耳に残る企業サウンド:NBCチャイムと音の商標によるブランド価値の最大化

株式会社IPリッチのライセンス担当です。 本記事では、企業のブランド・アイデンティティを形成する上で極めて重要な役割を果たす「音の商標(サウンドマーク)」について、その歴史的起源であるNBCチャイムの事例から、日本における最新の法的保護状況、そしてビジネスへの影響力までを深く掘り下げて解説します。視覚情報が溢れる現代において、聴覚に訴えるブランディングは顧客の無意識に働きかける強力な資産です。1950年に米国で初めて登録されたNBCのチャイム音から始まり、2015年の日本の商標法改正を経て、現在では多くの企業が「音」を知的財産として戦略的に活用しています。本稿を通じて、音響ブランディングの価値と、それがもたらす知財収益化の可能性について結論付けます。
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NBCチャイムの歴史と技術的背景
「音」が法的な権利として認められるようになった背景には、放送業界のパイオニアであるNBC(National Broadcasting Company)の存在があります。
世界初の音商標登録とその意義
1950年、米国特許商標庁(USPTO)は、NBCが放送で使用していた「G-E-C(ソ・ミ・ド)」の三音からなるチャイムを、米国史上初となる「純粋な音声(purely audio)」の役務商標(サービスマーク)として登録しました 。登録番号523,616号として記録されたこの商標は、視覚的なロゴや文字を伴わない、音そのものが識別標識として認められた画期的な事例です 。
技術的課題から生まれたブランド資産
興味深いことに、このチャイムは当初、純粋なブランディング目的だけで導入されたわけではありませんでした。1920年代後半、ラジオ放送の黎明期において、NBCのネットワーク局が番組を切り替える際の合図として、また回線切り替え時に発生する「プツッ」というノイズや無音時間をカモフラージュするための実用的な手段として採用されたという技術的背景があります 。 当初は7音のシーケンスなどが試されましたが、アナウンサーが手動で演奏する際の安定性を考慮し、最終的に「G-E-C」のシンプルな3音に統一されました。その後、手動演奏のバラつきを解消するため、「レンジャートーン(Rangertone)」と呼ばれる自動演奏装置が開発され、1930年代には主要な放送局に配備されました 。このように、技術的な課題解決(ノイズ隠しとタイミング同期)のために導入された音が、長年にわたる反復使用によって聴取者に「NBCの番組である」と即座に認識させる力を持ち、法的な保護対象となる「二次的意味(Secondary Meaning)」を獲得するに至ったのです 。
G-E-Cにまつわる都市伝説
NBCのチャイム構成音である「G-E-C」については、長年にわたり「General Electric Company(ゼネラル・エレクトリック社)」の頭文字に由来するという説が広く流布してきました。当時、GEはRCA(NBCの親会社)の主要株主であったため、まことしやかに語られましたが、NBCの内部資料や歴史的記録からは、この構成音がGE社を表すために意図的に選ばれたという証拠は見つかっておらず、これは都市伝説であるとされています 。実際には、音楽的な響きの良さと、前述の技術的な運用しやすさが決定要因であったと考えられています。
日本における音商標の導入と先進事例
米国での登録から遅れること約65年、日本でも「音」を含む新しいタイプの商標が保護されるようになりました。
2015年商標法改正のインパクト
日本においては、2015年4月1日に施行された改正商標法により、「音」に加え「色彩のみ」「位置」「動き」「ホログラム」といった、いわゆる「非伝統的商標(Non-Traditional Trademarks)」の登録が可能になりました 。これは、企業のブランド戦略が多様化し、視覚的な文字や図形以外のアプローチで顧客に訴求するニーズが高まったことに対応するものです。
日本初の登録事例:正露丸と久光製薬
制度開始直後から多くの出願がなされましたが、日本で最初に登録された音商標として特筆すべき事例がいくつかあります。 一つは、久光製薬株式会社の「ヒサミツ」というサウンドロゴ(メロディと歌詞の組み合わせ)です 。そしてもう一つ、非常に象徴的なのが大幸薬品株式会社の「正露丸」のラッパのメロディです 。 特に正露丸の事例は、知財戦略上極めて重要な示唆を含んでいます。「正露丸」という名称自体は、過去の判例により普通名称(ジェネリック)化しているとされ、商標としての独占的な権利行使が難しい状況にありました。しかし、あの特徴的な「ラッパのメロディ」は、長年の使用によって国民の多くが「大幸薬品の正露丸」を想起できるほど強力な識別力を獲得していたため、音商標としての登録が認められました(登録第5804299号) 。これは、文字商標での保護が難しい場合でも、音商標という別の側面からブランドを保護し、他社との差別化を図ることができるという、知財ミックス戦略の好例と言えます。
その他の著名な音商標
世界に目を向ければ、MGM映画のオープニングで流れる「ライオンの咆哮(レオ・ザ・ライオン)」、インテルの「ボン、ボン、ボン、ボン」というサウンドロゴ、Netflixの起動音などが登録されています 。これらは、言語の壁を超えて瞬時にブランドの世界観を伝達する力を持っています。
音響ブランディングの心理的効果と信頼構築
音の商標登録は単なる法的保護にとどまらず、ビジネスにおける具体的な数値的成果に結びついています。
潜在意識への訴求力と意思決定
音は視覚情報よりも早く脳に到達し、感情や記憶を司る部分に直接作用すると言われています。ある調査によると、消費者の意思決定の95%は潜在意識下で行われており、音はその領域にアクセスする極めて有効な手段です 。視覚的な広告が見過ごされがちな現代において、聴覚への刺激はブランド認知の「突破口」となり得ます。
信頼と想起率の向上
ニールセンの調査によれば、独自の音楽的アイデンティティ(ソニック・アイデンティティ)を持つブランドは、そうでないブランドと比較して、消費者からの信頼度が63%向上するというデータがあります 。また、特定の音を使用することでブランド想起率や記憶の定着率(メモリーエンコーディング)が大幅に高まることも示されています 。 例えば、Visaの調査では、決済完了時に特定のブランドサウンドを使用することで、消費者が「セキュリティが守られている」と感じる割合が12%増加し、ブランドへの好感度が14%向上したという結果が出ています 。これは、音が単なる装飾ではなく、顧客体験(CX)における「安心感」や「信頼」の担保として機能していることを示しています。
知財の収益化戦略と今後の展望
最後に、音商標を含む知的財産全般の収益化について考察します。
ブランド資産としての音のライセンス
登録された音商標は、排他的独占権を持つ「財産」です。これにより、他社による類似音の使用(フリーライド)を防ぎ、ブランドの稀釈化(Dilution)を回避することができます 。さらに、キャラクタービジネスやメディア展開において、特定の音源やサウンドロゴの使用をライセンス契約の対象とすることで、直接的なロイヤリティ収益を生み出すことも可能です。 例えば、映画やゲームのキャラクター玩具において、商標登録された特定の「音」を使用する権利をライセンスすることは、商品価値を高めると同時に、知財保有者にとっての収益源となります。
未活用知財のマネタイズへの示唆
NBCのチャイムが当初は「ノイズ隠し」という機能的な役割から始まり、やがて企業の顔となる資産へと変貌したように、企業の中には「価値に気づかれていない知財」が眠っていることが多々あります。 音商標が企業のアイデンティティを確立し、顧客ロイヤリティを高めることで間接的に収益に貢献するように、特許権もまた、自社製品への適用だけでなく、他社へのライセンス供与や売却によって新たなキャッシュフローを生む源泉となり得ます。 特に、自社では事業化の予定がない「休眠特許」であっても、他社にとっては喉から手が出るほど欲しい技術である可能性があります。知財を「守り」のツールとしてだけでなく、「攻め」の収益源として捉え直し、積極的に外部へのライセンスや売却(収益化)を検討することが、現代の経営戦略において不可欠です。音商標の事例が示すように、知覚できるあらゆる要素が資産となり得る今、保有する知財の棚卸しと再評価を行うことが、次なる成長への第一歩となるでしょう。
参考文献リスト
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