医療・ヘルスケア特許の期間延長:PTEを知らないと収益期間を失う

株式会社IPリッチのライセンス担当です。医療・ヘルスケア分野において画期的な医薬品や医療機器を開発したにもかかわらず、FDA(米国食品医薬品局)などの規制当局による厳格な承認プロセスに長期間を要し、製品を市場に投入できないまま特許の残存期間が短くなってしまったという悩みを抱えていないでしょうか。ライフサイエンス系スタートアップや製薬企業にとって、上市前の規制審査で失われた期間は、ライセンス収益や企業価値に大きく影響します。しかし、米国特許法には「Patent Term Extension(PTE:特許期間延長)」という制度が存在し、対象製品と特許が法定要件を満たせば、規制審査で失われた特許期間の一部を回復させることができます。本記事では、PTEの基本要件や計算方法から、ライセンス契約への組み込み方に至るまで、PTEを単なる法務手続きではなく、収益期間を守るための経営判断として活用するための実践的な知識を解説します。
知財収益化は、研究開発の成果や優れたアイデアを実際の事業価値、そして企業の成長へと変換する重要なプロセスです。とくに医療やヘルスケアの領域においては、特許による独占期間の長さが、企業のバリュエーションやライセンス収益の規模に大きく影響します。私たちが提供する知財マネタイズプラットフォーム「PatentRevenue」では、国内特許を対象として、企業が保有する特許資産の潜在的な収益力を可視化し、適切なパートナーとのマッチングやライセンス交渉を支援しています。米国特許そのものはPatentRevenueの登録対象外ですが、国内特許を含む自社ポートフォリオの価値を引き出し、収益へつなげたいとお考えの方は、無料登録を通じてサービスをご活用ください。
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医療・ヘルスケア特許の期間延長は経営を左右する重要な判断である
ライフサイエンス業界において、特許期間の延長は単なる知財部門の事務手続きではありません。それは企業価値、M&Aにおける評価額、そして将来のキャッシュフローを左右し得る重要な経営判断です。主力製品の特許が満了すると、ジェネリック医薬品やバイオシミラーが参入し、先発品の売上が急速に低下することがあります。この現象は「パテントクリフ(特許の崖)」と呼ばれますが、売上低下の程度や時期は製品、市場、後発品の参入状況などによって異なります。
売上規模の大きい医薬品では、市場での独占期間が短期間延びるだけでも、企業の収益に大きな影響を与える可能性があります。逆に、PTEの申請期限を逃したり、延長対象とする特許の選択を誤ったりすれば、本来確保できた可能性のある収益期間を失うことになります。
スタートアップにとって、自社パイプラインの価値を算定する際、PTEによって回復される特許期間はバリュエーションの重要な算定要素となります。製薬業界で用いられるリスク調整後正味現在価値(rNPV)の算出において、特許の満了日は将来キャッシュフローを見積もる期間に影響するからです。投資家や提携先の製薬企業が、開発段階からPTEの取得可能性と想定延長期間を検討した上で、投資やライセンスの判断を行うこともあります。
したがって、経営陣や事業開発の担当者は、規制審査で失われた特許期間を一部回復するPTE制度を理解し、対象特許の選択や申請準備を事業計画に組み込んでおく必要があります。
ハッチ・ワックスマン法に基づくPTEの基本知識と対象製品
米国における特許期間延長制度は、1984年に制定された「医薬品価格競争および特許期間回復法」、通称「ハッチ・ワックスマン法(Hatch-Waxman Act)」によって導入されました。米国特許の存続期間は、現在の原則では米国出願日から20年ですが、継続出願などでは基準となる先の出願日から計算される場合があります。人間用の医薬品や一部の医療機器は、市場に出す前にFDAによる安全性および有効性の審査を通過しなければならず、その間にも特許期間は進行します。
ハッチ・ワックスマン法は、このような規制審査によって製品を商業的に実施できなかった期間の一部を回復し、新薬開発への投資インセンティブを維持することを目的としてPTEを設けました。その一方で、同法はジェネリック医薬品の承認を申請するANDA制度や、FDAへの申請準備に必要な一定の行為を特許侵害から除外する仕組みも整備しています。先発企業によるイノベーションの保護と、後発企業の市場参入とのバランスを取る枠組みです。
PTEは、すべての医療・ヘルスケア分野の特許に適用されるわけではありません。法律上の対象には、人間用の医薬品、生物学的製剤、一定の医療機器、動物用医薬品、一定の動物用生物学的製剤、食品添加物、着色料などが含まれます。延長対象となる特許は、承認された製品、その使用方法または製造方法をクレームしている必要があります。
人間用医薬品の場合、法律上の「製品」は、原則として最終剤形に含まれる有効成分を基準に判断され、塩またはエステルも定義に含まれます。また、その承認が、適用法令の下で当該製品について初めて認められた商業的販売または使用であることが基本要件です。ただし、塩、エステル、エナンチオマー、複数の有効成分を含む製品などについては、過去の承認との関係を判例やUSPTOの運用に照らして個別に判断する必要があります。
医療機器については、原則として連邦食品医薬品化粧品法515条に基づく規制審査を受ける機器が対象となります。PMA(市販前承認)を必要とするクラスIII機器が代表例であり、Humanitarian Device Exemptionの対象機器も該当し得ます。一方、実質的同等性に基づく510(k)の審査期間は、PTEの対象となる規制審査期間ではありません。
さらに、同一製品の同一規制審査期間に基づいて最終的に延長できる特許は1件のみです。複数の特許について申請した場合でも、最終的には延長する特許を選択する必要があります。
特許期間延長の算定制度と二つの上限ルール
PTEによって延長される期間は、FDAによる規制審査期間を基礎として算出されます。この審査期間は、大きく「テスト段階(Testing Phase)」と「承認審査段階(Approval Phase)」の2つに分けられます。医薬品の場合、テスト段階は原則として治験薬免除(IND)が有効になった日から、新薬承認申請(NDA)または生物製剤承認申請(BLA)が提出された日までです。承認審査段階は、NDAまたはBLAの提出日からFDAの承認日までを指します。
基本的な考え方は、「テスト段階の2分の1」と「承認審査段階の全期間」を合算するものです。ただし、規制審査期間のうち、延長対象となる特許が発行される前に生じた期間は計算対象から除外されます。したがって、単純にINDの有効日からFDA承認日までの期間を当てはめればよいわけではありません。
さらに、申請者が規制審査期間中に「相当の注意と努力(Due Diligence)」を尽くさなかったとFDAが判断した期間があれば、その日数も差し引かれます。この計算を行った後、次の2つの法定上限が適用されます。
1つ目は、原則として延長期間が5年を超えないという上限です。臨床試験や承認審査に長期間を要しても、通常のPTEによって5年を超える延長を得ることはできません。
2つ目は、FDA承認日時点の特許残存期間とPTEによる延長期間の合計が、承認日から14年を超えないという上限です。例えば、FDA承認時点で対象特許に12年の残存期間がある場合、計算上5年の延長期間が得られるとしても、14年上限によって延長期間は2年に制限されます。
小児用医薬品については、FDAからのWritten Requestに従った試験などの要件を満たすことで、「小児用独占期間(Pediatric Exclusivity)」が付与される場合があります。これはPTEとは別の制度であり、特許期間そのものを一律に6か月延長する制度ではありません。一定の特許や規制上の独占期間に6か月の保護を付加し、その期間中のANDAなどの承認を制限する仕組みです。PTEとの組み合わせによって保護期間に影響する可能性があるため、対象となる特許や承認の状況を個別に確認する必要があります。
承認後60日以内の申請とターミナルディスクレーマーに関わる実務
PTEの申請において最も注意すべきなのが、申請期限の厳格な運用です。PTEの申請は、原則として対象製品が商業的販売または使用の承認を受けた日から始まる60日間に、記録上の特許権者またはその代理人がUSPTOへ提出しなければなりません。この法定期間は延長、免除または遅延の追認を受けることができません。
ただし、起算日の判定には特則があります。承認通知が米国東部時間の営業日午後4時30分後に送信された場合や、非営業日に送信された場合には、次の営業日に承認を受けたものと扱われます。また、規制薬物としての管理が予定される医薬品には別の起算日ルールがあります。そのため、「承認書の日付から機械的に60日後」と判断せず、承認通知の送信時刻、営業日、対象製品の規制区分を確認しなければなりません。
60日以内には、承認製品、対象特許とクレーム、規制審査期間、申請者の活動など、法令上必要となる情報を含む申請を行う必要があります。FDAの承認時期は直前まで確定しない場合があるため、承認前から申請書のドラフトや必要資料を準備しておくことが重要です。
FDAの承認を待っている間に特許が満了する可能性がある場合は、「暫定延長(Interim Extension)」を申請できることがあります。承認前の最初の暫定延長申請は、原則として特許満了の6か月前から15日前までに行います。延長は通常1年単位で、承認が得られなければ次の申請期間内に更新手続きを行う必要があり、原則として4回までに制限されます。承認後は、通常のPTE申請へ適切に移行しなければなりません。
実務上、複雑な問題となるのが「ターミナルディスクレーマー」とPTEの関係です。特許審査において自明性型二重特許の拒絶を解消するため、後願特許の存続期間を関連特許の満了日に合わせるターミナルディスクレーマーが提出されることがあります。
CAFCはMerck & Co. v. Hi-Tech Pharmacal Co.において、ターミナルディスクレーマーの対象となった特許であっても、そのことだけを理由として35 U.S.C. §156によるPTEが排除されるわけではないと判断しました。法定要件を満たす場合には、ターミナルディスクレーマーによって設定された満了日を基準としてPTEが付加され得ます。また、Novartis AG v. Ezra Ventures LLCでは、延長対象特許の本来の存続期間を無効にできない関係特許を根拠として、自明性型二重特許によりPTE部分だけを否定することはできないと判断されています。
もっとも、ターミナルディスクレーマーがあれば必ずPTEを取得できるという意味ではありません。対象製品、最初の承認、申請期限、特許のクレーム、規制審査期間など、35 U.S.C. §156の要件を別途満たす必要があります。
技術ライセンス契約におけるPTEの取り扱いと必須条項
ライフサイエンス系スタートアップの多くは、自社で製品を最後まで開発・販売するのではなく、臨床開発の途中で製薬企業へライセンスアウトする戦略を取ります。この技術ライセンス契約において、PTEをどのように扱うかは、将来の収益規模を左右します。
スタートアップが製薬企業へexclusive license(独占ライセンス)を付与する場合、そのライセンスとロイヤルティの存続期間を明確に定義する必要があります。PTEによって対象特許の期間が延長されれば、延長期間中の対象製品の販売についても特許に基づくロイヤルティが発生するよう、契約上の「Licensed Patent」や「Royalty Term」の定義にPTEを反映させることが重要です。
一方、PTEによる延長期間中の特許権の効力は、特許に含まれるすべての製品や用途へ無制限に及ぶわけではありません。承認された製品と、承認された用途などに対応する範囲に制限されます。そのため、ライセンス対象製品、承認ラベル、対象クレーム、販売地域を照合し、PTE期間中にどの販売がロイヤルティの対象になるかを契約で明確にする必要があります。
米国法では、特許満了後の実施に対して特許権に基づくロイヤルティをそのまま課し続ける契約には制約があります。したがって、PTE期間中は特許ベースのロイヤルティを維持し、満了後にノウハウの対価を支払う設計とする場合には、ノウハウが特許とは独立した価値を持つことや、その対価、利用条件、終了時期を区別して定める必要があります。単に満了後の料率を下げれば有効になるわけではありません。
PTEの申請には、新薬承認申請の提出日、臨床試験の進捗、FDAとのやり取りなど、規制審査に関する情報が必要です。特許権者であるスタートアップと、規制承認を取得するライセンシーが異なる場合、特許権者はライセンシーから必要な情報の提供を受けなければなりません。
そのため、ライセンス契約には、PTE申請に必要な情報を速やかに共有する義務、申請書の作成と確認への協力義務、規制当局からの照会への対応、費用負担、申請主体、最終的な特許選択権などを定めておく必要があります。規制情報や臨床データの取り扱いについては、秘密保持条項や情報管理手続きも整備します。
複数の対象特許がある場合、物質特許、用途特許、製法特許などのうち、どの特許を延長するかは重要な判断です。承認された製品ラベルと各特許の請求項を対応させたクレームチャートを作成し、PTE期間中の権利範囲、侵害の立証可能性、残存期間、無効化リスクなどを比較する必要があります。契約上、この選択をライセンサーとライセンシーのどちらが行うのか、相手方の同意を必要とするのかも交渉事項となります。
延長期間中の販売額に対するロイヤルティが正確に計算・報告されているかを確認するため、監査条項を契約に組み込むことも重要です。独立した会計専門家による帳簿確認、監査可能な期間、通知方法、過少申告が判明した場合の不足額と利息の支払い、一定基準を超える過少申告があった場合の監査費用負担などを具体的に定めます。
ジェネリック企業の特許挑戦と30か月の停止によるリスク
PTEを取得しても、特許の有効性や侵害の成否が保証されるわけではありません。延長対象特許がOrange Bookに掲載され、後発医薬品の承認に関係する場合には、ジェネリック企業からパラグラフIV証明に基づく特許挑戦を受ける可能性があります。
ANDA申請者は、Orange Bookに掲載された特許について、当該特許が無効、権利行使不能またはジェネリック製品によって侵害されないとの立場を示すパラグラフIV証明を提出できます。申請者から通知を受けた先発企業または特許権者が45日以内に特許侵害訴訟を提起すると、FDAによるANDAの最終承認は原則として30か月間延期されます。
ただし、この「30か月のステイ」は常に30か月間継続するわけではありません。対象特許が満了した場合や、裁判所が特許を無効または非侵害と判断した場合などには、より早く終了することがあります。裁判所が期間を変更する場合もあります。
180日間のジェネリック独占についても、単に最初に訴訟へ挑戦して勝訴または和解すれば取得できる制度ではありません。原則として、実質的に完全なANDAを最初に提出し、対象特許についてパラグラフIV証明を行った「first applicant」であることなどが適格性の基礎となります。複数のfirst applicantが存在する場合や、法定の権利喪失事由が生じる場合もあるため、訴訟の結果だけでは判断できません。
もう一つのリスクは、「相当の注意と努力」に関する異議申し立てです。FDAが規制審査期間の決定をFederal Registerに公表した後、何人も、公表から180日以内に、申請者が承認取得に向けて十分な注意と努力を尽くさなかったと主張する請願を提出できます。
FDAが申請者にデューデリジェンスを欠いた期間があったと判断すれば、その期間はPTEの計算から差し引かれます。これに備えるには、臨床試験の進捗、FDAからの照会、回答の準備と提出、製造上の問題への対応など、規制審査期間中の重要な活動を記録し、合理的な期間内に対応していたことを説明できる状態にしておく必要があります。
特許ポートフォリオの多層化による知財収益化
医薬品開発のバリュエーションで用いられるリスク調整後正味現在価値(rNPV)では、PTEによる延長期間が将来キャッシュフローの算定に影響します。ただし、PTEの取得可能性や延長日数が確定する前の段階では、複数のシナリオを用いて評価することが適切です。
単一の特許だけに依存せず、開発初期から、製品の競争力を支える複数の技術成果を適切に権利化することも重要です。例えば、有効成分に関する特許のほか、原薬の結晶形、製剤、投与方法、特定の用途、製造プロセスなどについて、それぞれ特許要件を満たす発明が生じた場合には、個別の出願を検討できます。
もっとも、周辺特許を取得しても、元の物質特許の存続期間そのものが延びるわけではありません。各特許は、その請求項がカバーする製品や行為にのみ効力を持ち、有効性や侵害の成否も個別に判断されます。後続の改良発明を適切に保護するライフサイクルマネジメントと、競争を不当に制限することを目的とした権利行使とは区別しなければなりません。
知財を経営資産として扱うには、特許出願、臨床開発、FDAへの申請、ライセンス交渉の各スケジュールを統合的に管理する必要があります。特許発行前の規制審査期間はPTEの計算対象から除かれることや、5年上限と14年上限があることを踏まえ、複数の満了日シナリオを事前に検討しておくことが重要です。
自社特許を収益につなげる次の一手
FDA承認に伴う特許期間延長制度は、ライフサイエンス企業の収益期間に大きく影響する制度です。承認後60日という厳格な申請期間、特許発行日と規制審査期間の関係、ターミナルディスクレーマーの影響、そして同一製品の同一規制審査期間について延長できる特許が1件に限られるという制約の中で、適切な判断を下す必要があります。
申請期限の起算日は、承認通知の送信時刻や営業日、対象製品の規制区分によって変わる場合があります。また、延長対象特許の選択では、単に満了日が遅い特許を選ぶのではなく、承認製品とクレームの対応、PTE期間中の権利範囲、侵害立証のしやすさ、無効化リスク、ライセンス契約への影響を総合的に比較しなければなりません。
これからの知財戦略では、特許を維持するだけでなく、外部パートナーへのライセンスアウトやM&Aを視野に入れ、PTEを含む権利期間と収益期間を契約上正確に設計することが重要です。自社の特許ポートフォリオが持つ価値を整理し、事業やライセンス収益につなげたい場合には、PatentRevenueの活用をご検討ください。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
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