共同出願の落とし穴:特許を共有するとどうなる?

株式会社IPリッチのライセンス担当です。共同研究開発の成果として、複数の企業や大学が共同で特許を出願するケースが増えています。コストやリスクを分担し、互いの技術を融合できる共同出願は魅力的ですが、権利を「共有」することに潜む法的な落とし穴を理解しないまま進めると、将来大きなトラブルに発展しかねません。この記事では、特許の共有に関する基本ルールから、具体的なトラブル事例、そしてそれを回避するための契約の重要性までを専門家の視点から平易に解説します。

目次

共同出願のメリットと、そこに潜む「特許」の落とし穴

企業間のオープンイノベーションや産学連携が加速する現代において、共同出願は非常に有効な戦略です。研究開発や特許取得にかかる高額な費用を分担し 、異なる組織が持つ補完的な技術や知見を組み合わせることで、単独では成し得ない革新的な発明を生み出すことができます。  

しかし、この「協力関係」という心地よい響きに安心してはいけません。特許権が共有状態になった瞬間から、当事者の関係は「ビジネス上のパートナー」であると同時に、特許法という法律によって規定される「共有者」という特殊な法的関係に入ります。多くのトラブルは、このビジネス上の期待と法律上の現実との間に存在するギャップから生まれます。

両者が善意に基づき、「良きに計らってくれるだろう」という漠然とした信頼関係だけで事を進めてしまうと、特許法のデフォルトルールが予期せぬ形で適用され、一方に著しく不利な状況が生まれることがあります。この落とし穴は、悪意からではなく、法律への無理解から生じることがほとんどです。したがって、共同出願は単なる技術開発のマイルストーンではなく、長期にわたる複雑な法的関係の始まりであると認識し、それを能動的に管理していく姿勢が不可欠なのです。

特許法73条が定める共有特許の基本ルールと解釈

共有特許の取り扱いを理解する上で最も重要なのが、特許法第73条です 。この条文には、共有者間の権利関係を律する3つの大きな原則が定められています。これらは、当事者間で特別な契約(「別段の定め」)がない限り、自動的に適用されるルールです。  

1. 各共有者は自由に発明を実施できる(自己実施の原則)

特許法73条2項は、「各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」と定めています 。つまり、A社とB大学が特許を共有している場合、A社はB大学の許可なく、その特許技術を使った製品を製造・販売できます。  

一見すると公平なルールに思えますが、ここに最大の落とし穴が潜んでいます。特許権の共有者は、多くの場合、同じ市場で利益を競い合う経済的な競争関係にあります 。市場規模には限界があるため、例えば製造能力を持つ共有者の一方が大規模に製品を販売すれば、市場は飽和してしまい、他の共有者が利益を得る機会は失われてしまいます 。この「市場の食い合い」を、特許法の原則は許容しているのです。特に、製造能力を持たない大学や個人と、大規模な生産・販売網を持つ企業との共有の場合、この原則は深刻な不利益をもたらす可能性があります 。  

2. 持分の譲渡には全員の同意が必要(持分譲渡の制限)

特許法73条1項により、各共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、自己の特許権の持分を第三者に売却したり、譲渡したりすることはできません 。また、持分を担保として質権を設定することも同様に制限されます。この規定は、共有者グループの結束を維持し、意図しない第三者(例えば競合他社)が権利関係に介入してくるのを防ぐためのものです。  

3. 第三者へのライセンスには全員の同意が必要(実施許諾の制限)

特許法73条3項は、各共有者が、他の共有者全員の同意を得なければ、その特許権について第三者にライセンス(専用実施権の設定または通常実施権の許諾)をすることができないと定めています 。これが、共有特許の収益化における大きな壁となります。  

これらのルールを総合的に見ると、特許法のデフォルト設定には一種の矛盾が内包されていることがわかります。法律は、各共有者が「単独で」事業を行うこと(自己実施)には大きな自由を与えながら、共有者全体として権利を活用しようとする「共同の」アクション(第三者へのライセンス)には、全員一致という非常に高いハードルを課しているのです。

この構造が、戦略的な行き詰まり、いわゆる「戦略的パラリシス」を生み出します。例えば、製造能力のない大学が自らの持分を収益化するには、第三者(大学発ベンチャーなど)にライセンスするしかありません。しかし、共同出願者である大企業が、新たな競合の出現を懸念してライセンスに同意しなければ、大学は収益化の道を完全に絶たれてしまいます 。結果として、大企業は特許を自由に実施して利益を上げる一方で、大学の持つ特許持分は活用されることなく「死蔵」されてしまうのです 。このように、デフォルトルールは、実施能力の高い共有者に有利なパワーバランスを構造的にもたらす危険性をはらんでいます。  

契約なしで起こりうる具体的なトラブル事例と裁判例

「うちは相手を信頼しているから契約は不要」という考えが、いかに危険であるか。それを具体的に示すトラブル事例を見ていきましょう。

事例1:下請け製造による市場独占の罠

ある中小企業が、大手企業と共同で技術開発を行い、特許を共同出願しました。その際、両者の間に特段の契約はありませんでした。中小企業側は、製造ラインを持たない大手企業に自社製品をOEM供給できるものと期待していました。

しかし、特許成立後、大手企業は下請けの製造会社に特許製品を安価で大量に製造させ、自社ブランドで市場に展開しました。その結果、価格競争力のない中小企業の製品は全く売れなくなり、市場から締め出されてしまったのです 。  

中小企業は、大手企業が第三者である下請け会社に製造させているのは、他の共有者の同意が必要な「実施許諾(ライセンス)」にあたり、特許法73条3項違反だと主張しました。しかし、裁判所は「共有者の計算においてその支配・管理の下に行われるものである限り、共有者自身による実施とみなすべき」と判断し、侵害の成立を否定しました 。つまり、実質的に自社の管理下にある下請けに製造させる行為は「自己実施」の範囲内であり、他の共有者の同意は不要とされたのです 。これは、事前の契約がいかに重要かを示す、非常に示唆に富んだ判例です。  

事例2:収益化の機会を逃す「死蔵」のデッドロック

大学と企業が共同で特許を取得したケースを想定してみましょう。企業は、その特許を自社の主力製品に応用して利益を上げています。しかし、その技術には、企業の事業領域とは異なる、全く別の市場での応用可能性がありました。

ある日、その別市場への参入に関心を持つスタートアップ企業が、大学に対してライセンスを申し出ました。大学にとっては、新たな収益源となる絶好の機会です。しかし、ライセンスには共同出願者である企業の同意が必要です。企業側は、直接の競合にはならないものの、将来的にどのような影響が出るか分からない、あるいは単に対応が面倒だという理由で、このライセンスへの同意を拒否しました。

結果として、スタートアップ企業はライセンスを得られず、大学も企業も得られたはずのライセンス収入を逃すことになりました 。これは、一人の共有者の拒否権(Veto)によって、特許全体の価値を最大化する機会が失われてしまう典型的な例です。  

その他に想定される紛争

上記以外にも、契約がない場合には以下のような点で揉める可能性があります 。  

  • 費用負担の対立:特許権を維持するための特許年金の支払いを誰がどの割合で負担するのか 。  
  • 権利行使の不一致:第三者による特許侵害を発見した際に、訴訟を起こすのか、誰が費用を負担し、得られた損害賠償金をどう分配するのか 。  
  • 権利の放棄:一方の共有者が事業戦略の変更などを理由に権利の維持を望まなくなった場合、その持分をどう扱うのか 。  

これらの問題は、いずれも事前にルールを決めておくことで回避できるものばかりです。

失敗しないための共同出願契約書【必須条項の解説】

これまで見てきたような落とし穴を回避し、共同出願を成功に導く唯一かつ最強のツールが「共同出願契約書」です。これは単なる形式的な書類ではありません。特許法の画一的なデフォルトルールを、当事者間の具体的なビジネス関係に合わせてカスタマイズし、将来の紛争を予防するための戦略的な設計図です。

以下に、共同出願契約書に盛り込むべき必須条項とその重要性をまとめたチェックリストを示します。

条項主な内容なぜ重要か?(検討ポイント)
1. 権利の持分各共有者の発明への貢献度に基づき、持分割合(例:甲50%、乙50%)を明確に定める ライセンス料や権利譲渡対価の分配の基礎となります。貢献度が不明確でも、将来の紛争を避けるため均等持分などで合意しておくことが重要です
2. 費用の負担出願費用、特許維持年金、権利行使(訴訟など)にかかる費用の分担ルールを定める(例:持分比に応じる、一方が全額負担するなど) 費用の押し付け合いを防ぎます。特に、資体力に差がある当事者間では、事前に明確な合意が不可欠です
3. 自己実施の取扱い特許法73条2項の原則を確認するか、あるいは「別段の定め」として制限を加える。例えば、不実施補償の支払いや、相手方への事前通知義務、下請け製造の制限などを定める 一方の独占的な大規模実施による市場の飽和を防ぎ、全共有者の利益機会を保護します。特に中小企業が大企業と組む際の生命線となる条項です
4. 第三者への実施許諾許諾の可否判断プロセス(例:協議の上決定)、条件(独占/非独占)、ライセンス料の分配率などを具体的に定める 「全員の同意」という高いハードルを、合理的なビジネス判断プロセスに置き換えます。これにより特許の「死蔵」を防ぎ、収益化の道を開きます
5. 持分の譲渡・放棄第三者への譲渡を原則禁止とし、相手方の事前書面承諾を必須とする。持分放棄時は、他方共有者へ無償譲渡する旨を定めることが多い 意図しない第三者(競合他社など)が共有者に加わるリスクを完全に排除し、権利の散逸を防ぎます。
6. 改良発明の取扱い共有特許を基にして生まれた改良発明の権利帰属(単独所有か、新たな共有か)や、相互の実施権について定める 将来の技術開発から生じる新たな紛争の火種を未然に摘み取るための、将来を見越した条項です。
7. 秘密保持発明内容や契約内容について、出願公開まで、あるいは契約期間中および終了後も秘密を保持する義務を定める 技術的ノウハウや事業戦略の漏洩を防ぎ、発明の価値を保護します。

共有特許を「宝の持ち腐れ」にしないための知財収益化戦略

特許を取得する目的は、技術を保護するだけでなく、それを活用して収益を生み出すことにあります。しかし、これまで見てきたように、共有特許にまつわる法的な制約は、この「知財の収益化」にとって大きな障壁となります 。  

特に、第三者へのライセンスに共有者全員の同意が必要というルールは、事実上、各共有者に強力な「拒否権」を与えているのと同じです。この拒否権は、ライセンス案件そのものの是非とは関係なく、例えば「潜在的な競合を生み出したくない」「自社では関心のない分野だから」といった、共有者の一方の都合だけで行使されがちです 。その結果、多くの価値ある共有特許が、誰にも使われることなく眠ってしまっているのが現状です。  

ここで視点を変える必要があります。共同出願契約書は、単にリスクを回避するための「守り」のツールではありません。むしろ、知財の価値を最大限に引き出すための「攻め」のツールなのです。ライセンスの意思決定プロセスや収益分配のルールを事前に明確に定めておくことで、この「拒否権」という最大の障壁を取り除くことができます。そうして初めて、共有特許は法的にがんじがらめになった資産から、ビジネスの交渉テーブルに乗せられる、流動性の高い資産へと変わるのです。潜在的なライセンス希望者も、交渉相手が複数いて意思決定プロセスが不透明な状態では、交渉に二の足を踏んでしまいます。契約によってそのプロセスが明確化されていれば、安心して交渉を進めることができます。つまり、契約書への投資は、将来の収益化の可能性を創出するための、最も重要で最初の一歩と言えるのです。

まとめと特許収益化のご提案

共同での特許出願は、イノベーションを加速させる強力な手段ですが、その裏には特許法73条に起因する法的な落とし穴が存在します。特に、契約がない場合のデフォルトルールは、共有者間のパワーバランスを崩し、紛争や特許の死蔵につながる危険性をはらんでいます。このリスクを回避し、共同開発の成果を真の価値ある資産に変えるためには、当事者間のビジネスの実態に合わせた、詳細な共同出願契約書の締結が不可欠です。

すでに共有特許を保有し、その収益化にお悩みの方、あるいは自社の知的財産を積極的に収益につなげたいとお考えの特許権者の皆様へ、私たちは解決策をご提案します。収益化したい特許をお持ちでしたら、ぜひ特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」へ無料でご登録ください。貴社の眠っている知財を、新たな収益源に変えるお手伝いをいたします。 https://patent-revenue.iprich.jp

(この記事はAIを用いて作成しています。)

参考文献

  1. 中山一郎 (2004). 「共有に係る特許権の実施許諾に対する他の共有者の同意について」. A.I.P.P.I., 49(2), 80-99. https://www.rieti.go.jp/users/nakayama-ichiro/aippi_47-2.pdf
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  26. スタディング (日付不明). 「弁理士講座 用語集 先使用権、共同出願、先願、移転登録、冒認出願」. https://studying.jp/benrishi/about-more/benrishi-term2.html
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