弁護士費用の回収リスク:日米の「費用負担ルール」がライセンス交渉に与える影響

弁護士費用の回収リスクについて、日本と米国の費用負担ルールの違い、訴訟費用の未回収リスク、特許ライセンス交渉への影響を図解した知財収益化の解説画像

株式会社IPリッチのライセンス担当です。本記事では、特許訴訟における「弁護士費用の回収リスク」に焦点を当て、日本と米国における費用負担のルールの違いが、実際のライセンス交渉や早期和解の戦略にどのような影響を与えているのかについて、平易な言葉で深く掘り下げて解説いたします。特許侵害をめぐる争いにおいて、訴訟にかかる高額な弁護士費用を最終的に誰が負担するのかという問題は、企業の経営判断に直結します。訴訟大国である米国と、独自の損害賠償実務を持つ日本とでは、敗訴した側に弁護士費用を請求できるか否か、またその成功率に大きな違いが存在します。本稿では、この制度的な違いが当事者のリスク評価をどのように変え、結果としてどのようなライセンス契約が選ばれやすくなるのかを明らかにします。この知見は、企業が直面する法務リスクを正確に把握し、より有利な条件で知財戦略を構築するために不可欠なものです。

近年、企業や大学などの研究機関において、自らが保有する特許を単なる競合他社への防衛手段にとどめず、積極的に事業の柱として活用していく「知財の収益化」が非常に重要な経営課題として認識されるようになっています。しかしながら、他社による特許権の侵害を発見し、訴訟を通じてその権利を保護し利益を確保しようとすると、多額の弁護士費用や数年にわたる長期の係争という大きなリスクに直面することになります。訴訟の長期化や、勝訴しても費用が回収できない「費用倒れ」のリスクを賢く回避し、より安全かつ効率的に知財の収益化を実現するためには、訴訟という手段に頼る前に、特許権の譲渡やライセンス供与を通じた市場での流通を選択することが極めて有効な選択肢となります。そこで弊社では、専門家が仲介に入り特許の適切なマッチングを支援する特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」を提供しております。本プラットフォームでは、特許権の売買またはライセンスをご希望される方に無料で特許情報を登録していただくことが可能です。未活用の特許から新たな収益機会を創出するために、ぜひこの機会に無料登録をご検討ください。

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日米における特許訴訟の「費用負担ルール」の基本的な枠組み

特許権侵害訴訟において、企業が最も慎重に評価しなければならない課題の一つが、弁護士費用をはじめとする高額な訴訟関連費用の負担です。どこの国の裁判所で争うかによって、この費用を誰が最終的に負担するのかというルールは全く異なっており、そのルールの違いが「訴訟を提起すべきか」、あるいは「早期に和解してライセンス契約を結ぶべきか」という根本的な経営判断に多大な影響を及ぼします。

まず、日本の裁判実務について見てみましょう。日本の民事訴訟においては、印紙代などの訴訟費用と、代理人である弁護士に支払う報酬(弁護士費用)は明確に区別して扱われます。弁護士費用に関しては、原則として原告と被告の双方が自らの代理人にかかる費用を自腹で負担するという「各自負担の原則」が採用されています。ただし、特許権侵害のような不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟においては、例外的な運用が存在します。特許権者が勝訴した場合、訴訟を提起し追行するために弁護士に依頼したことと、特許侵害という不法行為との間に「相当因果関係」がある範囲内で、特許権者は侵害者に対して損害賠償の一部として弁護士費用を請求することが認められています。しかしながら、実務上において裁判所が認める弁護士費用の額は、実際に支払った全額ではなく、認容された損害賠償額の10%程度にとどまるのが一般的です。つまり、日本において特許権者は、勝訴したとしても自分が支出した弁護士費用の大半を回収することはできず、多額の自己負担が生じる構造となっています。

これとは対照的に、米国の司法制度においては、歴史的に「アメリカン・ルール」と呼ばれる原則が広く浸透しています。これは、訴訟の勝敗にかかわらず、各当事者が自身の弁護士費用を負担しなければならないという大原則です。しかしながら、特許訴訟の分野においては、この大原則に対する特別な例外規定が米国特許法第285条に設けられています。この規定によれば、裁判所は「例外的なケース」であると判断した場合に限り、自らの裁量によって、勝訴した当事者に対して合理的な弁護士費用を支払うよう敗訴した当事者に命じることができます(これを費用の負担転嫁、またはフィー・シフティングと呼びます)。

このように、日本では「勝訴すれば損害額の10%程度というごく一部の回収は可能だが、全額の回収は事実上不可能」であるのに対し、米国では「原則として自己負担だが、裁判所に例外的なケースだと認められれば、かかった合理的な費用の全額に近い額を相手方に転嫁できる可能性がある」という、非常に大きな制度上の違いが存在しています。この基本的な構造の違いが、両国における企業の知財戦略の立て方や、ライセンス交渉における駆け引きのダイナミクスを根底から変える要因となっているのです。

米国特許訴訟を揺るがしたOctane Fitness判決と「例外的なケース」の変容

米国における弁護士費用の負担転嫁ルールの運用は、2014年に連邦最高裁判所が下した「Octane Fitness判決」を境にして、極めて劇的な変化を遂げました。この判決は、米国の特許訴訟の実務においてエポックメイキングな出来事として語り継がれています。

1946年の特許法改正によってこの裁量的な費用転嫁の仕組みが導入された際、当時の米国議会の意図としては、特許訴訟において弁護士費用の回収が日常的なありふれた出来事になることは全く想定されていませんでした。この議会の慎重な姿勢を受け、特許事件を専門に扱う連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は長年にわたり、「Brooks Furniture基準」と呼ばれる非常に厳格なハードルを設定し、運用してきました。この古い基準のもとでは、ある特許訴訟が特許法第285条の定める「例外的なケース」であると認定されるためには、勝訴した当事者が二つの厳しい条件をクリアしなければなりませんでした。一つ目は、その訴訟が「客観的に見て全く根拠を欠いていること」、二つ目は、その訴訟が「主観的な悪意をもって提起されたこと」です。さらに、これら二つの条件を「明確かつ説得力のある証拠」という高いハードルで証明することが求められていたのです。このような厳格な要件のせいで、実際に敗訴側への費用転嫁が認められるケースは極めて稀であり、特許法第285条はほとんど機能していないとさえ言われていました。

しかし、2014年のOctane Fitness判決において、連邦最高裁判所はこの厳格すぎる旧基準を明確に否定しました。最高裁判所は、旧基準が不当に硬直的であり、本来地方裁判所の裁判官に与えられているはずの裁量権を著しく縛り付けていると批判したのです。最高裁判所が新たに提示した基準によれば、第285条における「例外的なケース」とは、単に「当事者の訴訟における主張の実体的な強さ」や、「訴訟が追行された際の態様の不合理さ」といった点において、他の通常の事件と比較して「際立っている」ケースであれば足りるとされました。

さらに極めて重要だったのは、最高裁判所が証明のハードルを「明確かつ説得力のある証拠」から、より緩やかな「証拠の優越」へと引き下げたことです。そして、地方裁判所の裁判官に対し、個別の事案における「諸般の事情を総合的に考慮」して、柔軟な裁量で費用転嫁の可否を判断するよう命じたのです。この判決による要件の大幅な緩和によって、例えば、特許の権利範囲(クレーム)の解釈に関する審理において明らかに相手の非侵害が判明したにもかかわらず、特許権者が不当に長く訴訟を引き延ばして継続したようなケースにおいて、裁判官が敗訴側に弁護士費用の支払いを命じやすくなりました。

このOctane Fitness判決がもたらした影響は特許法の世界だけにとどまりませんでした。特許法と同じように「例外的なケース」という文言を用いて弁護士費用の転嫁を定めているランハム法(米国の商標法)に基づく訴訟にも、この新しい柔軟な基準が直ちに適用されるようになりました。また、米国の大半の州で採用されている統一営業秘密法(UTSA)に基づく営業秘密侵害訴訟においても、「悪意」の判断基準として特許法のOctane Fitness判決の考え方が参照されるケースが現れるなど、米国の知的財産訴訟全体に対して「不合理な主張や悪質な訴訟活動を行えば、相手の弁護士費用を負担させられるという厳しいペナルティが下る」という強力なメッセージを送ることになったのです。

米国データが示す特許訴訟の実態:成功率の上昇と深刻な「未回収リスク」

Octane Fitness判決によって「例外的なケース」の認定ハードルが大きく下がった結果、実際の米国の裁判現場ではどれほどの変化が起きたのでしょうか。様々な実証的な統計データが、その劇的な変化と、同時に浮き彫りになった新たな深刻な課題の存在を示しています。

スタンフォード大学などの研究機関が行った調査によれば、Octane Fitness判決以降、特許法第285条に基づく弁護士費用請求の申し立てが裁判所に認められる確率は、統計的に見て明らかに急上昇しました。例えば、電気通信などのハードウェア(ELEC)分野の特許訴訟においては、弁護士費用請求が認められる割合は判決前の約14%から、判決後には約57%へと跳ね上がりました。また、ソフトウェア(SOFT)分野の特許訴訟においても、その認容率は約19%から約63%へと飛躍的な上昇を見せています。これらのデータは、地方裁判所の裁判官たちが新たな裁量権を積極的に行使し、根拠の薄い訴訟や不誠実な訴訟態度に対して以前よりもはるかに厳しく対処し始めたことを明確に裏付けるものです。

より広い視点で全米の地方裁判所の動向を集計したデータを見ても、Octane Fitness判決直後の数年間で、弁護士費用転嫁の申し立てに対する認容率(費用の全額ではなく一部認容を含む)は、全米平均で約30%にまで達しました。さらにその後の追跡調査においても、2020年第4四半期の時点で地方裁判所は約33%の割合で申し立てを認容しており、この「申し立ての約3分の1のケースで敗訴側への費用転嫁が認められる」という状況は、Octane Fitness判決後の新たな当たり前の状態としてすっかり定着していると言えます。

しかしながら、ここで企業の法務部門や知財担当者が直面しなければならない最大のジレンマが存在します。それは、「裁判所で徹底的に戦って相手の不当性を証明し、見事に弁護士費用の支払い命令を勝ち取ること」と、「実際に相手の銀行口座からその費用を回収できること」は、全く次元の異なる別の問題であるという冷酷な現実です。

ある法律事務所の綿密な調査データによれば、特許訴訟において勝訴し、裁判所から相手に対する弁護士費用の支払い命令を獲得したにもかかわらず、そのうちのなんと約36%ものケースで、相手から費用が支払われないまま放置されたり、未解決のまま泣き寝入りになったりしていることが判明しています。この集計された範囲内だけでも、回収できずに宙に浮いてしまった弁護士費用の総額は1,200万ドル(日本円で十数億円規模)にも上ると報告されています。

なぜ、裁判所の命令が出ているにもかかわらず、これほど高い確率で費用が未回収になってしまうのでしょうか。この「勝訴してもお金が返ってこないリスク」の背後には、特許不実施主体(いわゆるNPE、あるいはパテント・トロールと呼ばれる存在)に特有の、巧妙なビジネス構造と悪意のある法務戦略が深く関与しています。多くのNPEは、標的とする企業に訴訟を提起するためだけに、意図的に資産を全く持たない「ペーパーカンパニー(シェルカンパニー)」を設立します。そして、その背後にいる真の投資家や権利者の存在を隠し、法的な支払い責任から完全に遮断する仕組みを作り上げています。

例えば、特許訴訟が頻発することで有名なテキサス州東部地区連邦地方裁判所で実際に争われたある事件では、原告であるNPEが数百件もの特許侵害訴訟を乱発するにあたり、意図的に過小な資本金しか持たないダミー会社を複数設立していた実態が暴露されました。彼らの狙いは明らかで、仮に裁判で敗訴して裁判官から多額の弁護士費用負担を命じられたとしても、そのダミー会社には支払うべき資産が最初から存在しないため、責任を逃れられるという悪質な構造です。このような状況下では、被告として訴えられた一般企業が、数百万ドルという多額の弁護士費用を自腹で投じて見事に特許の非侵害や無効を勝ち取り、さらに裁判所から相手に弁護士費用の支払いを命じる判決を得たとしても、相手であるNPEが「会社にはお金がありません」と開き直って自己破産を申し立ててしまえば、それまでです。結果として、勝訴した被告企業には多額の弁護士費用の赤字だけが重くのしかかることになります。特許法第285条は、不当な特許訴訟を減らすための強力な武器になるはずでしたが、この「回収不能リスク」が立ちはだかる限り、その本来の抑止力は極めて限定的なものにならざるを得ないのが実情なのです。

日本の特許訴訟における弁護士費用の現実と中小企業への重圧

視点を日本国内に移すと、弁護士費用の回収を取り巻く環境は米国とは全く異なる様相を呈しています。しかし、特許権者、とりわけ資金力に乏しい中小企業や個人の発明家にとって非常に過酷な状況であるという点においては、米国と共通する課題を抱えています。

前述の通り、日本の裁判実務では、勝訴した原告(特許権者)が被告(侵害者)に対して不法行為に基づく損害賠償として請求できる弁護士費用の額は、認容された損害額の10%程度という相場が長年の実務として固定化されています。この10%ルールの背景には、日本の民法が定める「相当因果関係」の厳格な解釈が存在します。すなわち、複雑な裁判手続きを進めるために専門家である弁護士に依頼することは社会の常識として不可欠であるが、だからといって実際に支払った弁護士費用の全額を相手に賠償させることができる「損害」として認めるわけにはいかず、事案の難易度などを考慮した一定の合理的な割合(それが実務上は10%とされている)に制限すべきであるという考え方です。

しかし、現実の特許権侵害訴訟は、一般的な借金の返済を求めるような債権回収訴訟などと比較して、極めて高度な技術的知識と専門的な法律知識を必要とします。そのため、代理人となる弁護士や弁理士に支払う報酬は必然的に高額になる傾向があります。特許庁が過去に実施した調査研究の報告書によれば、特許侵害訴訟にかかる弁護士費用は、一般的な民事訴訟に比べて約3.5倍にも上るという結果が出ています。

この「訴訟を戦うための実費は非常に高額になるのに、苦労して勝訴しても相手から回収できるのは損害賠償額のわずか10%に過ぎない」という日本の構造は、自社の優れた技術を知財として収益化しようと努力する企業にとって、極めて重い足かせとなっています。この問題を具体例で考えてみましょう。ある優れた技術を持つ中小企業が、自社の特許を侵害している大企業を相手取り、3億円の損害賠償を求める訴訟を提起したとします。この場合、訴えを起こす段階で第一審だけでも裁判所に納付する印紙代(手数料)として約92万円という現金をまず用意しなければなりません。さらに、相手の侵害品の製造販売を止めるための「差止請求」も同時に行うのが一般的ですが、これを行えば手数料はさらに跳ね上がります。当然、これに加えて着手金や成功報酬といった多額の弁護士費用をすべて自腹で用意して支払う必要があります。

もし数年にわたる厳しい裁判を戦い抜き、苦労の末に勝訴して3000万円の損害賠償が認められたとしましょう。しかし、相手から回収できる弁護士費用はその10%にあたる300万円に過ぎません。実際の訴訟追行にかかった弁護士費用が仮に1500万円であったとすれば、差額の1200万円は特許権者である中小企業の完全な自己負担となります。せっかく勝ち取った賠償額からこの持ち出し分を差し引くと、手元に残る利益は大きく目減りしてしまいます。万が一裁判で敗訴してしまえば、自らが支払った多額の弁護士費用が丸々赤字として会社の財務に重くのしかかることになります。

こうした過酷な現状に対し、東京商工会議所をはじめとする経済団体からは、「特許権者が侵害者を訴える場合に限り、敗訴した侵害者側が弁護士費用の全額を負担するよう、相当因果関係の判断基準に関する運用を抜本的に見直すべきである」という強い要望の声が上がっています。また、高額な知財訴訟にかかる弁護士費用などを補償する保険制度のさらなる拡充や、国による中堅・中小企業向け補助金の創設を求める議論も活発化しています。現状の制度のままでは、資金繰りに余裕のない中小企業やスタートアップ企業は、自社の特許権に対する明確な侵害行為を発見したとしても、費用倒れを恐れて泣き寝入りを余儀なくされるか、多額の損害賠償を求めて正当な訴訟を提起することを最初から諦めざるを得ないというのが、日本の知財業界における偽らざる実態なのです。

ルールの違いが日米の「ライセンス交渉」に与える決定的な影響

ここまで詳細に見てきた日米の「費用負担ルール」の根本的な違いと、その運用における厳しい実態は、企業の法務担当者や知財担当者が日常的に行っている特許ライセンス交渉の現場において、当事者間の力関係や戦略的な意思決定に極めて直接的かつ決定的な影響を与えています。

米国市場においては、ある企業が特許権者(特に前述したようなNPE)から突然の警告状を受け取り、高額なライセンス料の支払いを求められた場合、企業の担当者は極めて冷徹な経済的合理性に基づいた計算を強いられます。Octane Fitness判決が出る以前の厳しい基準の下では、被告企業が最後まで徹底的に抗戦して非侵害を証明し勝訴したとしても、自らが費やした弁護士費用を相手から回収できる見込みはほぼゼロに等しい状態でした。そのため、訴訟を防衛するためにかかる多額の費用(例えば200万ドル)を支払うくらいなら、相手が要求してくるそれよりも低い金額(例えば50万ドル)のライセンス料を「迷惑料(ヌイサンス・バリュー)」として支払ってしまった方が、企業全体としての損失は少なく済むという判断が横行していました。特許の有効性や実際に侵害しているかどうかの実体的な判断よりも、純粋なコスト計算として支払いに応じるケースが後を絶たなかったのです。

しかし、Octane Fitness判決により要件が緩和され、勝訴すれば約30%の確率で弁護士費用を相手方に負担させることができるようになりました。これにより、理論上は「不当な警告状には決して屈せず、裁判で徹底的に戦って相手に全ての費用を負担させる」という強硬な防衛戦略を企業が選びやすくなりました。ライセンス交渉の場においても、「もしこのまま不当な訴訟を強行するつもりなら、我々は特許法第285条に基づいて貴社に対して数百万ドルの弁護士費用全額を請求する用意がある」という強力な反撃の脅しが、交渉を有利に進めるための有効なカードとして機能するようになったのです。

しかしながら、すでに解説した通り、現実の米国市場には「約36%の未回収リスク」という厚い壁が立ちはだかります。相手が実体を持たないペーパーカンパニーのNPEであった場合、法務担当者は次のように考えざるを得ません。「徹底抗戦して見事に勝訴し、裁判所から弁護士費用の支払い命令を得られたとしても、相手は最初から資産を持っておらず、破産して逃げるだろう。結局、自社の弁護士費用200万ドルは全額自腹になる。それならば、どれほど不本意で腹立たしくても、相手の要求する50万ドルのライセンス料を払って早期に和解し、ライセンス契約という形で決着をつけた方が、最終的に会社から出ていくお金(キャッシュアウト)は少なくて済む」。このように、米国の費用負担ルールは制度上は一定の是正がなされたものの、悪質な相手からの回収実務における現実的な壁が存在するため、依然として企業に対して早期和解やライセンス契約の締結を強く促すプレッシャーとして作用し続けているのです。

一方、日本国内における特許権侵害を巡るライセンス交渉の現場では、米国とは全く異なるベクトルから、早期の和解やライセンス契約への強いインセンティブが働いています。日本の訴訟実務では、敗訴した側に対する費用の転嫁が米国のように「例外的ながら全額認められる」という仕組みは存在せず、勝訴しても「損害額の10%程度」しか回収できないことが最初から明確に見えています。これは裏を返せば、権利を主張する特許権者側にとっても、侵害を疑われている被告側にとっても、もし訴訟という全面対決に突入した場合の「費用倒れのリスク」や「最終的な持ち出しコスト」が極めて高い確度で、あらかじめ予測できることを意味しています。

特許権者、とりわけ資金に限りのある中小企業からすれば、侵害者を相手に訴訟を提起しても、一般的な訴訟の3.5倍と言われる高額な弁護士費用を自前で用意しなければならず、たとえ勝訴したとしてもその費用の大半は手元に戻ってきません。したがって、「多額の初期投資を行い、結論が出るまでに数年を要する訴訟リスクを負ってまで損害賠償を徹底的に追求するよりは、市場での完全な独占を一部諦めて譲歩してでも、相手と適切なロイヤルティ(使用料)率でライセンス契約を結び、安定した継続的な収益を得る」という「知財の収益化」路線を選択することが、経営上極めて合理的で魅力的な手段に映ります。

侵害をしていると疑われた被告側企業にとっても、置かれている事情は全く同じです。仮に相手の特許の有効性に疑問があり、侵害していないという確信があったとしても、特許庁での無効審判や裁判所での侵害訴訟の防衛手続きに多額の弁護士費用と社内リソースを費やし、最終的に勝訴したとしても、自らが支払った弁護士費用は1円も相手に請求することはできません(被告が勝訴した場合、そもそも賠償すべき損害額が存在しないため、日本の10%ルールすら適用される余地がありません)。そうであるならば、訴訟による完全勝利を目指すための経済的なメリットは非常に乏しくなります。その結果として、訴訟のために用意すべきだった高額な費用の予算を、そのまま相手へのライセンス料の支払いに振り向け、早期に事業の法的な安全性を確保するという建設的な和解路線が選ばれやすくなるのです。このように、日本では「弁護士費用の回収が見込めない(回収額が極端に固定化され限定されている)」という制度上の厳しい制約が、皮肉なことに結果として訴訟への突入を思いとどまらせる強力な抑止力として働き、当事者間での冷静なライセンス契約の締結やビジネス的な解決を強力に後押しする要因となっているのです。

まとめ:訴訟リスクを冷静に評価し、確実な知財の収益化を実現する戦略へ

本稿で詳細に分析し解説してきた通り、日米における特許訴訟の弁護士費用負担ルールは、それぞれの国の法体系の歴史的背景や根底にある考え方の違いから、大きく異なる進化を遂げてきました。米国ではOctane Fitness判決によって裁判官の裁量が拡大し、不当な訴訟に対する費用転嫁が約30%の確率で認められるようになりましたが、実際には意図的に資産を持たないペーパーカンパニーを通じた未回収リスクが極めて深刻な問題として企業を悩ませています。一方、日本では、損害額の10%という硬直的な回収ルールと、他分野に比べて著しく高額な訴訟実費が、権利を行使したい者と防衛したい者の双方にとって重い経済的負担となっています。

これらの日米の制度的な違いと厳しい実態が示唆する最大の教訓は、「特許権の行使において、訴訟という手段に訴えることは、極めてコストが高く、不確実性に満ちたリスクの高いゲームである」という厳粛な事実です。法廷の場で勝訴という法的正義を手に入れたとしても、弁護士費用の負担によって経済的な収支が大幅な赤字になってしまえば、企業活動としては本来の目的を果たしたとは言えません。

だからこそ、現代の先鋭化する知財戦略においては、時間と費用を浪費する訴訟に至る前のフェーズにおいて、「安全かつ合理的なライセンス交渉」を行うことや、専門的なプラットフォームを通じた「特許権の売買・流通」を活用することが極めて重要性を増しています。弁護士費用の未回収リスクというコントロール不可能な不確実性にビジネスの貴重な命運を委ねるのではなく、自社が保有する特許の適正な市場価値を冷静に見極め、双方が納得できるWin-Winの形でライセンス契約を構築していくことこそが、真の意味での「知財の収益化」を確実なものにするための最良の道と言えるのではないでしょうか。

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献リスト
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  3. The Statistics of Exceptional Cases – Continued https://www.finnegan.com/en/insights/articles/making-the-nonprevailing-party-pay-the-statistics-of-exceptional.html
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  7. The Changed Rules of the Game in the Patent Litigation Arena https://www.wiggin.com/publication/the-changed-rules-of-the-game-in-the-patent-litigation-arena/
  8. Has the Patent Fee Shifting Analysis of Octane Fitness Influenced Fee Shifting in Trade Secret Cases? https://www.tradesecretslaw.com/2014/12/articles/trade-secrets/tns-media-research-llc-v-tivo-research-analytics-inc-has-the-patent-fee-shifting-analysis-of-octane-fitness-influenced-fee-shifting-in-trade-secret-cases/
  9. OCTANE FITNESS: THE SHIFTING OF PATENT ATTORNEYS’ FEES MOVES INTO HIGH GEAR https://law.stanford.edu/wp-content/uploads/2017/11/19-2-5-flanz-octane-fitness-final.pdf
  10. Judge Gilstrap Awards Section 285 Fees Where Plaintiffs https://www.mintz.com/insights-center/viewpoints/2231/2016-01-07-judge-gilstrap-awards-section-285-fees-where-plaintiffs
  11. Trends in Attorney Fees and Sanctions Decisions in 2020 Q4 https://www.finnegan.com/en/insights/articles/trends-in-attorney-fees-and-sanctions-decisions-in-2020-q4.html
  12. Patent Fee Shifting Often Leaves Prevailing Parties Unpaid https://www.fr.com/insights/thought-leadership/articles/patent-fee-shifting-often-leaves-prevailing-parties-unpaid/
  13. The Eastern District of Texas Shifts Fees to Nonparty in… https://www.finnegan.com/en/insights/articles/the-eastern-district-of-texas-shifts-fees-to-nonparty-in.html

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