使わない商標は消される?不使用取消審判のしくみと企業が取るべき対策

皆様、こんにちは。株式会社IPリッチのライセンス担当です。
企業活動において、自社の商品やサービスを他社のものと区別するための「商標」は、ブランド戦略の中核をなす非常に重要な知的財産です。長い年月とコストをかけて築き上げたブランドイメージは、商標権によって法的に保護され、企業の競争力の源泉となります。しかし、この商標権、一度登録すれば永久に安泰というわけではありません。特許権や著作権とは異なり、商標権は「使用すること」を前提とした権利であるという大きな特徴があります。
日本では、せっかく取得した商標登録であっても、一定期間使用していない場合、第三者からの請求によってその登録が取り消されてしまう可能性があります。これが「不使用取消審判(ふしようとりけししんぱん)」と呼ばれる制度です。この制度の存在を知らずに放置していると、ある日突然、競合他社から審判を請求され、大切な権利を失ってしまうリスクがあります。
本記事では、この不使用取消審判制度の基本的な仕組み、どのような場合に商標が取り消されてしまうのか、手続きの流れ、そして企業が重要な商標権を守るためにどのような対策を講じるべきかについて、詳しく解説します。
商標管理の重要性と知財の収益化
商標権を適切に管理し、不使用取消審判のリスクを回避することは、単に権利を維持するという防御的な意味合いだけではありません。それは、企業の「知財の収益化」を推進するための重要な基盤となります。
知財の収益化とは、知的財産を積極的に活用して収益を生み出すことです。商標の場合、自社製品・サービスでの独占使用によるブランドロイヤリティの向上はもちろん、他社へのライセンス許諾によるロイヤリティ収入やフランチャイズ展開など、多様な収益化の可能性があります。しかし、もし不使用取消審判によって権利が消滅してしまえば、当然ながらこれらの収益化の機会も失われます。権利が不安定な状態では、ライセンス交渉を有利に進めることも困難です。安定した知財戦略と収益化を実現するためには、自社が保有する商標の使用状況を正確に把握し、リスクを管理する体制が不可欠なのです。
こうした専門的な知財管理やライセンス戦略を担う人材の重要性は、ますます高まっています。もし貴社が、知財戦略を強化し、収益化を推進するための優秀な知財人材の採用をお考えであれば、知財専門の求人プラットフォーム「PatentRevenue」をぜひご活用ください。求人情報は無料でご登録いただけます。
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不使用取消審判とは?制度の目的と商標法第50条
不使用取消審判の仕組みを理解する前提として、まずは商標制度全体の目的と、この審判制度がなぜ存在するのかを理解しておく必要があります。
商標制度の目的と「使用」の重要性
商標法第1条には、この法律の目的が「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」と記されています。[1]
商標権が保護するのは、文字や図形といったマークそのものではなく、そのマークに「化体(かたい)した業務上の信用」です。消費者が特定のロゴを見て「このメーカーの製品なら安心だ」と感じるのは、そのメーカーが長年そのロゴを使い続け、品質を維持してきた結果、信用が蓄積されたからです。
日本の商標制度は、先に出願した者に権利を与える「登録主義」を採用しています。しかし、商標権の本質が「使用によって蓄積された信用」の保護にある以上、登録されているだけで全く使用されていない商標(いわゆる死蔵商標・休眠商標)を永久に保護し続ける必要はありません。むしろ、使用されていない商標が登録簿上に多数残存すると、本当にその商標を使いたい人が使えなくなり、円滑な経済活動(産業の発達)が阻害されてしまいます。[2]
不使用取消審判制度は、こうした弊害を防ぎ、使用されていない商標を整理して、使いたい人にその機会を開放するために設けられているのです。
商標法第50条の規定と要件
不使用取消審判は、商標法第50条に基づいて規定されています。その要件を分解すると以下のようになります。[3]
- 継続して3年以上の不使用: 取消の対象となるのは、審判請求の登録日から遡って3年間、一度も使用されていない商標です。
- 日本国内での不使用: 日本の商標権は日本国内でのみ効力を持ちます。たとえ海外で大規模に使用していても、日本国内での使用実績がなければ取消の対象となります。
- 指定商品・指定役務についての不使用: 商標は、登録時に指定した商品やサービス(役務)の範囲で使用されている必要があります。例えば、「被服」と「かばん」を指定して登録している場合、「被服」は使用していても「かばん」を使用していなければ、「かばん」についてのみ取消を請求される可能性があります。
- 商標権者または使用権者による不使用: 商標権者自身だけでなく、ライセンスを受けた者(専用使用権者、通常使用権者)も使用していない場合が対象です。誰か一人が使用していれば取消を免れます。
誰でも請求可能という特徴
特に注目すべきは、不使用取消審判は「何人(なんぴと)も」、つまり誰でも請求が可能である点です。[3] 他の多くの審判(例えば無効審判)では利害関係人しか請求できないのが通常ですが、不使用取消審判は、その商標を使いたい競合他社はもちろん、直接関係のない個人であっても請求できます。これは、不使用商標の整理という公益的な目的を反映したものです。
最大のポイント:「立証責任の転換」
不使用取消審判における最大の特徴であり、商標権者にとって最も注意すべき点は、「立証責任の転換」が起こる点です。
通常の裁判では、訴えた側が相手の非を証明する必要があります。しかし、不使用取消審判では、請求人が商標の「不使用(使っていないこと)」を証明する必要はありません。「使っていないこと」を証明するのは非常に困難だからです。
その代わり、商標法第50条第2項により、商標権者が「過去3年間に、適切に使用していたこと」を証明する責任を負います。[3] もし商標権者が有効な使用の証拠を提出できない場合、その商標登録は取り消されてしまいます。これは商標権者にとって非常に重い責任です。
不使用取消審判の手続きの流れ
もし自社の商標に対して不使用取消審判が請求されてしまった場合、手続きはどのように進行するのでしょうか。全体の流れを把握しておくことは、迅速な対応のために重要です。手続きは特許庁において行われます。[4]
- 審判請求(請求人→特許庁): 第三者(請求人)が、特許庁に不使用取消審判請求書を提出します。
- 通知と答弁書提出期間の指定(特許庁→商標権者): 特許庁から商標権者に対し、審判が請求された旨の通知(審判請求書の副本)が送付され、答弁書を提出すべき期間が指定されます。
- 答弁書の提出と使用事実の立証(商標権者→特許庁): 商標権者は、指定された期間内に、過去3年間に登録商標を使用していたことを証明する証拠と共に、答弁書を提出します。**この段階が最も重要です。**前述の通り、立証責任は商標権者側にあります。もし答弁書を提出しない、あるいは証拠が不十分な場合は、そのまま取消が決定してしまいます。
- 審理(特許庁): 提出された書類や証拠に基づき、特許庁の審判官が審理を行います。
- 審決(特許庁): 審理の結果に基づき、審判官が結論(審決)を下します。審理開始から審決までには、通常半年から1年程度の期間がかかります。
- 取消審決: 使用事実を立証できなかった場合。
- 維持審決(請求不成立): 使用事実を立証できた場合。
- 審決取消訴訟(不服申立て): 審決に不服がある場合、知的財産高等裁判所(知財高裁)に審決の取消を求めて訴訟を提起することができます。
取消審決が確定した場合、商標権は、原則として審判の請求の登録の日に遡って消滅したものとみなされます(商標法第54条第2項)。[5]
審判の焦点:「商標の使用」として認められる条件
不使用取消審判において最も重要な争点となるのが、「法的に有効な『商標の使用』があったかどうか」です。単に名刺にロゴを印刷したりするだけでは不十分な場合があります。
1. 法的に有効な使用の定義
商標法第2条第3項では、「使用」の定義が具体的に列挙されています。[6] 主なものは以下の通りです。
- 商品または商品の包装への標章(商標)の付与: 商品本体やパッケージに商標を印刷したり、タグを付けたりする行為。
- 標章を付した商品の譲渡、引渡し、輸出入など: 商標が付された商品を販売したり、流通させたりする行為。
- 広告、価格表、取引書類への標章の付与と展示・頒布: パンフレット、カタログ、ウェブサイト広告、納品書などに商標を表示し、それらを配布・公開する行為。
重要なのは、これらの行為が、自社の商品・サービスを他社のものと区別する「出所表示機能」を発揮する態様で行われていることです。単なるデザインの一部として使用されている場合などは、有効な使用とは認められない可能性があります。
2. 登録商標と「社会通念上同一」の範囲
使用する商標は、登録されている商標と同一でなければなりません。しかし、実務上、完全に一致していなくても、「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」の使用であれば、有効な使用として認められます。[3]
具体的にどのような変更が「社会通念上同一」の範囲内と認められるかは、ケースバイケースですが、特許庁の基準では一般的に以下のようなケースが該当します。[7]
- 書体のみの変更: 登録が明朝体で、使用がゴシック体である場合など。
- 平仮名、片仮名、ローマ字の相互の変更: 例えば、「サクラ」を「さくら」や「SAKURA」として使用し、読み方(称呼)と意味(観念)が同じである場合。
- 外観の軽微な変更: ロゴマークの微調整など、商標の主要な特徴に変更がない場合。
一方で、以下のようなケースは同一性が否定される可能性が高くなります。
- 結合商標の一部のみの使用: 図形と文字が結合したロゴマークで登録されているのに、文字部分だけを使用している場合。
- デザインの大幅な変更: ロゴのデザインを大きく変えてしまい、印象が変わる場合。
もし、実際に使用している商標が登録商標と異なる態様である場合は、現在使用している態様で新たに出願・登録することを検討すべきです。
3. 「駆け込み使用」の制限
不使用取消審判が請求されることを察知してから、慌てて使用を開始する「駆け込み使用」は、原則として有効な使用とは認められません。
商標法第50条第3項では、審判請求の登録日前の使用であっても、その使用が「その審判の請求がされることを知った後」であることを請求人が証明したときは、その使用は認められないと規定されています。[3] 実務上、審判請求の3ヶ月前以降の使用については、特に厳しく判断される傾向があります。
権利維持の鍵:有効な使用証拠の具体例と準備
不使用取消審判の帰趨は、商標権者がいかに説得力のある使用証拠を提出できるかにかかっています。証拠として認められるためには、以下の4つの要素が明確に示されている必要があります。[8]
- 使用時期: 過去3年以内の使用であること。
- 使用者: 商標権者、または使用権者による使用であること。
- 使用商標: 登録商標(または社会通念上同一の商標)であること。
- 対象商品・役務: 指定商品または指定役務についての使用であること。
有効な証拠の具体例
これらの要素を満たす具体的な証拠の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 取引書類(請求書、納品書、領収書など): 日付、取引先、商品名、そして商標が表示されていれば、有力な証拠となります。ただし、商品名が型番だけの場合などは、それが登録商標を使用した商品であることをカタログなどと紐づけて証明する必要があります。
- 商品やパッケージの写真: 使用時期を証明するために、日付がわかるもの(例えば、その日の新聞と一緒に撮影するなど)と組み合わせることが望ましいです。
- 広告宣伝物(パンフレット、カタログ、チラシなど): 発行日や配布日が記載されているものが有効です。業界紙や雑誌への掲載広告も強力な証拠となります。
- ウェブサイトの記録: ウェブサイト上での使用も証拠となり得ますが、改変が容易であるため、公的な第三者機関によるタイムスタンプなどで裏付けることが推奨されます。
証拠として不十分な例
逆に、以下のような資料は証拠として不十分と判断されやすいです。
- 名刺のみ: 名刺だけでは、具体的な商品やサービスを提供している実態を証明するのが難しい場合があります。
- 日付のない写真や書類: いつ使用されたのか証明できません。
- 社内資料: 対外的な取引の実態を示さないため、証拠価値は低くなります。
重要なのは、これらの証拠は「審判が請求されてから作成する」のではなく、「日頃から継続的に収集・保管しておく」ことです。
不使用の「正当な理由」
もし、過去3年間に商標を使用していなかったとしても、その不使用について「正当な理由」がある場合には、例外的に取消しを免れることができます。[3]
ただし、この「正当な理由」が認められるハードルは非常に高いです。大規模な自然災害や輸入禁止措置など、商標権者のコントロールが及ばない外部的な事情によって、やむを得ず使用できなかった場合に限られます。売上不振や経営悪化といった理由は認められません。
企業が取るべき不使用取消審判への対策と管理戦略
大切な商標権を守るためには、日頃からの適切な管理と戦略的な対応が不可欠です。
1. 定期的な使用状況の棚卸しとポートフォリオ管理
まず行うべきは、自社が保有する全ての登録商標について、その使用状況を定期的に(例えば年に一度)確認する「棚卸し」です。以下の点をチェックし、管理台帳を作成しましょう。
- 現在、どの指定商品・指定役務について使用しているか?
- 使用している商標は、登録商標と同一か?
- 過去3年間の使用実績を示す証拠は保管されているか?
この棚卸し作業を通じて、不使用状態になっている商標を早期に発見することができます。
2. 証拠保全の体制構築
使用している商標については、前述した有効な証拠を確実に収集・保管する体制を構築することが重要です。担当者を決め、証拠収集のルールを定めましょう。デジタルデータであれば、タイムスタンプを付与するなどして証拠能力を高めておく工夫も有効です。
3. 不要な指定商品・役務の整理と再出願
棚卸しの結果、今後も使用する見込みがない指定商品・指定役務が判明した場合、それらを放置しておくことはリスクとなります。自発的に不要な指定商品・指定役務を削除する「減縮(げんしゅく)」の手続き(一部放棄)を検討すべきです。
また、使用態様が登録内容と異なっている場合や、長期間使用していなかった商標を再び使用したい場合は、現在の実態に合わせて再度出願(再出願)することも有効な戦略です。
4. ライセンス戦略による使用の確保
自社で全ての指定商品・指定役務について商標を使用することが難しい場合、他社にライセンス(使用許諾)することも有効な対策となります。使用権者による使用も、商標権者の使用と同等に扱われるためです。これにより、不使用取消のリスクを回避できるだけでなく、ロイヤリティ収入を得ることも可能となり、知財の収益化にも繋がります。
まとめ:商標は使ってこそ価値がある
本記事では、日本の商標制度における重要な柱の一つである「不使用取消審判」について詳しく解説してきました。
商標権は、更新を続ければ半永久的に存続させることが可能ですが、それはあくまで「使用」という前提があってこそです。商標は使用されることによって信用が蓄積され、その価値が高まるものであり、使用されていない商標を保護し続ける必要性は低いというのが商標法の基本的な考え方です。
不使用取消審判は、継続して3年以上使用されていない商標に対し、誰でも請求することができ、立証責任は商標権者側にあります。適切な使用証拠を提出できなければ、せっかく取得した権利が取り消されてしまいます。
このリスクに対抗するためには、制度を正しく理解し、日頃から使用証拠を確実に確保し、保有商標の定期的な棚卸しを行うことが不可欠です。商標権は、適切に管理し、積極的に使用してこそ真価を発揮します。本記事が、皆様のブランド保護と、知的財産の活用の一助となれば幸いです。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
[1] e-Gov法令検索. 商標法 第一条(目的). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_1
[2] 特許庁. 商標制度の概要. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/chizai04.html
[3] e-Gov法令検索. 商標法 第五十条(商標登録の取消しの審判). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_50
[4] 特許庁. 審判制度の概要. 5. 審判事件の基本的な手続. https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/gaiyo.html#anchor5-1
[5] e-Gov法令検索. 商標法 第五十四条(商標権の消滅). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_54
[6] e-Gov法令検索. 商標法 第二条(定義等). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_2
[7] 特許庁. 商標審査基準(改訂第15版). 第4 商標法第50条(不使用による商標登録の取消しの審判). https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/shinsa_kijun/document/index/15-4-50.pdf
[8] 特許庁. 不使用取消審判請求に対する 登録商標の使用の立証のための参考資料. https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-shohyo_torikeshi/document/index/shiyou-risshou.pdf

