、グローバルビジネスを前提とした現代において、この制度への依存は「欧州・中国市場の放棄」と同義になりかねません。

真に強い知財戦略とは、「例外規定を使わずに済むよう、発表前に出願を完了させる」ことに尽きます。研究開発部門と知財部門が密に連携し、学会発表やプレスリリースのスケジュールから逆算して出願計画を立てる体制が必要です。

そして、苦労して取得した特許は、単に「守りの盾」として保有するだけでなく、「収益を生む資産」として活用すべきです。自社製品に実装する特許だけでなく、研究過程で生まれた周辺特許や、事業転換により使わなくなった休眠特許も、他社にとっては喉から手が出るほど欲しい技術かもしれません。

特許をライセンスアウト(使用許諾)したり、売却したりすることで、新たなキャッシュフローを生み出す「知財の収益化」は、欧米では当たり前の経営戦略です。もし貴社に活用されていない特許があるならば、それは埋蔵金と同じです。ぜひ一度、その価値を市場で問い直してみてください。適切な管理と積極的な活用こそが、技術立国日本の未来を切り拓く鍵となります。

参考文献

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経済産業省 特許庁, “発明の新規性喪失の例外期間が6か月から1年に延長されます”

ユアサハラ法律特許事務所, “発明の新規性喪失の例外期間が6ヶ月から1年に延長”

鎌田特許事務所, “新規性喪失の例外 – 適用対象 実用新案”

特許庁, “実用新案登録出願:考案の新規性喪失の例外の規定の適用出願(刊行物等)”

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Mewburn Ellis, “Grace periods for disclosure of an invention before applying for a patent”

FPA Patent Attorneys, “Generous patent grace period changes in Japan”

公益社団法人日本包装技術協会, “特許法第30条 証明書 記載事項”

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株式会社IPリッチ, “知財 権利化 失敗 損失事例”

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浅村特許事務所, “期間徒過後の救済規定の要件緩和”

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Stanford OTL, “Challenges of Licensing”

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Lumenci, “VC Patent Valuation & Startup Funding”

Eqvista, “Patent Valuation for Startups”

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European Patent Office, “How do you measure patent value?”

(この記事はAIを用いて作成しています。)

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