「管理不十分な作品」を使える新制度:著作権法の未管理作品裁定制度について

はじめに:株式会社IPリッチよりご挨拶
株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、2026年(令和8年)春頃からの本格運用が予定されている、改正著作権法における「未管理公表著作物等利用制度(未管理著作物裁定制度)」について、その詳細と実務への影響を徹底的に解説します。これまで、過去のコンテンツを利用したくても権利者が不明であったり、連絡がつかなかったりして利用を断念せざるを得なかったケースは数多く存在しました。今回の法改正により、一定の手続きと補償金の供託を行うことで、これらの「眠れる著作物」を適法かつ円滑にビジネス活用できる道が拓かれます。新制度の仕組み、要件、そして企業が準備すべき事項について、専門的な視点から平易な言葉で紐解いていきます。
知的財産の収益化と人材採用について
本題に入る前に、現代のビジネスにおける知的財産の重要性について少し触れておきたいと思います。近年、企業が保有する特許や著作権といった「知的財産(知財)」は、単に権利として保有するだけでなく、積極的に活用して収益を生み出す「知財の収益化」が経営の重要課題となっています。例えば、自社で実施していない休眠特許を他社にライセンスしたり、知財を担保に資金調達を行う「知財ファイナンス」といった手法が注目されています。著作権においても同様で、過去の資産をアーカイブ化や復刻版として再活用することは、新たな収益源の創出に直結します。このように、法務部門の枠を超えて経営戦略として知財を捉える視点が不可欠となっています。
現在、株式会社IPリッチでは、こうした知財活用を推進できる優秀な知財人材を積極的に募集している企業様を支援しています。知財のスペシャリストを採用したい、あるいは知財戦略を強化したいとお考えの事業者の皆様は、ぜひ完全無料の求人プラットフォーム「PatentRevenue」にご登録ください。知財に特化した人材とのマッチングを通じて、貴社のビジネスを加速させるお手伝いをいたします。
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令和5年著作権法改正の背景とデジタルトランスフォーメーション(DX)
今回の法改正の根底にあるのは、急速に進展するデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応です。インターネットやSNSの普及により、誰もが簡単にコンテンツを創作・発信できる「一億総クリエイター時代」が到来しました。その一方で、過去に制作された膨大な数の著作物が、デジタルアーカイブや復刻、あるいは二次創作の素材としての利用ニーズが高まっているにもかかわらず、権利処理の複雑さがボトルネックとなり、死蔵されてしまうという課題が浮き彫りになっていました。
従来の「裁定制度」が抱えていた課題
著作権法には従来から、著作権者が不明の場合に文化庁長官の裁定を受けることで著作物を利用できる「権利者不明等の場合の裁定制度」が存在しました。しかし、この制度を利用するためには、権利者を捜索するために「相当な努力」を行ったことを証明する必要があり、そのハードルは決して低いものではありませんでした。例えば、関係者への聞き取り調査や、新聞広告への掲載など、多大な時間とコストを要する手続きが求められていたのです。
また、権利者の連絡先が不明な場合だけでなく、権利者が分かっていてもその意思確認が困難なケース(例えば、企業が解散して権利の承継先が曖昧な場合や、個人クリエイターが活動を停止して連絡がつかない場合など)には十分に対応しきれていないという側面がありました。
令和5年の改正法では、こうした課題を解決し、著作物の利用を円滑化するために、新たなアプローチとして「未管理公表著作物等利用制度」が創設されました。これは、文化審議会著作権文化会法制度小委員会がまとめた報告書を踏まえた措置であり、デジタル時代における著作物の適正な利用と保護のバランスを再定義する重要な改革と言えます。
「未管理公表著作物」とは何か:定義と該当要件
新制度の対象となる「未管理公表著作物等」とは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。法律上の定義を噛み砕くと、以下の2つの条件の「いずれにも該当しない」公表された著作物を指します。
- 著作権等管理事業者による管理が行われているものJASRAC(日本音楽著作権協会)や日本文藝家協会などの集中管理団体(CMO)によって管理されている著作物は、通常の手続きで利用許諾を得ることが可能であるため、この制度の対象外となります。
- 著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報の公表がされているもの著作権者が自身のウェブサイトやSNSのプロフィール欄、あるいは作品自体に「連絡先」や「利用ガイドライン」を明記している場合です。これらがあれば利用者は直接コンタクトを取ることができるため、新制度を使う必要はありません。
「未管理」と判断される具体的なケース
つまり、逆に言えば、「管理団体に登録されておらず」かつ「連絡先等の窓口が明示されていない」著作物が、この制度のターゲットである「未管理公表著作物」となります。例えば、過去の雑誌記事、連絡先の記載がない個人のブログ記事、作者不明のネット上のイラスト、解散したゲーム会社の古いタイトルなどがこれに該当する可能性が高いでしょう。
重要なポイントは、著作者の名前(氏名)が表示されていても、連絡先が分からなければ「未管理」とみなされる可能性があるという点です。著作者名が分かっていても、その人物に辿り着くための手段(メールアドレス、問い合わせフォーム、SNSアカウントなど)が明示されていなければ、第三者にとっては利用許諾を求める術がありません。このような場合、利用者は新制度を利用して、裁定申請を行うことが可能になります。これは、従来の「権利者不明(Orphan Works)」の概念を拡張し、「権利者は存在するかもしれないが、アクセスができない(Unmanaged Works)」状態を救済するための規定と言えます。
新しい裁定制度の仕組みと利用手順
この新制度は、2026年(令和8年)4月1日からの施行が予定されています。利用者が実際にこの制度を使って著作物を利用するまでの流れは、概ね以下のようになります。従来の制度と比較して、特に最初の「検索」プロセスがシステム化されている点が大きな特徴です。
1. 集中化された「分野横断権利情報検索システム」での検索
まず、利用者は利用したい著作物が本当に「未管理」であるかを確認する必要があります。これまでは、権利者を探すために国会図書館や各種データベース、電話帳、SNSなどあらゆる手段を駆使して「相当な努力」を積み重ねる必要がありました。
新制度の運用開始に合わせて、文化庁は「分野横断権利情報検索システム」の構築を進めています。これは、出版、音楽、美術、映像など、異なる分野に分散している権利情報データベースを横断的に検索できる「メタ検索」システムです。利用者は、まずこのシステムを使って検索を行います。このシステムで検索しても権利者情報や連絡先が見つからない場合、それが「未管理であること」の強力な証拠(疎明資料)となり、利用者の負担が大幅に軽減されることが期待されています。
2. 文化庁長官による裁定の申請
検索を行っても権利者と連絡が取れない場合、利用者は文化庁長官に対して裁定の申請を行います。この申請において、利用者は「文化庁長官が定める措置(検索システムでの検索など)」を行ったことを示す必要があります。従来のような煩雑な調査報告書に代わり、検索結果のログなどが主要な根拠資料になることが予想されます。
3. 補償金の供託と利用開始
裁定が下りると、利用者は「通常の使用料に相当する額」の補償金を供託することで、著作物を利用できるようになります。ここで重要なのは、この利用には「期間制限」があるということです。従来の「不明裁定」では一度裁定を受ければ原則として使い続けることができましたが、新制度はあくまで「権利者が見つかるまでの暫定的な利用」を認めるものです。利用可能期間は最大で3年間と定められており、必要に応じて更新手続きを行う形式となります。
4. 指定補償金管理機関の役割
今回の改正では、事務手続きを効率化するために「指定補償金管理機関」という新たな組織の設置が可能になりました。文化庁長官の指定を受けた一般社団法人や財団法人が、補償金の受け入れや管理、そして後に権利者が現れた場合の支払い業務などを代行します。利用者はこの機関に対して補償金を支払うことで手続きを完了できるため、利便性が向上します。また、オンラインでの手続きも想定されており、迅速な処理が可能になると見込まれています。
著作権者が現れた場合の対応と「事後アウト」の仕組み
この制度の最大の特徴であり、権利者保護の要となるのが、利用開始後に著作権者が現れた場合の取り扱いです。もし、未管理だと思って利用していた著作物の権利者から連絡があった場合、権利者は裁定の取り消しを求めることができます。これを実務上「事後アウト(オプトアウト)」の仕組みと呼ぶこともあります。
権利者が名乗り出た場合、以下のプロセスが発生します。
- 裁定の取消請求: 権利者は文化庁に対して裁定の取り消しを求めます。
- 利用の停止または協議: 裁定が取り消されると、原則としてその後の利用はできなくなります。ただし、利用者が権利者と直接交渉し、合意に至れば、通常の利用許諾契約(ライセンス契約)に切り替えて利用を継続することも可能です。
- 補償金の受領: 権利者は、それまでの利用期間に応じた補償金(供託されていたお金)を受け取ることができます。これにより、権利者の経済的利益は担保されます。
この仕組みは、利用者にとっては「とりあえずビジネスをスタートできる」というメリットがあり、権利者にとっては「知らない間に使われても、後から止めることができるし、対価も回収できる」というセーフティネットとして機能します。
2026年施行に向けた準備と今後の展望
現在、文化庁では2026年の施行に向けて、政省令の整備やシステムの開発、ガイドラインの策定などを急ピッチで進めています。特に注力されているのが、令和6年度末までに公表予定の4本の調査研究報告書に関連する事項です。
分野横断権利情報検索システムの設計
制度の根幹となる検索システムは、利用者が著作物の種類や利用方法に応じて、確認すべきデータベースを効率的に検索できるように設計されています。具体的には、出版、音楽、美術などの既存データベースと連携し、横断的に情報を検索できる「メタ検索」型の構造が採用される予定です。また、利用者ニーズに基づいたUI設計や、デジタル・ガバメント標準ガイドラインに準拠したセキュリティ対策も盛り込まれています。
補償金額の算定基準とAI活用
利用者が支払うべき「通常の使用料相当額」をどのように算出するかについても、詳細な検討が進められています。文化庁は「裁定補償金額シミュレーションシステム」の開発を進めており、過去の裁定事例や業界ごとの使用料規定、市場価格などを学習したAIを用いて、妥当な金額を迅速に算出できる仕組みを目指しています。これにより、利用者自身が事前にコストを見積もることが可能になり、事業計画が立てやすくなります。
オンライン手続きの導入
申請から裁定、補償金の支払いまでをオンラインで完結できるフローの構築も目指されています。現行の制度では郵送や窓口での手続きが中心でしたが、新制度ではマイナンバーカード等による本人確認と連携したオンライン申請システムが導入される見込みです。これにより、申請から利用開始までのリードタイムが大幅に短縮されることが期待されます。
登録確認機関と指定補償金管理機関の連携
制度の実務を担う「登録確認機関」と「指定補償金管理機関」の役割分担と連携体制についても調査が進んでいます。登録確認機関は、利用者の検索結果を確認し、本当に未管理であるかをチェックする役割を担います。一方、指定補償金管理機関は補償金の管理を行います。これら機関と文化庁がシステム上で連携することで、スムーズな運用体制が構築されます。
権利者側・クリエイター側が知っておくべき「自衛策」
ここまで利用者(企業側)の視点で解説してきましたが、権利者(クリエイター)の視点では、自分の作品が意図せず「未管理著作物」として扱われ、他人に利用されてしまうリスクがあるとも言えます。これを防ぐためには、以下の3つの対策が有効です。
1. 連絡先と利用ルールの明示
最も確実な方法は、作品を発表する際や自身のウェブサイト、SNSのプロフィール欄に、明確な連絡先を記載することです。メールアドレスや問い合わせフォームへのリンクがあるだけで、「未管理」の要件から外れます。また、「無断転載禁止」や「非営利なら自由に使ってよい」といった利用ルール(意思表示)を明確にしておくことも重要です。文化庁長官が定める措置においても、こうした意思表示がある場合は「未管理」とはみなされません。
2. 権利情報データベースへの登録
現在構築中の「分野横断権利情報検索システム」や、「個人クリエイター等権利情報登録システム(仮称)」など、公的なデータベースや業界団体のデータベースに自身の情報を登録しておくことも有効です。これにより、利用者が検索した際に情報がヒットするため、勝手に裁定申請されることを防げます。特に、個人クリエイター向けの登録システムについては、令和5年から継続事業として調査研究が進められています。
3. エゴサーチと自動アラートの活用
自分の名前や作品名で定期的に検索(エゴサーチ)を行ったり、検索エンジンのアラート機能を活用したりして、自分の作品が話題になっていないか、無断で利用されていないかをチェックすることも、デジタル時代の自衛策として推奨されます。もし無断で利用されていたとしても、新制度の手続きを経ている場合は、裁定の取り消しを求めることでコントロールを取り戻すことができます。
まとめ:ビジネスチャンスとしての新制度活用
今回の著作権法改正による「未管理公表著作物等利用制度」は、過去の膨大な文化的資産を現代のビジネスに蘇らせるための強力なツールとなります。
- 利用者にとって: 権利者が見つからないリスクをヘッジしながら、適法にコンテンツを利用できる道が開かれます。特に、絶版書籍の電子化、過去の映像作品の配信、レトロゲームの復刻などにおいて、大きな威力を発揮するでしょう。
- 権利者にとって: 自身の作品が埋もれることなく活用される機会が増え、適切な対価を得られる可能性が高まります。ただし、意図しない利用を防ぐための意思表示はこれまで以上に重要になります。
- 社会全体にとって: 文化の継承と新たな創作のサイクルが促進されます。
私たちIPリッチは、知財のプロフェッショナルとして、この新制度の動向を注視し続けています。企業の皆様におかれましても、単に「法律が変わった」と捉えるのではなく、「新しいビジネスの種が生まれた」と捉え、積極的な知財活用戦略を検討してみてはいかがでしょうか。知財の収益化やライセンス契約に関するご相談は、いつでもお待ちしております。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- SPRING法律事務所. “令和5年著作権法改正~「未管理公表著作物等利用制度」の創設等~”. https://spring-partners.com/topics/news/2817/
- e-Govパブリック・コメント. “令和5年著作権法改正により創設された未管理著作物裁定制度について”. https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000291272
- 文化庁. “未管理著作物裁定制度について(PR誌「ぶんかる」)”. https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/news/news_019.html
- FREENANCE byGMO. “【著作権法改正】未管理公表著作物の利用制度とは?クリエイターへの影響を解説”. https://freenance.net/media/legal/41758/
- 文化庁. “著作権者不明等の場合の裁定制度における「相当な努力」の要件緩和について(PDF)”. https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/pdf/94199701_01.pdf
- 国立国会図書館. “未管理公表著作物等の利用に関する裁定制度の創設等”. https://current.ndl.go.jp/car/268597
- 名隅特許事務所. “【文化庁】未管理著作物裁定制度施行へ向けての最新動向と文化庁による関連調査研究”. https://www.nazumi-office.com/post/%E3%80%90%E6%96%87%E5%8C%96%E5%BA%81%E3%80%91%E6%9C%AA%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%91%97%E4%BD%9C%E7%89%A9%E8%A3%81%E5%AE%9A%E5%88%B6%E5%BA%A6%E6%96%BD%E8%A1%8C%E3%81%B8%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%9C%80%E6%96%B0%E5%8B%95%E5%90%91%E3%81%A8%E6%96%87%E5%8C%96%E5%BA%81%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E9%96%A2%E9%80%A3%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%A0%94%E7%A9%B6

