米国Track One審査は本当に使うべきか?早期権利化の費用対効果と知財戦略

株式会社IPリッチのライセンス担当です。
米国市場でのビジネス展開や資金調達を見据える企業様から、「米国特許を早く取得したいが、高額な早期審査費用をかけるべきか迷っている」というご相談を非常によくいただきます。米国特許商標庁(USPTO)が提供するTrack One(優先審査)プログラムは、通常であれば長期間を要する特許審査について、優先審査の付与から12か月以内の最終処分を目標とする強力な制度です。ただし、ここでいう最終処分には特許査定だけでなく最終拒絶なども含まれ、特許取得そのものが12か月以内に保証される制度ではありません。また、特許を早く取ることが常にビジネス上の正解とは限りません。本記事では、米国Track One審査を本当に使うべき場面について、資金調達、競合他社の牽制、ライセンス交渉、製品リリース前の権利化といった観点から整理し、費用対効果を最大化するための実務上の判断基準を詳しく解説します。
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米国Track One審査はビジネス直結の場面でこそ投資すべき
米国特許におけるTrack Oneプログラムは、すべての特許出願において無条件に利用すべきものではありません。結論から申し上げますと、Track Oneは「特許の早期成立や審査結果の早期確定が、直接的なビジネス価値に直結する場面」に限定して投資すべき戦略的ツールです。
USPTOの2026年7月のデータでは、通常審査における出願から最初のOffice Actionまでの平均期間は20.8か月、RCEを除くTraditional Total Pendencyは29.3か月となっています。これに対し、Track Oneでは、USPTOが優先審査の付与から12か月以内に最終処分を行うことを目標としています。FY2026の6月までの実績では、優先審査の付与から最初のOffice Actionまで平均1.7か月、最終処分まで平均5.0か月です。しかし、この「時間の短縮」には、追加の庁費用の支払いや、短期間で審査対応の意思決定を行う必要があることなど、実務上のトレードオフが伴います。また、クレーム数が制度上の上限を超えるような補正や期間延長等を行えば、優先審査のステータスが終了します。
たとえば、まだ自社製品の仕様が完全に固まっておらず、市場の反応や競合他社の技術動向を見ながら、数年かけて特許の権利範囲を調整していきたい開発初期のフェーズでは、審査が早く進むことが必ずしも有利とは限りません。一方で、すでに主力製品の米国リリースが数ヶ月後に迫っている場合や、米国のベンチャーキャピタルから大型の資金調達を行う際のデューデリジェンスにおいて、登録済みの米国特許を確保することに事業上の意義がある場合には、Track Oneの費用対効果が高くなる可能性があります。つまり、自社の事業フェーズと知財戦略の同期が取れているかを冷静に見極めることが、Track Oneを利用するか否かの最大の判断基準となります。
米国特許における早期審査制度の基本知識
米国における特許の早期権利化手段として、実務上最も強力な選択肢の一つがPrioritized Patent Examination Program(通称:Track One)です。この制度は、所定の追加費用を支払うことで、Accelerated Examinationで求められるような事前の先行技術調査報告を提出することなく、出願審査を優先して受けられるプログラムです。
通常の米国特許出願では、USPTOの2026年7月のデータで、審査官から最初の審査結果(First Office Action)が出されるまで平均20.8か月となっています。これに対し、Track Oneでは、FY2026の6月までの実績で、優先審査の付与から最初のOffice Actionまで平均1.7か月となっています。USPTOの公式な目標は、Track Oneの付与から12か月以内に最終的な処分を行うことであり、通常審査と比較すると大幅な時間短縮が期待できます。ただし、最終処分にはNotice of AllowanceだけでなくFinal Office Actionなども含まれるため、12か月以内の特許取得を保証するものではありません。
また、米国特許の早期審査手段としては、Track Oneの他に「特許審査ハイウェイ(PPH)」が存在します。PPHでは、参加する他の特許庁や一定のPCTワークプロダクトで特許可能・許容可能と判断されたクレームがある場合に、対応する米国出願の審査を早めることができます。PPHの大きなメリットは、USPTOに対するPPH申請自体に追加料金がかからない点です。しかし、利用するためには対応するクレームについて先行する特許庁等で特許可能性の判断を得るなどの要件があり、その審査結果を待つ必要があります。これに対し、Track Oneは他国での審査結果を前提とせず、新規の米国非仮出願を行う際に申請できるため、米国で早期に審査結果を得たい場合の直接的な選択肢となります。
Track One審査の制度要件と最新の費用体系
Track Oneを実務で活用するためには、制度の要件と、改定される可能性がある費用体系を正確に把握しておく必要があります。USPTOは特許費用を改定することがあるため、出願時には必ず最新のFee Scheduleを確認する必要があります。
現在の料金体系において、Track Oneの優先審査申請費用は、大規模エンティティ(Large Entity)で4,515ドルに設定されています。一方で、USPTOは要件を満たす企業や個人に費用割引制度を設けています。Small Entityに該当する場合、優先審査申請費用は1,806ドル、Micro Entityに該当する場合は903ドルです。
Small Entityには、一定の要件を満たす個人、関連会社を含め従業員数500人以下の小規模事業者、非営利組織などが含まれます。ただし、発明についてSmall Entityに該当しない者へ権利を譲渡・ライセンスしている場合や、その義務を負っている場合などには資格を満たさないことがあります。Micro Entityについても、Small Entityであることに加え、原則として過去の一定の特許出願件数、所得、権利の譲渡先等に関する追加要件を満たす必要があります。
ここで実務上注意すべきは、このTrack One費用は、通常の「基本出願料」「調査料」「審査料」に追加して支払う必要があるという点です。さらに、Track Oneの処理費用も必要になります。例えば、Small Entityであっても、通常の出願関連費用にTrack One費用と処理費用などが加わるため、USPTOに支払う庁費用だけでも相応の初期投資が必要となります。さらに、米国特許弁護士への対応費用も考慮し、十分な予算を確保する必要があります。
また、Track Oneを利用するためには、出願の構成に制限が設けられています。Track Oneの対象となる出願は、独立クレーム4つ以下、総クレーム数30以下で、多項従属クレームを含まないことが必要です。申請の審査時点でこれらの要件を満たしていない場合には、USPTOから原則として1か月の延長不可の是正期間が与えられ、クレームを要件内に修正しなければTrack Oneを利用できません。高額な費用を支払えばどのような複雑な出願でも優先審査されるわけではなく、制度上のクレーム数制限を踏まえた出願設計が必要です。
なお、制度の需要増加を受け、USPTOは2025年7月8日からTrack Oneの年間受理上限枠を従来の15,000件から20,000件へと拡大しています。
費用対効果を最大化するTrack Oneの実務的活用シーン
高額な費用を支払ってでもTrack Oneを利用すべき場面とは、具体的にどのようなビジネスシチュエーションでしょうか。ここでは、実務上とくに費用対効果が高くなりやすい具体的な活用シーンを解説します。
第一に挙げられるのが、ベンチャーキャピタル等からの大型資金調達を控えている場面です。スタートアップ企業がシリーズA以降の資金調達を行う際、投資家が事業のコア技術について、米国市場でどのような知的財産権を確保しているかをデューデリジェンスで確認することがあります。このとき、「特許出願中」と「特許登録済」では、権利の確定度が異なります。資金調達の時期に合わせて重要な特許の権利化を前倒しできれば、技術的な参入障壁や知財戦略を投資家に説明しやすくなる可能性があります。ただし、特許登録だけで企業価値や投資条件が決まるわけではないため、Track Oneへの投資効果は事業内容や特許の質も含めて判断する必要があります。
第二に、競合他社に対する牽制や、自社製品リリース前の権利確定です。自社の新製品を米国市場に投入する際、リリース後に競合が類似製品を市場に投入してくる可能性があります。製品リリース前後にTrack Oneを利用して特許を成立させておけば、登録されたクレームの範囲に競合製品が含まれる場合、警告や訴訟などの権利行使を検討できるようになります。ただし、特許が成立しただけで競合製品を自動的に市場から排除できるわけではなく、侵害の有無や特許の有効性、差止めの要件などを個別に検討する必要があります。
第三に、審査が長期化した際の継続審査請求(RCE)での利用です。Track Oneは新規出願時だけでなく、審査が終了した状態で適法なRCEを提出した場合にも利用することが可能です。PE-RCEの申請はRCE後の最初のOffice Actionが発送される前に行う必要があり、1つの出願についてRCEに関連して優先審査を受けられるのは1回です。なお、新規出願時にTrack Oneを利用していた出願でも、その後のRCEについて1回のPE-RCEを利用できます。長引く審査を再加速させ、早期に事業上の不確実性を減らしたい場合には有力な選択肢となります。
さらに高度な知財実務戦略として、Track Oneと通常の継続出願(Continuation Application)を組み合わせるハイブリッド手法があります。まず、Track Oneを利用して、製品に対応するなど事業上重要なクレームについて早期の権利化を目指します。そして、親出願が特許として成立する前に、同じ明細書を基礎とした継続出願を提出して審査中の出願を残します。これにより、先に一定の権利を確保しながら、元の明細書に十分に開示された範囲内で、継続出願を通じて別のクレームを追求するという、スピードと柔軟性の両立を図ることができます。
技術ライセンス契約における早期権利化の優位性
Track Oneによって早期に取得した米国特許は、知財収益化の要である「技術ライセンス契約」において交渉材料となります。特許が早期に成立することで、ライセンス交渉の実務プロセスがどのように変化し得るかを契約の観点から見ていきます。
NDA締結後の情報開示リスクを低減
ライセンス交渉の初期段階では、NDA(秘密保持契約)を締結した上で技術情報を開示することが多くあります。しかし、米国特許がまだ出願中であり権利範囲が未確定の状態において、自社のコア技術やノウハウを詳細に開示することには、相手方に技術を迂回(デザインアラウンド)されるリスクもあります。Track Oneによって交渉開始時点で特許が登録されていれば、NDAによる契約上の保護に加え、成立した特許権を前提に技術開示や条件交渉を進めることができます。ただし、登録特許の存在によって未開示のノウハウまで特許権で保護されるわけではないため、NDAや情報管理の重要性は変わりません。
クレームチャートによる交渉力の強化
技術開示が進んだ後、ライセンス交渉において重要な分析資料となるのがクレームチャートです。クレームチャートとは、自社の特許クレームの各構成要件と、相手方の製品や技術仕様を詳細に対比させた分析文書です。出願中のクレームについても分析を行うことはできますが、今後の審査によってクレームが補正される可能性があります。そのため、登録済みのクレームに基づくクレームチャートの方が、権利範囲を前提とした具体的な交渉を進めやすくなります。Track Oneによって権利範囲を早期に確定できれば、ライセンス対象となる技術との関係をより具体的に議論できる可能性があります。
独占ライセンスとロイヤルティの交渉
米国市場におけるライセンス契約では、相手企業に対して特定の事業領域や地域について独占ライセンス(exclusive license)を付与し、その対価として契約一時金(アップフロント)やロイヤルティを設定することがあります。登録済みの特許であれば、権利範囲が確定しているため、出願中の権利よりも契約対象を明確にしやすくなります。
もっとも、登録特許であれば必ず高額なアップフロントやロイヤルティを得られるわけではありません。特許の有効性、権利範囲、対象市場、代替技術の存在、相手企業の事業規模などによってライセンス価値は大きく異なります。Track Oneによる早期権利化は、こうしたライセンス交渉を早期に具体化するための一つの手段と位置づけるのが適切です。
監査条項の効果的な運用
製品の売上に基づくランニング・ロイヤルティを設定する技術ライセンス契約では、監査条項が重要になります。監査条項とは、ライセンシーから報告される売上高やロイヤルティ額が正確であるかを、ライセンサーが契約上定めた方法で確認できるようにするものです。早期に特許が成立し、市場が立ち上がる段階からライセンス契約を締結できれば、ロイヤルティの算定方法や報告義務、監査方法などを早期に設定できる可能性があります。
Track One審査を利用する際の実務上のリスクと注意点
Track Oneは非常に強力なツールですが、実務上、慎重に扱うべきリスクや注意点がいくつか存在します。これらを理解せずに利用すると、追加費用を支払ったにもかかわらず、期待した時間短縮効果を得られない可能性があります。
重要な注意点の一つが、期限管理です。USPTOからOffice Actionが通知された際、通常の審査では所定の条件のもとで応答期間の延長を利用できる場合があります。しかし、Track One適用中の出願において期間延長の申請を行うと、その出願の優先審査は終了します。高い費用を支払ったにもかかわらず、社内での意思決定の遅れや米国代理人とのコミュニケーション不足によって期間延長が必要になれば、その後は通常の審査トラックに戻り、Track Oneによる時間短縮効果を失います。また、このような優先審査の終了を理由としてTrack Oneの優先審査費用が返還されるわけではありません。
また、早期すぎる権利化による柔軟性の低下も検討する必要があります。イノベーションの初期段階では、市場のニーズや競合他社の製品仕様が変化します。Track Oneを利用して早期に特許を成立させ、その時点で同じ出願ファミリーについて継続中の出願を残していなければ、その後に親出願を基礎とする通常のContinuationを新たに提出することはできません。そのため、競合の動向を踏まえて別のクレームを追求する可能性がある場合には、親出願の成立前に継続出願を残すかどうかを検討する必要があります。
さらに、予算の圧迫も無視できません。スタートアップ企業や中小企業にとって、米国特許の出願費用自体が大きな負担です。限られた知財予算の中で、Track Oneの追加費用を一つの米国出願の早期審査に集中的に投じるべきか、それとも将来の継続出願費用や、欧州・中国など他国への出願費用に回してグローバルなポートフォリオを厚くすべきか、CFOや事業責任者を交えた全体的な経営判断が求められます。
自社特許を活用した知財収益化へのロードマップ
Track Oneを利用するかどうかの最終的な判断は、「その特許をどうやって収益に変えるか」という知財収益化のロードマップから逆算して行われるべきです。自社の技術がどれほど画期的であっても、それが当面は社内で保有することを主目的とした特許であり、早期の権利行使や事業利用を想定していないのであれば、高額なTrack Oneに投資してまで審査を急ぐ優先度は低い場合があります。
一方で、特許を事業のコアと位置づけ、他社への技術ライセンス、クロスライセンスによる自社製品の事業自由度の確保、あるいは資金調達やM&Aにおける企業価値の説明材料として活用することを明確に狙うのであれば、時間は重要な要素となります。特許が早期に成立すれば、ライセンス交渉や権利行使を開始できる時期を前倒しできる可能性があります。このような時間価値まで含めて判断することで、Track Oneの追加費用を投資として評価しやすくなります。
大きな市場を持ち、特許のライセンスや権利行使が事業戦略上重要になり得る米国では、早期に権利を取得し、ライセンスアウトやアライアンスの交渉材料として活用する知財戦略が有効な場合があります。受け身の出願ではなく、事業のタイミングに合わせて権利化を進めるための手段としてTrack Oneを位置づけることが重要です。
自社特許を収益につなげる次の一手
米国Track One審査は、特許審査のスピードを大幅に加速させる制度ですが、利用にあたっては費用対効果と事業フェーズへの適合性を慎重に見極める必要があります。資金調達、競合牽制、そして技術ライセンス契約の締結といった具体的なビジネスゴールが設定されている場合には、Track Oneへの投資価値が高まります。一方で、市場の動向を見極めながら権利範囲を柔軟に構築したいフェーズでは、通常審査や、利用要件を満たす場合にはPPHを選択し、資金を他の知財活動に回すことも有力な戦略です。
自社のビジネス目標を達成するために、どの特許を急ぎ、どの特許をじっくり育てるべきか。そして、取得した特許をどのようにライセンス収益へと転換していくか。こうした知財戦略の構築でお悩みの際は、事業戦略と知財戦略を直結させるための専門家の知見をご活用ください。
株式会社IPリッチが運営するプラットフォーム「PatentRevenue」では、保有特許の登録や、特許の売買・ライセンスの相手先探索・仲介などを通じて、具体的な知財収益化をサポートしています。特許の登録は無料ですので、自社の特許を具体的なビジネスの武器やライセンス収益につなげていくための次の一手として、ぜひ一度PatentRevenueをご活用ください。
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(この記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- USPTO’s Prioritized Patent Examination Program
https://www.uspto.gov/patents/initiatives/usptos-prioritized-patent-examination-program - Track One Data | Patents Dashboard | USPTO
https://www.uspto.gov/dashboard/patents/track-one.html - Pendency | Patents Dashboard | USPTO
https://www.uspto.gov/dashboard/patents/pendency.html - USPTO Fee Schedule
https://www.uspto.gov/learning-and-resources/fees-and-payment/uspto-fee-schedule - Save on fees with small and micro entity status | USPTO
https://www.uspto.gov/patents/apply/save-on-fees - MPEP §708.02(b) Prioritized Examination
https://www.uspto.gov/web/offices/pac/mpep/s708.html - Patent Prosecution Highway (PPH) – Fast Track Examination of Applications | USPTO
https://www.uspto.gov/patents/basics/international-protection/patent-prosecution-highway-pph-fast-track - 35 U.S.C. §283 Injunction
https://uscode.house.gov/view.xhtml?edition=prelim&req=granuleid%3AUSC-prelim-title35-section283 - eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C., 547 U.S. 388 (2006), U.S. Reports Volume 547
https://www.supremecourt.gov/opinions/boundvolumes/547bv.pdf

