眠れる発明を呼び覚ます「分割出願」という切り札:ある特許が最強の武器に変わる物語

はじめに
株式会社IPリッチのライセンス担当です。多くの発明家は、特許出願を一度きりの、成功か失敗かの賭けだと考えています。しかし、特許制度には、拒絶という逆境を大きなチャンスに変えるための、強力で戦略的な「切り札」が存在します。本記事では、その「分割出願」という制度を、ある発明家の物語を通して解説し、一つの発明が最強の武器へと変わる過程を追体験していただきます。
発明家の岐路:一枚の「拒絶理由通知」から始まる特許出願の物語
物語の主人公は、小さな技術系スタートアップの創業者、田中さんです。彼は長年の研究開発の末、画期的なドローン技術を完成させました。彼の特許出願書には、会社の未来を左右する二つの核心的な発明が盛り込まれていました。一つは、飛行時間を劇的に延ばす「斬新なバッテリー自動交換機構」(以下、発明A)、もう一つは、複雑な環境でも安全に飛行できる「高度な障害物回避アルゴリズム」(以下、発明B)です。
自信を持って出願した数ヶ月後、田中さんのもとに特許庁から一通の書類が届きます。それは「拒絶理由通知」でした。審査官は、発明Aについては特許性を認めるものの、発明Bについては既存の技術(先行技術)と類似しているため、このままでは特許にできない、という判断を下したのです。
田中さんは岐路に立たされます。選択肢は二つあるように思えました。 一つは、問題となっている発明Bを請求項から削除し、発明Aだけで確実に特許を取得する道。これにより、主力製品の核となる技術を早期に権利化できますが、苦労して開発したアルゴリズムは諦めることになります。 もう一つは、発明Bの特許性を主張して審査官と争う道。しかし、これには時間がかかり、その間、発明Aの権利化も遅れてしまいます。最悪の場合、議論がまとまらず、出願全体が拒絶されてしまうリスクさえありました 。
この絶望的な状況で、田中さんは「全てを得るか、一部を諦めるか」という二者択一を迫られているように感じていました。しかし、彼がまだ知らない「第三の道」が存在したのです。
隠された道筋の発見:分割出願という戦略的メリット
悩んだ田中さんは、知財の専門家に相談することにしました。そこで初めて「分割出願」という戦略の存在を知ります。それは、田中さんが直面していたジレンマを根本から解決する、まさに「隠された道筋」でした。専門家は、分割出願が持ついくつかの強力なメリットを、田中さんに分かりやすく説明しました。
時間を遡る力:出願日の維持という最大の恩恵
特許の世界では、「先願主義」という原則が絶対です。これは、同じ発明について複数の出願があった場合、最も早く出願した者に権利が与えられるというルールです 。そのため、出願日は特許の生命線とも言えます。
分割出願の最大のメリットは、分割して新たに出願した「子出願」が、元の「親出願」と同じ日に出願されたものとして扱われる点にあります 。これを「出願日の遡及効」と呼びます 。
田中さんのケースで言えば、今から発明Bについて分割出願(子出願)を行ったとしても、その出願日は数ヶ月前の親出願の日に遡ります。もし親出願の後で競合他社が類似のアルゴリズムを出願していたとしても、田中さんの出願が優先されるのです。特に、出願内容が公開された後では、新規性が失われて再出願が困難になるため、この遡及効は計り知れない価値を持ちます 。
確実な権利の確保と審査の迅速化
分割出願を活用することで、田中さんはもはや二者択一の悩みを抱える必要がなくなります。専門家が示した戦略はこうです。
- 親出願の早期権利化:まず、拒絶理由のなかった発明Aについては、親出願の手続きを進め、迅速に特許権を確保します。これにより、事業の核となるバッテリー交換機構を法的に保護し、安心して製品化やライセンス交渉を進めることができます 。
- 子出願での再挑戦:同時に、拒絶理由が指摘された発明Bを親出願から切り離し、新たな「子出願」として出願します。この子出願では、発明Bの特許性をじっくりと主張したり、審査官の指摘を踏まえて請求項を補正したりして、権利化を目指すことができます 。
このように、分割出願は審査プロセスを分離・並行化させることで、「確実な権利は速やかに確保し、争点のある権利は粘り強く追求する」という、リスクを管理しながらリターンを最大化する理想的な戦略を可能にするのです。
未来への布石と権利範囲の拡大
さらに専門家は、分割出願の真価は、単なる守りの一手にとどまらない点にあると語りました。実は、最初の出願時に提出した明細書は、将来の権利を生み出す「発明の宝庫」なのです 。
出願時には請求項に記載していなかったとしても、明細書の中に少しでも記述されている技術的なアイデアがあれば、それを抜き出して新たな分割出願とすることが可能です 。例えば、田中さんの最初の明細書に、発明Bのアルゴリズムを「倉庫内の自動搬送ドローンに応用する」という一文が書かれていたとします。出願当初は重要視していなかったこの応用例も、後から市場のニーズが高まったり、競合他社がその分野に参入してきたりした場合に、その部分を狙って「発明C」として分割出願することができるのです。
このように、出願を「係属中」の状態に保ちながら分割を繰り返すことで、市場や競合の動向に合わせて後から権利範囲を調整・拡大していくという、極めて高度で攻撃的な知財戦略を展開できます 。
戦場からの報告:侵害訴訟を制した分割出願の活用事例
田中さんの物語はフィクションですが、彼が学んだ戦略は、現実世界の熾烈なビジネス競争の中で実際に使われ、数々の勝利を収めてきました。分割出願が、単なる審査手続き上のテクニックではなく、競合他社との戦いを制する「武器」であることを示す事例を紹介します。
事例1:位置検出装置事件
ある侵害訴訟では、分割出願が巧みに活用されました 。元の特許(親出願)には、製品の構成要素として「弁座」という部品が含まれていました。しかし、競合他社の模倣品は、この「弁座」を巧みに回避する設計になっていたため、元の特許では侵害を問うことが困難でした。
そこで特許権者は、係属中だった出願を利用して、複数の目的を持った分割出願を行いました。
- 攻撃用の分割出願:意図的に「弁座」の記載を削除した請求項を作成し、競合製品を的確に捉える(侵害と認定できる)新たな特許を取得しました。
- 防御用の分割出願:より抽象的で広い範囲をカバーする請求項で別の特許を取得し、競合が将来行うであろうさらなる設計変更にも対応できるようにしました。
この戦略的な分割出願により、特許権者は見事に侵害訴訟で勝利を収めました。これは、競合製品が登場してから、その製品に合わせて権利内容を「後から調整する」という、分割出願の恐るべき攻撃力を示す典型例です 。
事例2:ドワンゴ対FC2事件
近年注目を集めた事例として、ドワンゴがFC2を相手取った特許権侵害訴訟があります。この訴訟でドワンゴが権利行使の根拠とした特許も、実は分割出願によって取得されたものでした 。この事例は、分割特許が実際のビジネスにおいて、高額な賠償金を伴うような重要な紛争の決め手となり得ることを社会に示しました。
これらの事例が物語るのは、分割出願が、自社の発明を守る盾であると同時に、競合の戦略を無力化し、市場での優位性を確保するための鋭い矛にもなり得るという事実です。
賢者の選択:分割出願のコストと注意すべきデメリット
専門家からの話を聞き、田中さんは分割出願の力に感銘を受けましたが、同時に賢明な問いを投げかけました。「これほど強力な戦略に、デメリットやコストはないのでしょうか?」
その通り、分割出願は万能の魔法ではなく、計算された投資です。その実行にあたっては、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。
経済的コストと管理の手間
最大のデメリットは、費用と手間がかかることです 。分割出願は、法的には一つの独立した新しい出願として扱われます。したがって、出願手数料や審査請求料、弁理士費用などが、親出願とは別に一件ずつ発生します 。例えば、出願費用に1.4万円、審査請求費用に約15万円、そして専門家である弁理士への費用が別途必要になるなど、決して安価ではありません 。複数の分割出願を行えば、それだけコストは膨らみます。
また、親出願と複数の子出願からなる「特許ファミリー」を管理することは、単一の出願を管理するよりも複雑になります。
手続き上の注意点
分割出願には、厳格なルールが存在します。最も重要なのは、子出願で主張する発明は、必ず親出願の最初の明細書に記載されている範囲内でなければならないという点です 。元の明細書に書かれていない新しい事項を追加することはできません。つまり、親出願の出来が悪ければ、子出願もまたその制約を受けることになります 。
また、分割出願ができる時期も法律で定められています。例えば、特許査定の謄本送達から30日以内や、拒絶査定の謄本送達から3ヶ月以内など、タイミングを逃すとこの権利を行使できなくなるため、注意が必要です 。
これらのデメリットを理解した上で、戦略的な価値とコストを天秤にかけることが、賢明な判断につながります。以下の表は、田中さんが直面した状況における各選択肢の比較です。
| 戦略的選択肢 | 拒絶された発明を諦める(選択肢1) | 元の出願で全てを争う(選択肢2) | 分割出願を活用する(選択肢3) |
| 短期的な結果 | 発明Aは早期に特許化。発明Bは喪失。 | 特許化は未定。全体が遅延。 | 発明Aは早期に特許化。発明Bは別出願で追求。 |
| コスト | 最も低い | 中程度(審査長期化) | 最も高い(追加出願費用) |
| リスク | 価値ある知財を失うリスクが高い。 | 全てを失うリスクがある。 | 知財を失うリスクは低い。経済的投資は大きい。 |
| 権利範囲 | 最も狭い | 成功すれば広い可能性がある | 最も広くできる可能性がある(A、B、さらにCも) |
| 戦略的柔軟性 | 皆無。 権利範囲は固定される。 | 低い。 補正のルールが厳しい。 | 高い。 市場や競合に合わせて子出願を調整可能。 |
この表が示すように、分割出願は初期コストこそ高いものの、リスク管理、権利範囲の最大化、そして何よりも将来の「戦略的柔軟性」という点で、他の選択肢を圧倒していることが分かります。
戦略から収益へ:知財の収益化を実現する分割特許ポートフォリオ
物語を数年後に進めましょう。田中さんの会社は大きく成長しました。彼の選択は、会社の運命を決定づけるものでした。
発明Aはすぐに特許となり、主力製品は市場で成功を収めました。一方、分割出願した発明Bも、粘り強い交渉と補正の末、無事に特許査定を勝ち取りました。さらに、数年後に大手物流会社がドローン配送市場に参入したのを見て、田中さんはかつて明細書に忍ばせておいた「倉庫内での応用」(発明C)について三つ目の分割出願を行い、これも権利化に成功しました。結果として、田中さんの手元には、単一の特許ではなく、相互に関連し合う強固な「特許ファミリー(ポートフォリオ)」が形成されていました。
この戦略的なポートフォリオこそが、「知財の収益化」の鍵となります。
- ライセンス価値の増大:単一の特許よりも、複数の特許で網のように張り巡らされたポートフォリオをライセンスする方が、はるかに高額なロイヤリティを得ることができます 。競合他社は、この「特許の地雷原」を避けて事業を行うことが困難になり、ライセンス契約を結ぶという選択肢が魅力的になります。田中さんは、発明Cの特許を武器に、後から参入してきた大手物流会社と有利なライセンス契約を締結し、新たな収益源を確保しました。
- 企業価値の向上:強固な特許ポートフォリオは、競合に対する参入障壁として機能し、企業の競争優位性そのものとなります 。これは、ベンチャーキャピタルからの資金調達や、M&Aの際に、企業価値を飛躍的に高める重要な資産として評価されます。
- 高度なビジネス戦略の展開:ポートフォリオを持つことで、一部の基本的な特許は安価にライセンスして市場を育てる「オープン戦略」をとり、一方で核心的な応用特許は独占して利益を最大化する「クローズ戦略」を組み合わせる、といった高度なビジネス展開も可能になります 。
分割出願戦略は、単に特許を取得する手続きではなく、発明という無形の資産を、ライセンス収入や企業価値向上といった具体的なキャッシュフローへと転換させるための、極めて有効な経営戦略なのです。
結論:あなたの発明価値を最大化するために
田中さんの物語は、一枚の「拒絶理由通知」というピンチから始まりました。しかし、彼は分割出願という戦略的な切り札を知ることで、そのピンチを、自社の技術を多層的に保護し、収益化へとつなげる絶好のチャンスへと変えることができました。
分割出願は、単なる審査上の救済措置ではありません。それは、リスクを管理し、競合の動きに対応し、そして発明の価値を最大化するための、攻めの知財戦略の根幹をなすツールです。この強力な武器を使いこなすことが、あなたの貴重な知的財産を、単なる「登録証」から真の「収益資産」へと昇華させる第一歩となるでしょう。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- どのような場合に特許の分割出願をすると有効か?, https://www.lhpat.com/software/patent/divisional.html
- 特許における分割出願の役割・戦略的活用, https://polaris-ip.com/service/patent/knowledge/bunkatu/
- 特許出願の分割とは?分割出願のタイミングやメリットを解説 – マネーフォワード クラウド, https://biz.moneyforward.com/contract/basic/8544/
- 複数の特許出願における分割出願のメリット・デメリット | 弁理士法人 平和国際特許事務所, https://www.heiwa-pat.com/column/theme01/column24.php
- 特許の分割出願・特許出願の分割とは? メリット・分割出願が可能な時期などを 分かりやすく解説! – 契約ウォッチ, https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/tokkyo-bunkatsusyutugan/
- 分割出願のメリットについて【弁理士がわかりやすく解説】 – YOSHIMURA PATENT, https://shiningip.com/post-1649/
- 分割出願の戦略的活用事例, http://ksilawpat.jp/wp-content/uploads/2024/05/msuzuki-04.pdf
- 分割出願のススメ(2) ~特許権侵害訴訟における分割活用事例 – きのか特許事務所, https://www.kinokapat.jp/divisional-application2/
- 特許分割出願の有効な活用と留意点, http://www.jipa.or.jp/kaiin/kikansi/honbun/2021_10_1398.pdf
- 日本の特許制度 – Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E7%89%B9%E8%A8%B1%E5%88%B6%E5%BA%A6
- 第 1 章 特許出願の分割(特許法第 44 条) – 特許庁, https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/06_0101bm.pdf
- 分割出願戦略・特許ポートフォリオ | 特許申請・出願の無料相談|至誠(しせい)国際特許事務所, https://kimura-intl-ip.net/post-1512/
- 分割の要件と発明の同一性に関する考察 – 日本知的財産協会, http://www.jipa.or.jp/kaiin/kikansi/honbun/2009_11_1395.pdf
- 特許の収益化アイデア10選 – PatentRevenue, https://patent-revenue.iprich.jp/%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%90%91%E3%81%91/1404/
- Intellectual Property strategies for deriving benefit from your IPR – Spoor & Fisher, https://spoor.com/ja/how-to-make-your-intellectual-property-work-for-you-in-practice/
- 知財部門のための特許収益化KPI – PatentRevenue, https://patent-revenue.iprich.jp/%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AE%B6%E5%90%91%E3%81%91/2077/
- 知的財産を活用 した経営戦略の ススメ – 協和特許法律事務所, https://www.kyowapatent.co.jp/images/%E7%9F%A5%E8%B2%A1%E3%82%92%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E7%B5%8C%E5%96%B6%E6%88%A6%E7%95%A5%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%82%B9%E3%83%A1.pdf
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