『木枯し紋次郎』著作権侵害事件から考える企業の適切な対応

こんにちは、株式会社IPリッチのライセンス担当です。今回は、有名時代劇キャラクター「木枯し紋次郎」を巡る著作権侵害事件の概要と判決内容を解説し、侵害企業が本来取るべき適切な対応策について考察します(知財の収益化についても最後に触れます)。本記事を通じて、企業が著作権リスクにどう向き合い、社内体制を整えるべきかをわかりやすくお伝えできれば幸いです。
直近の「木枯し紋次郎」著作権訴訟
「木枯し紋次郎」は笹沢佐保氏原作の連載時代小説で、1972年にはテレビドラマ化されて視聴率30%超の大ヒットを記録し、映画化もされた人気作品です。主人公の紋次郎は以下のような特徴的な風貌で知られています。
- 大きな三度笠を目深にかぶって旅をする
- 縞模様の長い道中合羽を身にまとっている
- 細く長い楊枝を口にくわえ、「ヒュー」と風を切る音を立てる
- 長脇差(ながわきざし:短刀)を携えている
こうした紋次郎のイメージは長年愛されてきましたが、これを模したとされる駄菓子「紋次郎いか」の商品デザインが著作権侵害に問われる事態となりました。名古屋市の食品メーカー(一十珍海堂株式会社)が販売する「紋次郎いか」というスルメ菓子のパッケージに、巨大な三度笠をかぶった渡世人のイラストと「紋次郎」の商品名が付されており、原作者(笹沢氏)の遺族とその著作権管理会社が著作権侵害と不正競争防止法違反で同社を提訴したのです。原告側は、小説およびその漫画・映像化作品に関する著作権(複製権・翻案権等)が侵害されたと主張し、また被告の商品パッケージ上の図柄と名称「紋次郎」が原告のコンテンツを想起させる表示であり無断利用は不正競争行為にも当たると訴えました。
一審の東京地方裁判所(令和5年12月7日判決)は原告の請求を棄却しています。裁判所はまず、原告が「紋次郎」というキャラクターそのものの保護を主張した点について、「キャラクター自体は著作物ではない」と明確に判断しました。すなわち、連載小説の主人公といった抽象的な登場人物の人格そのものは具体的表現ではなく、著作権法の守る「著作物」には該当しないという従来からの判例理論(いわゆる「ポパイ判決」※)を踏襲したのです。さらに、テレビドラマや映画になった紋次郎の映像についても、典型的な渡世人スタイルの表現は歴史的にありふれたもので創作性がないとされました。実際に、被告商品のイラストと原告作品中の紋次郎の映像を比較しても共通部分は「江戸時代の渡世人」に過ぎず平凡な表現であり、被告イラストは既存表現の複製・翻案には当たらないと判断されています。加えて、不正競争防止法上の主張についても、原告が指す「紋次郎」の名称や図柄はそもそも原告の営業表示とは言えず周知性もないとして退けられました。このように一審判決では、「紋次郎」のキャラクター性そのものに対する法的保護の難しさが浮き彫りとなり、原告側の請求は認められなかったのです。
ところが、控訴審の知的財産高等裁判所(令和5年9月24日付判決)で状況が一変します。知財高裁は、一審の判断を覆し「被告のイラストは著作権侵害に当たる」と認定し、約5,600万円もの損害賠償を被告企業に命じました。判決理由の詳細は判決文公開後に明らかになる部分もありますが、報道によれば知財高裁は次のように指摘しています。すなわち、「紋次郎」の四つの特徴すべてを備えた人物は他の作品には存在せず、被告イラストはテレビドラマに登場する紋次郎の本質的な特徴をそのまま保持した創作的表現であると判断したのです。一審が「ただの渡世人のありふれた姿」と見做した点について、二審では特徴の組み合わせの独自性が重視された形と言えるでしょう。また、被告メーカー自身が過去に「商品名の由来は『紋次郎』である」と公言していたことも判明しており、これが著名キャラクターにあやかった意図の証拠として不利に働いたようです。結果として原告側の逆転勝訴となり、長年駄菓子として親しまれてきた「紋次郎いか」のデザインが高額賠償の対象となるというインパクトの大きい判決が下されたのです。
※ポパイ事件(最判平成9年7月17日): 連載漫画のキャラクター「ポパイ」の著作物性が否定された有名判例。この判例では、「キャラクターは具体的表現から昇華した抽象的概念であり、それ自体創作的表現とはいえない」と判示されています。
著作権侵害と企業の適切な対応
この「木枯し紋次郎」事件は、キャラクター利用に対する法的リスクを改めて世に知らしめる結果となりました。特に二審判決は「特徴の組み合わせによるキャラクター表現も著作権で保護され得る」ことを示唆し、企業にとって慎重な対応が必要であることを浮き彫りにしています。では、もし自社がこのような著作物に関連する企画を検討する場合、侵害企業とならないためにどのような対応を取るべきだったのか、いくつかのポイントに分けて考えてみましょう。
- 安易に他人の著名キャラクターを真似しない: まず基本として、他者が創作したキャラクターの設定やビジュアルを無断で商品や宣伝に利用しないことです。たとえ「キャラクター自体は著作物でない」という判例があるからと言って安心せず、有名作品を連想させる要素の使用には注意が必要です。今回の被告企業は商品名に直接「紋次郎」と冠し、図柄も明らかに紋次郎を想起させるものでした。結果的に「本質的特徴のコピー」と判断され巨額の賠償命令につながったわけですから、最初からキャラクターに頼らない独自のブランディングをすべきでした。
- 必要なら正式にライセンスを取得する: どうしても人気キャラクターのイメージを商品に取り入れたい場合は、権利者から正式な許諾(ライセンス)を受けるのが適切です。例えば、原作者側と契約を結んで紋次郎の名前や肖像を使用していれば、当然訴訟リスクは生じませんし、公式コラボ商品として販促効果も得られます。ライセンス料や契約交渉の手間を嫌って無断利用してしまうと、結果的に裁判費用や賠償金で遥かに大きなコストを払う羽目になりかねません。著名コンテンツに便乗したビジネスには正当な対価を支払い、Win-Winの関係を築くことが企業倫理としても求められます。
- 商標登録だけでは万全ではない: 被告企業は「紋次郎いか」「げんこつ紋次郎」といった商品名・ロゴを自社で商標登録し、長年販売して独自の信用も築いていました。一見すると商標権を押さえていれば問題ないように思えますが、今回のように商標で保護される名称やロゴでも、元のキャラクターの著作権侵害を問われる可能性があります。実際、商標権があっても原作者の著作権侵害が認められたのですから、「商標を取ったから安心」という考えは誤りです。他人の創作物に由来する名前・デザインを使う場合には、商標だけでなく著作権やパブリシティ権など他の法的側面も総合的に検討しなければなりません。
- 指摘を受けたら迅速に対応・改善する: 万一、権利者から「それは当社(作者)の著作権を侵害している」と指摘を受けた場合、速やかに対応する姿勢も大切です。例えば被告企業は一審で勝訴した後も販売を続けていたと考えられますが、係争中でもデザインや商品名の自主的な変更、権利者との和解交渉など柔軟に行っていれば、長期化する訴訟や高額賠償を回避できた可能性があります。結果として社会的な注目も浴びてしまい企業イメージも損なわれたわけですから、リスクが顕在化した段階で真摯に是正策を講じることも企業防衛の一環と言えるでしょう。
以上のように、企業としては事前に著作権侵害リスクを洗い出し、問題があれば企画段階で修正・ライセンス取得を検討することが肝要です。流行のコンテンツに便乗した商品開発はマーケティング上の魅力があるかもしれません。しかし、短期的な話題作りのために他者の知的財産を無断利用すれば、結局は訴訟リスクという形で跳ね返ってくることを、この事件は示しています。適切な法的対応を怠らず、クリアな形でコンテンツを活用することが、長期的には事業の安定と信用につながるのです。
著作権リスクに備える社内体制
では、上記のような著作権トラブルを未然に防ぎ、適切に対応するために、企業内ではどのような体制づくりが求められるでしょうか。最後に、知的財産リスクに備える社内体制のポイントを整理します。
まず重要なのは、開発・企画部門と法務・知財部門の連携です。商品企画の初期段階から法律の専門家が関与し、デザインやネーミングに第三者の著作物利用が含まれていないかチェックする仕組みを整えましょう。今回のケースでも、もし企画段階で「紋次郎」という名称や風貌の使用について法務チェックを行っていれば、リスクに気づき別のネーミングに変更するなどの対応が取れたはずです。企業規模によっては専任の知財担当者を置けない場合もありますが、その場合でも外部の弁護士・弁理士に相談できる体制を用意しておくと安心です。
また、社内ガバナンスとしてのルール作りも欠かせません。例えば、「商品名やデザインに他社コンテンツを連想させる要素を含める場合は事前に必ず承認を得る」といったガイドラインを設けて社内に周知徹底することが考えられます。社員一人ひとりが著作権や商標権について基本的な知識を持つよう、定期的な研修を行うことも有効でしょう。特に中小企業では現場の裁量で企画が進んでしまいがちですが、経営者や管理職が率先して知的財産の重要性を発信し、チェック体制を文化として根付かせることが大切です。
さらに、企業自体がキャラクターやブランドを開発し保有する場合には、それらを守るための体制も構築しましょう。今回の原告側は、自社コンテンツを守るために法的措置を取りましたが、争いになった後で動くのでは負担が大きいものです。普段から商標権や意匠権の取得、契約による権利管理など多層的に自社コンテンツを保護する戦略を立てておく必要があります。加えて、万一侵害が発生した際に備えて証拠を整備しておく(創作過程の記録や利用許諾契約書の保管など)ことも有効です。これらは一朝一夕にできることではありませんが、知的財産を企業価値の源泉と考え、平時から法務と事業部門が協力して権利の設計・管理を進める社内体制が求められます。
最後に、問題発生時の迅速な社内報告と意思決定フローも確認しておきましょう。例えば今回のように権利者から警告が来た場合、現場レベルで放置せずただちに経営陣および法務担当にエスカレーションし、対応方針を検討することが重要です。初動を誤ると紛争解決が長引きコストも増大します。平時から「知財クレーム対応マニュアル」を用意し、誰が何を判断するかを決めておけば、いざという時に慌てず適切な対応が取れるでしょう。
以上のように、企業が著作権侵害リスクに備えるには、事前の予防措置と社内体制の整備が不可欠です。コンテンツビジネスに携わる企業はもちろん、商品企画やマーケティングを行うあらゆる企業にとって、知的財産への正しい対応と管理は避けて通れない経営課題と言えます。
知財の収益化も視野に
今回の紋次郎事件は、キャラクター等の知的財産がビジネス上大きな価値を持つことを改めて示しました。原作者遺族らは権利侵害に対して法的措置を取り、その結果5,600万円もの賠償命令が出たことは、裏を返せばそれだけの金銭的価値を知的財産が生み得るということでもあります。企業にとって大切なのは、他者の知財を侵害しないことはもちろんですが、自社の持つ知財を積極的に活用して収益化を図る視点です。例えば他社の優れたコンテンツは正規ライセンス契約によって商品展開し、自社はライセンス料収入を得るという形で協業することもできます。また、自社で開発した特許技術やキャラクターについては、自社利用するだけでなく外部にライセンスアウト(使用許諾)したり売却したりすることで、新たな収益源を創出することも可能です。知的財産は適切に管理するだけでなく、戦略的に収益に結びつけてこそ企業価値を高める資産となります。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 弁理士 山崎理恵 「物語のキャラクターは著作物ではないの? 『木枯し紋次郎』事件」 イノベーションズアイ (2025年3月12日)innovations-i.cominnovations-i.com
https://www.innovations-i.com/copyright-info/?id=164 - 服部京子弁理士 「木枯らし紋次郎事件」 弁理士法人ととせ・ももとせ (2024年7月15日)totomomo.jptotomomo.jp
https://totomomo.jp/topics/484/ - 大熊裕司弁護士 「キャラクターの著作物性はどこまで?『紋次郎いか』判決を読む!」 虎ノ門法律特許事務所 著作権法相談室 (2025年4月27日)chosakukenhou.jpchosakukenhou.jp
https://chosakukenhou.jp/キャラクターの著作物性はどこまで?「紋次郎い/ - 奥田百子弁理士 「『紋次郎いか』事件」 note (2025年9月26日)note.comnote.com
https://note.com/peachpatent/n/n76ee85dd5c5f - 毎日新聞 「「木枯し紋次郎」まねた? 著作権侵害で駄菓子メーカーに賠償命令」 (2025年9月25日)m-dojo.hatenadiary.comm-dojo.hatenadiary.com
※Yahoo!ニュース(アーカイブ): https://news.yahoo.co.jp/articles/875d9419065b91b32a3621108bcd8f6cce89f065

