ソフトウェア・AI特許は本当に戦えるのか:米国の101条リスクと価値評価

ソフトウェア・AI特許における米国特許法101条のリスクと価値評価を解説した図解。Alice判決の2段階テスト、特許取得からライセンス交渉・侵害主張・早期棄却・裁判までの流れ、USPTOガイダンスやAI特許を強くするポイントを示している。

株式会社IPリッチのライセンス担当です。米国市場においてソフトウェアや人工知能(AI)に関連する技術を事業化・ライセンスアウトする際、特許保有企業が直面する主要な法的リスクの一つが「米国特許法101条(特許適格性)」の問題です。多額の費用を投じてAI特許を取得しても、いざ権利行使やライセンス交渉の場になると、侵害被疑者から「この特許は101条に照らして特許適格性を欠く」という反論を受け、訴訟の初期段階で請求が退けられる場合があります。AI技術の実装が社会の幅広い分野へと浸透する中、AI特許を保有する企業には、単なる出願件数の積み上げではなく、「米国訴訟の場で101条の争いに耐え得る明細書とクレームになっているか」を再確認することが求められています。本記事では、米国特許商標庁(USPTO)のガイダンスや連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判例を踏まえながら、AI特許の価値評価とライセンス戦略について解説します。

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目次

結論から紐解くAI特許の訴訟価値と耐性

米国市場におけるAI・ソフトウェア特許の価値評価では、ポートフォリオの総件数だけでなく、各特許が101条に基づく特許適格性の争いにどれだけ耐えられるかを確認する必要があります。特許適格性を満たさないと判断されたクレームは、技術的な新規性や非自明性を備えていたとしても、ディスカバリー(証拠開示手続き)が本格化する前に訴訟上の請求が退けられる可能性があります。

2025年のRecentive Analytics事件では、確立された機械学習手法を新たなデータ環境に適用する以上の内容を示していないクレームについて、特許適格性が否定されました。したがって、AI特許の価値を評価する際には、AIモデル自体の具体的な改良や、コンピュータ又は他の技術プロセスの動作を改善する手段が、明細書とクレームにどこまで示されているかが重要になります。単に「従来、人間が行ってきた業務をAIで自動化する」と記載するだけでは、101条上のリスクを十分に抑えられない場合があります。

ソフトウェア特許が直面する司法上の例外

米国特許法101条は、特許の対象となり得る発明のカテゴリーとして、プロセス、機械、製造物及び組成物を規定しています。しかし、この条文の適用では、裁判所が形成してきた「司法上の例外」も考慮されます。自然法則、自然現象及び抽象的アイデアは、原則として特許適格性の対象外とされています。

ソフトウェアやAI関連発明の特許適格性を判断する上で、中心的な枠組みとなっているのが2014年の米国連邦最高裁判所によるAlice判決です。この判決では、特許適格性を評価するための2段階の判断枠組みが示されました。

第1段階では、クレームが抽象的アイデアなどの司法上の例外に向けられているかを判断します。第2段階では、司法上の例外に向けられている場合に、クレームの構成要素を個別及び組合せとして評価し、クレーム全体を特許適格性のある応用へと変える「発明概念」が含まれているかを検討します。

汎用コンピュータを用いて抽象的アイデアを単に実行するだけでは、通常、十分な発明概念とは認められません。一方で、コンピュータの機能や他の技術分野を具体的に改善する手段がクレームに反映されている場合には、特許適格性が認められる可能性があります。

USPTOガイダンスが示すAI特許の適格性基準

米国特許商標庁は、AI関連発明に対する101条の適用方法を明確化するため、2024年7月17日から、AIを含む特許適格性に関するガイダンスアップデートの適用を開始しました。このガイダンスはUSPTOの審査官や特許審判部における審査実務を示すものであり、連邦裁判所を法的に拘束するものではありません。そのため、特許取得時の審査と、権利行使時の裁判所による評価は分けて考える必要があります。

USPTOの審査実務では、Alice判決に基づく分析のうち、まずクレームが司法上の例外を記載しているかを確認します。司法上の例外を記載している場合には、クレーム全体がその例外を「実用的な応用」へ統合しているかを評価します。実用的な応用への統合が認められれば、クレームは司法上の例外そのものに向けられていないと評価されます。

2024年のガイダンスアップデートでは、AI関連の具体例47から49が追加されました。異常検知を題材とした例47では、3つの異なるクレームが示されています。

レジスタ及びマイクロプロセッサを備えたニューロン、シナプス重みを保存するメモリなどで構成される特定用途向け集積回路(ASIC)のクレームは、法定カテゴリーに該当し、司法上の例外を記載していないため、特許適格性があると評価されています。

これに対し、連続データを離散化し、一般的なニューラルネットワークを訓練して異常を検知する方法にとどまるクレームは、数学的概念を実用的な応用へ十分に統合しておらず、追加要素にも発明概念がないとして不適格と評価されています。

一方、人工ニューラルネットワークを用いて悪意のあるネットワークパケットを検出し、そのパケットを遮断することでネットワークセキュリティを改善するクレームは、抽象的アイデアを技術分野の改善へ統合しているとして適格と評価されています。AIを単なる数学的アルゴリズムとして記載するのではなく、具体的な技術的課題をどのような処理によって解決するのかをクレームに反映することが重要です。

さらに、米国特許商標庁は、審査官に対して「精神活動」のカテゴリーを過度に広く適用しないよう注意を促しています。人間の頭脳又は紙とペンによって現実的に実行できない処理まで、当然に精神活動へ分類すべきではないという考え方です。ただし、処理量が多いことやAIを使用していることだけで、直ちに特許適格性が認められるわけではありません。

連邦巡回控訴裁判所の判例から読み解く実務上のハードル

特許適格性の法的判断は連邦裁判所が行うものであり、とりわけ特許事件を専門的に扱う連邦巡回控訴裁判所の判例動向は、権利行使の実務に大きく影響します。2025年4月に出されたRecentive Analytics事件の判決は、確立された機械学習手法を新しいデータ環境に適用するクレームの特許適格性について判断した先例です。

この事件で問題となったのは、機械学習モデルを利用してテレビ放送のネットワークマップやライブイベントのスケジュールを生成する特許でした。特許権者は、機械学習をライブイベントのスケジューリングなどの特定分野に適用した点を主張しました。

しかし裁判所は、対象特許が一般的な機械学習技術を特定の用途で利用することを機能的に記載しているにとどまり、機械学習技術自体又は既存の技術プロセスを改善する具体的な方法を示していないと評価しました。その結果、確立された機械学習手法を新たなデータ環境に適用する以上の内容がないとして、101条上の特許適格性を否定しました。

この判決から得られる重要な教訓は、クレームや明細書の中に、技術的向上が「どのように」達成されるのかを具体的に示す必要があるという点です。

反復的な学習や動的な調整といった要素は、事件の具体的事情の下では、機械学習に通常伴う処理と評価されました。結果だけを示す機能的な記載ではなく、入力データの処理、モデル構造、学習方法、計算資源の利用又は出力制御について、技術的改善を生む具体的な手順をクレームに反映することが求められます。

もっとも、Recentive判決は、機械学習を特定の業界や用途に適用した特許がすべて不適格になると判断したものではありません。クレームが具体的な技術的改善を示しているかどうかは、個々の特許ごとに評価されます。

技術ライセンス契約と交渉における適格性評価

101条を巡る審査基準や判例は、特許を取得する段階だけでなく、他社との技術ライセンス契約や交渉にも影響します。

ライセンス交渉では、必要に応じて秘密保持契約であるNDAを締結した上で、対象技術や侵害分析に関する情報を開示します。この際、対象特許が101条上の重大なリスクを抱えていると評価されれば、ライセンス条件、契約一時金、ロイヤルティ率及び独占性に関する交渉で不利になる可能性があります。

対象特許の侵害可能性を説明する中心的な資料の一つがクレームチャートです。AI特許に関するクレームチャートでは、対象製品又はサービスがクレームの各構成要件に対応していることを示す必要があります。

ただし、侵害分析と101条上の特許適格性は別の法的問題です。対象製品がクレームを充足していても、そのクレーム自体が抽象的アイデアに向けられ、具体的な技術的改善を欠いていれば、相手方から特許適格性を争われる可能性があります。

そのため、ライセンス交渉の準備では、侵害を示すクレームチャートだけでなく、明細書とクレームに記載された技術的課題、具体的な解決手段及び技術的効果を整理し、Recentive判決などと区別できる根拠を確認する必要があります。

また、契約締結後のロイヤルティ監査に関する条項も重要ですが、監査の実施を契機として、ライセンシーが対象特許の有効性又は特許適格性を争う可能性も考慮する必要があります。ライセンサーとしては、交渉前に自社特許の耐性を評価し、必要に応じて複数の関連特許やノウハウを組み合わせたライセンス設計を検討することが有効です。

訴訟における早期棄却リスクへの防衛策

米国特許訴訟では、侵害被疑者が連邦民事訴訟規則12条(b)(6)に基づき、請求を構成する法的根拠がないとして訴えの却下を申し立てる場合があります。101条上の特許適格性が、クレームと訴状の記載から法律問題として判断できる場合には、多額の費用と時間を要するディスカバリーへ進む前に訴訟が終了することがあります。

一方、Berkheimer事件及びAatrix Software事件は、特許適格性が法律問題である一方、その判断に事実問題が含まれる場合があることを示しました。特に、クレームの追加要素が当業者にとって「よく理解された、日常的で、従来からの」活動であったかどうかは、事実認定を必要とする場合があります。

したがって、特許権者が訴状において、対象発明が従来技術とは異なる具体的な構成を備え、コンピュータ又は他の技術分野の機能をどのように改善したのかについて、合理的で具体的な事実を主張している場合には、早期棄却が妨げられることがあります。

ただし、技術的改善を主張すれば必ず早期棄却を回避できるわけではありません。クレーム自体が技術的改善を反映していない場合や、明細書の記載が一般的・結果指向的な内容にとどまる場合には、訴状で説明を追加しても101条上の問題を補えない可能性があります。

この防衛を有効に機能させるためには、出願時点での明細書作成が重要です。単に汎用プロセッサを用いて処理を高速化すると記載するのではなく、従来技術にどのような技術的問題があり、AIモデルの構造、データ処理又は学習プロセスのどの構成によってその問題を解決するのかを具体的に記載する必要があります。

同時に、明細書の中で発明の構成要素を不用意に「一般的」「従来から使用されている」と記載すると、後の訴訟で相手方に利用される可能性があります。技術的背景を説明しながらも、発明の中核となる構成と従来技術との違いを正確に整理することが必要です。

強固なAI特許を構築し知財収益化を実現する道筋

今後のAI特許戦略では、AIを利用するという事実だけに依存した権利化から脱却する必要があります。既存の大規模言語モデルや汎用的なニューラルネットワークを自社の業務プロセス又は新しい産業分野に適用するだけのクレームは、具体的な技術的改善が示されていなければ、特許適格性を争われるリスクが高くなります。

知財を収益化するためには、AIモデルのアーキテクチャ、学習データの処理方法、推論処理、計算資源の利用、通信制御又はハードウェアシステムの動作などについて、具体的な技術的貢献を権利範囲に反映することが重要です。

もっとも、AIモデル自体の改良だけが適格性を認められる唯一の方法ではありません。USPTOのExample 47が示すように、AIを用いた処理がネットワークセキュリティなどの技術分野における具体的な改善へ統合されている場合にも、特許適格性が認められる可能性があります。

米国特許商標庁の審査官に対しても、裁判所に対しても、自社の発明が単なる人間の精神活動の代替又は抽象的な数学的概念ではなく、具体的な技術的構成と因果関係によって技術上の改善を実現するものであることを説明できる明細書とクレームが重要になります。

自社特許を収益につなげる次の一手

米国におけるソフトウェア及びAI特許には、現在も101条上のリスクがあります。特許を取得したという事実だけでは、訴訟やライセンス交渉における強さを判断できません。

実際に権利行使へ利用しやすいAI特許とは、技術的改善の具体的な手段が明細書とクレームに反映され、初期段階の棄却申立てに対して合理的な反論を構築できる特許です。自社のAI特許ポートフォリオがこの基準を満たしているか、ライセンス交渉の前にクレーム、明細書、侵害立証可能性及び101条リスクを総合的に評価する必要があります。

自社の知財ポートフォリオを整理し、戦略的な収益化を検討する次の一手として、弊社の知財収益化プラットフォーム「PatentRevenue」をご活用ください。技術的優位性をライセンス価値へつなげるためには、特許の件数だけでなく、権利範囲、立証可能性及び無効リスクを踏まえて活用方法を検討することが重要です。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献リスト
  1. USPTO, 2024 Guidance Update on Patent Subject Matter Eligibility, Including on Artificial Intelligence
    https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/ai-sme-update-2024.pdf
  2. USPTO, July 2024 Subject Matter Eligibility Examples 47-49
    https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/2024-AI-SMEUpdateExamples47-49.pdf
  3. USPTO, Subject Matter Eligibility
    https://www.uspto.gov/patents/laws/examination-policy/subject-matter-eligibility
  4. Federal Register, 2024 Guidance Update on Patent Subject Matter Eligibility, Including on Artificial Intelligence
    https://www.federalregister.gov/documents/2024/07/17/2024-15377/2024-guidance-update-on-patent-subject-matter-eligibility-including-on-artificial-intelligence
  5. Recentive Analytics, Inc. v. Fox Corp., 134 F.4th 1205 (Fed. Cir. 2025)
    https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2437.OPINION.4-18-2025_2500790.pdf
  6. Aatrix Software, Inc. v. Green Shades Software, Inc., 882 F.3d 1121 (Fed. Cir. 2018)
    https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/17-1452.opinion.2-12-2018.1.pdf
  7. Berkheimer v. HP Inc., Order on Petitions for Rehearing En Banc
    https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/17-1437.order.5-25-2018.1.pdf
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