なぜ映画の盗撮は犯罪なのか?『鬼滅の刃』逮捕事例から学ぶ法律と知財への影響

はじめに
株式会社IPリッチのライセンス担当です。先日、大人気アニメ『鬼滅の刃』の劇場版を映画館でスマートフォンを使い撮影したとして、逮捕者が出たというニュースが報じられました。この出来事は、映画の盗撮が単なるマナー違反ではなく、厳しい罰則を伴う重大な犯罪行為であることを社会に改めて示すものとなりました。本記事では、なぜ映画館での撮影が逮捕につながるのか、その法的根拠を『鬼滅の刃』の事例を交えながら、専門的な観点から解説します。
映画『鬼滅の刃』盗撮事件の概要と社会への警鐘
最近報じられた事件は、多くの人々に衝撃を与えました。警視庁は、東京都新宿区の映画館で上映中だった『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』の全編(約2時間35分)をスマートフォンで盗撮したとして、24歳の専門学校生の男を逮捕しました 。この逮捕は、「映画の盗撮の防止に関する法律」(以下、「映画盗撮防止法」)違反の容疑によるものです。
この事件が特に注目されるべき点は、犯行が発覚した経緯にあります。容疑者は当初、他人名義のクレジットカードを使用してアニメのBlu-rayディスクを200枚以上不正に購入した別の詐欺事件で逮捕されていました 。そして、その捜査の過程で押収された本人のスマートフォンを解析したところ、映画本編を丸ごと撮影した動画データが発見され、今回の盗撮事件が明るみに出たのです 。
この事実は、重要な問題を浮き彫りにします。つまり、映画館内での監視によってその場で摘発されたのではなく、別の犯罪捜査という偶然の機会によって発覚したという点です。これは、劇場スタッフや警備体制の目をかいくぐって行われる盗撮行為が、実際には発覚している以上に横行している可能性を示唆しています。逮捕に至るケースは氷山の一角に過ぎず、水面下では多くの盗撮行為が見過ごされているかもしれません。
さらに、映画の一部を面白半分で撮影するのとは異なり、2時間半を超える長編映画の全編を録画するという行為は、極めて計画的かつ悪質であると言えます。発覚を避けるために座席を選び、長時間にわたって録画機器を固定し続ける必要があるため、そこには明確な意思と目的が存在します。たとえその目的が個人的な鑑賞であったとしても、その行為自体が、映画という知的財産を創造した人々への重大な権利侵害となるのです。
逮捕の直接的な根拠となる「映画盗撮防止法」
なぜ映画館での撮影がこれほど厳しい処罰の対象となるのでしょうか。その直接的な法的根拠が、2007年8月30日に施行された「映画盗撮防止法」です 。この法律は、一般的な著作権法とは別に、映画館という特定の場所での盗撮行為をピンポイントで取り締まるために制定された特別な法律です。
法律が制定された背景には、映画の海賊版が氾濫し、映画産業が甚大な経済的被害を受けているという深刻な事態がありました 。特に、劇場公開直後に作られる高画質な海賊版の多くは、映画館での盗撮(いわゆる「カムリッピング」)によって生み出されます。この「最初の海賊版」がインターネットなどを通じて世界中に拡散することで、正規の興行収入やその後のDVD販売、配信サービスの収益機会が根こそぎ奪われてしまうのです。
この法律は、こうした被害の源流を断つことを目的としています 。具体的には、以下の行為を「映画の盗撮」と定義し、禁止しています。
「映画館等において」「観衆から料金を受けて上映が行われる映画」について、「著作権者の許諾を得ずに」その映像を録画、または音声を録音すること 。
ここで重要なのは、法律の適用範囲が広く設定されている点です。 まず、「映画館等」には、シネマコンプレックスのような専用施設だけでなく、公民館や多目的ホールなど、入場管理が行われている会場で不特定または多数の観客に向けて映画が上映される場合も含まれます 。これにより、上映会の形式を問わず、広く規制の網をかけることができます。
また、規制対象となるのは有料上映の映画だけではありません。劇場公開に先立って行われるマスコミ向けの試写会や先行無料上映会も、海賊版作成の温床となりやすいため、同様に盗撮が禁止されています 。
このように、映画盗撮防止法は、映画産業のビジネスモデルにおける最も脆弱な部分、すなわち劇場公開という期間と場所を保護するために作られた、極めて戦略的な法律なのです。一般的な著作権法だけでは対応が難しかった問題に、専門的なメスを入れることで、文化の発展と産業の健全な成長を守ることを目指しています 。
「私的利用」の例外が適用されない著作権法の特例
映画の盗撮について議論する際、多くの人が疑問に思うのが「個人的に楽しむためだけに撮影するのもダメなのか?」という点です。これは、著作権法における「私的利用のための複製」という考え方に基づいています。
日本の著作権法第30条第1項では、個人的に、または家庭内のような限られた範囲内で使用することを目的とする場合、著作権者の許可なく著作物を複製(コピー)することが例外的に認められています 。例えば、購入した音楽CDを自分のスマートフォンに入れて聴く行為は、この規定によって適法とされています。
しかし、映画盗撮防止法は、この「私的利用」という“伝家の宝刀”を無力化する、極めて重要な規定を設けています。それが、同法第4条です。この条文は、「映画の盗撮については、著作権法第30条第1項の規定は、適用しない」と明確に定めているのです 。
これは、たとえ撮影者が「自分で後で見るためだけに撮った」「誰にも配布するつもりはなかった」と主張したとしても、映画館で映画を録画・録音したという行為そのものが違法となり、犯罪が成立することを意味します。通常の著作権侵害では、起訴のために「販売目的」などの悪質な意図を立証する必要がある場合もありますが、映画盗撮に関しては、その必要がありません。録画ボタンを押した時点で、法律違反が確定するのです。これにより、言い逃れが一切通用しなくなり、法執行のハードルが劇的に下がります。この仕組みこそが、映画盗撮防止法を強力な抑止力たらしめている核心部分です。
ただし、この強力な規制には一つだけ期限が設けられています。それは、日本国内で最初に有料上映が開始された日から起算して「8ヶ月間」です 。この期間は、ほとんどの映画の劇場公開期間をカバーしており、映画が商業的に最も価値が高く、海賊版による被害を受けやすい時期を重点的に保護するための合理的な措置とされています 。8ヶ月が経過した後は、この特例は適用されなくなりますが、だからといって盗撮が合法になるわけではありません。その場合は、通常の著作権法の枠組みで違法性が判断されることになります 。
この法律の構造は、クリエイターの権利保護と、国民への過度な規制を避けるためのバランスを考慮した、非常に洗練された設計と言えるでしょう。
映画盗撮に科される厳しい罰則とその意味
映画盗撮防止法に違反した場合、どのような罰が待っているのでしょうか。この法律は、盗撮行為者に対して、著作権法が定める最も重い罰則を適用します。具体的には、著作権法第119条第1項に基づき、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方」が科される可能性があります 。
この罰則の重さは、他の犯罪と比較するとより明確になります。これは、詐欺罪や業務上横領罪といった悪質な経済犯罪に匹敵するレベルです。このことからも、立法府や司法が映画の盗撮を単なる迷惑行為ではなく、社会経済に深刻なダメージを与える重大な犯罪と位置づけていることがわかります。
さらに、刑事罰だけでなく、民事上の責任も追及される可能性があります。映画会社などの著作権者は、盗撮行為者に対して、被った損害の賠償を求める訴訟を起こすことができます 。海賊版の拡散によって失われた利益は莫大な額に上る可能性があり、損害賠償額も非常に高額になることが想定されます。
以下の表は、通常の著作権法と映画盗撮防止法の違いをまとめたものです。これを見れば、なぜ映画館での盗撮が特別に厳しく扱われるのかが一目瞭然です。
| 項目 | 通常の著作権法 | 映画盗撮防止法 |
| 対象行為 | 著作物の複製全般 | 映画館等での映画の録音・録画 |
| 私的利用目的の複製 | 原則として適法 | 違法 (著作権法第30条1項の適用が除外される) |
| 罰則 | 営利目的などがなければ刑事罰の対象外となる場合が多い | 10年以下の懲役 or 1000万円以下の罰金 (またはその両方) |
| 特例の適用期間 | 恒久的 | 国内初回有料上映から8ヶ月間限定 |
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このように、映画盗撮防止法は、「私的利用」という抜け道を塞ぎ、行為そのものに厳しい罰則を科すことで、映画という文化財産を断固として守るという強い意志を示しているのです。
海賊版による甚大な経済的損害と「知財の収益化」への打撃
なぜ法律はここまでして映画の盗撮を厳しく禁じるのでしょうか。その背景には、海賊版がもたらす天文学的な規模の経済的損害があります。
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の調査によると、2022年にオンラインで流通した日本のコンテンツ(映画、アニメ、漫画、ゲーム等)の海賊版による被害額は、推計で約1兆9500億円から2兆2020億円にものぼります 。これは3年前の調査と比較して約5倍に急増しており、被害の深刻化を物語っています 。
このうち、映画やアニメを含む映像コンテンツの被害額だけでも、約9065億円から1兆4297億円と推計されており、産業の根幹を揺るがすほどの規模です 。映画館での1回の盗撮行為が、最終的に1兆円規模の損害を生み出す巨大な違法市場の起点となり得るのです。
この問題は、知的財産の適切な収益化、すなわち「知財の収益化」という観点から見ると、より深刻な意味を持ちます。映画ビジネスは、緻密に計算された収益化モデルの上に成り立っています。まず劇場公開で初期投資を回収し、次にBlu-ray/DVD販売やレンタル、有料配信サービス、そして最後にテレビ放送というように、段階的に異なる市場で収益を上げていきます。この一連の流れは「ウィンドウイング」と呼ばれ、一つのIP(知的財産)から得られる価値を最大化するための重要な戦略です。
しかし、劇場公開の初日に盗撮された海賊版がインターネット上に出回ると、この収益化の連鎖が根本から破壊されます。最も高い価値を持つはずの劇場公開の段階で、無料で視聴できる代替品が出現してしまうため、観客は映画館に足を運ばなくなり、その後のパッケージ販売や配信サービスの売上も大幅に減少します。これは、クリエイターや制作会社が正当な対価を得る機会を奪うだけでなく、知的財産そのものの価値を暴落させる行為に他なりません。
失われた収益は、単に「大企業が儲け損なった」という話では済みません。映画製作には、脚本家、監督、俳優、アニメーター、CGクリエイター、音響スタッフなど、数えきれないほど多くの人々の才能と労力が注ぎ込まれています。海賊版による収益の減少は、こうしたクリエイターたちへの正当な報酬の支払いを困難にし、彼らの生活を脅かします。さらに、映画会社は次なる作品を生み出すための投資資金を失い、新しい才能の発掘や、挑戦的で多様な映画の製作が難しくなります。結果として、海賊版は創造のサイクルそのものを停滞させ、文化の衰退を招くのです。それは未来の傑作が生まれる可能性を奪う行為であり、最終的には消費者である私たち自身の首を絞めることにつながります。
映画館での盗撮は、単に目の前の映像を記録する行為ではありません。それは、一つの作品に込められた多くの人々の情熱と努力を踏みにじり、日本の文化産業の未来を蝕む、極めて深刻な犯罪行為なのです。
今回の『鬼滅の刃』の事件は、映画の盗撮が「映画盗撮防止法」によって明確に禁止された重大な犯罪であることを示しました。「個人的な利用だから」という言い訳は一切通用せず、その行為自体が厳しい処罰の対象となります。このような厳格な法的措置は、海賊版がもたらす計り知れない経済的損害からクリエイターと文化産業を守るために不可欠です。これはまさに、知財の収益化の根幹を守るための戦いと言えるでしょう。創造された知的財産の価値を正しく保護し、作り手に適切な対価が還元される仕組みを維持することこそが、私たちが愛する映画やアニメといった文化を未来へとつないでいく唯一の道なのです。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 映画の盗撮の防止に関する法律 – e-Gov法令検索, https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC1000000065
- 映画の盗撮の防止に関する法律について – 文化庁, https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/eiga_tosatsu.html
- 映画の盗撮は犯罪です。 – 映画館に行こう!, https://www.eigakan.org/legal/
- 映画の盗撮の防止に関する法律 – Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%81%AE%E7%9B%97%E6%92%AE%E3%81%AE%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B
- 映画の盗撮の防止に関する法律の概要 – 文化庁, https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/pdf/eiga_tousatsu_gaiyou.pdf
- 映画の盗撮の防止に関する法律 – Hourei.net, https://hourei.net/law/419AC1000000065
- 映画の盗撮の防止に関する法律案(衆議院提出、未定稿) – 文部科学省, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07071010/006.htm
- 劇場公開作品の盗撮行為及びアップロードについて – 東映株式会社, https://www.toei.co.jp/company/press-release/detail/1239928_3623.html
- 映画を盗撮すると逮捕される?成立する犯罪や逮捕後の流れを解説 – 埼玉の刑事事件に強い弁護士相談, https://saitama-alg.com/keiji/eiga-tousatsu-taiho/
- 日本コンテンツ被害総額はネット海賊版で年間約2兆円、CODAが算出 – Animation Business Journal, http://animationbusiness.info/archives/14335
- 2022年・オンラインで流通する日本コンテンツの海賊版被害額を推計 – コンテンツ海外流通促進機構(CODA), https://coda-cj.jp/news/1472/
- マンガやアニメの海賊版被害は約2兆円、コロナ禍で5倍に CODA推計 – ITmedia NEWS, https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2304/27/news186.html
- 2022年の日本コンテンツの海賊版被害額、3年前の5倍となる2兆円前後と推計~CODA発表 – INTERNET Watch, https://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/1497478.html
- 文化審議会著作権分科会国際小委員会 報告書 – 文化庁, https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/93828201_01.pdf
- 「鬼滅の刃」映画盗撮で逮捕 韓国籍の男「やっていない」と否認(2024年8月21日) – ANNnewsCH (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=NRMTFDH1Qhk
- 【瞬間】「鬼滅の刃」映画を盗撮か 韓国籍の専門学校生(24)を逮捕 全編2時間半をスマホで…(2024年8月21日) – FNNプライムオンライン (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=eZuvWbOq7yM
- 【鬼滅の刃】映画を盗撮した疑い 韓国籍の男逮捕 – テレ東BIZ (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=ts8Efle7M-4
- 「鬼滅の刃」映画を盗撮か 韓国籍の男(24)を逮捕 – TBS NEWS DIG (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=RqhZyuM8dmc
- 「鬼滅の刃」映画を盗撮した疑い 24歳男を逮捕 別の事件で押収したスマホから発覚 – カンテレNEWS (YouTube), https://www.youtube.com/watch?v=niM2rOyWWHU
- 映画「鬼滅の刃」盗撮で逮捕の男「やっていない」と否認(2024年8月21日) – ANNnewsCH (YouTube Shorts), https://www.youtube.com/shorts/Z2uJ3RRBoEU

