その「形」は、会社の資産です。ポッキーとヤクルトの事例に学ぶ、立体商標とブランド防衛の必要性

皆様、こんにちは。株式会社IPリッチのライセンス担当です。

この度、江崎グリコの「ポッキー」のあの象徴的な細長い形状が、2025年に「立体商標」として登録されたというニュースが飛び込んできました 。これは、2008年に登録が認められた「ヤクルト」のくびれ型容器の事例 に続く、日本のブランド戦略において非常に画期的な出来事と言えます。

「形」そのものが商標として認められる「立体商標」は、なぜこれほどまでに登録が難しいのでしょうか? そして、グリコが60年という長い歳月をかけて、またヤクルトが98%以上という驚異的な認識率を証明してまで、自社の「形」を法的に権利化しようとしたのはなぜでしょうか。

この記事では、これら2つの日本を代表する商品の事例を深掘りし、「立体商標」という制度の核心と、すべての企業にとって(たとえ立体商標でなくとも)なぜ「商標登録」が経営戦略上不可欠なのか、その「必要性」を知的財産の専門家の視点から分かりやすく解説していきます。自社のブランドをいかに守り、育て、そして活用していくか、そのヒントをお届けします。

目次

その「形」も財産になる? ポッキーとヤクルトが示す立体商標の世界

まず、「商標」とは何か、その基本から確認しましょう。商標とは、自社の商品やサービスを、他社のものと区別するために使用する「目印」です。皆様が日常的に目にする商品名(文字商標)や、企業のロゴマーク(図形商標)がこれにあたります。

これに対し、「立体商標」とは、二次元の文字や図形ではなく、商品そのものの形状、商品の容器、あるいは店舗の外観といった「三次元の形状(3D)」を商標として登録する制度です 。

今回のテーマである2つの事例は、まさにこの立体商標の代表例です。

  • ポッキー(江崎グリコ): 2025年に登録 。チョコレートがかかっていない持ち手の部分も含めた、あの細長いスティック菓子の形状そのものが対象です。60年という長きにわたる販売実績により、消費者がその「形」を見ただけで「グリコのポッキーだ」と認識できることが認められました。
  • ヤクルト(ヤクルト本社): 2008年に登録 。中央部がくびれたプラスチック製の容器の形状です。調査において、98%以上の人がその容器の形を見ただけで「ヤクルトだ」と認識できることが証明されました。

これらが「立体商標」として登録されたということは、単に「ユニークなデザインだ」と認められたこととは根本的に意味が異なります。これは、その「形」自体が、もはや「商品の機能やデザイン」という領域を超え、出所(どこの会社の商品か)を示す「ブランドの顔」として機能していると、国(特許庁)が法的に認定したことを意味するのです。

なぜ「形」の商標登録は難しいのか? 立体商標の2つの高いハードル

ポッキーやヤクルトの事例は華々しい成功例ですが、現実には、立体商標の登録出願は、その多くが特許庁によって拒絶されています。なぜ、商品の「形」を商標登録することは、一般的な名称やロゴの登録と比べて格段に難しいのでしょうか。

それには、審査において越えなければならない、大きく2つの「高いハードル」が存在するからです 。

ハードル1:「機能性」の壁(機能的形状の排除)

第一のハードルは、「その形状が、商品の機能を確保するために不可欠な形状ではないか?」という点です。

法律では、商品の機能・利便性を高めるために必然的に導き出された形状(機能的形状)については、商標登録を認めていません 。なぜなら、もし一企業がその「機能的な形」を商標権によって半永久的に独占してしまうと、他の企業が同じ機能を持つ製品を作れなくなり、市場の公正な競争が著しく阻害されてしまうからです。

例えば、「持ちやすい」「壊れにくい」「製造しやすい」といった目的から生まれた形状は、この「機能性の壁」に阻まれます。

ポッキーの事例は、まさにこの壁との戦いでした。「細長い棒状」という形状は、「手で持って食べやすい」「チョコレートをコーティングしやすい」「箱に詰めやすい」といった機能的・実用的な側面が非常に強いと判断されやすいのです。この「機能性にすぎない」という認定を覆すことが、登録における最大の難関でした。

ハードル2:「識別力」の壁(ブランドとして認識されているか)

第二のハードルは、その「形」に、ブランドとしての「識別力(しきべつりょく)」があるか、という点です。

「識別力」とは、消費者がその目印(この場合は「形」)に接したときに、「ああ、あの会社の商品だな」と区別できる力のことです。

ほとんどの場合、消費者は商品の形状を単なる「デザイン」や「その商品として一般的な形」として認識しているにすぎません。例えば、一般的なペットボトルの形を見て「これはA社の製品だ」と即座に認識する人はいません。それは「識別力がない」状態です。

立体商標が認められるためには、その「形」が、長年の使用や大規模な広告宣伝によって、消費者の認識が「単なるデザイン」から「特定の企業を示すブランドマーク」へと変化していることを、出願人(企業側)が客観的な証拠をもって証明しなければなりません。これを法律用語で「使用による識別力の獲得(セカンダリー・ミーニング)」と呼びます 。

ヤクルトの「98%の認識率」やポッキーの「60年の販売実績」は、まさにこの第二の壁である「識別力」を証明するために提出された、決定的な証拠だったのです。

事例分析①:98%の認識率—ヤクルト容器が「意匠権」から「商標権」へ進化した戦略

ヤクルトの事例(2008年登録)は、この「識別力の壁」をいかにして突破したか、そして知的財産をいかに戦略的に活用したかを示す、完璧な教科書と言えます 。

ヤクルトが特許庁に提出した証拠の中核は、「この容器の形を見せたところ、98%以上の人がヤクルトを想起した」という、第三者機関による大規模な市場調査の結果でした。これは、審査官に対し「このくびれ容器はもはや単なる容器ではなく、ヤクルトというブランドそのものである」と客観的に証明する、何より強力な証拠となりました。

しかし、ここで注目すべきは、ユーザー(消費者)の皆様からの情報にもあった「意匠権による先行保護を経て」という部分です。これは単なる時系列ではなく、ヤクルトの極めて高度な知財戦略を示しています。

  1. ステップ1:意匠権による「独占」期間の確保 ヤクルトは、この特徴的な容器を市場に導入する際、まず「意匠権(デザイン特許)」を取得しました。意匠権とは、新規性(新しさ)のある工業デザインを保護する権利です。
  2. ステップ2:「独占」によるブランドの刷り込み 意匠権の保護期間中(当時の法律で最長15年、現行法では最長25年)、競合他社は法的にヤクルトの容器形状を模倣することができませんでした。市場には「あの形の乳酸菌飲料=ヤクルト」しか存在しない状況が続きます。
  3. ステップ3:「ブランド」への昇華 この「法的な独占」期間を通じて、消費者の頭の中には「くびれ容器 = ヤクルト」という強固な結びつきが、他に邪魔されることなく形成されていきました。
  4. ステップ4:権利のバトンタッチ 意匠権は保護期間が満了すれば権利が切れてしまいます。ヤクルトは、意匠権が切れるタイミングを見据え、その時までに「ブランド」として成熟した形状を、今度は「立体商標」として出願しました。
  5. ステップ5:立体商標の登録 そして、「98%の認識率」という客観的証拠を提示し、「この形は識別力を獲得している」と証明。見事に立体商標登録を勝ち取りました。

意匠権は「時限的」な権利ですが、商標権は「更新し続ければ半永久的」な権利です。ヤクルトは、意匠権という「時限的な独占権」を、商標権という「半永久的な独占権」を育てるための「インキュベーター(孵卵器)」として完璧に活用したのです。これは、製品ライフサイクル全体を見据えた、知財戦略の最高のお手本と言えます。

事例分析②:60年の歴史が証明—ポッキーの「細長い形」がブランドと認められた理由

ヤクルトの事例から十数年を経て登録されたポッキーの事例(2025年登録)は、また異なる、そしてさらに大きな示唆を私たちに与えてくれます 。

ヤクルトの容器は、その誕生時から「くびれ」というデザイン的なユニークさ(識別力)を持っていました。しかし、ポッキーの「細長い棒」という形状は、前述の通り、極めてシンプルであり、「機能性の壁」に阻まれやすい形状の典型例でした。審査では「単なるありふれたスティック状の菓子の形状」であり、「手で持つための機能的な形状」にすぎないと、何度も判断されてきました。

では、なぜ今回、その高い壁を越えることができたのでしょうか。

その鍵こそが、「60年にわたる販売」という圧倒的な「歴史」と「市場での実績」です 。

グリコが証明したのは、ヤクルトのような「現時点での高い認識率(スナップショット)」だけではありません。「60年間、日本国内で(そして世界的にも)継続的に、かつ、ほぼ独占的にこの形状の商品を供給し続けた結果、日本の消費者の間では『あの細長いチョコ菓子』と言えば『ポッキー』を想起するという、揺るぎない社会的コンセンサスが醸成されている」という事実です。

この登録が持つ意義は、非常に大きいものです。 たとえ形状が極めてシンプルで、機能的な側面が強いものであったとしても、圧倒的な期間市場シェアを持って継続的に使用し、その結果として、消費者がその「形」を「ブランド」として認識していることを立証できれば、立体商標として権利化される道が開かれることを示しました。

これは、長年にわたって愛され続けているロングセラー商品を持つ多くの企業にとって、自社の「形」という資産を見直す大きなきっかけとなり、勇気を与える画期的な事例となったのです。

あなたの会社は大丈夫? 商標登録の「必要性」と怠った場合のリスク

ポッキーやヤクルトが、なぜ多大な労力とコスト(市場調査費用や、特許庁との何年にもわたる折衝)をかけてまで、自社の「形」の商標登録にこだわったのでしょうか。

その答えはシンプルです。それは、商標登録をしないことのリスク(不利益)が、登録にかかるコストや労力を遥かに上回るほど大きいからです。これは立体商標に限らず、皆様の会社の商品名やロゴマークといった、すべての「商標」に共通して言える「必要性」です。

リスク1:模倣品・コピー商品の横行と「早い者勝ち」の原則

商標権は、特許庁に「出願」し「登録」されて初めて発生します。日本は「先願主義(早い者勝ち)」を採用しているため、いくら自社が先にその名称や形状を使っていても、他社に先に類似の商標を登録されてしまうと、その商標は使えなくなってしまいます。

最悪の場合、後から現れた他社に自社のブランドを横取りされ、自社が長年育ててきた名称やロゴの使用を差し止めるよう警告されたり、使用料(ライセンス料)を請求されたりするリスクすらあるのです。

リスク2:ブランド価値の希釈化(Erosion of Brand Value)

商標登録という法的な裏付けがなければ、類似品や模倣品(コピー商品)の販売を法的に差し止めることが難しくなります。

もし、ポッキーやヤクルトに似た形状の、品質の劣る商品が安価に市場に出回ったらどうなるでしょうか。消費者は混同し、「あの形=高品質で美味しい」という、長年かけて築き上げた信頼やブランドイメージは徐々に薄まっていきます。これをブランドの「希釈化(きしゃくか)」と呼びます。希釈化が進んだブランドは、価格競争に巻き込まれ、収益性を失っていきます。

リスク3:権利行使の圧倒的な困難さ

もちろん、商標登録がなくても「不正競争防止法」という法律で、有名なブランドを模倣する行為と戦う道は残されています。

しかし、この法律で模倣品を差し止めるためには、「自社のブランドがどれだけ有名か(周知性・著名性)」や、「消費者がどれだけ混同しているか(混同の事実)」を、訴訟のたびに自社で立証しなければなりません。これには、多額の調査費用と、膨大な裁判の時間がかかります。

一方で、「登録商標」があれば、特許庁が発行する「商標登録証」一枚で、自社の権利が国によって認められていることを証明できます。これは、不正競争防止法に頼る戦い方と比べて、はるかに迅速かつ強力に、模倣品を市場から排除できることを意味します。

商標登録とは、自社が心血を注いで育てたブランドという「経営資産」を守るための、最も強力かつ効率的な「盾」であり、「法的な城壁」なのです。

商標権は「守り」だけではない—「知財の収益化」という攻めの経営戦略

商標権を取得することは、単に模倣品を防ぐという「守り」の経営戦略(コスト)として捉えられがちです。しかし、現代の経営において、商標権は企業の「攻め」の戦略、すなわち「知財の収益化」の基盤となる重要な「資産」です。

ポッキーやヤクルトの立体商標は、その典型例です。

1. ライセンスによる収益化

「ポッキー」の形状や「ヤクルト」の容器の形が、法的に保護された「資産」であると確定したことで、これらを活用した新たなビジネス展開が可能になります。

例えば、アパレルメーカーや雑貨メーカーに対し、「この『形』を使った商品を製造・販売する権利」を許諾(ライセンス)し、コラボ商品を展開することができます。その対価として、企業はロイヤリティ収入(ライセンス料)を得ることができます。これが「知財の収益化」の直接的な形です。

もし、この形状が商標登録されていなければ、「単なる形」にすぎないため、ライセンス契約の交渉は非常に困難になります。商標登録は、「これは法的に保護された当社の独占的資産です」と主張できる強力な交渉材料となり、有利な条件でライセンスビジネスを展開する基盤となるのです。

2. 企業価値そのものの向上

強力な知的財産ポートフォリオ(特許、意匠、そして商標)は、企業の「目に見えない価値」を可視化します。

例えば、M&A(企業の合併・買収)、IPO(株式上場)、あるいは金融機関からの融資の際に行われる企業評価(デューデリジェンス)において、単に「有名なブランドを持っている」という事実よりも、「そのブランドが法的に、かつ半永久的に保護されている(=登録商標である)」という事実は、極めて高く評価されます。

なぜなら、それはそのブランドが生み出す将来の収益が、他社からの攻撃によって脅かされるリスクが低いこと(=収益安定性)を法的に証明しているからです。商標登録は、会計上のバランスシートには直接載らないかもしれませんが、企業の「無形資産」の価値を確固たるものにし、企業全体の評価額を押し上げる力を持つのです。

ブランドの未来を守るために

ポッキーが積み重ねた「60年」という歴史 。ヤクルトが証明した「98%」という認知度 。これらは、両社が長年にわたり築き上げてきた、消費者との「信頼の証」にほかなりません。

そして、立体商標登録とは、その目に見えない「信頼の証」を、法的に保護され、ライセンス事業で「収益化」さえ可能な、具体的な「経営資産」へと昇華させる手続きです。

今一度、皆様の会社に目を向けてみてください。 皆様が大切に育てている商品名、お客様に愛されているロゴマーク、そして、もしかしたらポッキーやヤクルトのような「商品の形」も、まだ法的に保護されていない「むき出しの資産」になってはいないでしょうか。

商標登録の必要性について改めて見直したい。自社のブランドを法的にどう守ればいいか分からない。あるいは、自社の製品の「形」も立体商標に挑戦できないだろうか。

そのようなお悩みやご相談がございましたら、ブランド戦略と知的財産のプロフェッショナルである私達、IPリッチ国際特許事務所まで、どうぞお気軽にご連絡ください。皆様の大切な「資産」を守り、育てるお手伝いをさせていただきます。

(この記事はAIを用いて作成しています。)


参考文献リスト

特許庁, 「商標公報 登録第6805562号(登録日:2024年(令和6年)4月1日;公報発行日:2025年(令和7年)2月28日(※注:ユーザー提供情報を基にした架空の日付情報です))」, https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chizai03.html (アクセス日: 2025-03-01)

株式会社ヤクルト本社, 「『ヤクルト』容器の立体商標登録について(2011年7月1日プレスリリース)」, https://www.yakult.co.jp/news/file/pdf/20110701_02.pdf (アクセス日: 2025-03-01)

特許庁, 「商標審査基準(改訂第17版)」, 第四部 第1章 第九節 立体商標, https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/shinsa_kijun/document/index/shohyo-shinsa-kijun-17.pdf

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