商標権と著作権の境界線:オセロとリバーシから学ぶ知財戦略の攻防

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

本日は、国民的ボードゲームである「オセロ」と、それによく似た「リバーシ」の違いを題材に、ビジネスにおける知的財産権の重要性について解説します。なぜ「オセロ」という名称は特定の企業しか使えないのか、一方でなぜ同じルールのゲームが「リバーシ」として世の中に溢れているのか。そこには「商標権」と「著作権」という異なる権利の性質と、企業の巧みな知財戦略が隠されています。本記事では、商標が一般名詞化してしまう「普通名称化」のリスクや、ゲームのルールが著作権で保護されない「アイデア・表現二分論」といった法的原則を、判例や歴史的背景を交えて平易に紐解きます。さらに、あえて特許を開放したQRコードの事例なども参照しながら、自社の知的財産をどのように守り、あるいは活用すべきかという経営戦略のヒントを、5000字を超えるボリュームで詳細にお届けします。

現代のビジネスにおいて、自社の技術やブランドを守ることはもちろん、他社の権利を侵害していないかを確認することは経営の生命線です。市場には無数の製品が流通しており、知らず知らずのうちに特許や商標を侵害してしまうリスクは常に潜んでいます。弊社が提供する「特許侵害製品発見サービス」は、こうした見えにくい侵害リスクを専門的な調査によって可視化し、貴社の知財戦略を強力にサポートするソリューションです。競合製品の動向を正確に把握し、ライセンス収入の機会創出や法的リスクの回避に繋げるためにも、ぜひ弊社の専門的なリサーチ力をご活用ください。

目次

オセロとリバーシの歴史的背景と商標権の所在

「黒と白の石を交互に挟んでひっくり返す」。このシンプルなルールのゲームを、皆さんは普段何と呼んでいるでしょうか。多くの日本人は「オセロ」と答えるでしょう。しかし、スマートフォンアプリのストアや海外のゲームサイトを見ると、「リバーシ(Reversi)」という名称が頻繁に使われていることに気づきます。実は、この二つの名称の使い分けには、知的財産権の一つである「商標権」が深く関わっています。

19世紀イギリスで誕生したリバーシの起源

「リバーシ」というゲームの起源は古く、19世紀後半のイギリスにまで遡ります。記録によれば、1883年頃、ルイス・ウォーターマン(Lewis Waterman)とジョン・モレット(John W. Mollett)という二人のイギリス人が、それぞれ「自分が考案者だ」と主張して論争になったという歴史があります。当時のリバーシは、現在のオセロとは異なり、盤面の初期配置が決まっておらず、プレイヤーが交互に最初の4手を打つスタイルでした。また、使用する石の数が決まっていたり、パスのルールが異なっていたりと、細かい部分で差異がありました。

重要なのは、「リバーシ」という名称自体は、100年以上前から存在していたゲームの一般的名称(パブリックドメインに近い存在)であり、特定の企業が独占する登録商標ではないという点です。そのため、現代のゲーム開発会社や個人プログラマーは、商標権の侵害を避けるために、あえて「リバーシ」という名前を使用して類似のゲームをリリースしているのです。

日本発の「オセロ」と登録商標による保護

一方、「オセロ(Othello)」は日本生まれのボードゲームです。茨城県出身の長谷川五郎氏が、戦後間もない頃に牛乳瓶のふたを使って遊んでいたゲームを原型とし、1973年に当時のツクダオリジナル(現在のメガハウス)から商品化されました。

「オセロ」というネーミングは、シェイクスピアの戯曲『オセロ』に由来しています。黒人の将軍オセロと白人の妻デズデモーナを中心とした物語の中で、敵味方がめまぐるしく寝返る様子を、石の色が次々と変わるゲーム性になぞらえて長谷川氏の父(英文学者)が命名しました。

ここでの決定的な違いは、「オセロ」および「Othello」は、株式会社メガハウスの登録商標であるということです。商標権とは、自社の商品やサービスを他社のものと区別するための「目印(マーク)」を独占的に使用できる権利です。したがって、メガハウス社の許諾を得ていない第三者が、勝手に「オセロ」という名前をつけてゲームを販売したり、アプリを配信したりすることは商標権の侵害(違法行為)となります。私たちが普段、何気なく「オセロやろうぜ」と言って遊んでいるアプリが、実は「リバーシ」という名前になっているのは、この法的な理由によるものなのです。

ルールにおける微細な差異とブランド価値

商標だけでなく、公式なルールにおいてもオセロとリバーシには違いがあります。日本オセロ連盟が定める公式ルールでは、ゲーム開始時に盤面中央の4マスに白と黒の石を交差(クロス)させて配置することが義務付けられています。これは、リバーシの「自由配置」ルールだと、序盤の展開によって勝敗が偏りやすくなるという課題を解決するために、長谷川氏が考案した改良点です。

しかし、現在世に出回っている多くの「リバーシ」アプリは、実際にはこの「オセロ方式(クロス配置)」のルールを採用していることがほとんどです。つまり、中身はオセロとほぼ同じでありながら、名前だけをリバーシにしているケースが大半です。それでも商標権侵害にならないのは、後述する「ゲームルールの著作権」の問題が関係していますが、メガハウス社としては、「オセロ」というブランドが粗悪な類似品と混同されないよう、公式大会の開催や品質管理を通じてブランド価値の維持に努めています。

商標の普通名称化というリスクとその対策

オセロのように、特定の商品名がそのカテゴリー全体を指す代名詞として定着することは、マーケティングの観点からは大成功と言えます。しかし、知財管理の観点からは「普通名称化(Genericide)」という非常に深刻なリスクを孕んでいます。

普通名称化とは何か

商標の普通名称化とは、元々は特定の企業の商品を指す登録商標であったものが、あまりにも有名になり、世間一般でその種類の商品全体を指す言葉として使われるようになった結果、商標としての識別力(自社と他社を区別する力)を失ってしまう現象です。一度普通名称化してしまうと、商標権の効力が及ばなくなり、誰でもその名称を自由に使用できるようになってしまいます。つまり、長年かけて築き上げたブランドの独占権を失うことを意味します。

過去には、以下のような著名な名称が普通名称化した、あるいは商標としての効力を失った事例があります。

  • エスカレーター (Escalator): 元々はアメリカのオーチス・エレベータ社の登録商標でしたが、自動階段全体を指す言葉として広く定着し、権利が消滅しました。
  • ホッチキス (Hotchkiss): 日本ではステープラーの代名詞ですが、元々はE.H.ホッチキス社の社名および商標でした。
  • 正露丸: 複数の製薬会社が製造販売していますが、かつての商標権争いの中で、「正露丸」は一般的な薬品名(普通名称)であるとの判決が下され、一社独占の権利ではなくなりました。
  • 招福巻: 節分の巻き寿司として知られる名称ですが、ある寿司店が商標登録していたにもかかわらず、多くのスーパーなどが一般的に使用するようになったため、裁判で「普通名称化している」と判断され、権利行使が認められなかった事例があります。

「オセロ」を守るための企業の努力

メガハウス社にとって、「オセロ」が「リバーシ形式のボードゲーム」の普通名称になってしまうことは、絶対に避けなければならない事態です。もし「オセロ」が普通名称化してしまえば、他社が堂々と「○○社製オセロ」として商品を販売できるようになり、ライセンスビジネスの根幹が崩れてしまうからです。

そのため、権利者は以下のような対策を徹底して行っています。

  1. 登録商標マークの明示: 商品パッケージや広告、ウェブサイトにおいて、「オセロは登録商標です」と明記し、これが一般名詞ではないことを常に消費者に認識させています。
  2. 不適切な使用への監視: メディアや他社が、単なるリバーシゲームを安易に「オセロ」と呼称した場合、商標権の侵害であるとして訂正を求めたり、警告を行ったりすることがあります。
  3. ブランドの品質維持: 公認の商品にのみ「オセロ」の名称使用を許可し、「本物のオセロ」という品質とブランドイメージを一貫して保ち続けています。

このように、商標権は「取ったら終わり」ではなく、その言葉が一般名詞化しないように常に管理し、守り続けなければならない権利なのです。

ゲームルールと著作権の境界線:アイデア・表現二分論

ここで一つの疑問が浮かびます。「リバーシ」を作っている会社は、名前さえ変えれば、オセロと全く同じルールのゲームを販売しても良いのでしょうか? メガハウス社は、ルールの模倣に対して著作権侵害を主張できないのでしょうか?

結論から言えば、ゲームのルールそのものを真似ることは、原則として著作権侵害にはなりません。ここには、著作権法の根本原則である「アイデア・表現二分論」が大きく関わっています。

アイデアは保護されず、表現が保護される

著作権法において保護されるのは、思想や感情を創作的に「表現したもの」に限られます。その裏返しとして、表現の根底にある「アイデア(手法、ルール、解法、データ)」そのものは著作権の保護対象にはなりません。

ゲームにおいて「ルール」はアイデアに該当します。「8×8の盤面を使う」「黒と白の石を交互に置く」「挟んだら裏返す」といったルール自体は、誰でも思いつくことができる抽象的な概念、あるいは古くからある共有の知識であり、特定の誰かが独占すべきではないと考えられています。もしゲームのルール自体に強力な著作権を認めてしまうと、後発の開発者は「格闘ゲーム」や「パズルゲーム」といったジャンルの作品を作ることができなくなり、文化や産業の発展が阻害されてしまうからです。

したがって、オセロのルールをそのまま採用して、独自のグラフィック、独自のBGM、独自のプログラムコードで「リバーシゲーム」を作ることは、著作権法上は適法と解釈されます。

判例に見るゲーム著作権の限界

日本の裁判所も、ゲームのルールやシステム自体への著作権保護には非常に慎重な姿勢を示しています。いくつかの有名な判例を見てみましょう。

  • 三国志III事件(システム改変の是非):ゲームメーカーの光栄(現・コーエーテクモゲームス)が、自社のシミュレーションゲーム「三国志III」のパラメータ(武将の能力値など)を改変するツールを販売した出版社を訴えた事件です。この裁判では、パラメータの数値やデータそのものが著作物といえるかが争点の一つとなりました。裁判所は、パラメータの数値は「データ」や「ルール」の一部に過ぎず、思想感情を創作的に表現したものではないとして、これらに対する著作物性を否定する判断を下しました(ただし、ストーリーの改変などが著作者人格権の侵害となる可能性は残されています)。
  • 釣りゲーム事件(GREE vs DeNA):ソーシャルゲーム大手のグリーが、DeNAの釣りゲームが自社のゲームに酷似しているとして、著作権侵害による差止めを求めた事件です(釣りゲームタウン2事件)。知財高裁は、釣りという実際の挙動をゲーム化する際に必然的に似てしまう部分(魚を引き寄せる動作、釣り針を垂らす画面構成など)や、ありふれた表現については創作性を認めず、著作権侵害(翻案権侵害)には当たらないとの判決を下しました。

これは「ありふれた表現(Scènes à faire)」の法理とも呼ばれ、特定のジャンルのゲームを作る上で避けて通れない表現上の類似は許容されるという考え方です。つまり、「リバーシを作るなら、緑の盤面に黒白の石になるのは当然だ」という主張が通りやすく、単に見た目が似ているだけでは侵害を問うのが難しいのです。

侵害を立証するには、キャラクターの絵が完全にトレースされている、BGMがコピーされている、ソースコードが盗用されている、あるいは具体的かつ独自性の高いストーリー展開が模倣されているなど、具体的な「表現」のデッドコピーであることを示す必要があります。

知財戦略の攻めと守り:オープン・クローズ戦略

オセロのように商標権を厳格に行使してブランドを守る「クローズド」な戦略がある一方で、あえて権利を開放することで市場そのものを拡大させる「オープン」な戦略も存在します。その代表例が、皆さんも日常的に利用している「QRコード」です。

デンソーウェーブのQRコード戦略

QRコードは、株式会社デンソーウェーブが1994年に開発した二次元コードですが、現在世界中で自由に、しかも無償で使われています。これはデンソーウェーブが意図的に行った「オープン&クローズ戦略」の成功例として知られています。

  1. 特許のオープン化(普及の促進):デンソーウェーブはQRコードに関する特許権を保有していますが、JIS規格やISO規格に準拠した標準的なQRコードについては「特許権を行使しない」と宣言しました。これにより、企業や個人はライセンス料を支払うことなく安心してQRコードを利用できる環境が整い、世界的な爆発的普及(デファクトスタンダード化)に繋がりました。
  2. 商標権と派生技術のクローズ化(利益とコントロールの確保):一方で、「QRコード」という名称はデンソーウェーブの登録商標です。これにより、「QRコード」というブランドの信用を守り、粗悪な規格外のコードが「QRコード」を名乗ることを防いでいます。さらに、データの秘匿性を持たせた「SQRC」などの進化版技術や、専用の読み取り機器については特許やノウハウをクローズにし、そこでしっかりと収益を上げるという二段構えのビジネスモデルを構築しています。

オセロとリバーシの共存関係

オセロの場合も、見方を変えれば「リバーシ」というパブリックドメイン(公有)の領域が存在することで、ゲーム自体の認知度が底上げされている側面があります。もしメガハウス社が、類似のゲームルールそのものを特許等で独占し、他社を完全に排除しようとしていたら(仮に特許が取れたとして)、ここまで「オセロ/リバーシ」というゲームジャンルが世界中に普及し、スタンダードな遊びとして定着することはなかったかもしれません。

「オセロ」という最高品質のブランド(登録商標)と、誰もが参入できる「リバーシ」という広い裾野。この二つが共存している現状は、意図的か否かに関わらず、ジャンル全体を活性化させるエコシステムとして機能しています。リバーシでルールを覚えたユーザーが、やがて「公式のオセロ大会に出たい」「本物のオセロ盤が欲しい」と流れてくる動線ができているとも言えるでしょう。

まとめ:知財リスクを正しく理解し、ビジネスに活かす

本記事では、オセロとリバーシの違いを起点に、商標の普通名称化リスク、ゲームルールの著作権、そしてオープン・クローズ戦略について解説しました。

  • 商標は強力な武器だが、管理が必要: 「オセロ」のように登録商標を持つことは、競合との差別化に不可欠ですが、「ホッチキス」や「エスカレーター」の例が示すように、普通名称化を防ぐための継続的な努力が必要です。
  • ルールは共有財産、表現は私有財産: ゲームのルール自体は著作権で独占できません。他社の優れたアイデアやシステムを参考にしつつ、いかに独自の「表現」で付加価値をつけるかが、ゲーム開発やサービス開発の鍵となります。
  • 戦略的な権利行使: 権利をガチガチに守るだけが正解ではありません。QRコードのように、一部を開放して市場を作り、コアとなる部分で収益を上げる戦略も有効です。

知的財産権は、侵害すれば多額の賠償金や差止請求を受けるリスク要因であると同時に、自社の利益を最大化するための最強の資産でもあります。特に、自社製品が市場で類似品に埋もれないようにするため、あるいは他社の権利を知らずに踏んでしまわないために、知財情報の正確な把握は現代の経営課題そのものです。

私たち株式会社IPリッチは、高度なリサーチ技術で貴社の知財リスクとチャンスを可視化します。市場に潜む特許侵害の可能性を洗い出し、攻めと守りの両面から貴社のビジネスをサポートいたします。知財に関するお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献

  1. オセロとリバーシの起源. Othello Brasil
  2. オセロの歴史. British Othello Federation
  3. なぜオセロは時々「リバーシ」と呼ばれるのか?. World Othello Federation
  4. オセロニュース:リバーシとの違い. World Othello Federation
  5. オセロ誕生の秘密 | オセロ公式サイト. 株式会社メガハウス
  6. THE Othello -ジ オセロ- 商品情報. 株式会社メガハウス
  7. OTHELLO Trademark Details. Justia Trademarks
  8. Othello Trademark India. IndiaFilings
  9. オセロとリバーシのルールの違い. Masters of Games
  10. リバーシとオセロ:2つの異なるゲーム. Bonaludo
  11. 模倣品への対策. 株式会社メガハウス
  12. 登録商標の普通名称化とは?具体例と防止策. 弁理士による実務と手続き解説ブログ
  13. 商標の普通名称化について. 日本ネーミング・リサーチ株式会社 ニュースレター
  14. 招福巻事件と普通名称化. 日本ネーミング・リサーチ株式会社
  15. 商標の普通名称化事例. 日本ネーミング・リサーチ株式会社
  16. 判例ニュース 平成7年12月号. 一般財団法人ソフトウェア情報センター
  17. 日米著作権法の比較. 一般財団法人ソフトウェア情報センター
  18. ときめきメモリアル事件・三国志III事件判決. 明治大学法学部
  19. 著作権侵害差止等請求控訴事件(釣りゲームタウン2). 鈴木正次特許事務所
  20. QRコード開発秘話. 知財図鑑
  21. 進化型QRコード SQRC. 知財図鑑

(この記事はAIを用いて作成しています。)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次