特許エピソード集 :発明者の失敗と成功の物語

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

今回は「特許を巡る面白エピソード集(発明者の失敗と成功の物語)」というテーマで、発明者や企業が経験した失敗談と成功談をいくつかご紹介します。歴史的な事例から最新の話題まで、特許にまつわる興味深いエピソードを通じて、知的財産戦略の教訓を学んでいきましょう。

目次

特許出願競争の成功と失敗

1876年2月14日、アレクサンダー・グラハム・ベルとイライシャ・グレイが、偶然にも同じ日に「電話」の発明に関する米国特許出願を行いました。わずかな時間差でベルの申請が先に受理され、特許はベルに与えられることになります[1]。後になってグレイはベルが自分の発明を盗んだとして特許無効を求め提訴し、最高裁判所まで争いましたが最終的に敗訴しました[1]。この結果、電話特許という莫大な価値を手にしたベルは「電話の発明者」として歴史に名を残し大成功を収めました。一方、特許を得られなかったグレイは発明の栄誉も利益も得られず、特許を巡る明暗が分かれた典型例として語り継がれています。

特許紛争の成功と失敗

発明が大きな市場価値を持つ場合、特許を巡って企業同士が法廷で激しく争うこともあります。その代表がポラロイド社とコダック社の特許紛争です。インスタントカメラの先駆者ポラロイドは、後発のコダックが自社特許を侵害したとして1976年に提訴しました。裁判所は1985年にコダックの特許侵害を認め、コダックはインスタント写真事業からの撤退を余儀なくされました。さらに最終的にコダックは和解の一環で約9億2500万ドル(当時の日本円で約925億円)もの巨額の賠償金をポラロイドに支払っています[2]。この裁判は当時史上最大規模の特許訴訟と呼ばれ、特許侵害の代償の大きさを世に示しました。また、日本企業でもハネウェル社の特許を巡ってミノルタ(現コニカミノルタ)が争い、約1億3000万ドル(約130億円)の賠償金支払いを命じられた例があります[3]。いずれも特許訴訟における「成功者」と「敗者」が明確に分かれたケースといえるでしょう。

しかし、特許訴訟に勝ったからといって必ずしも事業面で成功するとは限りません。ライト兄弟は1903年に世界初の有人動力飛行に成功し画期的発明を成し遂げましたが、自ら取得した飛行機の特許を巡ってライバルのグレン・カーチスらと長年争訟を繰り広げました。ライト兄弟側は訴訟には勝利したものの、その代償として貴重な時間と労力を費やし事業化の機会を逃しました。航空技術は彼らの特許紛争の最中にも欧米各国で進歩し、結局ライト兄弟は発明そのものの偉業に比べ経済的な成功を収めることができなかったのです[4]。このように、特許を巡る争いは勝者にもリスクを伴い、特許戦略の難しさを物語るエピソードとなっています。

特許戦略の成功:発明を事業に活かす

特許は訴訟だけでなく、戦略的な活用によって大きな価値を生むこともできます。その好例が、日本のトヨタ自動車創業にまつわるエピソードです。トヨタグループ創始者の豊田佐吉は画期的な自動織機を発明し特許を取得していました。そして1929年、佐吉の息子の豊田喜一郎はこの自動織機の特許権をイギリスの紡績機メーカーに10万ポンド(当時の日本円で約500万円)で譲渡する契約を結びます[5]。この特許売却益は後に自動車事業に投資され、トヨタ自動車設立の貴重な資金源となりました。当時の10万ポンドという金額は現在の価値に換算すれば数十億円規模とも言われ、発明の特許が生んだ資金が新事業の創出を後押ししたのです。このエピソードは、優れた発明と特許戦略によって得たリターンを次の成功へつなげた好例と言えるでしょう。発明を特許という形で権利化し、それをライセンスや譲渡によって事業資金に変える——特許の戦略的活用がもたらした大成功の物語です。

特許と職務発明の成功と失敗

一方、自社の研究者が生み出した発明(職務発明)に対する取り扱いも、企業の知財戦略の重要なポイントです。その象徴的な事件として知られるのが「青色LED訴訟」です。1990年代、日亜化学工業の研究員だった中村修二氏は世界初の高性能な青色発光ダイオード(LED)を発明し、日亜化学はその特許を取得して製品化に成功しました。青色LEDの特許は日亜に莫大な利益をもたらし、同社は業界トップ企業へと躍進します。しかし、発明者の中村氏に当時支払われた社内報奨金はわずか2万円に過ぎませんでした[6]。中村氏は1999年に同社を退職し、2001年に発明の対価として200億円の支払いを求める訴訟を起こします。2004年の東京地裁一審判決では、中村氏の主張が全面的に認められ日亜化学に対し200億円もの支払い命令が下りましたが、その後2005年に和解が成立し、中村氏には約8億円が支払われました[6]。この青色LEDを巡る裁判は当時社会的な注目を集め、企業における職務発明の報奨のあり方に一石を投じる結果となりました。特許そのものは日亜化学にもたらした成功の源泉でしたが、発明者への適切なインセンティブを欠いたことが大きな問題となり、同社は多額の支払いと「発明者が報われない」という世間の批判に直面することになったのです。この事例からは、特許による技術的・市場的成功と、発明者への待遇とのバランスの重要性という教訓が得られます。

特許を逃した発明者の失敗

最後に、特許を取得しながらその維持や活用に失敗したために大きな利益を逃した例を紹介しましょう。近年世界的ブームとなった玩具「ハンドスピナー(指スピナー)」の元祖は、実は米国の女性発明家キャサリン・ヘティンジャー氏によるものです。彼女は1990年代にこの玩具を考案し1997年に特許を取得していました。しかし製品化の道は開けず収益が上がらないまま年月が過ぎ、2005年には特許維持に必要な年次費用400ドルを捻出できず特許を放棄してしまいます[7]。ところが皮肉にもその10年以上後の2017年頃からハンドスピナーが世界的な大ヒット商品となり、各社から類似商品が続々と販売される事態となりました。大流行のさなか、発明者のヘティンジャー氏には特許権が残っていなかったためロイヤリティ収入は一切なく、一銭も得られなかったのです。「特許を維持していれば相当の富を得ていたはずだ」と本人も後に語っています[7]。このエピソードは、優れた発明であっても特許の出願・維持・活用を適切に行わなければ発明者自身は報われないという厳しい現実を物語っています。発明そのものの成否だけでなく、その権利化と戦略的運用の成否が真の「成功」を決めるのです。

まとめ

以上、さまざまな事例を紹介しましたが、上記の通り特許を収益化できるかどうかは紙一重です。

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参考文献リスト

  1. Graybar, “Elisha Gray and the Telephone: Does This Ring a Bell?” (グレイとベルの電話発明競争に関する記事)<br>https://poweringthenewera.com/elisha-gray-and-the-telephone-does-this-ring-a-bell/
  2. Los Angeles Times, “Kodak Settles Polaroid Case for $925 Million” (ポラロイドとコダックの特許訴訟和解に関する報道)<br>https://www.latimes.com/archives/la-xpm-1991-07-16-fi-2502-story.html
  3. RYUKA国際特許事務所, 「特許の戦略的活用」 (特許訴訟の事例紹介。ミノルタ対ハネウェル事件の賠償額に言及)<br>https://www.ryuka.com/jp/news/topics/patent/26884/
  4. SKIP特許法律事務所ブログ, 「飛行機の発明家ライト兄弟(特許紛争に苦しんで経済的な成功を得られなかった天才兄弟)」 (ライト兄弟の特許紛争についての解説記事)<br>https://skiplaw.jp/blog/8925/
  5. トヨタ自動車 75年史, 「第2項 プラット社との特許権譲渡契約」 (自動織機の特許権譲渡契約に関するトヨタ公式企業史)<br>https://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/text/taking_on_the_automotive_business/chapter1/section4/item2.html
  6. J-CASTニュース, 「LED訴訟決着から10年、いまだ『しこり』消えず 古巣の日亜化学工業は『中村氏個人の開発技術だけではない』」 (中村修二氏と日亜化学の青色LED特許訴訟に関する記事)<br>https://www.j-cast.com/2014/10/08217980.html
  7. The Guardian, “As fidget spinner craze goes global, its inventor struggles to make ends meet” (ハンドスピナー発明者の特許と収益に関する報道)<br>https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2017/may/03/fidget-spinner-inventor-patent-catherine-hettinger
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