日本における色彩のみからなる商標の法的保護とブランド戦略:2015年改正以降の登録事例及び拒絶事例に関する包括的分析

目次

1. 序論:日本の商標制度におけるパラダイムシフトと色彩商標の現在地

1.1 知的財産権制度の歴史的転換点:2015年商標法改正

2015年(平成27年)4月1日、日本の知的財産権法制において画期的な改正商標法が施行された。この改正は、企業のブランド戦略の多様化とグローバル化に対応するため、従来保護の対象外であった「新しいタイプの商標」―具体的には「色彩のみからなる商標」、「音商標」、「位置商標」、「動き商標」、「ホログラム商標」―を新たに保護対象として追加するものであった 。   

この法改正以前、日本の商標法は文字、図形、記号、立体的形状、またはこれらの結合(以下「伝統的商標」)のみを保護の対象としていた。しかし、マーケティング手法の高度化に伴い、消費者は商品名やロゴマークといった言語的・視覚的記号だけでなく、特定の色使いやジングル(音)、店舗における配色の配置といった非言語的要素によっても商品やサービスの出所を識別するようになっていた。諸外国、特に米国や欧州においては既にこれらの非伝統的商標の保護が進んでおり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉などの国際的な知的財産保護の調和(ハーモナイゼーション)の観点からも、日本における制度導入は不可避の課題であったと言える。

1.2 色彩のみからなる商標の定義と特異性

「色彩のみからなる商標」とは、図形や文字といった輪郭を伴わず、単一の色彩または複数の色彩の組合せそのものが、商品やサービスの識別標識として機能する場合に認められる権利である 。 従来の「色彩を付した図形商標」が、あくまで「特定の形状」に色が塗られた状態を保護するものであったのに対し、色彩のみからなる商標は、形状の制約を受けない点で画期的である。例えば、商品の包装紙、看板、広告、あるいは商品そのもののボディカラーなど、その色が使用される媒体の形状が変わっても、色彩の同一性が保たれている限り権利が及ぶ可能性がある 。   

この「形状に依存しない」という性質は、ブランド戦略上、極めて強力な独占権を意味する。特定の色=自社ブランドという認知を法的に固定化できれば、競合他社は類似の商品カテゴリーにおいてその色を使用することができなくなり、棚割りにおける視覚的優位性を独占することが可能となるからである 。   

1.3 登録への「狭き門」:2022年までの登録状況概観

しかし、制度導入から数年が経過した現在、色彩のみからなる商標の登録がいかに困難であるかが浮き彫りになっている。2015年の受付開始直後には数百件単位の出願が殺到したものの、2022年時点において登録に至ったのはわずか9件に過ぎない 。   

この極端に低い登録率の背景には、色彩という万人が共有すべき資源を特定の一企業に独占させることへの慎重論(独占適応性の問題)と、色彩そのものが本来的に有する識別力の低さ(自他商品識別力の欠如)という二重の壁が存在する。特許庁および裁判所は、色彩商標の登録に対して極めて厳格な審査基準を設けており、単にその色を使用しているという事実だけでは登録を認めない姿勢を貫いている。

本レポートでは、この希少な登録事例(トンボ鉛筆、セブン‐イレブン、ファミリーマート、三菱鉛筆、UCC上島珈琲、日清食品等)と、登録を拒絶された事例(クリスチャン・ルブタン、日立建機等)を詳細に比較分析し、日本における色彩商標の法的要件の深層と、企業が取るべき高度なブランド戦略について論じる。


2. 法的枠組みと審査基準の深層分析:なぜ登録は困難なのか

色彩商標の登録可否を分ける最大の法的論点は、商標法第3条(自他商品識別力)の解釈にある。ここでは、色彩商標が直面する法的障壁のメカニズムを詳述する。

2.1 原則としての拒絶:商標法第3条第1項第3号の壁

商標法第3条第1項は、登録を受けることができない商標の類型を列挙している。その中でも第3号は、以下のように規定している。

「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」

特許庁の審査基準において、色彩は原則として商品の「品質」や「特徴」を表示するもの、あるいは単なる装飾として捉えられる 。 例えば、冷蔵庫やエアコンにおける「白」は清潔感を、消火器における「赤」は危険や注意を、抹茶製品における「緑」は原材料を想起させる一般的な表現手段である。これらは商品の機能や性質を説明するための記述的な表示に過ぎず、特定企業の出所を表示する識別力(Distinctiveness)を有しないとされる。   

さらに、色彩は産業界において誰もが自由に使用できるべき「共有財産(Public Domain)」としての性質が強く、特定人による独占を認めることは、後発企業の参入や自由な商品開発を阻害する(競争阻害性)という政策的な判断も強く働く 。 したがって、単一の色彩であれ、色彩の組合せであれ、出願された色彩商標はまず、この第3条第1項第3号に該当するとして、識別力なしと判断されるのが原則的な運用である。   

2.2 例外的な救済措置:商標法第3条第2項「使用による識別力」

では、なぜ9件の登録が可能となったのか。その唯一の突破口が商標法第3条第2項である。同項は、第1項各号に該当し本来登録できない商標であっても、以下の要件を満たす場合には例外的に登録を認めると定めている。

「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」

これは法学上「獲得された識別力(Secondary Meaning)」と呼ばれる概念である。本来はありふれた色彩であっても、長期間にわたり、独占的に、かつ広範囲に広告宣伝や販売活動に使用された結果、消費者がその色を見ただけで「これは〇〇社の製品である」と即座に認識できる状態に至っていれば、商標としての機能を果たしていると事後的に認定されるのである 。   

色彩商標の審査においては、この「使用による識別力」の立証責任が出願人に課される。特許庁の審査便覧や過去の判例によれば、立証には以下のような客観的証拠の積み上げが必要となる 。   

証拠の類型具体的内容と評価基準
使用期間原則として数十年単位の継続使用が必要。短期間での達成は極めて困難。
使用地域日本全国での周知性が求められる。一部地域のみでは不十分。
使用数量・売上圧倒的な市場シェアや販売実績(累計販売数など)。
広告宣伝規模テレビCM、新聞広告、ネット広告等の投下量とその継続性。
使用態様文字や図形と結合せず、色彩そのものが独立して識別標識として機能しているか。
消費者調査需要者を対象としたアンケート調査の結果(純粋想起・助成想起率)。

登録された9件は、いずれもこれらの証拠を段ボール箱数箱分に及ぶほど大量に提出し、特許庁の審査官を説得した稀有な事例であると言える。


3. 登録事例の詳細分析:成功の要因とブランドの歴史(The Magnificent Nine)

厳格な審査を通過し、2022年までに登録された主要な事例について、その成功要因、配色構成、および背景にあるブランド戦略を詳細に分析する。これらの事例は、日本における「色彩ブランディング」の頂点を示すものである。

3.1 株式会社トンボ鉛筆「MONO消しゴム」:第1号登録の衝撃と歴史的意義

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第5930334号
  • 登録日: 2017年3月10日
  • 指定商品: 第16類「消しゴム」
  • 配色: 青・白・黒の3色ストライプ    

分析:半世紀の一貫性が生んだ識別力 2017年、日本で初めて色彩のみからなる商標として登録されたのが、トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」である。この「青・白・黒」の配色は、1969年の発売以来、約半世紀にわたりデザインの骨格を変えることなく使用され続けてきた 。 トンボ鉛筆は、1999年に「色彩を付した図形商標」としての登録は済ませていたが、2015年の法改正を受け、文字情報(MONOのロゴ)を除外した「色彩のみ」での権利化に挑んだ。   

登録の決め手となったのは、圧倒的な市場シェアと、国民的認知度を裏付ける消費者アンケートの結果である。同社が提出した証拠によれば、文字を隠した状態のストライプ柄を見せただけで、大多数の消費者が「トンボ鉛筆の消しゴム」であると回答したとされる 。 この事例は、パッケージデザインにおける「色彩の比率」と「配列」が、ロゴマークと同等かそれ以上の識別機能を持つことを公的に証明した点において、日本の商標実務における記念碑的な意義を持つ。   

3.2 セブン‐イレブン・ジャパン:小売空間における色彩の支配力

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第5933289号
  • 登録日: 2017年3月1日(MONOと同日の第1号グループ)
  • 指定役務: 第35類「小売又は卸売業務において行われる顧客に対する便益の提供」他
  • 配色: 白地にオレンジ・緑・赤のストライプ    

分析:生活インフラとしての色彩 セブン‐イレブンのコーポレートカラーは、店舗の看板やファサードに使用されることで知られる。この登録事例の特筆すべき点は、対象が「商品」ではなく「役務(サービス)」であること、そしてその色彩が店舗という建築物の一部として認識されている点にある。 コンビニエンスストア業界において、看板の色は遠方からの視認性を確保し、顧客を誘引するための最も重要な識別標識である。セブン‐イレブンは、創業以来のブランドカラーを一貫して使用し、日本全国2万店以上という圧倒的な店舗網を通じて、その色彩を消費者の脳裏に焼き付けた。 特許庁は、この色彩の組合せが長年の使用により「顕著な識別性」を獲得したと認定し、小売業務における色彩の独占権を付与した 。   

3.3 ファミリーマート:業界再編とブランドカラーの統一戦略

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第6085064号
  • 登録日: 2018年9月28日
  • 指定役務: 第35類(小売)、第36類(公共料金代行等)、第39類(宅配取次)、第43類(飲食物提供)
  • 配色: 緑・白・青の3色ストライプ    

分析:M&Aと色彩の権利化 セブン‐イレブンの登録から約1年半後、ファミリーマートのブランドカラーも登録が認められた。ファミリーマートは1992年からこの配色を使用している 。 この時期、ファミリーマートはサークルKサンクスとの経営統合を進めており、店舗ブランドの統一(リブランディング)が経営上の最重要課題であった。数千店舗規模の看板の架け替えが行われる中で、新ブランドの象徴である「緑・白・青」の色彩を法的に保護することは、統合効果を最大化し、ブランドの求心力を高めるために不可欠な戦略であったと推察される 。 また、指定役務に「公共料金の徴収代行」や「宅配便の取次ぎ」が含まれている点は、コンビニが単なる物販店を超え、社会インフラとしての地位を確立していることを商標権の範囲からも裏付けている。   

3.4 三菱鉛筆「uni」と「Hi-uni」:色彩による品質保証

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第6078470号(uni)、第6078471号(Hi-uni)
  • 登録日: 2018年9月7日
  • 指定商品: 第16類「鉛筆」
  • 配色:
    • uni: 「ユニ色(蝦茶色とワインレッドの混合)」+「黒」
    • Hi-uni: 「ユニ色」+「黒」+「金」のリング    

分析:独自色の開発と「色の品質化」 鉛筆市場において、三菱鉛筆の「uni」シリーズは高級鉛筆の代名詞である。1958年の発売当時、同社は「世界に誇れる国産鉛筆」を目指し、軸色に独自の色を求めた。約160種の候補色の中から選ばれたのが、日本の伝統色である蝦茶色と高級感のあるワインレッドを配合した「ユニ色」であった 。 この事例が特殊なのは、単に既存の色(赤や青)を組み合わせたのではなく、企業が独自に開発・定義した特定の色味(ニュアンスカラー)そのものが識別力の源泉となっている点である。特許庁への出願において、三菱鉛筆はこの「ユニ色」が他社製品と明確に区別される独自の色彩であることを強力に主張し、鉛筆という成熟市場において色彩がいかに重要な品質指標となっているかを立証した。これは、色彩設計(CMFデザイン)が知的財産としての価値を持つことを示した好例である。   

3.5 UCC上島珈琲「UCCミルクコーヒー」:食品業界初の快挙

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第6201646号
  • 登録日: 2019年11月29日
  • 指定商品: 第29類「ミルクコーヒー」、第30類「コーヒー飲料」
  • 配色: 茶・白・赤の3色ストライプ    

分析:ロングセラー商品の色彩資産 1969年に世界初の缶コーヒーとして発売された「UCCミルクコーヒー」は、50年以上にわたりパッケージデザインの基本配色(茶色はコーヒー、白はミルク、赤はUCCロゴ)を変更していない。食品・飲料業界では、消費者の嗜好変化に合わせてパッケージを頻繁にリニューアルするのが通例であるが、UCCは「変わらないこと」をブランド価値として蓄積した。 出願から登録まで約4年半という長い審査期間を要したが 、これは食品分野における色彩の記述性(コーヒー色やミルク色)の判断が難航したためと推測される。最終的に登録が認められたことは、たとえ商品の中身に関連する色彩(記述的色彩)であっても、長期間の使用によって特段の識別力を獲得すれば独占が可能であるという重要な先例となった。   

3.6 日清食品「チキンラーメン」:パッケージ心理学の勝利

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第6534071号
  • 登録日: 2022年3月25日
  • 指定商品: 第30類「即席めん」
  • 配色: セピア色・白色・オレンジ色のストライプ(通称:しましま)    

分析:9番目の登録と「ロゴなし」の実証 日清食品の「チキンラーメン」もまた、1958年の発売当初から続く特徴的なストライプ模様を持つ。日清食品は商標登録に際し、「ロゴやブランド名がなくてもチキンラーメンだとわかるんです!」というキャッチフレーズと共に、パッケージの「しましま」部分だけで消費者が商品を認識できることをアピールした 。 この登録は、即席麺の売り場という、極めて商品点数が多く色彩が氾濫する環境において、特定の配色パターンが強力なアテンション機能と識別機能を持つことを法的に認めたものである。   

3.7 三井住友フィナンシャルグループ:無形の信用を色で守る

登録データの概要

  • 商標登録番号: 第6021308号
  • 登録日: 2018年2月23日
  • 指定役務: 第36類「預金の受入れ」等
  • 配色: フレッシュグリーン(緑)とトラッドグリーン(深緑)    

分析:サービス業のブランド・アイデンティティ 三井住友銀行(SMBC)の看板や通帳に見られる「若草色と深緑」のライジングマークに関連する色彩の組合せである。金融機関にとって、信頼感やブランドイメージは生命線であり、再編・統合を経たメガバンクとしてのアイデンティティを色彩によって法的に固める戦略の一環である。形のない「金融サービス」において、色彩が顧客との接点(タッチポイント)における唯一無二の視覚的アンカーとなっている事例である。


4. 拒絶事例と司法的判断の深層:「単色商標」の越えられない壁

登録された9件がいずれも「複数の色彩の組合せ」であるのに対し、一つの色のみからなる「単色商標」の登録は、日本では極めて困難な状況が続いている。ここでは、司法の場で争われた代表的な事例を通じて、なぜ単色は保護されないのか、その法理を解明する。

4.1 日立建機「油圧ショベル」事件:機能色と自由競争の論理

事件の概要 日立建機株式会社が、自社の油圧ショベルのアームやボディに使用している「オレンジ色(単色)」について商標登録を出願したが、特許庁に拒絶され、その審決取消を求めて知財高裁に提訴した事件である(知財高裁令和2年6月23日判決、令和2年8月19日判決等)。 日立建機は、国内の油圧ショベル市場において、同社のオレンジ色が長年使用され、高いシェアを誇ることから、需要者は色だけで日立建機製品と識別できる(商標法3条2項該当)と主張した。   

判決の論理と棄却理由 知財高裁は、原告(日立建機)の請求を棄却した。その主な理由は以下の通りである。

  1. 業界の実情と機能性: 油圧ショベル等の建設機械業界では、JIS規格(安全色)や視認性確保の観点から、黄色やオレンジ色といった暖色系が広く使用される慣行がある。特定企業にオレンジ色の独占を認めることは、他社の正当な事業活動(安全色の使用など)を阻害する恐れがある 。   
  2. 識別力の欠如: 競合他社も類似のオレンジ色を使用している実態があり(例えば海外メーカーやレンタル機材など)、需要者が単に「オレンジ色のショベルカー」を見ただけで、それが直ちに日立建機の製品であると認識するとは限らない。色彩の差異(マンセル値の微妙な違い)を需要者が正確に識別することは困難である。
  3. 独占適応性の欠如: 単色はデザインの基本的要素であり、これを独占させることに対するハードルは、色彩の組合せの場合よりも格段に高い。裁判所は、寡占市場であることを理由に独占を認めることにも消極的であった。

この判決により、産業機械のような機能性が重視される製品分野において、単色商標の登録は事実上不可能に近いという実務上の指針が確立された。

4.2 クリスチャン・ルブタン「レッドソール」事件:ファッションと審美性の限界

事件の概要 フランスの高級靴ブランド「クリスチャン・ルブタン」は、ハイヒールの靴底を鮮やかな赤で塗った「レッドソール」で世界的に著名である。米国や欧州の一部では商標として認められているが、日本では特許庁が登録を拒絶。ルブタン側は知財高裁に訴え出たが、請求は棄却された(知財高裁令和4年12月26日判決等)。   

判決の論理と争点

  1. 市場の定義: ルブタン側は「高価格帯の婦人靴」に市場を限定して識別力を主張したが、裁判所は、日本の靴市場全体においては、靴底を赤く彩色した商品はルブタン以外にも多数存在し、流行や装飾として一般的であると認定した 。   
  2. 識別力の立証: 確かにファッションに関心の高い層においては「赤い靴底=ルブタン」という認識があるかもしれないが、一般的な需要者全体において、その形状やロゴを見ずに「色だけ」でルブタンと即座に識別できるレベルには達していないと判断された。
  3. デザインの自由: 女性用ハイヒールにおいて、靴底を赤く塗ることは美感を高めるための一般的なデザイン手法であり、これを一社に独占させることは、他社のデザインの自由を不当に制約する(公益に反する)とされた 。   

この判決は、世界的有名ブランドであっても、日本市場における「独占適応性」と「絶対的な識別力」の証明がなければ、色彩商標(特に位置商標的な単色使用)の登録は認められないという厳しい現実を浮き彫りにした。

4.3 欧州との比較:レッドブル事件に見る「明確性」の要件

色彩商標の厳格さは日本に限った話ではない。欧州連合司法裁判所(CJEU)における「レッドブル事件」では、エナジードリンクのレッドブルが登録していた「青と銀」の色彩商標が無効とされた 。 理由は、出願時の色彩の説明(「約50対50の割合」など)が曖昧であり、複数の配置パターンを許容してしまうため、商標としての「明確かつ正確な特定(Clarity and Precision)」を欠くというものであった。 これは、色彩商標を出願する際、どのような色を、どのような割合・配置で使用するのかを極めて厳密に定義しなければならないという実務上の教訓を含んでいる。日本の登録事例(MONOやセブン‐イレブン)が、いずれも明確なストライプや固定された配色パターンを持っていることは、この明確性の要件をクリアする上でも重要であったと言える。   


5. 色彩商標のブランド戦略的価値と実務的示唆

これまでの分析を踏まえ、企業が色彩商標をブランド戦略に組み込む際の価値、および登録に向けた実務的なポイントを整理する。

5.1 ブランド資産としての色彩の独占権:その経済的効果

色彩商標権を取得することの最大のメリットは、競合他社に対する強力な「参入障壁」の構築にある。 従来の不正競争防止法(第2条1項1号等)による保護では、侵害を主張するために「商品等表示としての周知性」や「混同の恐れ」を個別の訴訟ごとに立証しなければならず、多大なコストと不確実性が伴った。しかし、商標権があれば、登録証を提示するだけで商標権侵害を主張でき、差止請求や損害賠償請求を迅速に行うことが可能となる 。   

また、ライセンスビジネスとしての展開も視野に入る。登録商標の使用許諾を与えることで、コラボレーション商品などからの収益化(ロイヤリティ収入)が見込めるほか、ブランドの世界観(ブランド・ユニバース)をコントロールする法的根拠となる。例えば、MONO消しゴムの柄を使用したTシャツやスニーカーなどが公式ライセンス商品として展開される際、色彩商標権はその権利処理の中核をなす 。   

5.2 登録へ向けたロードマップ:証拠収集と消費者調査

登録成功事例に共通するのは、緻密な戦略に基づく証拠の積み上げである。これから登録を目指す企業は、以下のステップを踏む必要がある。

  1. カラー・オーディット(色彩監査): 自社の製品やサービスにおいて、どの色が識別機能を持っているかを洗い出す。単なる装飾なのか、ブランドのアイデンティティなのかを見極める。
  2. 使用の一貫性: パッケージリニューアルの際も、コアとなる配色の比率や色味(マンセル値など)を変更しないこと。
  3. 証拠の保存: 過去数十年にわたるカタログ、広告、売上データを体系的に保存しておくこと。
  4. 消費者アンケートの実施: これが最も重要である。「文字やロゴを隠した状態で、この配色を見てどの企業の商品だと思うか」という純粋想起調査を行い、極めて高い正答率(一般的には60%〜80%以上が望ましいとされる)を確保する必要がある 。アンケートの設計自体も、バイアスがかからないように専門家の助言を得て公平に行わなければ、証拠能力を否定されるリスクがある。   

5.3 防衛的戦略としての出願

たとえ登録のハードルが高いとしても、出願を行うこと自体に戦略的意義がある場合がある。出願情報は公開されるため、他社に対して「この色は当社にとって重要である」という意思表示(牽制)になり得る。また、万が一他社から類似の色彩で権利行使を受けた際に、先使用権を主張するための証拠作りとしても機能する。 さらに、登録に至らずとも、出願の過程で蓄積した「識別力の証拠」は、将来的に不正競争防止法上の保護を求める際にも有利な材料となり得る。


6. 結論:色彩が語るブランドの未来

日本における色彩のみからなる商標の登録状況は、2015年の制度開始から2022年時点でわずか9件という数字が示す通り、極めて限定的である。特許庁および裁判所は、自由競争の確保と公益性の観点から、色彩の独占に対して慎重かつ抑制的な姿勢を崩していない。特に単色商標については、油圧ショベル事件やルブタン事件の判決に見られるように、事実上不可能に近いハードルが設定されているのが現状である。

しかし、登録を勝ち取った9件の事例は、いずれも日本市場において数十年以上にわたり愛され、消費者の生活に深く浸透した「真のナショナルブランド」である。MONO消しゴムの青白黒、セブン‐イレブンのストライプ、チキンラーメンのしましま――これらの色彩は、もはや単なる商品の装飾を超え、品質保証と出所表示の機能を果たす文化的アイコンとなっている。

今後、デジタル空間やメタバース等の新たな市場が拡大する中で、言語に依存しない、視覚的・直感的な識別標識としての色彩の重要性はますます高まるであろう。グローバル市場において、言葉の壁を越えてブランドを認知させるために、色彩は最強の武器となり得る。 企業にとっては、単にロゴをデザインするだけでなく、「自社の色」を定義し、それを長期にわたって揺るぎなく使用し続けるという、長期的かつ一貫したブランド戦略が求められる。色彩商標の登録は、その長い積み重ねの結果として与えられる、ブランドへの最高の勲章なのである。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

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