米国特許のNonpublication Request(非公開請求)は使うべきか?制度の仕組みと戦略的判断基準

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
米国特許の出願実務において、「自社のコア技術や開発動向を競合他社に知られたくない」というご相談を頻繁にお受けします。米国の非仮の実用・植物特許出願には、一定の厳格な条件を満たすことで通常の18か月出願公開を回避できるNonpublication Request(非公開請求)という制度が存在します。競合他社に技術を見せたくない場面では非常に強力な選択肢となる一方で、「将来的に海外展開する際に不利になるのではないか」「どのような場面で使うべきで、どのような場面で避けるべきか判断がつかない」と悩まれる方も少なくありません。本記事では、米国のNonpublication Requestの基本的な仕組みから、メリットと重大なリスク、そして技術ライセンスを見据えた具体的な活用戦略までを詳しく解説します。
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米国のNonpublication Requestを使うべき場面と避けるべき場面の結論
結論から申し上げますと、米国のNonpublication Requestは「対象となる発明について、18か月公開を要求する外国・国際出願を行わない」という明確な意思と経営的判断がある場合に使うべき制度です。この条件を満たし、非公開請求を維持するのであれば、原則として特許が発行されるまでUSPTOによる通常の出願公開を避けることができるため、非常に強力な戦略的ツールとなります。特に製品サイクルが短く、審査期間中に技術内容を公開したくないソフトウェア関連技術や、製造ノウハウに密接に関わるプロセス技術においては、有力な選択肢となります。
一方で、将来的にその技術をPCT(特許協力条約)経由で国際出願したり、日本や欧州など18か月公開を採用する国・地域へ展開したりするかどうかが出願時点で未定なのであれば、Nonpublication Requestの利用は避けるべきです。この制度は単なる希望ではなく、「当該発明について18か月公開を要求する外国・国際出願を行わない」というUSPTOに対する法的責任を伴う証明(certification)を必要とします。後から方針を変更して対象となる外国出願を行うこと自体は可能ですが、所定の手続きと期限管理が必要です。万が一、必要な通知手続きを怠ると、米国出願が法律上放棄されたものとみなされるリスクがあります。したがって、「とりあえず非公開にしておき、海外出願は後から考えよう」という曖昧なスタンスでの利用は適切ではありません。
米国特許制度における出願公開の基本知識と歴史的背景
米国ではかつて、特許が正式に審査を経て発行されるまで、その出願内容は原則として第三者に公開されないという実務が長く続いていました。そのような制度のもとでは、出願から長期間経過した後に特許が発行される、いわゆる「サブマリン特許」が問題視されることもありました。その後、1999年米国発明者保護法による法改正で18か月公開制度が導入され、現在では一定の例外を除き、最先の出願日の利益を主張する日から18か月が経過した時点で出願内容が公開される仕組みとなっています。
この18か月公開制度により、第三者は早い段階で他社の出願動向や技術開発状況を把握できるようになりました。競合他社の特許出願を監視し、自社の事業に対する侵害リスクを評価するクリアランス調査の観点からも有益な制度です。しかし、出願人の立場から見れば、審査の途中で自社の発明内容が公開されることを意味します。たとえ最終的に権利化できず出願が放棄された場合でも、すでに公開された出願内容は一般に閲覧可能な状態として残り、その内容が後続出願に対する先行技術となる場合があります。ただし、出願が公開されたからといって、その技術を第三者が常に自由に実施できることを意味するわけではなく、他の特許権などの存在は別途確認する必要があります。
そこで、一定の要件を満たす出願人がUSPTOによる18か月公開を避け、技術の秘匿性を維持したいというニーズに対応するために設けられている例外措置が、米国特許法に基づくNonpublication Request(非公開請求)です。
Nonpublication Requestの厳格な制度要件と証明手続き
Nonpublication Requestが認められるためには、米国特許法および米国特許規則に定められた厳格な手続き要件を満たす必要があります。この手続きは、単にチェックボックスに印を入れるような軽いものではなく、適切な確認を行った上で証明を提出する必要があります。
最大の要件は、「その発明について、出願から18か月後の公開を要求する外国またはPCTなどの多国間条約の下でこれまで出願したことがなく、今後も出願しない」という内容を証明することです。日本、欧州、PCTなどを利用した一般的な海外展開を予定している場合には、この証明と両立しない可能性が高いため、実務上は米国のみでの権利化を予定している案件で利用される場面が中心となります。
さらに、この非公開請求は「出願と同時」に行わなければならないという法定要件があります。USPTOの審査便覧においても、このタイミングの要件は免除できないと明記されています。出願手続きを完了させた数日後に「やはり公開を避けたい」と考えて非公開請求書を提出しても、適時の請求として受け入れられません。実務上は、出願時にPTO/SB/35などの所定形式を利用し、非公開を請求することを明確に示す必要があります。
また、将来の外国出願について「まだ社内で決裁が下りていない」「ビジネスの立ち上がり状況や次回の資金調達の結果次第で出願するかもしれない」といった未定の状態では、この証明を行うことは適切ではありません。MPEPでは、外国・国際出願を行うか否かをまだ決めていない場合や、単に外国出願の予定が現時点で存在しないだけの場合では足りず、18か月公開を要求する外国・国際出願を行わないという積極的な意思が必要とされています。したがって、社内の出願方針を確認し、証明を行う者が実際に確認した上で利用することが重要です。
競合他社に技術を知られにくくする実務上のメリットと戦略的意義
厳格な要件をクリアしてNonpublication Requestを利用することで、出願人は事業を優位に進めるためのいくつかの重要なメリットを得ることができます。
第一に、競合他社による技術分析や模倣、回避設計の機会を減らし、開発のリードタイムを確保しやすくなる点です。非公開請求が維持されている間はUSPTOによる通常の出願公開が行われないため、出願内容を公開情報として競合他社に分析されることを防げます。競合他社にとっては、公開された明細書を分析して回避設計を行ったり、対抗する改良技術を検討したりすることが難しくなります。ただし、自社による製品発表や営業活動など、USPTO以外の経路から技術情報が開示されることまで防ぐ制度ではありません。
第二に、第三者から審査への働きかけを受ける機会を実務上抑えやすい点です。米国特許法には、一定の期限内に第三者が審査に関連する先行技術文献をUSPTOへ提出できる制度があります。非公開請求によって出願が公開されなければ、競合他社が通常の公開情報から対象出願を把握して監視することは難しくなります。ただし、第三者による情報提出などを制度上完全に排除する効果があるわけではありません。
第三に、途中で放棄した出願の内容が通常の18か月公開によって公知になることを防げる点です。非公開請求を維持したまま出願が放棄された場合、未公開の放棄出願は原則として秘密に維持されます。そのため、自社の技術情報が自らの出願公開によって一般に公開されることを避けられる点は、後続の研究開発や知財戦略上の利点となり得ます。ただし、未公開の放棄出願であっても、後の米国特許や公開出願などで特定・引用された場合にはファイル内容が公開されることがあります。また、後続出願に対する先行技術性は、発明者、出願日、公開状況などによって異なるため、単純に「過去の自社出願が先行技術になることを完全に防げる」と考えるべきではありません。
非公開特許出願を活用した技術ライセンス契約の高度な実務
特許出願が非公開のまま進行している状態は、他社との技術ライセンス交渉において独特の強みと課題をもたらします。未公開の出願をベースにライセンス交渉を進める場合、知財戦略や契約実務において以下の専門的なポイントに留意する必要があります。
NDA(秘密保持契約)の厳密な運用
出願が非公開である以上、対象となる技術の全容は通常、外部の企業から確認することができません。これは「他社にまだ公開されていない技術」として評価される可能性がある反面、情報開示の管理を重要にします。そのため、パートナー候補との間では、交渉の初期段階で対象技術の詳細を明かす前に、NDAを締結して秘密情報の取扱いを明確にすることが重要です。
未公開特許出願に関するNDAでは、何が秘密情報であるかを明確に特定することが重要です。通常のNDAフォーマットをそのまま流用するだけでなく、「未公開の米国特許出願に関連する情報」であることを明確にし、開示する資料には「Confidential」などの表示を行うことも検討すべきです。NDAを適切に結ばず不用意に技術の詳細を外部へ開示すれば、秘密情報としての管理や将来の権利取得、ライセンス交渉における技術価値を損なうおそれがあります。
未確定の権利範囲を示すクレームチャート
NDAを締結した後は、対象技術がどのような特許権として成立しそうか、またそれが相手方の製品や事業にどう貢献、または関係するかを示すために、クレームチャートの提示が有効となる場合があります。クレームチャートとは、自社が出願している特許請求の範囲の各構成要件と、対象となる技術の仕様などを対比させた分析表です。
ただし、未公開の出願に関するクレームチャートを開示する際は注意が必要です。審査の途中で特許庁からの指摘により、クレームの文言が変更されたり、権利範囲が狭くなったりする可能性があるためです。したがって、提示するクレームチャートには「現在審査中のクレームに基づくものであり、最終的な権利範囲を確定するものではない」といった前提を明確にしておくことが望まれます。
独占ライセンスとロイヤルティの設計
ライセンス交渉がまとまり、将来的に特許が成立した場合には、ライセンシーに対して実施権を付与する対価としてロイヤルティを受け取る契約を設計できます。未公開の技術について、特定のライセンシーに対象技術を独占的に許諾する「独占ライセンス(exclusive license)」を設定することも選択肢となります。他社がまだ公開情報から把握できない技術を早い段階から利用できることは、ライセンシーにとって価値を持つ場合があります。
ただし、出願段階から独占ライセンスを付与する契約を結ぶ場合、最終的に特許として認められるクレームの範囲が出願時より狭くなる可能性を考慮したロイヤルティ設計が重要です。例えば、特許が想定した範囲で成立した場合と、権利範囲が限定された場合とでロイヤルティレートを調整する「ステップダウン方式」なども検討できます。また、特許が最終的に成立しなかった場合の取扱いや、契約解除の条件なども、案件に応じて契約書の中で規定しておく必要があります。
収益を確保するための監査条項
技術ライセンス契約において、適切な収益を確実に回収するためには「監査条項」の設定が重要です。監査条項とは、ライセンシーが報告する対象製品の売上高やロイヤルティの計算が正確であるかを確認するため、ライセンサー側が独立した第三者などを通じて帳簿や関連記録を調査できる権利を定めるものです。
未公開の技術をベースにしたライセンスの場合、その技術がライセンシーのどの製品群にどのように組み込まれ、市場でどれだけの収益を生み出しているかを外部から正確に把握することが難しいケースがあります。そのため、「年間〇回まで監査を実施できる」「報告額と実際の額に〇%以上の乖離があった場合、監査費用はライセンシーが負担する」といった具体的な規定を設けるなど、取引内容に応じた監査条項を契約上確保しておくことが重要になります。
海外展開へ方針変更する際の重大なリスクと45日ルール
当初は米国を中心とした権利取得を想定して非公開請求をしたものの、その後の事業計画の変更、ライセンシーからの要望、あるいはグローバル市場での需要の高まりにより、後から日本や欧州、あるいはPCTへの出願を行いたくなるケースは考えられます。米国特許法はこのような方針変更を許容しており、出願人はUSPTOに対して非公開請求を後から取り下げることができます。
ただし、18か月公開を要求する外国・国際出願へ方針を変更する場合には、手続きの順序が重要です。外国・国際出願を行う前であれば、Nonpublication Requestをあらかじめ取り下げることができます。一方、非公開請求を取り下げないまま対象となる外国・国際出願を行った場合には、その外国・国際出願の日から45日以内にUSPTOへ外国出願を行った旨を通知しなければなりません。実務上はPTO/SB/36を利用して、非公開請求の取下げと外国出願の通知を行うことができます。外国出願を行った後に単に非公開請求を取り下げるだけでは、必要な45日以内の通知の代わりにはならない点にも注意が必要です。
この「45日」という期限は重要です。必要な外国出願通知を期限内に行わなかった場合、米国特許法の規定により、その米国出願は法律上放棄されたものとみなされます。そのため、社内の知財部門の連携ミスや現地代理人とのコミュニケーション不足によって通知を失念することは、米国出願の権利化に重大な影響を与えます。
放棄された出願については、37 CFR 1.137に基づき、遅延が意図的ではなかったことを理由とする復活の請願制度があります。45日以内の通知を怠ったケースでは、必要な外国出願通知、所定の請願料、遅延全体が意図的ではなかった旨のstatementなどを提出する必要があります。また、遅延が意図的ではなかったかについて疑義がある場合には、USPTOから追加情報を求められることがあります。したがって、復活制度があることを前提に期限管理を緩めるべきではありません。
したがって、Nonpublication Requestを行った出願については、その後の外国出願方針を期限とともに管理し、関連する各国の特許事務所や米国代理人と連携できる社内管理体制を整えておくことが重要となります。
自社特許を収益につなげる次の一手
米国特許出願におけるNonpublication Request(非公開請求)は、USPTOによる通常の18か月出願公開を避け、競合他社に技術内容を知られにくくしながら事業提携やライセンス交渉を進めるための有力なツールです。技術情報の公開タイミングをコントロールし、非公開の期間を活用してパートナー企業にアプローチする手法は、知財収益化における戦略の一つと言えます。
一方で、18か月公開を要求する外国・国際出願を行わないという明確な意思が出願時に必要であり、後から外国出願へ方針を変更する場合には45日ルールを含む厳格な期限管理が必要です。自社の事業計画およびグローバルな知財戦略と慎重に照らし合わせて利用を判断する必要があります。
自社の優れた技術を単に防衛的な特許として終わらせるのではなく、市場価値を適切に評価し、ライセンス供与や売却を通じて新たな事業価値とキャッシュフローを生み出すためには、多角的な視点を持つ知財戦略が不可欠です。もし、自社が保有する特許や特許出願のマネタイズ手法にお悩みであれば、次の一手として専門家の知見や知財マッチングプラットフォームの活用をご検討ください。
当社が提供する知財収益化プラットフォーム「PatentRevenue」では、自社では事業化しきれていない特許技術を求めているパートナー企業とのマッチングをサポートしております。初期費用無料でご登録いただけますので、自社技術の新たな可能性を開拓し、知財を経営資源として活用するために、ぜひPatentRevenueをご活用ください。
\ その特許、放置したままではもったいない。特許番号と連絡先だけ 最短60秒! /
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 35 U.S.C. §122 Confidential status of applications; publication of patent applications
https://uscode.house.gov/quicksearch/get.plx?section=122&title=35 - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 1120
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1120.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 1122
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1122.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 1123
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1123.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 1124
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1124.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 1134
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s1134.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 102
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s102.html - Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 2152
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s2152.html - Code of Federal Regulations 37 CFR 1.213 Nonpublication request
https://www.ecfr.gov/current/title-37/chapter-I/subchapter-A/part-1/subpart-B/subject-group-ECFRfb715a1c8c32a04/section-1.213 - Code of Federal Regulations 37 CFR 1.137 Revival of abandoned application
https://www.ecfr.gov/current/title-37/chapter-I/subchapter-A/part-1/subpart-B/subject-group-ECFR98ba3a7401adec0/section-1.137 - Code of Federal Regulations 37 CFR 1.14 Patent applications preserved in confidence
https://www.ecfr.gov/current/title-37/chapter-I/subchapter-A/part-1/subpart-A/subject-group-ECFRb7b6fcb61b37214/section-1.14

