米国市場への輸入を止めるITC戦略:損害賠償より強力な市場アクセスを交渉材料にする方法

株式会社IPリッチのライセンス担当です。自社の独自技術を模倣した製品が、海外から米国市場へ大量に輸入されてしまう事態は、多くの革新的な企業にとって死活問題となります。特許権を行使してこれを食い止めようとする際、一般的には連邦地方裁判所での特許侵害訴訟による過去の損害賠償請求が頭に浮かぶかもしれません。しかし、裁判には数年という長い時間がかかる場合があり、最終的に金銭的な賠償を得られたとしても、その間に市場シェアは奪われ、回復が難しい価格破壊が起きているケースもあります。この記事では、単なる金銭請求ではなく「米国で売れなくなるリスク」を使ってライセンス交渉を優位に進める方法を紹介します。米国国際貿易委員会(ITC)のSection 337調査を活用し、損害賠償ではなく市場アクセスそのものを交渉材料にする強力なITC戦略について、制度の基本から実務的な契約の要点まで詳しく解説します。
知財収益化は、保有する特許を単なる防衛の盾として終わらせず、企業の成長を牽引する直接的な利益へと変換する重要な経営課題です。しかし、自社単独で特許のライセンス先を見つけ出し、複雑な交渉をまとめることは容易ではありません。弊社が提供する知財マッチングプラットフォーム「PatentRevenue」は、自社の遊休特許やライセンス可能な技術を、それを必要とする企業へと結びつけるためのツールです。PatentRevenueに無料登録していただくことで、眠っている知財資産の価値を可視化し、新たな収益源へと変える第一歩を踏み出すことができます。特許のマネタイズに課題を感じている企業様は、ぜひご活用ください。
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損害賠償ではなく米国市場へのアクセス制限を交渉材料にするITC戦略の結論
知的財産権の侵害が生じた際、特許権者が求める最終的なゴールは、必ずしも「相手を市場から完全に排除し、事業を破壊すること」とは限りません。多くの場合、ビジネス上の真の目的は、自社の技術を利用する対価として適正な利益を得ること、すなわち有利な条件での特許ライセンス契約を締結し、継続的な収益源を確保することにあります。
米国国際貿易委員会(ITC)が実施するSection 337調査は、まさにこの「ライセンス交渉を優位に進めるための極めて強力なテコ」として機能する場合があります。ITCは連邦地方裁判所とは異なり、過去の特許侵害に対する金銭的な損害賠償を命じる権限を持っていません。その代わり、侵害品が米国へ輸入されることを税関で直接差し止める「排除命令」や、一定の被申立人に対して米国内での販売や流通などを禁止する「停止命令」を発令する権限を持っています。
対象となる企業にとって、世界最大の市場の一つである米国へのアクセスを突如として絶たれることは、過去の売上の一部を損害賠償金として支払うこと以上に、事業の根幹を揺るがす深刻なダメージとなる場合があります。サプライチェーンが分断され、小売店や取引先からの信用を失い、莫大な在庫を抱えるリスクを目の前にしたとき、相手企業は事業継続のために特許権者の提示する和解案へ真剣に耳を傾ける可能性が高まります。つまり、過去の清算としての損害賠償ではなく「米国市場から排除される可能性」という重大なビジネスリスクを示すことで、ライセンス契約の締結へと相手を導くことが、ITC戦略の大きな狙いなのです。
ただし、ITCへの申立てを行えば、必ず相手企業が和解に応じたり、高額なロイヤルティを得られたりするわけではありません。特許侵害、輸入、国内産業要件などを証拠に基づいて立証し、相手方による非侵害や無効の主張にも対応する必要があります。
連邦地方裁判所とは異なる米国国際貿易委員会(ITC)の基本知識
このITC戦略の有効性を深く理解するためには、まず1930年関税法第337条に基づくITCの権限と、通常の連邦地方裁判所での特許訴訟との決定的な違い、そしてその背景にある歴史的な判例の変遷を把握する必要があります。
Section 337は、米国への物品の輸入に関連する不公正な競争方法や不公正な行為を規制する強力な貿易法上の制度です。この「不公正な行為」の代表例として、有効かつ権利行使可能な米国特許、登録商標、著作権などの知的財産権の侵害が挙げられます。ITCの調査は、申立人(特許権者)の申立てに基づき開始され、行政法判事(ALJ)による証拠審理という裁判に似たプロセスを経て、最終的に委員会が違反の有無を決定します。
ここで重要になるのが、連邦地方裁判所における「差止命令(Injunction)」のハードルとの明確な違いです。2006年以前、連邦巡回控訴裁判所の実務では、特許の有効性と侵害が認められれば、原則として永久的差止命令が認められる考え方が採られていました。しかし、2006年の連邦最高裁判所による画期的な判決(eBay対MercExchange事件)により、この状況は一変しました。最高裁は、特許権者が差止命令を得るためには、他の民事訴訟と同様に「4ファクター・テスト(4つの衡平法上の要件)」を満たす必要があると判断したのです。具体的には、特許権者が回復困難な損害を被っていること、金銭的賠償では不十分であること、当事者間の不利益のバランスが特許権者に傾いていること、そして差止めが公共の利益に反しないことを証明しなければならなくなりました。
このeBay判決以降、自らは製品を製造していない特許管理会社(いわゆるNPE)や、侵害者と市場で直接競合していない研究開発主体が、連邦地方裁判所で差止命令を得ることは一般に難しくなりました。裁判所が、特許権者の事業内容や侵害によって生じた損害の性質を踏まえ、金銭的賠償によって十分に救済できるかどうかを個別に判断するようになったからです。ただし、NPEや非競合企業であることだけを理由に、差止命令が一律に否定されるわけではありません。
一方、ITCのSection 337調査は、連邦地方裁判所が発令する衡平法上の差止命令とは異なる貿易救済措置であるため、eBay事件の4ファクター・テストに直接拘束されません。ITCにおいて特許侵害などの違反が認められた場合、ITCは法定の公共利益要素を考慮した上で、輸入排除命令を発令するかを判断します。特許権者が直接競合していなくても、あるいはライセンス活動を行っていても、国内産業要件などを満たせば強力な救済を求められる点が、連邦地方裁判所にはないITCの大きな特徴であり、ライセンス交渉の場で強い影響を持つ理由なのです。
Section 337調査における輸入排除命令と国内産業要件という制度
強力な救済措置が得られるITCですが、その制度を利用するためには独自の枠組みと要件をクリアする必要があります。ここでは、ITCが提供する救済措置の種類と、提訴の大きなハードルとなる「国内産業要件」について、近年の重要な法解釈の変化を交えて解説します。
ITCが発令できる主要な救済措置には、主に二つの形態があります。一つは「限定的排除命令(LEO:Limited Exclusion Order)」です。これは、調査で名指しされた特定の被申立人(侵害者)が製造または輸入する侵害品の米国への輸入を禁じるもので、一般的に利用される命令です。
もう一つは「一般的排除命令(GEO:General Exclusion Order)」です。これは非常に強力な措置で、侵害品の供給元を特定することが困難であったり、限定的排除命令では容易に迂回される恐れがあったりする場合など、法律上の要件を満たしたときに、製造者や輸入者を問わず、対象となる侵害品の輸入を広く禁じるものです。電子商取引(Eコマース)の普及により、次々と名前を変えて模倣品を販売する海外事業者が増える中、GEOは市場を保護する上で大きな効果を発揮する場合があります。
また、これらに加えて、一定の被申立人に対し、米国内にある在庫の販売や流通などを禁止する「停止命令(Cease and Desist Order)」を併せて発令することも可能です。
しかし、これらの強力な措置を引き出すためには、連邦地方裁判所には存在しない特有のハードルである「国内産業要件(Domestic Industry Requirement)」を満たさなければなりません。ITCの目的は、米国内の産業を不公正な輸入から保護することです。そのため、申立人は単に特許を保有しているだけでなく、その特許に関連する産業が米国内に存在するか、あるいは設立の過程にあることを証明する義務を負います。
特許に基づくSection 337調査の国内産業要件は、「技術的要件(Technical Prong)」と「経済的要件(Economic Prong)」の二つから構成されます。技術的要件は、申立人自身またはそのライセンシーが展開している国内産業製品が、主張する特許のクレーム(請求項)を少なくとも一つ実施していることを技術的に立証するものです。
一方、多くの企業にとって大きな壁となるのが経済的要件です。関税法第337条によれば、対象となる特許製品に関して米国内で「(A)工場や設備への重要な投資」「(B)労働力や資本の重要な雇用」「(C)エンジニアリング、研究開発、またはライセンス供与を含む特許の活用に対する実質的な投資」のいずれかが存在することが求められます。
どの支出を経済的要件の判断に含められるかについては、これまで多くの事件で争われてきました。特に、製品を海外で製造し、米国内では販売、マーケティング、倉庫保管、品質管理などを行っている企業について、これらの活動をどこまで米国内の産業への投資として評価できるかが問題となっていました。
2025年3月5日に連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が下した「Lashify事件」の判決では、この点について重要な判断が示されました。この事件においてITCは、美容製品を展開する米国企業Lashifyの販売、マーケティング、倉庫保管、品質管理、流通などに関する支出の一部について、経済的要件に算入できないと判断していました。
しかしCAFCは、関税法第337条(a)(3)(B)の条文には、「労働力または資本」の使途を製造などの特定の活動に限定する文言はないと指摘しました。販売、マーケティング、倉庫保管、品質管理、流通のための費用であっても、それが米国内での労働力または資本の「重要な雇用」に該当するのであれば、製造を伴わなくとも経済的要件の判断対象になり得ることを示したのです。
この判決により、米国内に大規模な製造拠点を持たないファブレス企業、製造を海外のパートナーに委託しているブランド企業、さらには米国内で積極的な販売・マーケティング活動を展開する外国企業であっても、活動内容によってはITCを利用できる可能性が広がりました。
ただし、Lashify判決は、販売費やマーケティング費が存在すれば自動的に国内産業要件を満たすと判断したものではありません。投資が対象製品とどのように結びついているか、その規模が量的または質的に「重要」と評価できるかは、個別の証拠に基づいて判断されます。また、同事件では、実用特許について技術的要件を満たさないとのITCの判断は維持されています。
純粋な製造業でなくとも、米国市場への投資が正当に評価される可能性が明確になったことで、市場アクセスを交渉材料にしたライセンス戦略は、これまで以上に多くのイノベーターにとって現実的な選択肢となりました。
早期決着を迫るITC特有のスケジュールとクレームチャートを活用する実務
ITCのSection 337調査をライセンス交渉の強力なテコとしているもう一つの要因は、そのスピードと手続きの厳しさにあります。一般的な連邦地方裁判所での特許訴訟が、申立てから陪審評決までに数年を要する場合があるのに対し、ITCは法律により「実行可能な限り早期に」調査を完了することが求められています。
実務上、ITCは調査開始から45日以内に、最終決定までの目標期日であるターゲット・デートを設定します。事件の規模や複雑さによって異なりますが、調査開始からおおむね15か月から18か月程度で最終決定に至る事件も多く見られます。これを実現するために、手続きのスケジュールは連邦地方裁判所と比較して非常にタイトに設定されます。
調査が開始されると、直ちに事実開示(ディスカバリー)手続きが始まります。当事者は、相手方からの膨大な文書提出要求や質問書に対し、行政法判事のグラウンドルールなどに従って、短い期間で回答を準備し提出しなければならない場合があります。連邦地方裁判所での手続きに慣れた企業にとっても、厳しいペースとなる可能性があります。
さらに、技術用語の解釈を決定するクレーム解釈手続きなどを経て、行政法判事の面前で証拠審理が行われます。調査開始から証拠審理までの期間は事件によって異なりますが、限られた期間内に侵害、特許の有効性、国内産業、輸入などの争点を同時に整理しなければなりません。
この短期間のスケジュールは、申立人にとって強い交渉上の圧力として働く場合があります。相手方(被申立人)は、自社の日常業務をこなしながら、世界中の拠点から膨大な電子メールや技術資料を収集し、翻訳し、弁護士と戦略を練り、専門家の証言録取に対応する作業を数か月の間に進めなければなりません。
これに伴う米国弁護士費用や専門家費用は、短期間に数億円規模へ達する場合もあります。この「短期間に集中する高額な防衛コスト」と、敗訴した場合の「米国市場からの締め出し」という二つのリスクが重なることにより、相手方が早期の和解交渉やライセンス契約の締結を検討する可能性が高まります。
ただし、厳しいスケジュールと費用負担は申立人側にも同様に生じます。十分な証拠や予算を持たず、相手方への圧力だけを目的としてITCへ申し立てることは、むしろ申立人にとって大きなリスクとなります。
この過酷なプロセスを主導するために、申立人側は提訴の段階で極めて緻密な準備をしておく必要があります。その中核となる武器が「クレームチャート」の作成です。
クレームチャートとは、特許の請求項(クレーム)を構成する一つ一つの技術的要素(構成要件)を細かく分解し、それらが被疑侵害製品のどの具体的な構造、機能、あるいはソフトウェアの動作手順に該当するのかを、製品の仕様書、分解写真、ソースコード、リバースエンジニアリング結果などの客観的な証拠を用いて詳細に対比させたマッピング資料です。
ITCの手続きにおいては、単に「相手の製品が当社の特許を侵害している」と漠然と主張するだけでは不十分であり、提訴の段階から具体的な侵害の根拠を示すことが求められます。同時に、前述した国内産業要件の「技術的要件」を満たすために、自社またはライセンシーの製品が自社特許の構成要件をどのように満たしているかを示す資料も必要です。
このクレームチャートの完成度が高く、論理の隙が少ないほど、相手方は訴状を受け取った直後の初期分析の段階で、非侵害の主張を貫けるか、回避設計が可能か、調査を最後まで争うべきかを具体的に検討することになります。無謀なディスカバリー戦に突入して多額の費用を負担するよりも、早い段階でライセンス交渉に応じる方が経済的合理性が高いと判断する場合もあります。
精緻なクレームチャートは、単なる法的書面ではなく、交渉の前提となる強力なビジネス資料です。ただし、クレームチャートが詳細であっても、クレーム解釈、非侵害、無効、輸入、国内産業要件などに関する相手方の反論を完全に封じられるわけではありません。
ライセンス交渉を成功に導くNDAから監査条項までの契約要点
相手方がITC調査のプレッシャーと市場排除のリスクを認識し、真剣に交渉のテーブルに着いたところからが、知財ライセンス担当者の腕の見せ所となります。ここでは、排除のリスクをいかにして持続的な収益(ライセンス契約)へと変換していくか、その実務上の重要ポイントを順を追って解説します。
交渉を開始するにあたり、条件提示や機密情報の開示に先立って検討すべきなのが「NDA(秘密保持契約:Non-Disclosure Agreement)」の締結です。ライセンス交渉においては、特許の有効性や非侵害に関する踏み込んだ技術的議論、回避設計(ワークアラウンド)の可能性、相手方の過去の正確な販売数量、利益率、将来の事業計画など、秘匿性の高い情報が交わされる場合があります。
これらの情報が外部に漏洩したり、交渉目的以外に利用されたりするのを防ぐため、交渉の目的を「和解およびライセンス契約の検討」などに限定し、開示された情報の目的外使用を禁止するNDAを締結することが重要です。特に、交渉が決裂した場合の機密情報の破棄や返還のプロセス、そして残留情報の取り扱いについても規定を検討する必要があります。
ただし、NDAを締結したからといって、開示した情報がITC調査や関連訴訟で常に利用されなくなるわけではありません。和解交渉に適用される証拠法上のルール、ITCの保護命令、法令や裁判所命令に基づく開示などを踏まえて設計する必要があります。
NDAが締結され、具体的な数字が開示された後、交渉の最大の焦点となるのが「ロイヤルティ(実施料)」の算定と設定です。ロイヤルティには大きく分けて、対象製品が販売されるごとにその数量や売上高に応じて継続的に支払われる「ランニング・ロイヤルティ」と、契約時にまとまった金額を一括で支払う「ランプサム(一時金)」の二つのアプローチがあります。
ITC戦略における和解交渉では、過去の侵害期間に関する和解金としてのランプサムと、将来にわたる合法的な販売に対するランニング・ロイヤルティを組み合わせることがあります。相手方にとっては、高額な調査対応費用を支払い続け、最終的に市場から排除されるリスクを負うよりも、合意したロイヤルティを事業コストとして織り込み、米国市場でのビジネスを継続する方が合理的であると判断される場合があります。
次に、ライセンスの形態(許諾範囲)を戦略的に定義する必要があります。米国特許を対象とする契約では、非独占的ライセンスと独占的ライセンスなどが用いられますが、その法的性質を正確に理解して契約書に落とし込むことが、将来のビジネス展開を左右します。
「独占的ライセンス(Exclusive License)」は、製品、用途、地域、顧客層など、契約で定めた範囲においてライセンシーに独占性を与えるものです。ただし、契約書に「独占的」と記載するだけで、ライセンシーが自ら第三者に対して特許侵害訴訟を提起できるようになるとは限りません。
米国法上、ライセンシーが単独で特許権を行使できるかどうかは、訴訟提起権、サブライセンス権、譲渡権、契約終了権、特許権者による実施や追加ライセンスの可否など、特許に関する実質的な権利がどこまで移転されているかによって判断されます。
一方、通常のライセンス契約で多く用いられるのが「非独占的ライセンス(Non-exclusive License)」です。これは、特許権者から特許の実施を許諾されるものの、特許権者は他の第三者にも同様のライセンスを付与できる形態です。一般に、非独占的ライセンシーは、第三者の侵害に対して自ら特許侵害訴訟を提起する立場を持ちません。
また、ビジネス実務上、契約で定めた範囲について、ライセンサーが第三者に追加のライセンスを付与しない一方、ライセンサー自身の実施は認める「ソールライセンス(Sole License)」などが利用されることもあります。ただし、Exclusive LicenseやSole Licenseなどの用語の意味は契約によって異なるため、名称だけに依存せず、誰がどの範囲で実施できるのかを具体的に規定する必要があります。
ITC戦略の結果として侵害者にライセンスを付与する場合、米国市場における自社の競争環境をどうコントロールするかが鍵となります。通常は、相手を一競合とみなすのであれば「非独占的ライセンス」を付与し、特許権者が引き続き他の競合他社に対しても権利行使やライセンス交渉を行える状態を維持する方法が考えられます。
さらに、ランニング・ロイヤルティ方式のライセンス契約書に盛り込むべき重要な項目が「監査条項(Audit Clause)」です。ランニング・ロイヤルティの金額は、ライセンシー(相手方)から定期的に提出される販売数量や売上高の報告書に基づいて計算されます。しかし、この報告に誤りや計算漏れが生じる可能性があります。
意図的な過少申告や、契約解釈の相違による計算漏れを防ぐために、特許権者が指定する独立した公認会計士などを通じて、ライセンシーの会計帳簿、販売記録、製造記録などを定期的に調査・監査する権利を契約で明文化しておく必要があります。
単に監査の権利を定めるだけでなく、「監査の結果、報告額に5%以上の過少申告が確認された場合には、不足分に利息を加算して支払うとともに、合理的な監査費用をライセンシーが負担する」といった具体的な規定を設けることで、監査条項は報告の正確性を確保するための抑止力として機能します。ただし、5%という基準は法律で決められているものではなく、契約交渉によって定める条件です。
ITC戦略を採用するにあたって考慮すべき特許無効化などのリスク
損害賠償請求よりも強力な交渉材料となり得るITC戦略ですが、決して万能の手段ではありません。実行にあたっては、企業として引き受けなければならないいくつかの重大なリスクと注意点が存在します。
第一に直面するのが、高額な金銭的コストの問題です。先述の通り、ITCのSection 337調査は連邦地方裁判所と比較して速いペースで進行するため、米国弁護士費用や技術専門家、経済専門家への報酬が短期間に集中して発生します。
調査の規模や対象製品の複雑さ、主張する特許の数、被申立人の数、和解に至るまでの期間にもよりますが、最終決定まで全面的に争った場合、申立人側であっても数億円規模の費用がかかる可能性があります。したがって、申立てに踏み切る前に、この初期投資コストを回収し、さらに企業に利益をもたらすだけのロイヤルティ収入や市場シェアの回復が見込めるかどうか、冷静な費用対効果(ROI)のシミュレーションが不可欠です。
第二に、国内産業要件の証明に伴うリスクです。Lashify事件の判決によって、販売やマーケティング費用なども経済的要件の判断対象となり得ることが示され、制度利用の可能性は広がりました。しかし、要件が消滅したわけではありません。
申立人は依然として、自社またはライセンシーの国内産業製品が主張する特許を実施していること(技術的要件)と、米国内の労働力や資本の投下が、単なる名目的なものではなく、ビジネスの規模に照らして「重要」または「実質的」と評価できることを、詳細な財務データや雇用記録などを用いて立証しなければなりません。
この立証過程では、自社の機密性の高いビジネスデータを保護命令の下で開示する必要が生じる場合があります。また、立証に失敗すれば、相手方の特許侵害が認められる可能性があっても、ITCの救済を得られないことがあります。
第三にして最大のリスクが、相手方からの「特許無効化」の反撃です。市場からの排除という重大な脅威に直面した相手方は、防衛策として特許そのものの有効性を争います。彼らは先行技術文献を調査し、ITCの手続き内で特許の無効を主張します。それに加えて、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(PTAB)に対して「当事者系レビュー(IPR:Inter Partes Review)」を申し立てる場合があります。
連邦地方裁判所での訴訟では、IPRが開始された場合、裁判所が特許庁の判断が出るまで訴訟手続きを一時停止(ステイ)することがあります。ただし、ステイが認められるかどうかは、事件の進行状況や争点の重なりなどを踏まえて裁判所が判断します。
一方、早期の調査完了を求められるITCは、IPRが進行中であっても調査を停止しないのが一般的です。これは申立人にとって、ITCでの侵害立証とPTABでの特許有効性の防衛という「二正面作戦」を同時に強いられる可能性があることを意味し、コストと労力はさらに増加します。
したがって、ITC戦略を採用する特許は、事前の無効資料調査(先行技術調査)を行い、クレーム解釈、明細書の記載、審査経過、権利帰属なども含めて、権利の安定性を十分に確認しておく必要があります。
最後に、ITC特有の「大統領審査(Presidential Review)」というプロセスも理解しておく必要があります。ITCが輸入排除命令や停止命令を発令した後、60日間の審査期間が設けられます。現在、この審査権限は米国通商代表部(USTR)に委任されており、政策上の理由に基づいてITCの決定が不承認とされる可能性があります。
不承認が行われることは歴史的に多くありませんが、対象製品が医療、通信、重要インフラなどに関わり、社会的な影響が大きい場合にはリスクとして考慮する必要があります。また、この60日間の審査期間中、相手方はITCが設定した供託金(ボンド)を支払うことで、暫定的に輸入を継続できる場合があります。ボンドの金額は事件ごとに定められ、輸入価額の100%に設定された事例もあります。
自社特許群の構築による多角的な知財収益化
これらのリスクを軽減し、ITC戦略を単発の戦術で終わらせず、持続可能で強固な知財収益化の柱とするためには、単一の特許に依存するアプローチから脱却する必要があります。競合他社の模倣を防ぎ、ライセンス交渉で優位に立つためには、回避が困難な複数の特許からなる「特許ポートフォリオ(特許網)」を戦略的に構築しておくことが重要です。
例えば、製品のコアとなる基本構造に関する特許だけでなく、その製品を効率的に生産するための製造方法に関する特許、ユーザーインターフェースや制御アルゴリズムに関するソフトウェア特許、さらには製品の外観デザインを保護する米国デザイン特許などを多角的に組み合わせます。
このような重層的な特許網を構築することで、相手方が一つの特許を無効化したり、特定の機能を回避設計(デザイン・アラウンド)したりした場合でも、他の特許によって事業を保護できる可能性が高まります。その結果、ライセンス契約が現実的な解決策となる場合があります。
ただし、特許の数を増やすだけで交渉力が高まるわけではありません。各特許について、被疑侵害製品との対応関係、有効性、残存期間、証拠の入手可能性、回避設計の難易度などを評価し、実際に利用できる権利を選別する必要があります。
また、実務における戦略として、ITCへのSection 337調査の申立てと同時に、連邦地方裁判所への特許侵害訴訟も並行して提起する「デュアル・トラック戦略」が用いられることがあります。この戦略の目的は、ITCで「将来にわたる米国市場への輸入差止め」を求めながら、同時に連邦地方裁判所で「過去から現在に至るまでの侵害に対する金銭的損害賠償」を請求することにあります。
被申立人がITC調査と同じ争点を扱う連邦地方裁判所訴訟の当事者である場合、所定の期間内に申立てを行うことで、地方裁判所の手続きがITC調査の終了まで一時停止されることがあります。
しかし、一時停止されているとしても、ITCで排除命令が発令される可能性と、ITC調査終了後に地方裁判所で損害賠償請求への対応を続けなければならない可能性が、相手方への大きなプレッシャーとなります。
ただし、ITCにおける特許の有効性や侵害に関する判断が、そのまま連邦地方裁判所を法的に拘束するわけではありません。ITCで侵害が認定されたからといって、地方裁判所で損害賠償が自動的に認められるわけではなく、地方裁判所では改めて争われる可能性があります。
それでも、ITC調査を通じて技術的な争点や証拠が整理され、排除命令のリスクが現実化することは、相手方の和解判断に大きな影響を与えます。このデュアル・トラック戦略による複合的なリスクが、和解交渉における特許権者の立場を強め、ライセンス契約を引き出す原動力となる場合があります。
自社特許を収益につなげる次の一手
特許権の真の価値は、単に特許証という紙面上の権利として金庫に保管しているだけでは実現しません。グローバル市場において競合他社の模倣行為に直面した際、自社の技術と市場シェアを守る姿勢を、具体的な行動を通じて示すことが必要です。
損害賠償という過去の清算だけにとらわれるのではなく、米国市場へのアクセスそのものを交渉のテーブルに乗せるITC戦略は、相手の将来にわたる事業継続に影響を与えることで、技術ライセンス契約を引き出すための強力な手段となり得ます。
2025年のLashify事件の判決により、製造拠点を米国内に持たない場合でも、販売、マーケティング、倉庫保管、品質管理、流通などに関する米国内の投資が、国内産業要件の判断対象になり得ることが明確になりました。これにより、多くの革新的な企業にとって、ITCの活用は理論上の話ではなく、現実的に検討できるビジネスツールとなっています。
一方で、これらの支出が存在するだけで国内産業要件を満たすわけではありません。自社技術の強みと相手製品の構造を正確に把握し、精緻なクレームチャートによって侵害の根拠を示すとともに、国内産業要件、特許の有効性、輸入の証拠、費用対効果を事前に検証する必要があります。
また、NDAの締結から、ロイヤルティ設定、ライセンス範囲の定義、監査条項の導入に至るまでを戦略的に設計することで、市場を荒らされる危機を、持続可能な収益機会へと変えられる可能性があります。
しかしながら、これらの高度で複雑な知財戦略を自社単独の法務・知財部門のみで立案し、高額なコストリスクを管理しながら最後まで実行するには、相当なリソースと専門的なノウハウが必要です。実際にITCへの申立てを検討する場合には、米国のSection 337調査に経験を持つ弁護士や技術専門家への相談が不可欠です。
自社の眠っている特許ポートフォリオがどのような収益化の可能性を秘めているのか、また、ライセンス候補となる企業をどのように探すべきか悩まれている場合は、知財マッチングプラットフォーム「PatentRevenue」にご登録ください。自社の知財資産を単なる維持費のかかるコストセンターから、企業の成長を牽引するプロフィットセンターへと変えるための次の一手を検討してみてはいかがでしょうか。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- U.S. International Trade Commission, About Section 337 https://www.usitc.gov/about_section_337.htm
- U.S. International Trade Commission, Understanding Investigations of Intellectual Property Infringement and Other Unfair Practices in Import Trade https://www.usitc.gov/press_room/us337.htm
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- 19 U.S.C. §1337, Unfair Practices in Import Trade https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title19-section1337&num=0&edition=prelim
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