特許で企業価値アップ?M&Aで注目される特許の力

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、特許などの知的財産が企業価値をどう高めるか、その基本的な仕組みからM&A(企業の買収・合併)での評価実態までを解説します。特許の持つ基本価値、企業価値への貢献の方法、M&Aの現場での評価事例やポイント、リスク管理、そして知財戦略としての位置づけについて、専門用語も交えながらできるだけ平易に説明します。
特許と企業価値: 基本的な価値とは?
特許は企業にとって「無形資産」と呼ばれる形のない財産です。有形資産(工場や設備など)と異なり帳簿上は見えにくいものの、現代の企業価値に占める無形資産の割合は非常に大きくなっています。実際、米国市場(S&P500)では企業価値の約90%が特許やブランドといった無形資産だと報告されており、欧州でも75%前後が無形資産です。一方、日本の株式市場(日経225)では無形資産の割合が約32%と低く、依然として有形資産への依存が大きいという分析があります【1】。この差は、日本企業が特許など知的財産を十分に活用しきれていない現状を示唆しています。逆に言えば、特許を適切に評価・活用することができれば企業価値を大きく押し上げる余地があるということです。
では、特許の基本的な価値とは何でしょうか。一言でいえば、「競争優位の確立と維持」です。特許は自社の発明を一定期間独占できる権利であり、これにより他社の模倣や市場参入を法的に防ぐことができます。公的機関INPITも、「知財経営」を実践することで競合他社の安易な市場参入を抑制し、価格競争に陥ることなく利益率の向上を実現できる大きなメリットがあると指摘しています【2】。つまり、特許による参入障壁を築けば、自社製品・サービスのシェア拡大や利益率維持につながり、企業価値の源泉である収益力を底上げできるのです。また特許にはもう一つの側面があります。それは新たな収益源となり得ることです。日本弁理士会の知財専門誌によれば、知的財産権の活用は「①競争優位の保護(参入障壁)としての活用」と「②ライセンス許諾による収益源としての活用」の二つに大別できるとされています【3】。すなわち、自社だけで独占的に使うだけでなく、他社にライセンス(実施許諾)してロイヤリティ収入を得ることも特許の重要な価値です。特許は攻めと守りの両面で企業価値に貢献しうる基本資産と言えるでしょう。
特許と企業価値: 貢献メカニズムの詳細
特許が企業価値を高める具体的なメカニズムをもう少し掘り下げます。まず「守り」の側面では、特許によって競合他社が類似製品を自由に販売できなくなるため、自社は市場で独占的または優位な地位を得ます。これにより安易な値下げ競争を避けて適正な価格を維持でき、結果として売上・利益が安定します。例えば、LED照明で世界をリードする日亜化学のように、重要な特許を押さえている企業は高い利益率を長年保っているケースがあります(自社だけでなく、特許侵害訴訟でライバル製品を排除することで市場シェアを守った事例もあります)。このように特許が生む独占権は企業の収益力を底上げし、企業価値評価で重要視される将来キャッシュフローの増大につながります。
一方「攻め」の側面では、特許を収益源として活用する例が挙げられます。ハイテク企業の中には、自社製品だけでなく特許ライセンス収入で大きな利益を上げているところもあります。例えば米国のクアルコム社は、自社の通信関連特許を各社にライセンスするビジネスモデルで知られ、ある年度には約78億6千万ドルものライセンス収益を計上し、これは同社の総売上高の約30%にも達しました【4】。同様にエリクソン社も特許ライセンスによって自社の利益率を倍増させた年があると報告されています【5】。このように特許のライセンスや売却による収益は、ほとんど追加コストのかからない利益として企業価値(収益力評価)を直接押し上げます。
さらに、豊富で質の高い特許ポートフォリオを持つ企業は投資家や提携先からの評価も高まります。技術系スタートアップなどでは、強力な特許を保有していること自体が事業の将来性の裏付けと見なされ、資金調達や上場時の評価額が上乗せされるケースがあります。実際、特許資産と企業パフォーマンスには相関関係があるとの分析もあり、特に質の高い特許を効率的に管理している企業ほど高い利益を生み出せるとの報告があります【6】。逆に言えば、特許は数より質と戦略的運用が肝心であり、単に数だけ抱えていてもうまく活かせなければ企業価値に寄与しません【6】。このような点からも、特許を死蔵せず有効に活用する経営戦略が重要であることがわかります。
特許と企業価値: M&Aにおける評価の実態
企業のM&Aの場面では、買収対象企業のビジネス価値を評価する際に特許などの知的財産が極めて重要な要素になります。近年、企業価値に占める無形資産の割合が増大しているため(前述の通り)、買い手企業は対象企業の特許ポートフォリオや知的財産戦略を入念に調査・評価するようになっています。実際、「他社が保有する知的財産の価値に着目し、それを自社に取り込むためのM&A」が増加傾向にあり、知的財産デューデリジェンス(知財DD)の重要性がますます高まっていると指摘されています【7】。知財デューデリジェンスとは、買収対象の企業が持つ特許権や商標権などについて専門的な調査を行い、リスクや価値を評価するプロセスです。買い手側にとっては、特許の価値を正しく見極められなければ適正な買収価格を判断できず、思わぬ損失リスクを背負いかねません。また、売り手側にとっても、自社の特許を過小評価されては本来得られるはずの対価(いわゆる「のれん代」)を取りこぼす恐れがあります。
参考: 「のれん」とは、企業の営業権やブランドなどの無形資産から成り、M&A時に支払われた価格と対象企業の純資産の差額を指します【8】。これは買収された企業が持つ目に見えない価値、すなわち収益力や将来性を示す指標です。特許はこの「のれん」の主要な構成要素の一つとなり得ます。
では、M&Aの現場で具体的に特許はどのように評価されるのでしょうか。 買収交渉に先立ち実施される知財デューデリジェンスでは、以下のようなポイントが重点的にチェックされます。
- 特許権の権利帰属: 対象会社が保有すると言っている特許権は本当に対象会社名義で有効に存在しているか、共同出願者・共同権利者はいないか、他社に独占的または通常実施権(ライセンス)を既に許諾していないか、といった点を確認します【9】。
- 特許の有効性・法的安定性: 特許が十分新規性・進歩性を備えた有効な権利か、無効審判や異議申立てのリスクはないかを調査します。
- 侵害リスクの有無: 対象会社が他社の特許権等を侵害して訴えられるリスクがないか(過去に警告状や訴訟を受けていないか)、逆に対象会社の特許が第三者によって侵害主張される恐れはないかを確認します【10】。
- 事業との適合性: 保有特許が対象会社の製品・サービスにどれほど重要か、事業戦略と整合しているかも評価されます。
以上の調査結果を踏まえて買い手企業は価値評価を行い、買収価格に反映させます。たとえば、対象企業の主力製品を守る特許が万一他社の侵害訴訟リスクにさらされている場合、そのリスクを織り込んで価格を引き下げたり、場合によっては買収自体を見送る判断もあり得ます【7】。実際、知財DDで重大なリスクが発見された場合には、契約条件の変更や取引中止に至るケースもあるのです。こうした意味で特許資産の適切な評価とリスク分析はM&A成功のカギとなります。特許が正当に評価されれば、売り手企業は高い企業価値(株価や譲渡価格)を実現でき、買い手企業も将来得られる利益に見合った適正な投資を行うことができます。
特許と企業価値: 活用事例
特許が企業価値向上に寄与した具体的な事例を見てみましょう。まず著名な例として、特許目当ての大型M&Aがあります。米Google社が2012年に通信機器メーカーのMotorola Mobility社を約125億ドルという巨額で買収したのは、その背後に17,000件もの特許ポートフォリオの取得目的があったことで知られています。実際、Googleはこの買収によって得る特許群を「Androidを取り巻く多数の特許訴訟から同社のエコシステムを守る盾として活用したい」と述べていました【11】。このケースでは、特許という無形資産が買収金額の大部分を正当化するほど価値を持っていたのです。
一方、日本の中小企業でも特許がM&A成功の決め手となった例があります。ある大阪の小型機械メーカーは独自のロールカッター技術で特許を取得していましたが、後継者不在のため事業譲渡を模索していました。通常、専門性の高い製造業のM&Aでは買い手探しが難航しがちですが、この会社では「特許」に注目しました。同社の特許技術に詳しい弁理士を招き、関連する特許を持つ企業や技術的シナジーの見込める企業を洗い出したのです。その結果、隣県の機械メーカーがその特許技術に強い関心を示し、「自社にない独自製品を得て事業拡大する好機」と捉えて買収提案に応じました【12】。交渉はスムーズに進み、初めての提案から約4か月で譲渡が成立し、買い手・売り手双方にとって満足度の高いM&Aとなりました【12】。
特許と企業価値: 評価ポイントとリスク
以上のように特許は企業価値の重要な構成要素ですが、評価にあたってはいくつか注意すべきポイントやリスクも存在します。まず評価ポイントとして強調したいのは、「特許の質」です。前述の通り、特許の数だけを追い求めるのは得策ではありません。審査請求しないまま放置された未登録特許出願や、市場ニーズとかけ離れた技術の特許などは、たとえ権利化しても実際のビジネスに貢献しづらく企業価値には直結しません。また、似たような技術分野の特許を大量に取得していても、その多くが狭い範囲の権利だったり無効リスクが高かったりすれば、投資家や買い手は厳しく評価減点するでしょう。重要なのは、自社の競争力の源泉となる核心技術をカバーする強い特許を持っているかです【6】。
次に権利の残存期間も評価に影響します。特許権は原則として出願から20年で権利が切れます。仮に対象特許があと1年で期限切れとなる場合、その価値は限定的です。一方、権利期間が十分残っていれば、将来長期にわたって収益に貢献できる可能性が高く評価されます。特許の価値評価では、その残存年数と延長登録の有無なども考慮されます。
リスク面では、特許が実際に価値を生まない可能性にも注意が必要です。せっかく特許を取得しても、自社にその発明を製品化・事業化する能力が無ければ宝の持ち腐れになりかねません。また、技術の陳腐化リスクもあります。市場のニーズが他の技術に移った場合、かつて有用だった特許が急速に価値を失うこともあります。さらに、特許には維持年金の支払い義務があるため、価値の低い特許を抱え続けるとコスト超過になるリスクもあります。特許ポートフォリオを定期的に見直し、不要な特許は放棄や売却を検討することも健全な知財戦略の一環です。
もう一つ重大なリスクは、知的財産権紛争のリスクです。他社の特許権侵害を知らずに自社製品を販売していた場合、後から多額のライセンス料支払いを要求されたり、最悪販売差止めになる恐れがあります【10】。特許を出願・取得するときは、他社の権利との干渉(FTO: Freedom To Operate)も十分調査しておく必要があります。買収する側でも、この点はデューデリジェンスで厳しくチェックするところで、万一見落として買収後に訴訟沙汰となれば想定外の損失を被り企業価値を毀損します。したがって、特許の価値評価にはその特許を巡る法的リスク評価も不可分であるといえます。
特許と企業価値: 知財戦略としての活用
特許は単なる技術の権利保護手段に留まらず、企業価値を左右し得る経営戦略上の重要資源です。経営トップが特許の重要性を正しく理解し、知財戦略を事業戦略と一体化させている企業は、長期的な成長を遂げています【7】。また、特許は自社で使うだけでなく取引材料にもなります。他社とのクロスライセンスを結んで事業提携を有利に進めたり、特許を担保に金融機関から資金調達する「知財金融」の例も出てきています。こうした意味で、企業は自社の特許価値を把握し高める努力を怠ってはなりません。政府も知的財産戦略本部などを通じて無形資産重視の経営を促しています。
最後に、もし特許を保有しているものの自社では十分に活かしきれていない方は、その眠れる価値を解き放つ手段を検討してみてください。特許の売買やライセンス仲介を行う専門サービスも登場しており、自社では使っていない特許を必要とする企業に提供することで双方にメリットを生むことが可能です。ぜひ特許資産を戦略的に活用し、企業価値の向上につなげていただきたいと思います。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献
- 野村総合研究所「無形資産の価値に注目する」https://www.nri.com/content/900033116.pdf
- INPIT「知財経営とは」https://chizai-portal.inpit.go.jp/madoguchi/okayama/support/knowledge/property.html
- 日本弁理士会『パテント』65巻1号「競争優位を持続させる知的財産マネジメントのための参入障壁評価」https://www.jpaa.or.jp/old/activity/publication/patent/patent-library/patent-lib/201201/jpaapatent201201_077-095.pdf
- Qualcomm Inc. Annual Report 2024 (ライセンス収益項目)
- Ericsson Intellectual Property Report 2023
- InQuartik「Stock Picking With Patent Assets」https://www.inquartik.com/blog/advanced-stock-picking-with-patent-assets/
- M&A情報サイトMANDA「知財DDの重要性」https://info.manda.bz/2025/03/04/知的財産デューデリジェンスの重要性/
- 日本M&Aセンター「M&Aの『のれん代』とは?」https://www.nihon-ma.co.jp/column/ma-glossary/mahandover-noren/
- 髙畑豪太郎ほか「M&Aにおける知財デューデリジェンス」『知財管理』72巻9号(2022年) https://www.midosujilaw.gr.jp/_wp/wp-content/uploads/2022/10/MAにおける知財デューデリジェンス.pdf
- 特許庁「知的財産の価値評価について」https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/developing/training/textbook/document/index/Valuation_of_Intellectual_Property_JP.pdf
- EETimes Japan「GoogleのMotorola Mobility買収と特許戦略」https://eetimes.jp/ee/articles/1108/17/news013.html
- 経営承継支援株式会社 成約事例「特許に強い弁理士との連携で成功した中小機械メーカーの譲渡」https://jms-support.jp/column/【製造業ma】特許に強い弁理士との連携により成/

