訴訟資金を外部から調達する:米国のサードパーティ・ファンディングと特許収益化

株式会社IPリッチのライセンス担当です。米国市場で自社の特許権を行使したいと考えた際、数十万ドルから数百万ドル規模に上る訴訟費用が障壁となり、正当な権利行使を断念する中小企業やスタートアップは少なくありません。しかし、現在の米国では、第三者が訴訟費用を提供する「サードパーティ・ファンディング(第三者訴訟資金提供)」の利用が拡大しており、自社の資金力が十分でなくても、高い回収可能性が見込まれる特許案件であれば収益化の選択肢が広がる場合があります。本記事では、米国政府説明責任局(GAO)の報告や各種資料をもとに、外部資金を活用した特許の収益化戦略と実務上の留意点を解説します。読者の皆様には、米国における特許訴訟のコスト構造から、資金調達の仕組み、そして知財を収益へとつなげるための契約実務まで、体系的に理解していただけます。
知財収益化は、企業が研究開発に投じた資金を回収し、次のイノベーションにつなげるための重要なサイクルです。どれほど優れた技術や特許であっても、それを活用する資金やノウハウがなければ、維持費だけがかかる資産になりかねません。弊社では、特許の売り手と買い手をつなぐオープンイノベーションプラットフォーム「PatentRevenue」を提供しています。自社では事業化しない休眠特許の売却や、ライセンスアウトによる収益化をご検討中の企業様は、無料登録をご利用ください。
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外部資金で特許訴訟を継続する:資金力格差を緩和する収益化の選択肢
特許権は、発明について一定期間の排他的な権利を与える財産権です。しかし、特許権は自動的に侵害を排除してくれるものではありません。侵害が疑われる場合、権利者自身が調査、交渉、訴訟などを通じて権利を行使する必要があります。
米国の特許実務では、「効率的侵害(エフィシェント・インフリンジメント)」と呼ばれる問題が議論されてきました。これは、ライセンス料を支払うよりも、侵害訴訟を提起される可能性や訴訟費用を受け入れた方が経済的に有利であるとの判断から、結果として無許諾利用が継続する状況を批判的に表現するものです。
ただし、すべての大企業が意図的に侵害していると一般化することはできません。実際の事件では、非侵害、特許無効、損害額、ライセンス条件などについて、当事者間で見解が異なることが一般的です。
こうした資金力の格差を緩和する手段の一つが、サードパーティ・ファンディングです。投資ファンドや訴訟資金提供会社などが訴訟費用を提供することで、スタートアップ、中小企業、大学、個人発明家などが、自社資金だけでは維持できない訴訟を進められる場合があります。
もっとも、資金提供を受けたからといって、大企業と完全に対等になれるわけではありません。特許の有効性、侵害の証拠、損害額、当事者適格、裁判地、証人や専門家の質などが訴訟結果を左右します。サードパーティ・ファンディングは、勝訴を保証する仕組みではなく、資金不足による早期撤退のリスクを軽減する手段と理解する必要があります。
米国特許訴訟の費用とサードパーティ・ファンディングの基礎知識
サードパーティ・ファンディングの必要性を理解するためには、米国の特許訴訟にどの程度の費用がかかるのかを把握する必要があります。
米国知的財産法協会(AIPLA)の2023年経済調査報告書では、特許訴訟の典型的な費用が、争われている金額や手続段階ごとに示されています。ただし、これらは回答者が想定する典型的な費用であり、個別事件の実費を保証するものではありません。
たとえば、争額が100万ドル未満の事件でも、ディスカバリーおよびクレーム・コンストラクションまでに、特許1件当たり約30万ドル、公判および控訴まで進む場合には約60万ドルが典型的な費用として示されています。
争額が1,000万ドルから2,500万ドルの事件では、ディスカバリーおよびクレーム・コンストラクションまでに約150万ドル、公判および控訴まででは約300万ドルとされています。争額が2,500万ドルを超える事件では、総費用が数百万ドル規模に達する可能性があります。
実際の費用は、主張する特許やクレームの数、技術の複雑さ、専門家証人の人数、電子データの量、裁判地、控訴の有無などによって大きく変わります。Hatch-Waxman法に関係する医薬品訴訟や、米国国際貿易委員会(ITC)の第337条調査は、通常の地方裁判所訴訟とは手続や目的が異なるため、単純に同じ費用基準で比較することはできません。
また、被告がUSPTOの特許審判部に当事者系レビュー(IPR)を申し立てた場合、地方裁判所での訴訟費用とは別に、特許の有効性を防御する費用が発生します。IPRでは、請願への対応から最終書面決定までに数十万ドル規模の費用が必要になることがあります。
このようなコストに対する選択肢となるのが、サードパーティ・ファンディングです。商業訴訟における資金提供は、一般にノンリコース型で設計されます。訴訟や和解による回収がなければ、原則として、提供された訴訟資金の返済を求めない仕組みです。
投資家は回収不能のリスクを負う代わりに、勝訴や和解によって得られた賠償金、和解金またはライセンス収入から、契約に従って分配を受けます。
ただし、敗訴時のあらゆる負担がなくなるわけではありません。契約上の表明保証違反、重要情報の不開示、資金使途違反などがあれば、資金提供者から責任を追及される可能性があります。また、ファンディングの対象外となる社内人件費や事業上の損失などは、特許権者自身が負担します。
かつての英米法では、第三者が他人の訴訟を支援して利益を得る行為が、チャンパティやメンテナンスとして制限されてきました。現在の米国では商業的な訴訟資金提供が広く利用されていますが、適法性や契約の執行可能性は州法や契約内容によって異なります。
さらに、弁護士費用を非弁護士と分配することを制限する弁護士倫理規則との関係も問題になります。したがって、米国全体で一律に合法と判断するのではなく、準拠州の法令、判例、弁護士倫理規則を個別に確認する必要があります。
サードパーティ・ファンディングの開示要件をめぐる動向
サードパーティ・ファンディングは、特許訴訟の構造を変えつつあります。GAOが2024年12月に公表した報告書によれば、第三者資金が関係する特許訴訟は2019年以降に大きく増加し、特許訴訟全体の相当部分を占めていると関係者や業界推計はみています。
GAOがインタビューした大手テクノロジー企業の多くは、自社に提起された特許侵害訴訟の半数を超える案件で、第三者資金の関与が確認されたか、関与が疑われたと回答しています。ただし、資金提供契約は通常非公開であり、市場全体を示す完全な統計は存在しません。
利用の拡大に伴い、米国で議論されているのが、資金提供者や契約内容の開示です。現在、すべての連邦民事訴訟に一律に適用される包括的な開示制度はありません。もっとも、裁判所のローカルルール、裁判官の命令、個別事件におけるディスカバリー命令によって、開示が必要になる場合があります。
デラウェア州連邦地方裁判所では、コルム・コノリー裁判官が2022年4月、同裁判官に配属された事件を対象とするスタンディング・オーダーを発出しました。
対象となる当事者は、一定のノンリコース型資金提供を受けている場合、資金提供者の身元、所在地、経済的利益の概要、訴訟または和解に関する決定に資金提供者の承認が必要かどうかなどを届け出る必要があります。
この命令は、裁判官の利益相反を確認するとともに、訴訟当事者の背後にある所有・資金提供関係を把握する目的を持っています。同裁判官は、特許を保有する有限責任会社などに対し、資金提供関係や所有構造について追加的な調査を行った事例もあります。
一方、他の裁判所や裁判官は、資金提供契約の内容が特許の有効性や侵害判断と直接関係しない場合、広範な開示要求を認めないことがあります。資金提供の事実だけを開示させる制度と、契約書全体や予算額まで開示させる制度も区別する必要があります。
裁判地を検討する際には、資金提供の開示制度だけでなく、特許法上の裁判籍、被告の所在地や事業拠点、移送の可能性、事件処理の速度、陪審評決の傾向などを総合的に判断します。開示を避けるためだけに裁判地を自由に選択できるわけではありません。
2026年には、一定の連邦訴訟について資金提供者や契約内容の開示を求めるLitigation Funding Transparency Act of 2026が上院に提出されています。ただし、これは現時点で成立した法律ではなく、立法過程にある法案です。実際の事件では、適用される現行の裁判所規則と命令を確認する必要があります。
投資家の審査と特許訴訟ファンディング獲得の実務
中小企業やスタートアップがサードパーティ・ファンディングを獲得するプロセスは、容易ではありません。投資家は、高いリスクに見合うリターンを求める金融事業者として、特許訴訟を厳格に評価します。
資金提供に至る案件は、持ち込まれる案件の一部に限られます。ただし、採択率について市場全体を示す信頼できる統一統計はなく、ファンドの投資方針、案件規模、技術分野によって異なります。
審査で重視されるのは、特許の有効性、侵害証拠、予想損害額、被告の支払能力、訴訟費用、回収までの期間などです。先行技術によって特許が無効になる可能性や、IPRに耐えられるかどうかも検討されます。
この審査で重要になる資料の一つがクレームチャートです。クレームチャートとは、特許請求項の各構成要件と、対象製品やサービスの構造・機能を対応させた対比表です。
投資家は、各構成要件を裏付ける公開資料、製品分析、ソースコード、試験結果などが存在するかを確認します。公開情報だけでは確認できない構成要件が多ければ、ディスカバリーに依存する割合が高まり、投資リスクも増加します。
GAOの報告では、発明者が過去に相手企業へ技術情報を提供し、その後、相手企業が無断で利用したと疑われる事情を好むと回答した資金提供者もいました。このような経緯は、陪審員に説明しやすいストーリーとなる可能性があります。
また、相手企業が特許を認識していたことを示す資料は、故意侵害の主張に関係する場合があります。故意侵害が認められた場合、裁判所は35 U.S.C. §284に基づき損害額を最大3倍まで増額できます。
ただし、相手企業が特許を知っていたという事情だけで、増額賠償が自動的に認められるわけではありません。故意性や行為の悪質性を含む事件全体の事情に基づき、裁判所が裁量で判断します。
資金提供を打診する際には、特許の弱点や訴訟戦略など、機密性の高い情報を開示することになります。そのため、情報提供前にNDAを締結し、開示目的、利用範囲、再開示の制限などを明確にすることが重要です。
ただし、NDAを締結しただけで、弁護士・依頼者間秘匿特権やワーク・プロダクト法理による保護が当然に維持されるわけではありません。第三者への開示によって、秘匿性を放棄したと主張される可能性があります。
弁護士を通じて情報共有を行い、資金提供者との間に共通する法的利益があるか、どの資料をどの段階で開示するか、開示記録をどのように管理するかを検討する必要があります。
資金提供契約の構造と当事者適格の確保
厳しい審査を通過し、資金提供契約を結ぶ段階では、経済条件と法的な権利関係の整理が重要になります。契約書には、資金の提供時期、対象費用、予算上限、追加資金の条件、終了事由、回収金の分配方法などが規定されます。
特に重要なのが、回収金をどの順序で分配するかを定めるウォーターフォールです。
GAOの報告では、一部の資金提供契約について、資金提供者が出資額の2倍から3倍を優先的に受け取った後、残額を特許権者や代理人側に分配する構造が紹介されています。
ただし、すべての契約がこの方式ではありません。投資額の倍数、回収額に対する一定割合、経過期間に応じたリターンなどを組み合わせる場合もあります。特許権者は、早期和解、低額回収、高額回収の各ケースについて、自社の手取り額を事前に試算する必要があります。
資金面の条件に加えて、投資家が厳格に確認するのが、原告が特許侵害訴訟を提起できる立場にあるかという当事者適格です。
35 U.S.C. §281では、特許権者が侵害に対する民事訴訟を提起できると定められています。特許権者から「すべての実質的な権利」を取得した排他的ライセンシーは、実質的な譲受人として単独で提訴できる場合があります。
一方、ライセンシーの権利が限定され、特許権者が訴訟の決定権、ライセンス権、譲渡権、収益の重要部分などを留保している場合、ライセンシー単独では提訴できないことがあります。その場合でも、特許権者を共同原告として参加させることで訴訟を進められる場合があります。
契約書の表題が「exclusive license」であるだけでは十分ではありません。裁判所は、第三者を排除する権利、訴訟を提起・管理する権利、サブライセンス権、譲渡権、契約終了権、特許維持の責任などを総合的に確認します。
なお、日本法上の「独占的通常実施権」と、米国法上のexclusive licenseやall substantial rightsの評価は同一ではありません。日本語の契約名称をそのまま米国の当事者適格に当てはめることはできません。
資金提供者は、多額の資金を投じた後に、当事者適格の問題で訴訟が却下されることを避けようとします。そのため、特許の譲渡履歴、発明者から会社への権利移転、合併や組織再編、ライセンス契約などが詳細に監査されます。
サードパーティ・ファンディング利用時に企業が直面するリスク
外部資金の活用は有効な選択肢ですが、実務上考慮すべきリスクも存在します。
第一に、和解判断への影響です。弁護士は資金提供者ではなく依頼者に対して義務を負い、第三者による費用負担が弁護士の専門的判断を妨げてはなりません。また、和解を受け入れるかどうかは、原則として依頼者が決定すべき事項です。
ただし、資金提供契約の分配条件によって、実際の経済的選択肢が狭まる可能性があります。被告から早期に和解案が提示されても、資金提供者への優先分配を差し引くと特許権者の手取りがほとんど残らず、和解を受け入れにくくなる場合があります。
GAOの報告でも、資金提供が和解交渉を複雑化させ、解決までの期間を長くする可能性を指摘する関係者がいました。一方、資金提供者側は、原告がいつでも和解できるように契約を設計し、早期解決を促すこともあると説明しています。
したがって、資金提供者が形式的な拒否権を持つかどうかだけでなく、分配条件が実質的に和解判断へどのような影響を与えるかを確認する必要があります。
第二に、開示に伴う戦術的リスクです。資金提供額や予算上限が被告に開示された場合、被告が原告側の資金制約を推測し、訴訟戦略に利用する可能性があります。
ただし、被告による申立てやディスカバリー要求は、連邦民事訴訟規則による関連性や比例性の制約を受けます。資金枯渇を目的とする不当な手続が当然に許されるわけではありません。原告側は、予算超過時の追加資金、控訴費用、IPR費用などを契約段階で確認しておく必要があります。
第三に、外国資金や機密情報へのアクセスに関する懸念です。米国議会では、外国政府または外国と関係する投資主体が訴訟資金を提供し、米国企業の技術情報や事業情報に接触する可能性が議論されています。
通常、資金提供者が相手方企業の機密資料へ自由にアクセスできるわけではありません。ディスカバリーで提出された機密情報は、裁判所の保護命令に基づき、閲覧者や利用目的が制限されます。
それでも、資金提供者の所有構造、所在地、投資家、情報管理体制を確認することは重要です。外国資金の開示を含む連邦法案も提出されており、今後、規制や裁判所規則が変更される可能性があります。
判決を待たずにロイヤルティを得る特許収益化のアプローチ
特許訴訟の目的は、必ずしも公判で最終的な勝訴判決を得ることだけではありません。米国の民事事件の多くは最終的な公判評決に至らず、和解、取下げ、却下、略式判決などによって終結します。
サードパーティ・ファンディングを活用する目的の一つは、最後まで訴訟を継続できる資金的基盤を示し、相手企業とのライセンス交渉や和解交渉を現実的なものにすることです。
資金力の乏しい特許権者が警告状やライセンス提案を送っても、相手企業が侵害を否定し、交渉に応じない場合があります。一方、十分な準備を行った上で侵害訴訟が提起され、原告が訴訟を継続できる資金を確保していると認識されれば、相手企業が和解を具体的に検討する可能性は高まります。
ただし、訴訟提起を単なる威圧手段として利用することは適切ではありません。訴状を提出する前に、侵害、有効性、当事者適格および損害について合理的な調査を行う必要があります。
和解によって特許ライセンス契約を締結する場合、一時金で支払いを受ける方法と、将来の製品売上高などに応じたランニング・ロイヤルティを受け取る方法があります。
ランニング・ロイヤルティを採用する場合には、対象製品、売上高の定義、控除項目、為替換算、報告時期、記録保存期間などを明確にします。また、申告された販売数量や売上高を確認できる監査条項を設けることも重要です。
監査条項では、監査を実施できる頻度、事前通知期間、監査人の資格、秘密保持義務、過少申告が判明した場合の監査費用負担などを規定します。
外部投資家が将来のロイヤルティから分配を受ける契約では、ライセンス収入の計算方法や監査結果が投資家の回収額にも影響します。そのため、資金提供契約とライセンス契約の定義や分配条件を整合させる必要があります。
資金調達による体制構築、クレームチャートによる侵害分析、特許の有効性調査、適切な訴訟提起を連動させることで、未活用の特許をライセンス収入や和解金につなげられる可能性があります。ただし、すべての特許が訴訟による収益化に適しているわけではなく、売却、通常のライセンス交渉、自社利用などとの比較が必要です。
自社特許を収益につなげるために確認すべき事項
米国の特許訴訟は高額なコストと不確実性を伴いますが、サードパーティ・ファンディングを活用することで、中小企業やスタートアップが権利行使を継続できる場合があります。
もっとも、外部資金は訴訟の成功を保証するものではありません。資金提供を受けるためには、特許の有効性、侵害証拠、予想回収額、当事者適格、訴訟予算などについて、投資家の厳格な審査を受ける必要があります。
自社の特許ポートフォリオに、他社製品やサービスで利用されている可能性のある技術が含まれている場合、最初に行うべきことは、侵害の断定ではなく、特許の権利範囲と対象製品を照合する予備調査です。
その後、クレームチャートの作成、先行技術調査、権利移転記録の確認、損害額の試算、資金提供契約の条件比較などを進めます。資金提供者との情報共有では、NDAだけに依存せず、秘匿特権やワーク・プロダクトの保護について米国弁護士の助言を受けることが重要です。
株式会社IPリッチが運営する「PatentRevenue」では、特許の売却やライセンスを検討する企業が案件を登録できるプラットフォームを提供しています。訴訟による権利行使だけでなく、売却やライセンスアウトを含めた収益化方法を比較し、自社の特許に適した次の一手をご検討ください。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
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https://www.ded.uscourts.gov/sites/ded/files/Standing%20Order%20Regarding%20Disclosure%20Statements.pdf - American Bar Association, Model Rule 5.4: Professional Independence of a Lawyer
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