AIプロダクトの特許侵害リスクを防ぐFTO調査|先行技術調査との違いや実務対応

AIプロダクトの特許侵害リスクを防ぐFTO調査(Freedom to Operate調査)の全体像を解説した図解。先行技術調査との違い、開発フェーズごとの調査プロセス、AIシステムの機能レイヤー別の調査対象、オールエレメントルール、ドワンゴ事件の影響、回避設計・ライセンス・無効化などの対応策をイラスト付きで整理している。

株式会社IPリッチのライセンス担当です。

AI(人工知能)技術を活用した新規事業やプロダクト開発において、技術的な実現可能性と同じくらい重要なのが、他社の特許権を侵害していないかという「法的・知財的な事業性の担保」です。開発したAIサービスが他社の特許に抵触していれば、差止請求や損害賠償といった重大なリスクにつながります。

この記事では、製品の市場投入前に侵害リスクを確認する「FTO調査(Freedom to Operate:侵害予防調査)」の基本から、先行技術調査との違い、グローバル化する権利網に対応するための対象国の考え方、そして調査結果を事業の経営判断に活かす実務対応までを解説します。自社のAI技術を安全に展開し、将来的な事業拡大につなげたい経営者や知財担当者の方に向けた内容です。

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目次

FTO調査と先行技術調査の根本的な違い

特許調査には、目的に応じて「先行技術調査(出願前調査)」と「FTO調査(侵害予防調査・クリアランス調査)」があり、これらを混同してはいけません。自社の技術で特許を取得できることと、他社の特許を侵害しないことは別の問題です。

先行技術調査は、自社のアイデアが新規性や進歩性を有しており、特許として権利化できるかを確認するための調査です。原則として、出願前に公知となった国内外の特許文献や論文、製品情報などが対象となり、現在も権利が有効に存続しているかどうかは主要な判断要素ではありません。検索では、関連性の高い先行技術を効率的に発見することが重視されます。

一方、FTO調査は、自社の製品やサービスを市場に出した際、他人が保有する特許権を侵害し、差止請求や損害賠償を受けるリスクがないかを確認するための調査です。

現時点で侵害が成立するかを判断する場合、中心となるのは、製品を製造・販売・使用する国で有効に存続している特許権です。ただし、審査継続中の公開特許出願についても、将来登録されて事業の障害となる可能性があるため、継続的な監視対象に含める必要があります。

FTO調査では、事業に重大な影響を及ぼす特許の見逃しを抑えるため、先行技術調査よりも網羅性を重視する傾向があります。ただし、調査範囲を無制限に広げればよいわけではありません。製品の仕様や重要機能を分解し、広めに抽出した文献から、法的状態、権利者、請求項の内容を確認しながら段階的に絞り込む必要があります。

AIプロダクトにおける特許侵害リスクの特異性

AI開発の現場では、生成AIによる著作権侵害のリスクが注目されがちです。既存の著作物を学習データとして利用する場面や、生成物が既存作品に類似する場面については、利用目的、著作権者の利益への影響、生成物の類似性や依拠性など、個別事情に応じた検討が必要です。

しかし、FTO調査において警戒すべきなのは、AIモデルを構成するアルゴリズム、データ処理の手法、システム構造そのものが他社の特許権を侵害するという構造的なリスクです。

オープンソースのAIモデルをファインチューニングして自社システムに組み込む場合や、独自のニューラルネットワークを設計する場合でも、使用する技術に関連する特許が存在する可能性があります。オープンソースとして利用できることと、第三者の特許権を侵害しないことは同じではありません。

さらに、AI分野は技術の変化が速く、開発手法やAPIの仕様も短期間で更新されます。最新の技術を組み合わせてアジャイルに開発した場合でも、その背後にある課題解決の仕組みが、過去に出願された特許の権利範囲に含まれている可能性があります。

また、米国市場を視野に入れる場合は、故意侵害に基づく増額賠償にも注意が必要です。米国特許法では、裁判所が損害額を最大3倍まで増額できる制度があります。

ただし、他社の特許を知っていたことや、FTO調査を行わなかったことだけで、直ちに3倍の賠償が命じられるわけではありません。増額賠償は、意図的、悪質、無謀と評価されるような侵害行為を含む個別の事情に基づき、裁判所の裁量によって判断されます。

FTO調査と、その後に実施した設計変更や専門家による検討の記録は、企業が知財リスクを把握し、合理的な対応を行うためのガバナンスプロセスとして重要です。

対象国の見直しとドワンゴ事件最高裁判決の影響

FTO調査を実施する際、どの国の特許を調べるかという地理的なスコープの設定は極めて重要です。特許権の効力は、原則として登録された国の領域内で認められるという属地主義を前提としています。

従来、複数の国をまたいで構成されるネットワークシステムについては、サーバなどの構成要素が国外に存在する場合に、日本国内で特許発明が実施されたと評価できるかが問題となってきました。そのため、中核となるサーバを海外のデータセンターに置く構成であれば、日本の特許権が及ばないとの主張が行われることもありました。

しかし、2023年5月26日の知財高裁大合議判決に続き、2025年3月3日、最高裁判所第二小法廷は、ドワンゴとFC2の間で争われた令和5年(受)第2028号特許権侵害差止等請求事件において、FC2側の上告を棄却する判決を言い渡しました。

最高裁は、サーバと端末を含むネットワークシステムの一部が国外に存在する場合であっても、当該システムを構築する行為が実質的に日本国内における「生産」と評価できる場合には、日本の特許権の効力が及び得るとの考え方を示しました。

本件では、FC2によるファイルの配信が、日本国内にあるユーザー端末で発明の効果を生じさせるものであること、その効果との関係ではサーバが国外にあることに特段の意味がないこと、特許権者に経済的な影響を及ぼさないといえる事情がないことなどが考慮されています。

したがって、国外にサーバがあるという一事だけで、日本の特許侵害を常に回避できるわけではありません。一方で、国外サーバを利用するすべてのサービスについて当然に日本の特許権が及ぶという意味でもなく、サービスの構成、国内端末の役割、発明の効果、事業上の影響などを踏まえた具体的な判断が必要です。

AIサービスのFTO調査では、サーバや開発拠点の所在地だけでなく、サービスを提供する市場、ユーザー端末の所在地、データ処理やシステム構築に関与する国を整理する必要があります。日本の顧客にサービスを提供する場合は、サーバが海外にある場合でも、日本の特許を調査対象から外すことは適切ではありません。

AIシステムの機能レイヤーごとの調査対象

対象となる国を定めた後は、自社のAIプロダクトのどの技術要素を対象として検索式を組むかを定義します。AIプロダクトは単一の発明ではなく、複数の技術要素の集合体であるため、機能レイヤーごとに切り分けて調査を設計する必要があります。

第一に、機械学習の具体的な手法、ニューラルネットワークの階層構造、学習データの生成やノイズ除去などの前処理プロセスといった「AIモデル・アルゴリズム層」を調査します。特定のドメインデータを用いたファインチューニングや、RAG(検索拡張生成)の構成に関する特許出願についても確認が必要です。

第二に、クラウド環境でのAPIを介したデータ連携、負荷分散システム、推論結果のキャッシュ手法などの「バックエンド・処理パイプライン層」が対象となります。

さらに見落とされやすいのが、AIの推論結果をユーザーに提示する方法や入力補助機能といった「フロントエンド・UI/UX層」です。

ドワンゴ事件でも、コメントが重ならないように表示位置を調整する端末側の制御が、発明の構成を判断するうえで重要な要素となっていました。裏側のAI処理だけでなく、ユーザーと接する画面の表示制御や操作方法が他社特許の請求項に含まれる可能性もあります。

最後に、特定の業界におけるデータフローを用いた「ビジネスモデル・業務適用層」も重要です。単なる事業アイデアではなく、具体的な情報処理、データ構造、システム構成などが請求項に記載された特許については、自社サービスとの対応関係を確認する必要があります。

開発フェーズに連動した重層的なFTO調査の実施

「FTO調査はいつ行うべきか」という問いに対しては、開発の初期段階から、フェーズの進行に合わせて段階的に実施することが基本となります。

製品の開発が完了し、ローンチの日程が発表された後に知財部門へ調査を依頼すると、問題が見つかった場合の設計変更や事業計画の修正に大きなコストがかかります。法的なリスクと手戻りを抑えるためには、次のような段階的な対応が有効です。

企画の初期段階では、製品の仕様が流動的であるため、詳細な侵害判断を行うのではなく、対象技術分野の特許動向や主要な権利者を把握します。この段階で事業の障害となり得る特許群を発見できれば、比較的低いコストで開発の方向性を修正できます。

設計・試作・PoCの段階に進むと、アーキテクチャやデータフローの具体的な仕様が固まってきます。ここでは、初期調査で抽出した有力なリスク特許の「特許請求の範囲(クレーム)」を精読し、自社の設計仕様と照らし合わせるクレーム対比を実施します。

この段階であれば、抵触する可能性がある機能を別の技術手段に変更するなどの対応を、開発スケジュールへの影響を抑えながら検討できます。ただし、代替技術やオープンソース技術を採用する場合も、その技術が別の第三者特許を侵害しないかを確認する必要があります。

量産やサービスローンチの直前には、確定した最終仕様を基準として、他社特許との関係を最終確認します。この最終フェーズは、初めて調査を行う段階ではなく、開発中に行った調査や回避対応の結果を確認する段階として位置づけることが望まれます。

また、こうしたFTO調査と対応の履歴は、スタートアップ企業がベンチャーキャピタルから資金調達を行う際や、M&Aに伴う知財デューデリジェンスにおいて、知財リスクを管理していることを示す資料になります。

オールエレメントルールと回避設計の重要性

FTO調査の過程で自社事業の障害となり得る他社特許を発見したとしても、直ちに開発を諦める必要はありません。特許侵害の判断では、原則として、請求項に記載されたすべての構成要件を自社製品やサービスが充足しているかを確認します。これがオールエレメントルールです。

特許の技術的な権利範囲は、特許公報に記載された「特許請求の範囲(請求項)」を基礎として判断されます。

例えば、他社の特許が「要素Aと要素Bと要素Cを備えるAI推論装置」として権利化されているとします。自社製品が要素Aと要素Bを備えていても、要素Cを備えず、異なる構成を採用している場合は、原則として文言上の侵害は成立しません。

一方、自社製品が要素A、要素B、要素Cのすべてを備えたうえで、さらに独自の要素Dを追加している場合は、要素Dを追加したことだけでは侵害を回避できません。

ただし、請求項の構成要件と文字どおり一致しない場合でも、置き換えられた要素が実質的に同等であるとして、均等論による侵害が問題となる場合があります。したがって、単に用語や処理方法を形式的に変更するだけでは、十分な回避設計にならない可能性があります。

このルールを踏まえて行うのが「回避設計(Design Around)」です。開発の初期から中期段階でFTO調査を実施できれば、知財部門とエンジニアが協議し、他社特許の請求項に含まれる特定の構成要件を採用しない設計や、技術的に異なる代替手段を検討できます。

さらに、他社特許を回避する過程で生み出した独自の設計が、新規性や進歩性などの要件を満たす場合には、新たな特許出願を検討できます。回避設計を単なる防御策で終わらせず、自社の知財ポートフォリオの強化につなげる視点も重要です。

調査結果を事業判断に統合する実務対応

FTO調査によって自社プロダクトのリスクが判明した場合、その調査結果は、経営陣が事業上の意思決定を行うための重要な判断材料となります。企業は製品への投資額、予測される収益規模、関連市場の競争状況、侵害が成立する可能性などを総合的に考慮し、次の対応を決定します。

有力な選択肢の一つは、前述した回避設計です。ただし、設計変更によって開発スケジュールが遅れたり、製品性能が低下したりする可能性もあるため、開発フェーズや事業上の影響を踏まえた判断が必要です。

設計変更が困難な場合は、特許権者と交渉し、ロイヤルティを支払ってライセンスを取得する方法や、自社の保有特許と相互に利用を認め合うクロスライセンスを検討します。

既存製品に対する権利行使を前提とする交渉では、自社製品と相手方特許の対応関係を示すクレームチャートが重要な検討資料になる場合があります。一方、新規技術の導入を目的とする友好的なライセンス交渉では、最初から詳細なクレームチャートを提示することが常に適切とは限りません。技術の導入効果や事業上のメリットを示す資料を先に提示する場合もあります。

また、対象特許に新規性や進歩性などの問題があると考えられる場合は、無効資料を調査し、無効審判などの手続を検討することもできます。利用できる手続や期限は国によって異なるため、対象国の制度に応じた対応が必要です。

侵害リスクが高く、回避設計、ライセンス取得、特許の無効化のいずれも現実的ではない場合には、問題となる機能の実装を見送るか、対象市場への参入を取りやめるという判断も選択肢になります。

AIプロダクトを安全に展開するためのFTO実務

AIプロダクトにおけるFTO調査は、単に他社の権利を侵害しないための法務部門の受動的なチェックではありません。製品を安全に市場へ投入し、事業の継続性を確保するとともに、投資家や取引先からの信頼を得るための経営プロセスです。

2025年3月3日のドワンゴ事件最高裁判決が示すように、ネットワークを通じて国境を越えて提供されるサービスについても、国外にサーバがあるという理由だけで日本の特許権の効力を否定できるとは限りません。システムの構成や国内で行われる処理、発明の効果などを踏まえ、対象国を設定する必要があります。

まずは、企画の初期段階から関連する技術分野の特許動向を確認し、競合他社や主要な特許権者が保有する権利を把握します。そのうえで、設計が進むにつれて請求項と製品仕様を具体的に対比し、知財部門と開発部門が連携して回避設計やライセンス取得などの対応を検討することが重要です。

FTO調査と回避設計を通じて生み出された独自のAIアルゴリズムやシステム構造は、それ自体が価値のある知的財産となる可能性があります。特許権の売却やライセンスによる活用先を探す場合は、候補企業との接点を増やす手段の一つとして、特許売買・ライセンスプラットフォームであるPatentRevenueへの無料登録も検討できます。

知財リスクを管理しながら独自技術を事業化し、必要に応じて収益化へつなげることが、AIプロダクトを継続的に成長させるための現実的な実務対応となります。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献リスト
  1. 特許庁「令和4年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 特許調査サービスに関する実態調査」
    https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/service/document/index/2022hokokusho_2.pdf
  2. 知的財産高等裁判所「令和4年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件 判決要旨」
    https://www.courts.go.jp/ip/vc-files/ip/2023/R4ne10046.pdf
  3. 知的財産高等裁判所「大合議事件」
    https://www.courts.go.jp/ip/hanrei/g_panel/index.html
  4. 最高裁判所「令和5年(受)第2028号 特許権侵害差止等請求事件」
    https://www.courts.go.jp/hanrei/search1/index.html
  5. 最高裁判所「最高裁において関与した主要な裁判(尾島裁判官)(令和7年)」
    https://www.courts.go.jp/saikosai/about/saibankan/ojima_07/index.html
  6. 文化庁「AIと著作権について」
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
  7. 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」
    https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
  8. 35 U.S.C. § 284, Damages
    https://www.law.cornell.edu/uscode/text/35/284
  9. Supreme Court of the United States, Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc.
    https://www.law.cornell.edu/supremecourt/text/14-1513
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