差止めで交渉レバレッジを高める方法:日本の自動差止めと米国のeBayテスト

株式会社IPリッチのライセンス担当です。本日は、特許権を中心とした知的財産権の戦略的活用において、極めて重要な要素となる「差止請求」について解説いたします。特許侵害が発生した際、相手方の製造や販売事業そのものを停止させる「差止め」は、ライセンス交渉や和解交渉において最大のレバレッジ(てこ)となります。しかし、この差止めの認められやすさは、国や地域によって法制度が大きく異なります。本記事では、特許侵害が認定されれば原則として自動的に差止めが認められる日本の強力な制度と、2006年の米国連邦最高裁による「eBay判決」以降、特に非製造企業にとって恒久的な差止めのハードルが著しく高くなった米国の制度を徹底的に比較します。そして、この日米の法制度のギャップを巧みに利用し、日本で差止めの強い圧力をかけながら米国等で有利なライセンス交渉や高額賠償を引き出す「ハイブリッド戦略」の具体的手法とその効果について、法務・知財戦略の観点から詳細に検討・解説します。
グローバル市場における企業間競争が激化する現代において、「知財の収益化」は企業の持続的な成長と競争力強化のための最重要課題の一つとして位置づけられています。研究開発への多大な投資を回収し、さらなるイノベーションの原資を生み出すためには、取得した特許権を単に自社製品の防衛に用いるだけでなく、ライセンスアウトや権利行使を通じた直接的なキャッシュフローの創出へと結びつける視点が不可欠です。このような知財の収益化を成功に導くためには、いかにして交渉相手に対して優位な立場を構築できるかが鍵となります。その最も強力な武器となるのが「差止め」の脅威ですが、これを効果的に活用するためには各国の法域ごとの特性を熟知しておく必要があります。なお、自社の特許権を積極的に活用して収益化を目指す方や、他社の有望な技術の導入・ライセンスインを検討されている方は、特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」で特許権の売買又はライセンスの希望者に無料で登録することをお勧めいたします。適切なプラットフォームの活用と高度な法的戦略の掛け合わせこそが、知財価値の最大化を実現する最短ルートとなります。
\ その特許、放置したままではもったいない。特許番号と連絡先だけ 最短60秒! /
日本における特許侵害の強力な差止請求権とその運用実務
日本の特許制度における最大の特徴の一つは、特許権者に対して極めて強力な「差止請求権」が法律上明確に保障されている点にあります。日本の特許法第100条第1項は、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を規定しています。この規定に基づき、日本では事前の救済手段として差止請求が極めて広く認められています。
この日本の差止請求権は、民法上の不法行為(民法第709条)に基づく事後的な救済措置である損害賠償請求とは明確に異なる法的性質を持っています。不法行為に基づく損害賠償請求が、侵害者の「故意又は過失」という主観的要件の存在を必要とするのに対し、特許法第100条に基づく差止請求権(およびそれに伴う除却請求権)は、特許権という排他的な財産権から直接派生する「物権的請求権」として解釈されています。したがって、特許権者及び専用実施権者は、侵害者の特許権侵害に対する故意・過失の有無を一切問うことなく、客観的な権利侵害の事実のみをもって権利行使が可能であるとされています。
実務上、日本の裁判所において特許権の有効性が確認され、かつ被告製品が特許の技術的範囲に属する、すなわち侵害が認定されると判断された場合、原則として例外なく差止請求が認容されます。たとえその特許発明が、複雑で巨大なシステム製品の中のほんの些細な一部分にのみ寄与している場合であっても、製品全体の製造や販売を差し止める強力な命令が下されるのが日本の裁判実務の基本原則です。
近年、ビジネスの複雑化やイノベーションのオープン化に伴い、価値の低い特許や製品の一部にしか該当しない特許によって事業全体が止められてしまうことの弊害を指摘する声も高まっています。これに対し、学説上は肯定説や否定説のほか、実質的な利益状況を考慮した上で権利濫用法理などを適用し、差止請求権を制限する余地を探る「中間説」なども議論されてきました。過去の最高裁判決においても、結論を導く過程で踏み込んだ利益衡量を行った事例は存在します。しかしながら、中間説に対しては、特許権侵害訴訟の入口において特許権者と専用実施権者の内部的な関係をまず解明しなければならないことへの合理性の疑問や、条文上の根拠が全く存在しないといった強い批判が存在します。
実際の日本の裁判実務においては、一般原則である権利濫用法理を適用して差止請求権を単独で制限することは極めて困難であると考えられています。差止請求が客観的に相当ではないと考えられる事案において、特許権を無効とするか、あるいは権利範囲を極めて狭く解釈することで問題を回避する手法がとられることはありますが、権利侵害自体を明確に認めた上で権利濫用として差止めのみを否定し、損害賠償だけを認めるという運用を行った事例は見当たりません。このような柔軟な運用は、現行の日本の制度下では硬直的であり、実施するためには立法措置による特例が必要であるとされています。損害賠償を原則とし、例外的な場合にのみ差止めを認める制度への移行は、特許権の保護のベースラインを著しく下げる懸念があるため、日本においては「侵害認定=自動的な差止め」という強力な原則が現在も維持されています。
日本の税関における迅速な輸入差止手続と専門委員制度の深掘り
日本の特許権者が行使できる差止めの圧力は、裁判所を通じた司法手続き、すなわち民事訴訟にとどまりません。行政手続きとして、関税法に基づく税関での強力な水際対策である「輸入差止申立て制度」が整備されていることも、日本の特許権の実効性を飛躍的に高める要因となっています。
海外で製造された侵害物品が日本国内に輸入されている場合、あるいは将来的に輸入されることが見込まれる場合、特許権者は税関に対して輸入の差止申立てを行うことが可能です。この手続きを開始するためには、権利の内容に根拠があることを示す必要があり、特許権や意匠権のみならず商標権の場合でも登録原簿の謄本や公報の写しが求められます。なお、出願中の段階ではこの申立てを行うことはできません。日本の税関は知的財産権侵害品の流入を厳格に取り締まっており、この手続きにおいて特許権が侵害されているとの疑いが強いと判断されれば、当該製品は水際で保留され、日本国内への供給網が完全に、かつ強制的に遮断されることになります。
この税関における輸入差止手続を迅速かつ高い専門性をもって運用するために導入されているのが、「専門委員」の意見聴取制度です。税関は、当事者から提出された鑑定書や主張書面について、特許に関する高度な実務経験と知見を持つ専門委員(主に弁理士などの専門家)に意見を照会します。
専門委員が選出され、内諾の意思表示を行うと、およそ一週間程度で委嘱状とともに当該事案の膨大な資料が郵送され、同時に電子ファイル版も提供されます。専門委員はまず、申立人が提出した輸入差止申立書と、差止対象物品が特許権を侵害することを示す「鑑定書」の内容を吟味することから検討を開始します。この際、結論に偏った心証を最初から持たないよう、極めて中立的な立場を意識しながら、鑑定書の難解な部分を抽出し、その意味内容を正確に理解することに注力します。書類を最後まで読み終えた後、一定の冷却期間(中一日以上)を置き、自らの侵害判断の実務経験に照らして鑑定書の妥当性を検証し、仮の心証を形成します。続いて、利害関係者側が提出した意見書についても同様のプロセスで慎重に検討を行います。
税関側は、専門委員に意見を照会するまでに当該事案の十分な事前検討を行っており、その検討結果に基づく具体的な「照会事項」を専門委員に提示します。その後、意見聴取の場などを経て、税関は必要に応じて「補足意見の求め」の書面を作成し、両当事者に発送します。当事者から提出された「補足意見書」は専門委員に転送されるとともに、相手方当事者にも共有され、さらなる反論の機会が与えられます。最終的に専門委員が作成した意見書は税関を介して両当事者に発送され、税関はこれらの意見書に対する当事者の意見や、専門委員とのさらなる協議内容を総合的に検討し、輸入差止申立ての受理・不受理を正式に決定します。
この税関手続きは、通常の民事訴訟と比較して極めて迅速に進行する傾向があります。海外の製造業者や被疑侵害者にとって、世界第3位の経済大国である日本市場へのアクセスが突如として絶たれることは、企業の存活に関わる重大なリスクを意味します。この行政機関による即効性のある物理的遮断は、グローバルな特許交渉において、後に述べる米国での訴訟と組み合わせることで、計り知れないほど強力なレバレッジを生み出す源泉となるのです。
米国特許訴訟における歴史的転換点となったeBay連邦最高裁判決
日本の特許制度が原則的な自動差止めという強力な権利行使の枠組みを維持しているのに対し、世界の知財紛争の中心地であり最大の市場である米国の制度は、2006年を境にして全く異なる方向へと劇的に舵を切りました。かつて、米国の特許訴訟においても、特許権者が勝訴した場合には差止命令が下されるのが当然の帰結であると広く認識されていました。
具体的には、米国の特許控訴案件を専門に扱う連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は長年にわたり、例外的な事情が存在しない限り、特許侵害が認定された場合には裁判所は原則として恒久的な差止命令(Permanent Injunction)を発行するという「一般的なルール(General Rule)」を採用し、これを強力に推し進めてきました。このCAFCのプロパテントな立場は、特許権を不動産などの伝統的な財産権と同様に扱い、財産権の核心たる「他者を排除する権利」を十全に保護するためには自動的な差止めが不可欠であるという強固な理念に基づいていました。
しかし、この強力な特許保護重視の潮流は、2006年の米国連邦最高裁判所による歴史的な画期的判決、「eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C.」によって根底から覆されることになります。
この訴訟の背景には、特許権の行使を巡るビジネス環境とプレイヤーの急激な変化がありました。原告であるMercExchange社は、オンラインオークション技術に関する特許(米国特許第5,845,265号など)を保有していました。この特許は、当時の電子商取引の巨人であったeBay社のビジネスの30%以上を占めるとされる「Buy it Now(即決落札)」機能を広範にカバーしていると主張され、MercExchange社はeBay社およびHalf.com社に対して特許侵害訴訟を提起しました。
第一審の陪審員はMercExchange社の主張を大筋で認め、eBay社による特許侵害の事実と特許自体の有効性を認定し、MercExchange社に有利な評決を下しました。しかし、第一審の連邦地方裁判所の判事は、陪審の評決にもかかわらず、恒久的な差止命令の発行を明確に拒否しました。その後、控訴審においてCAFCは前述の「一般的なルール」を機械的に適用して地裁の決定を覆し、特許侵害に対する恒久的な差止命令を発行すべきであるとの判断を下しました。
ここで特筆すべきは、原告であるMercExchange社の事業実態です。法廷闘争が長期化する中で、同社はかつて40名以上いた従業員をわずか3名にまで大幅に削減しており、自ら特許技術を用いた製品の製造やサービスの提供を実質的に行っていませんでした。同社は世間から、いわゆる「パテントトロール」として非難の的となっていました。パテントトロールとは、自らは保有特許の製品化などを一切行わず、発明を特許申請したり他社から買い集めたりして多数の特許権を保有し、他社がその特許を使用しているとみられる市場の拡大を見計らってライセンス交渉を仕掛け、応じない場合には訴訟を起こして巨額の和解金やライセンス料を獲得しようとする企業や個人の総称です。米国では1980年代から既にジェローム・レメルソン氏などの有名なトロールが登場しており、日本の大手メーカーも多額の和解金を支払ってきた苦い歴史があります。
CAFCの判決を不服としたeBay社は直ちに連邦最高裁判所に上告しました。そして2006年、最高裁は全会一致の意見をもって、CAFCが採用していた「例外的な事情がない限り自動的に差止めを認める一般的なルール」を真っ向から否定し、判決を破棄して地方裁判所に差し戻すという歴史的判断を下しました。
最高裁は、米国特許法第283条の文言に深く着目しました。同条は、特許権の侵害を防ぐために裁判所が「衡平法の原則に従って(in accordance with the principles of equity)」差止命令を発行することが「できる(may)」と規定しており、「しなければならない(shall)」とは規定していません。最高裁は、著作権法における差止めの扱い(例えばNew York Times Co. v. Tasini事件などの判例)と同様に、特許権の侵害においても伝統的な衡平法上の考慮事項を無視して機械的かつ自動的に差止めを認めるべきではないと論じました。
そして、連邦裁判所が勝訴した原告に対して恒久的な差止命令による救済を与えるかどうかを検討する際には、長きにわたる衡平法上の慣行に厳密に合致する「4要件(4-factor test)」を原告自身が立証しなければならないと判示しました。この4要件とは、以下の4つの要素を総合的に勘案する厳格なテストです。
第一に、原告が特許侵害行為によって「回復不能な損害(Irreparable injury)」を実際に被ったことを証明しなければなりません。第二に、金銭的損害賠償などの「法律上の救済手段(Remedies available at law)」では、その被った損害を適切に補填し賠償するのに全く不十分であることを示す必要があります。第三に、原告(特許権者)と被告(侵害者)の双方の間に生じる「困難性の衡量(Balance of hardships)」を慎重に考慮した場合に、差止めという衡平法上の強権的な救済を発動することが真に妥当であると認められなければなりません。そして第四に、恒久的な差止命令を発行すること自体が「公共の利益(Public interest)」を著しく害する結果を招かないことが要求されます。
最高裁は、この厳格なテストを導入する一方で、大学の研究者や自力で事業を立ち上げた個人の発明家のように、自ら市場に製品を投入するための資金調達を行うよりも、他社へのライセンス供与を好む特許権者であっても、この4要件を満たすことができれば差止めを得ることは可能であり、彼らを一律かつカテゴリー的に排除すべきではないとの重要な補足を行いました。しかしながら、差止めが決して自動的な権利の帰結ではないことを明確に宣言したこの判決は、米国の特許訴訟実務を根底から変容させることとなりました。
eBay判決以降の米国実務と非製造企業への厳格な適用
このeBay判決は、その後の米国の特許ライセンス交渉および特許訴訟の実務に地殻変動とも言える甚大な影響をもたらしました。なぜなら、特許権者はもはや、侵害が認定されさえすれば自動的に相手方のビジネスを完全に停止させることができるという強力な脅威(自動的差止めのレバレッジ)を交渉材料として振りかざすことが法的に不可能になったからです。
この劇的な影響は、実証研究によっても極めて明確に裏付けられています。Iowa Law Reviewに掲載された、eBay判決後の7.5年間にわたる連邦地方裁判所での恒久的な差止命令に関する決定を詳細に調査した実証研究(Empirical study)によれば、eBay判決は米国の特許救済において事実上「二極化された体制(Bifurcated regime)」を作り出したと結論付けられています。
具体的には、特許権者が侵害者と直接的に市場で競合している事業会社(Operating companies)である場合、侵害を立証できれば依然として圧倒的多数のケースで恒久的な差止命令を獲得していることが判明しました。競合他社による特許技術の無断使用は、自社の正当な市場シェアの直接的な喪失や、長期的に築き上げてきたブランド価値の毀損という、まさに「金銭賠償だけでは到底回復不能な損害」を構成しやすいと裁判所に判断されるためです。
対照的に、市場で直接競合しない特許権者や、製品を自ら製造していない非実施主体(NPE:Non-Practicing Entities)、すなわちパテントトロールと目される事業体に対しては、一般的に差止請求が棄却される傾向が顕著になりました。なぜなら、自ら事業を行っていないNPEにとって、特許侵害によって生じる損害の本質は「本来であれば得られるはずであったライセンス料の逸失」に過ぎず、これは事後的な金銭的損害賠償によって十分に回復可能である(すなわち、4要件の第二要件である「法律上の救済手段の不十分さ」を満たさない)と裁判所に厳格に判断されるためです。
さらに、特許発明が対象製品のほんの小さな構成要素(Small component)に過ぎない場合、差止めの脅威が単にライセンス交渉における過度なレバレッジ(不当な圧力)として悪用されていると見なされるケースも急増しました。例えば、小規模なソフトウェア企業であるz4社が巨大IT企業であるMicrosoft社を訴えた著名な事件において、東テキサス連邦地裁のDavis判事は、陪審員がMicrosoft社による特許の故意侵害と特許の有効性を明確に認定したにもかかわらず、z4社からの恒久的な差止命令の申し立てを全面的に拒否しました。
この裁判においてDavis判事は、陪審員による侵害認定があれば回復不能な損害が推定されるという「反証可能な推定(Rebuttable presumption)」の主張を、eBay判決の趣旨に反するとして明確に退けました。さらに、公共の利益(第四要件)の観点から、MicrosoftのWindowsオペレーティングシステムやOfficeアプリケーションという、世界中の膨大な数のコンピュータで稼働するインフラストラクチャ製品の供給を止めるための製品再設計は、コンピュータメーカーや小売業者、そして無数の一般ユーザーに対して壊滅的かつ不当な損害を与えると判断しました。加えて、Microsoftの製品アクティベーションサーバーを停止させることは、結果として海賊版ソフトウェアの蔓延を招くことになり、公共の利益を著しく害するというMicrosoft側の主張を全面的に支持したのです。
このように、eBay判決以降の米国においては、特許権が強力な排他権から、実質的に「事後的な金銭的補償を求める権利」へと変質した側面があり、特にNPEにとっては差止めをテコにした強硬なライセンス交渉が極めて困難な環境へと移行しました。
日米の制度的非対称性を突く特許ハイブリッド戦略の実践と交渉レバレッジ
これまで詳述してきた通り、日本と米国の特許制度は、権利侵害に対する究極の救済措置、とりわけ「差止め」の認容基準において極めて顕著な非対称性を持っています。日本では、米国のような複雑な衡平法の衡量テストを経ることなく、特許法第100条に基づいて「侵害認定=自動的差止め」という強力な原則が貫かれており、さらに税関における迅速な水際対策がそれを強力に補完しています。一方米国では、eBay判決以降、特に非製造企業やライセンス収入を主目的とする特許権者にとって、対象製品の販売を強制的に差し止めることは極めて困難となりました。
一方で、「損害賠償額の算定」という全く別の観点から見ると、日米間で逆方向の非対称性が明確に存在します。米国では、広範かつ徹底的な証拠開示手続き(ディスカバリー)を通じて被疑侵害者の内部資料が根こそぎ調査され、陪審員による極めて高額な損害算定が行われる傾向が強くあります。さらに、故意侵害が認定されれば賠償額が最大3倍にまで跳ね上がる(Treble damages)制度も存在するため、特許権者は天文学的な賠償金を獲得するチャンスに恵まれています。対照的に日本においては、進歩性の審査基準が厳格であることから特許が無効化されやすく、裁判においても無効の抗弁が広く認められる傾向にあります。また損害賠償額の算出においても、対象製品全体が稼ぎ出す利益に対する当該特許技術の「寄与度」が厳格に勘案されるため、米国ほどの莫大な賠償額には至りにくいのが実情です。
この日米の法制度の根源的な非対称性を逆手に取り、グローバルな特許交渉において最大限のレバレッジを構築する高度な知財戦術が「特許ハイブリッド戦略」です。
多国籍企業を相手に特許の権利行使やライセンス交渉を行う場合、このハイブリッド戦略は極めて巧妙なプロセスで展開されます。第一段階として、特許権者はまず「日本」において特許権侵害訴訟を提起し、同時に税関における輸入差止申立てを実行に移します。前述の通り、日本は世界有数の巨大な消費市場であり、多くの多国籍企業にとって日本での製品販売停止はグローバルな売上高と企業価値に甚大な打撃を与えます。日本の裁判所において侵害が認定されれば、特許法第100条に基づき、例外なく日本国内での製造・販売が差し止められます。また、税関の専門委員による迅速な審理を経て輸入差止めが実行されれば、被告企業のサプライチェーンは即座に麻痺状態に陥ります。
この日本における法的アクションは、米国におけるeBayテストの「回復不能な損害」を人為的に、かつ強制的に被告企業のバランスシート上に創出する効果を持ちます。米国で差止めが取れないNPEであっても、日本で訴訟を起こすことで、対象企業に対して「巨大市場における事業の即時停止」という最も恐ろしい物理的脅威を合法的に突きつけることができるのです。
第二段階として、特許権者は日本での訴訟と並行して、あるいは連続して、「米国」の連邦地方裁判所において同一または関連する特許群に基づく特許侵害訴訟を提起します。ここでの主目的はもはや困難な差止めの獲得ではなく、ディスカバリーの要求による膨大な防衛コストの強要と、陪審員による巨額の損害賠償額(および故意侵害による3倍賠償)の獲得に絞られます。
この緻密に計算された両面作戦を受けた被告企業(多国籍企業)は、経営上絶望的なジレンマに直面することになります。米国国内の訴訟だけであれば、eBay判決の恩恵を受けて自社製品の販売停止(差止め)は回避できる可能性が高く、最悪のケースでも「事後的な金銭の支払い(コスト)」として処理できると高を括ることができるかもしれません。しかし、日本での訴訟と税関手続きが同時進行している以上、日本市場からの完全排除という即時的かつ致命的な事業停止リスクが刻一刻と迫ってきます。
日本の強力な差止めリスクを回避するためには、被告企業は特許権者と早期に和解し、グローバルなライセンス契約を結ぶしか生き残る道がありません。そして、特許権者が和解交渉のテーブルで強気に提示する「グローバルライセンス料」の莫大な金額の正当な根拠となるのが、並行して進められている米国訴訟で請求している天文学的な損害賠償額なのです。
すなわち、日本の特許法に基づく「確実かつ強力な差止め」が、被告を強制的に交渉テーブルに引きずり出すための圧倒的な『レバレッジ(てこ)』として機能し、米国の特許訴訟における「高額な懲罰的損害賠償の可能性」が、和解金の金額を極限まで吊り上げるための巨大な『プライスタグ(値札)』として機能するのです。単一の国の法律だけを見ていては到底達成不可能な圧倒的な交渉的優位を、各国の法域の特性(日本の自動差止め、米国の高額賠償)を戦略的に組み合わせることで人為的かつ合法的に創出する手法こそが、現代の高度なグローバル知財紛争におけるハイブリッド戦略の真髄と言えます。
本記事で詳細に解説したように、特許権の持つポテンシャルは、どの国の、どのような法域で、どのように行使するかによって劇的に変化します。特許法第100条に根ざした日本の原則的な差止請求権と、税関における迅速な水際対策は、eBay判決以降の米国において差止めが著しく困難となった現代において、特許権者にとって極めて価値の高い戦略的カードとなっています。
知財の収益化を単なるスローガンで終わらせず、実際のキャッシュフローや有利なライセンス契約へと具現化するためには、自社の特許ポートフォリオをグローバルな視点で俯瞰し、制度的非対称性を巧みに突く戦略的思考が不可欠です。特許の価値は単なる技術的な優位性だけで決まるのではなく、「その権利を行使された時に相手方がどれほどの事業的痛みを伴うか」という法的レバレッジの強さに大きく依存します。グローバル企業との交渉において不利な立場に立たされないためにも、また、自社の貴重な研究開発の成果を正当な対価へと変換するためにも、各国の差止制度の違いを深く理解し、それらを統合した高度な知財ハイブリッド戦略の構築を推進していくことが、今後の企業知財部門に求められる最重要のミッションです。
(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- Duane Morris – The Supreme Court’s eBay Decision https://www.duanemorris.com/articles/article2252.html
- Iowa Law Review – Empirical Study of Permanent Injunctions https://ilr.law.uiowa.edu/sites/ilr.law.uiowa.edu/files/2023-02/ILR-101-5-Seaman.pdf
- Oyez – eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. https://www.oyez.org/cases/2005/05-130
- Wikipedia – EBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. https://en.wikipedia.org/wiki/EBay_Inc._v._MercExchange,_L.L.C.
- Justia – eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. (Syllabus) https://supreme.justia.com/cases/federal/us/547/388/
- 弁理士法人HARAKENZO – 特許権侵害の民世紀救済 https://www.harakenzo.com/service/pss-procedure-trouble/
- 日本弁理士会 – 侵害差止請求権と利益衡量 https://www.jpaa.or.jp/old/activity/publication/patent/patent-library/patent-lib/200709/jpaapatent200709_017-024.pdf
- Journal of Technology Law & Policy – eBay v. MercExchange https://scholarship.law.ufl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1083&context=jtlp
- 弁理士法人オンダ国際特許事務所 – 税関における輸入の差止申立 https://www.ondatechno.com/jp/zeikan/
- 青山特許事務所 – 米国知財訴訟における最近の動向とパテントトロール https://www.aoyamapat.gr.jp/news/428
- 日本弁理士会 – 税関輸入差止申立てにおける専門委員の実務(1) https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4493
- 日本弁理士会 – 税関輸入差止申立てにおける専門委員の実務(2) https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4729
- Justia – eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C. (Opinion) https://supreme.justia.com/cases/federal/us/547/388/

