耳に残る企業サウンドの深層:NBCチャイムから正露丸、そして現代の音商標戦略まで

こんにちは、IPリッチ株式会社です。
私たちは、知的財産(IP)の価値を最大化し、企業のブランド戦略を法務とマーケティングの両面から支援する専門家集団です。本日は、視覚情報が飽和した現代社会において、新たなブランド資産として注目を集める「音の商標(サウンド・トレードマーク)」について、その歴史的起源から最新の法理、そして心理学的効果に至るまで、徹底的な分析をお届けします。
本レポートは、単なる事例紹介にとどまらず、NBCチャイムという歴史的始原から、ハーレー・ダビッドソンの挫折、そして日本の商標法改正による「正露丸」や「久光製薬」の登録劇までを網羅し、なぜ「音」がこれほどまでに強力なビジネスツールとなり得るのか、その深層を解き明かす包括的な研究報告書(ホワイトペーパー)です。経営者、マーケター、そして知財担当者の皆様にとって、次世代のブランディング戦略を構築するための羅針盤となることを目指しています。
第1章:序論——視覚から聴覚へ広がるブランドの地平
1.1 飽和する視覚、未開拓の聴覚
21世紀の市場環境は、かつてないほどの視覚的ノイズに溢れています。消費者は日々、数千ものロゴ、広告バナー、動画コンテンツに晒されており、視覚のみに訴えるブランディングは限界を迎えつつあります。スマートフォンの画面は小型化し、スマートスピーカーやウェアラブルデバイスの普及により、そもそも「画面を見ない」インターフェース(ゼロUI)が急速に拡大しています。
このような環境下において、「音」は消費者の意識に直接侵入できる数少ないルートとして再評価されています。インテルの「ボン!」という起動音、Netflixの「タ・ダン」というロゴサウンド、あるいはLINEの通知音。これらは、視覚的な確認を必要とせず、瞬時にブランドを特定し、感情を喚起する力を持っています。これを「ソニック・ブランディング(Sonic Branding)」と呼びます。
1.2 本レポートの目的と構成
本レポートでは、以下の問いに答えるべく、多角的な調査を行いました。
- なぜ音は視覚以上に記憶に残るのか?(心理学的・神経科学的アプローチ)
- 世界初の音商標「NBCチャイム」はいかにして生まれ、権利化されたのか?(歴史的アプローチ)
- 米国と日本における法制度の違い、特に「機能性」と「識別力」の壁をどう乗り越えるか?(法的アプローチ)
- 日本企業はいかにして「音」を独占的権利に変えたのか?(ケーススタディ)
これらを紐解くことで、音商標が単なる「ジングル」ではなく、企業の無形資産(IP)としての確固たる地位を築くに至った経緯を詳らかにします。
第2章:音響ブランディングの科学と心理学——なぜ「耳」は「目」より速いのか
音の商標が法的保護の対象となる背景には、音が人間の脳に与える特殊な影響力があります。法的な議論に入る前に、まずその科学的メカニズムを理解する必要があります。
2.1 脳への直通回線:大脳辺縁系へのインパクト
視覚情報は、色彩や形状を処理するために大脳皮質の視覚野を経由し、比較的複雑な処理を経て認識されます。対して聴覚情報は、脳幹から聴覚皮質へと伝達される過程で、**大脳辺縁系(特に扁桃体と海馬)**へ直接的な信号を送ることが知られています。
- 扁桃体(Amygdala): 情動や恐怖、快楽を司る部位。
- 海馬(Hippocampus): 記憶の形成と定着を司る部位。
この解剖学的構造により、音は論理的な思考フィルター(前頭前野での処理)をバイパスし、**「考えるよりも先に感じる」**という反応を引き起こします。これが、特定のメロディを聞いた瞬間に、子供時代の記憶や特定の感情がフラッシュバックする「プルースト効果」の聴覚版とも言える現象の正体です。
2.2 手続き記憶へのエンコーディング
神経科学者のダニエル・レヴィティン博士(『This Is Your Brain on Music』著者)によれば、音楽的パターンは「手続き記憶(Procedural Memory)」として脳に保存されます。これは自転車の乗り方やキーボードのタイピングと同じ記憶領域であり、一度定着すると意識的な努力なしに再現可能で、かつ忘却しにくいという特性があります。 企業がソニック・ブランディングを行う目的は、ブランドのアイデンティティをこの「手続き記憶」に焼き付けることにあります。消費者はインテルのロゴを見なくても、あの5音のチャイムを聞くだけで「信頼性」「テクノロジー」「PCの内部」といった概念を無意識に想起します。
2.3 カンター・ブランドZによる実証データ
この心理学的効果は、ビジネス上の数値としても実証されています。世界的なブランド調査機関であるKantar(カンター)の「BrandZ」調査およびレポートによれば、強力なソニック・アセット(音の資産)を持つブランドは、そうでないブランドと比較して以下のような優位性を示しています。
| 指標 | 上昇率 | インサイト |
| ブランド・パワー (Brand Power) | +76% | 音はブランドの存在感を圧倒的に高める。 |
| 広告の説得力 (Advertising Strength) | +138% | 視覚と聴覚の統合は、メッセージの伝達効率を倍増させる。 |
さらに、Netflixの起動音に関する調査では、その認識率は**94%**に達し、多くの消費者がその音を聞くだけで「これからプレミアムな体験が始まる」という期待感(Frisson:身震いするような快感)を感じることが報告されています。これは、音が単なる識別標識を超え、ユーザー体験(UX)の核心部分を担っていることを示しています。
第3章:歴史の始原——NBCチャイムの伝説と最初の音商標
音商標の歴史を語る上で避けて通れないのが、米国の放送局NBC(National Broadcasting Company)の「チャイム」です。これは世界で初めて登録された音の商標であり、その成立過程には放送技術の進化と企業ブランディングの黎明期が色濃く反映されています。
3.1 1927年:放送運行上の必要性から生まれた合図
1920年代、ラジオ放送は生放送が主体であり、ネットワーク局と地方の加盟局(アフィリエイト)との間で番組を切り替えるタイミングを合わせることは技術的に困難でした。NBCは1927年、番組終了とローカル局への切り替え(ステーション・ブレイク)を知らせるための合図として、チャイムの使用を開始しました。
当初は7音階の複雑なメロディでしたが、生放送の現場での操作性を考慮し、1929年頃までには現在よく知られる**3音(G-E-C)**に簡略化されました。
- 音程: G3, E4, C4(ハ長調のソ・ミ・ド)
- 構成: 第2転回形のCメジャー・アルペジオに近い響きを持ち、音楽的に「解決」を感じさせる心地よい進行です。
【検証】「GE(ゼネラル・エレクトリック)由来説」の真偽
放送業界には長年、「G-E-Cという音階は、当時NBCの親会社RCAの大株主であったGeneral Electric(GE)社への敬意を表したものである」という俗説が存在します。1987年にはNBC社長ロバート・ライト氏が議会でそのように証言した記録さえあります。 しかし、歴史的資料に基づくとこの説は否定される可能性が高いとされています。
- ハンドベルの制約: 当時使用されていた手持ちのチャイム(Dinner Chimes)は「G, F, C, E」の4音しか出せない構造であり、その中から和音として成立する組み合わせを選んだ結果、偶然G-E-Cになった説が有力です。
- 資本関係の解消: GE社は1932年の独占禁止法関連の和解によりRCA/NBCの株式を手放しており、その後数十年にわたりライバル関係にあったため、NBCがGEのイニシャルを使い続ける理由は希薄です。
3.2 レンジャートーン(Rangertone):音の機械化と標準化
初期のチャイムはアナウンサーが手で叩いていたため、叩く強さやタイミング、テンポにばらつきがありました。これは「ブランドの一貫性」を損なうだけでなく、秒単位の放送運行においても問題でした。 そこで1930年代初頭、リチャード・H・レンジャー大尉(Captain Richard H. Ranger)によって**「レンジャートーン(Rangertone)」**と呼ばれる自動チャイム装置が開発されました。これはオルゴールのような仕組みで、金属製のリードを弾いて増幅させる電気機械式デバイスです。これにより、チャイムは毎時29分30秒と59分30秒に、正確無比なタイミングと音質で全米に送出されるようになりました。 この「機械化」こそが、単なる合図を「同一性のある商標」へと昇華させる重要なステップでした。
3.3 1950年:世界初の登録
NBCは1947年11月20日、米国特許商標庁(USPTO)に対し、このチャイムの商標登録を出願しました。そして1950年4月4日、ついに登録番号523,616として、世界初の「純粋な音響による役務商標(Service Mark)」が誕生しました。
当時の登録公報における記述:
“The mark comprises a sequence of chime-like musical notes which are in the key of C and sound the notes G, E, C…” (本商標は、ハ長調のG、E、Cの音を鳴らすチャイム様の音符の連なりから構成され…出願人の放送サービスを識別させるものである。)
この瞬間、法律は初めて「目に見えないもの」を独占排他権の対象として認めたのです。これは、後のインテルやNetflix、そして日本の正露丸へと続く音商標の道を開いた記念碑的出来事でした。
第4章:米国の音商標法制度——機能性と識別力の相克
米国は音商標に関して最も長い歴史と判例の蓄積を持つ国です。その法的枠組みは、主に**ランハム法(Lanham Act)**に基づいています。しかし、すべての音が登録されるわけではありません。そこには厳格な審査基準が存在します。
4.1 登録要件の二大障壁
米国において音商標が認められるためには、主に2つの要件を満たす必要があります。
- 識別力(Distinctiveness): その音が特定の企業や製品を指し示すものとして消費者に認識されているか。
- 非機能性(Non-Functionality): その音が製品の機能にとって不可欠ではないこと。
4.2 ハーレー・ダビッドソンの挫折——「機能性」の壁
音商標の難しさを象徴する最も有名な事例が、オートバイメーカーHarley-Davidsonによるエンジン音の商標登録出願(1994年)とその失敗です。
ハーレー社は、同社のVツインエンジンが奏でる独特のシンコペーションリズム(よく「ポテト・ポテト・ポテト」と表現される)は、ブランドのアイデンティティそのものであるとして出願を行いました。 しかし、これに対してホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキといった日本のバイクメーカーを含む9社が猛烈な異議を申し立てました。
異議申立の論点(機能性の法理): 競合他社は、「あの独特の音は、45度V型2気筒エンジンで共通のクランクピンを使用するというエンジンの構造(機能)から必然的に生じる物理現象である」と主張しました。もしこの音に商標権を認めてしまえば、他社は同様の構造を持つエンジンを製造できなくなり(製造すれば音が似てしまい商標権侵害となる)、技術的な競争が阻害されるという論理です。 商標法は、特許法とは異なり権利が半永久的に更新可能です。技術的機能を半永久的に独占させることは法の趣旨に反します。 6年間に及ぶ泥沼の法廷闘争の末、ハーレー社は2000年に出願を取り下げました。この事例は、「製品の機能に由来する音」の登録がいかに困難かを示す教訓となっています。
4.3 MGMライオンとインテル——「恣意性」の勝利
一方で、登録に成功した事例も数多く存在します。成功の鍵は、音が製品の機能とは無関係な**「恣意的な(Arbitrary)」ものであるか、あるいは長年の使用によって「二次的意味(Secondary Meaning)」**を獲得しているかにあります。
- MGMのライオンの咆哮(Reg. No. 1,395,550): 映画制作というサービスと「ライオンの鳴き声」には機能的な関連性がありません。これは恣意的な選択であり、かつ長年の使用でMGMを象徴するものとして定着しているため、認められました。
- インテルの「ボン!」(Reg. No. 2,880,267): 5つの音(D♭, D♭, G♭, D♭, A♭)からなるこのサウンドロゴは、1990年代の「Intel Inside」キャンペーンを通じて爆発的に普及しました。半導体チップ自体は音を出しませんが、マーケティングによって「信頼の証」として音を定着させた(獲得された識別力)好例です。
- THXの「ディープ・ノート」: 映画館で流れるあの重厚なクレシェンド音も登録商標です。ジェームズ・ムーラー博士によってプログラムされたこの音は、毎回ランダムな要素を含みつつも、聴覚的印象は一貫しているという特殊な性質を持ちますが、商標として保護されています。
第5章:日本の音商標——2015年改正法の衝撃と実務
長らく、日本の商標法は「文字」「図形」「記号」「立体的形状」といった視覚的に認識できるもののみを保護対象としていました。しかし、グローバルな知財戦略の潮流とTPP(環太平洋パートナーシップ協定)等の国際協調の流れを受け、2014年の商標法改正(2015年4月1日施行)により、ついに「音」を含む新しいタイプの商標が導入されました。
5.1 2015年4月1日:解禁と出願ラッシュ
改正法の施行日である2015年4月1日、特許庁には1,000件を超える「新しいタイプの商標」の出願が殺到しました。これには音商標だけでなく、色彩のみの商標、位置商標、動きの商標、ホログラム商標も含まれます。 日本企業は長年、海外(特に米国や欧州)では音商標を登録していながら、本国日本では保護されないという「ねじれ現象」に悩まされていました。この改正は、その不均衡を解消する待望の施策でした。
5.2 審査基準:第3条と第4条の壁
日本の特許庁(JPO)における音商標の審査は、主に以下の2つの条文に基づいて行われます。
第3条(自他商品識別力)
- 第3条1項: 「ありふれた音」は登録できません。例えば、炭酸飲料に「シュワシュワ」という音、猫の餌に「ニャー」という鳴き声、あるいは単音(「ピー」というブザー音)などは、商品の品質や原材料を記述するもの、あるいは単なる自然音として、識別力がないと判断されます。
- 第3条2項(使用による識別力の獲得): たとえ元々はありふれた音であっても、長期間の使用と大量の広告宣伝により、消費者が「あ、これはあの会社の商品だ」と認識できるようになった場合(著名性)は、例外的に登録が認められます。これが、後述する「正露丸」の突破口となりました。
第4条(不登録事由)
- 第4条1項11号: 先行する登録商標と同一または類似する音は登録できません。音の類似判断は、音質、音階、リズム、テンポなどを総合的に勘案して行われます。
- 第4条1項19号: 他人の著名な商標を不正な目的で使用する場合の排除。
5.3 「言語的要素」の有無による明暗
制度開始当初、登録のスピードには明確な差が出ました。
- 言語的要素を含む音(Lyrics): メロディに乗せて社名や商品名を歌うタイプ(サウンドロゴ)。
- 純粋な音(Pure Sound): メロディや効果音のみで、言葉を含まないタイプ。
特許庁は当初、言葉を含む音商標の登録を先行させました。なぜなら、言葉自体に識別力があるため、「音」としての識別力を厳密に問わずとも登録要件を満たしやすかったからです。対照的に、純粋な音の審査は難航しました。
第6章:ケーススタディ——久光製薬と「言葉のある音」
日本における音商標登録の第1号グループに名を連ねたのが、久光製薬株式会社です。同社のサウンドロゴは、戦略的な知財活動のモデルケースと言えます。
6.1 登録の内容と戦略
- 登録番号: 第5804299号
- 登録日: 2015年10月(制度開始後、最初の登録グループ)
- 商標の構成: 「ヒ・サ・ミ・ツ」という社名を、独特の4音のメロディに乗せて歌ったもの。
久光製薬のCMで流れるこのサウンドロゴは、日本人なら誰もが耳にしたことがあるものです。彼らの勝因は、**「メロディ+社名」**という構成にありました。前述の通り、言葉が含まれていることで、特許庁は「識別力あり」と判断しやすかったのです。
6.2 グローバルな布石
久光製薬の周到さは、日本での法改正以前の動きに見られます。同社は、日本で音商標が認められるはるか以前から、**米国(Reg. No. 3,589,348)や欧州(CTM 002529618)**において既にこの音を商標登録していました。 グローバル展開する日本企業にとって、音商標は「日本で認められたから海外へ」ではなく、「海外で先に保護し、日本法の整備を待つ」というアセットであったことがわかります。
第7章:ケーススタディ——正露丸(大幸薬品)と「純粋音」の戦い
久光製薬が「言葉」の力で早期登録を勝ち取った一方で、大幸薬品株式会社の「正露丸」は、より困難な道のりを選びました。それは、言葉を一切含まない**「ラッパのメロディ」のみ**での登録への挑戦でした。
7.1 「正露丸」名称喪失のトラウマ
大幸薬品が音商標にこだわった背景には、過去の苦い敗北があります。 「正露丸」という名称は、かつて日露戦争(1904-1905)当時に「征露丸(ロシアを征する丸薬)」として広まった経緯があります。戦後、「正露丸」と改称されましたが、1974年、最高裁判所は衝撃的な判決を下しました。 「正露丸という名称は、木クレオソートを主成分とする胃腸薬の一般的名称(普通名称)と化しており、特定の企業の商標としては認められない」
この判決により、大幸薬品は「正露丸」という名前を独占できなくなり、市場には類似したパッケージと名前を持つ他社製品(イズミ正露丸など)が溢れることになりました。名称を独占できない大幸薬品にとって、あの「パッパラパッパ、パッパラパッパ、パーラパッパ、パッパッパ」というラッパのメロディは、自社製品を他社と区別するための最後の砦だったのです。
7.2 軍隊ラッパは「誰のもの」か?
しかし、2015年4月の出願時、特許庁は難色を示しました。 問題となったのは、このメロディが**「食事ラッパ(Shokuji-rappa)」**として知られる、旧日本陸軍(さらにはそのルーツである帝政ロシア陸軍)の信号ラッパの旋律そのものだったからです。 特許庁の論理はこうです。「これは元々軍隊の合図として使われていた既存のメロディ(自然音や公共の音に近い)であり、一企業が独占すべきものではないのではないか?」
7.3 第3条2項による突破:半世紀の重み
大幸薬品は諦めませんでした。彼らは「識別力の獲得(第3条2項)」を立証するために、膨大な証拠を提出しました。
- 使用期間: 1951年(日本の民間ラジオ放送開始)から一貫して、このメロディをCMで使用し続けてきた事実。
- 認知度調査: 日本全国の消費者を対象に調査を行った結果、このメロディを聞いただけで圧倒的多数が「大幸薬品の正露丸」を想起したというデータ。
この粘り強い立証が実を結び、2017年9月26日、ついに正露丸のラッパのメロディは商標登録(登録第5985746号)を果たしました。 これは、インテルのサウンドロゴ、BMWのサウンドロゴと並び、日本で初めて「純粋な音のみ」で登録された3つの商標のうちの一つとなりました。歴史ある既存のメロディであっても、企業努力によって「特定のブランドの音」としての地位を確立できることを証明した、画期的な判例です。
第8章:新たな登録事例と未来——インテル、BMW、そして決済音
正露丸の登録以降、日本でも「純粋音」の登録事例が増加しています。これらは、企業のマーケティングだけでなく、ユーザー体験(UX)の一部として機能しています。
8.1 インテルとBMW:グローバル・スタンダードの貫徹
- インテル(Intel Corporation): おなじみの5音のチャイム。世界中で共通のブランド体験を提供するために、日本での登録は不可欠でした。正露丸と同時に、純粋音として登録されました。
- BMW: テレビCMの最後に流れる「ドゥーン」という重厚なサウンドロゴ(Double Gong)。これも自動車の高級感とダイナミズムを象徴する音として登録されています。
8.2 決済音と入店音:日常に溶け込む音商標
近年注目されているのが、サービス利用時の「確認音」や「環境音」の商標化です。
- ファミリーマート(登録第5984036号): 店舗に入ると流れる「メロディチャイム」。これはパナソニック製のドアホン自体の音ですが、ファミリーマートが長年使用することで、あのメロディ=ファミマ、という強烈な結びつき(ブランド連想)を生み出しました。
- WAON(登録第5984020号): 電子マネー決済時の「ワオン!」という犬の鳴き声のような音。決済完了という「機能」と、ブランドキャラクター(犬)の「情緒」を同時に満たす優れたUXデザインであり、これも音商標として保護されています。
第9章:グローバル戦略への提言
最後に、IPリッチ株式会社として、これからの日本企業が取るべき音商標戦略について提言を行います。
9.1 国際的な保護状況の比較
音商標の保護は国によって濃淡があります。グローバル展開においては、各国の法制度の違いを理解したポートフォリオ構築が必要です。
| 特徴 | 米国 (USPTO) | 日本 (JPO) | 欧州 (EUIPO) |
| 制度開始 | 1950年 (NBC) | 2015年 | 1996年 (CTM) |
| 純粋音の難易度 | 中 (恣意性があれば登録可) | 高 (使用実績・識別力立証が重要) | 中 |
| 提出フォーマット | MP3 + 詳細な記述 (楽譜任意) | MP3 + 楽譜/記述 | MP3 (マルチメディアファイル推奨) |
| 機能性の壁 | 非常に厳格 (ハーレー事件) | 厳格 (第4条) | 厳格 |
9.2 「自然音」と「機能音」のリスク回避
ハーレー・ダビッドソンや日本の審査基準の事例から学ぶべきは、「製品の機能から自然に発生する音」や「単なる自然音」は避けるべきという点です。 もし新たなサウンドロゴを開発するのであれば、製品機能とは無関係な「恣意的な音(Arbitrary Sound)」や、独自に作曲されたメロディを採用することが、スムーズな権利化への近道です。
9.3 音のUXデザインと知財の融合
これからの音商標は、単なる広告のジングルにとどまりません。電気自動車(EV)の走行音、アプリの通知音、メタバース空間でのアバターの足音など、製品の機能性(UX)と一体化した音が増加します。 マーケティング部門が「心地よい音」を作り、知財部門がそれを「独占的な権利」に変える。この両輪の連携こそが、次世代のブランド価値を決定づけるでしょう。
結論
NBCチャイムが1927年に鳴らした3つの音は、約1世紀の時を経て、ビジネスにおける最も重要な「見えない資産」へと進化しました。視覚情報が飽和し、AIや音声インターフェースが台頭するこれからの時代、「耳に残る」ことは「心に残る」ことと同義です。
大幸薬品が「正露丸」という名前を失っても、あのラッパの音でブランドを守り抜いたように、音は時に言葉以上の強さを持ちます。貴社のブランドには、顧客の心に響く「音」がありますか?もしあるならば、それを法的に守る準備はできていますか?
音商標の世界は、まだ始まったばかりです。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献・引用元リスト 本レポートの作成にあたり、以下の資料・情報を参照しました。
- Wikipedia: NBC chimes (History, GE myth, Registration)
- Medium: Sonic Branding & Neuroscience (Dr. Daniel Levitin, Frisson)
- Cotobox: 日本の音商標導入と登録事例(久光製薬、大幸薬品)
- APIP: メロディのみの商標初登録(大幸薬品、インテル、BMW)
- Trademarkia: Netflix “Tudum” Sound Trademark
- Retail Brew: Harley-Davidson’s Engine Sound Trademark Withdrawal
- SAEGUSA & Partners: JPO Recognizes Sound-Mark-Only Trademarks
- The Japan Times: Seirogan’s trumpet melody trademark registration
- Kantar: BrandZ Report on Sonic Branding Effectiveness
- 商標登録ドットコム: 音商標登録事例集(久光製薬、大正製薬、エバラ)
- Note: ファミリーマート、WAONの音商標登録
制作:IPリッチ株式会社 リサーチ部門shahmm.medium.comSonic Branding: How Signature Sounds Trigger Billion-Dollar Brand Recognition新しいウィンドウで開くkantar.comBRANDWEEK report: 10 forces shaping the next era of brand growth – Kantar新しいウィンドウで開くkantar.comIs your brand doing enough to connect with consumers in a changing world? – Kantar新しいウィンドウで開くkantar.comHow sonic branding builds a deeper connection with your audience – Kantar新しいウィンドウで開くhowbrandsarebuilt.comCreating a signature sound: The art and science of sonic branding新しいウィンドウで開くtrademarkia.comWhy Did Netflix Trademark “Tudum”? – Trademarkia新しいウィンドウで開くen.wikipedia.orgNBC chimes – Wikipedia新しいウィンドウで開くnbcchimes.infoNBC新しいウィンドウで開くnbcchimes.infoThe NBC Chimes Today新しいウィンドウで開くbayarearadio.orgThe NBC Chimes Machine – Bay Area Radio Museum新しいウィンドウで開くtheradiohistorian.orgThe NBC Chimes Machine – The Radio Historian新しいウィンドウで開くhearinghealthmatters.orgSound Branding | Hearing Health & Technology Matters新しいウィンドウで開くretailbrew.comThe engine sound that Harley-Davidson tried to trademark – Retail Brew新しいウィンドウで開くslashgear.comWhat Gives Harley-Davidson Engines Their Classic, Unique Sound? – SlashGear新しいウィンドウで開くmentalfloss.com8 Sounds That Are Trademarked – Mental Floss新しいウィンドウで開くhowtogettrademark.comFamous Sound Trademarks: How Iconic Sounds Protect Brand Identity新しいウィンドウで開くsmithhopen.comHear the ROAR of Sound Trademarks – SMITH HOPEN新しいウィンドウで開くjuscorpus.comTRADEMARKING THE INVISIBLE: THE LEGAL IDENTITY OF SOUND IN BRANDING新しいウィンドウで開くcotobox.com音の商標登録のパターン | オンライン商標登録サービスのCotobox(コトボックス)新しいウィンドウで開くjonesday.comAmendment to Trademark Act of Japan – New Marks, Including Color Marks and Sound Marks, Can Be Protected | Insights | Jones Day新しいウィンドウで開くse1910.comAbout Trademarks in Japan – 2 – Sonderhoff & Einsel Law and Patent Office新しいウィンドウで開くwipo.intSession 3 Initiatives of JPO’s Trademark Administration; Highlights of Japan’s 15 year Experience since its Accession to the Madrid Protocol – WIPO新しいウィンドウで開くjpaa.or.jpTrademark Others Q&A | Japan Patent Attorneys Association新しいウィンドウで開くjpo.go.jpArticle 3(2) (Distinctiveness acquired through use) Notwithstanding the preceding paragraph, a tr新しいウィンドウで開くjpo.go.jpArticle 4(1)(xi) (Another person’s registered trademark applied for prior to t新しいウィンドウで開くblog.marks-iplaw.jpJPO announces its first decision to register sound trademark solely consisting of sound element新しいウィンドウで開くshouhyou.com音の商標 – アース国際特許商標事務所新しいウィンドウで開くsogyotecho.jp別紙: 登録を認める旨の判断をした新しいタイプの商標の一覧 【音商標】 出願人 出願番号 商新しいウィンドウで開くtmng-al.uspto.govNOTICE OF ACCEPTANCE OF §8 DECLARATION – USPTO新しいウィンドウで開くen.wikipedia.orgSeirogan – Wikipedia新しいウィンドウで開くwikiwand.comSeirogan – Wikiwand新しいウィンドウで開くjapantimes.co.jpSeirogan’s trumpet melody is now a registered trademark – The Japan Times新しいウィンドウで開くapip.jp【国内】メロディのみの商標、初登録 – 天野特許事務所新しいウィンドウで開くtora-trademark.com色・音・動きも商標に?5つの新しいタイプの商標と登録事例を解説新しいウィンドウで開くsaegusa-pat.co.jp[November 2017] JPO Recognizes Sound-Mark-Only Trademarks | SAEGUSA & Partners新しいウィンドウで開くnote.com【知財トリビア】あの音も商標!? 意外と知らない「音商標」3選 – not

