ITスタートアップにおける特許非侵害誤認のトラブルと解決

こんにちは、株式会社IPリッチのライセンス担当です。
本記事では、とあるITスタートアップ企業が直面した知財トラブルの事例を通じて、裁判に頼らずに問題を解決するための賢い方法をご紹介します。具体的には、知財トラブルにおける裁判のリスク、裁判以外の代替手段、トラブルを未然に防ぐ予防策、裁判を避けることで得られるメリット、そして特許権の売却・ライセンス戦略を活用した円満解決のポイントまでを、わかりやすく解説します。
ITスタートアップに知財トラブル発生
あるIT系スタートアップ企業A社(仮名)は、自社開発したソフトウェアサービスで急成長を遂げていました。ところがある日、競合のX社から特許侵害の疑いを指摘する内容証明郵便が届きます。A社のサービスがX社の保有する特許権を無断で実施している可能性があるとして、開発・提供の中止や損害賠償を求める警告が記されていました。A社の経営者は寝耳に水です。自社の技術は独自に開発したもので、「他社の特許を侵害するはずがない」と非侵害を信じ込んでいただけに、突然の指摘に大きな衝撃を受けました。もしこのまま要求を拒めば、X社は本当に訴訟(裁判)に踏み切るかもしれません。A社は一体どうすれば良いのでしょうか。
裁判のリスクを考える
A社の経営陣はまず、この知財トラブルが裁判沙汰になった場合のリスクを慎重に検討しました。訴訟に発展すれば、多額の弁護士費用や裁判所への手数料など、経済的コストが避けられません。特許訴訟では大企業同士の争いで費用が億単位(数億円)に達するケースもありますが、中小企業にとっても裁判費用の負担は決して軽くないのです【1】。加えて、裁判は一度始まると長期化しやすく、判決が出るまでに1年〜2年あるいはそれ以上の時間がかかることも珍しくありません。その間、経営陣や技術者は訴訟対応に時間と労力を奪われ、本来の事業に集中できなくなる恐れがあります。
さらに深刻なのは、裁判に敗訴した場合のリスクです。仮にX社の特許権侵害が裁判で認められてしまうと、A社は自社サービスの提供差し止め(製品の販売停止)を命じられる可能性があります。そればかりか、これまでの売上に対する巨額の損害賠償金支払いを命じられる危険もあります【1】。近年は特許法の改正や判例の変化により、認められる損害賠償額が増加傾向にあるとも言われています【1】。つまり、安易に裁判で争えば、多大な費用・時間を要するだけでなく、最悪の場合は事業継続が困難になるほどの致命的な打撃を受けるリスクがあるのです。
加えて、裁判沙汰になると相手企業との関係悪化も避けられません。X社とは業界内の顔見知りでしたが、法廷で争えば相手との信頼関係は決定的に損なわれてしまいます。また裁判は公開の法廷で行われるため、自社の技術情報やトラブルの存在が外部に知れ渡り、評判を落とす可能性もあります。このようなリスクを総合的に考えると、何とか裁判だけは回避したいというのがA社の本音でした。
裁判以外の知財トラブル解決策
そこでA社は、裁判に頼らずに問題を解決できないか模索し始めました。幸いにも、知財トラブルの解決方法は訴訟だけではありません。A社は顧問弁理士に相談し、裁判に至る前に紛争を解消するための幾つかの選択肢を教わりました。
まず検討したのは直接交渉(示談交渉)です。A社からX社に連絡を取り、話し合いの場を設けて和解を模索する方法です。お互いの主張や事情を率直に伝え合い、双方が納得できる着地点を探ります。具体的には、A社がX社に対して特許のライセンス契約を提案し、適切な使用料(ロイヤリティ)を支払うことで和解する案が考えられました。訴訟に踏み切る前にライセンスで解決できれば、法的な争いを避けつつ問題を収束できます。話し合いによる解決は費用も抑えられ、関係修復もしやすい点がメリットです。
もし当事者間の直接交渉だけで合意に至らなければ、第三者の力を借りる方法もあります。その一つがADR(裁判外紛争解決手続)と呼ばれる手法です。ADRとは裁判によらず中立的な第三者を交えて紛争を解決する手段の総称で、例えば調停や仲裁などが含まれます【2】。調停では裁判所とは別の機関(日本知的財産仲裁センターなど)の調停人が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意点を探る調整を行います。調停手続には法的強制力はありませんが、当事者同士が自主的に合意することで柔軟で納得度の高い解決が期待できます。一方の仲裁は、民間の専門家である仲裁人が裁判官の代わりに判断を下す手続です。あらかじめ両者が仲裁合意を結んでおけば、仲裁人の下す裁定には法的拘束力が生じ、原則として裁判と同様の効力を持ちます。仲裁は通常、裁判よりも迅速で簡易な手続で解決が得られる利点があり、非公開で進められるため秘密保持も可能です【2】。このようにADRを活用すれば、訴訟という手段を取らずとも知財紛争を解決できる可能性が高まります。
ライセンス交渉による特許トラブルの解決
A社はまずX社との直接交渉に臨むことにしました。顧問弁理士の助言のもと準備を整え、X社との話し合いの場を持ちます。最初、X社は自社の権利侵害に強く抗議し、A社に対しサービスの提供停止を要求しました。しかしA社は、自社も悪意で侵害したわけではないこと、サービスの継続は会社存続に不可欠であることを真摯に訴えました。その上で、「ロイヤリティをお支払いしますので、どうかサービス提供を継続させてください」と特許のライセンス許諾を提案したのです。
X社は当初こそ厳しい姿勢でしたが、A社の誠意ある説明と事業規模を考慮し、提案に耳を傾けました。訴訟に持ち込めば自社も多大なコストと時間を費やすうえ、A社から十分な賠償金を回収できる保証もありません。それよりも、ライセンス契約によって確実に使用料収入を得た方が得策だと判断したのです。こうして両社は特許実施許諾の契約を締結し、A社はX社にライセンス料を支払う代わりに、引き続きサービスを提供できる権利を得ました。結果としてX社にとっては自社特許からの新たな収益源が生まれ、A社もサービスを止めずに済んだことで事業継続が保証されました。紛争がビジネス上のWin-Winな合意に転じたわけです。このように、特許権者であれば自ら保有する特許を相手企業にライセンスして使用料収入を得ることで、紛争をビジネス機会に転換することも可能です。自社だけでは活用しきれていなかった特許も、他社にライセンスすれば収益源となり得ます【3】。場合によっては、利用予定のない特許を売却してしまう選択肢もあります。不要な特許を売却すれば、一時金収入を得て現金化できると同時に、その特許に関する紛争リスクからも解放されます。近年、こうした企業間での特許売買や移転も盛んになってきており、特許の有効活用策として注目されています。まさに特許のライセンス提供や売却による収益化は、紛争解決と自社利益創出を両立できる有効な戦略と言えるでしょう。こうした特許のビジネス活用は、企業の知財部門が注力すべき重要な戦略でもあります【6】。
知財トラブルを防ぐための予防策
今回の件を教訓に、A社は今後同様のトラブルを未然に防ぐための社内体制整備に乗り出しました。知財トラブルを起こさないことが最も望ましいのは言うまでもありません。普段から知的財産に関するリスクマネジメントを徹底し、トラブルの芽を摘んでおく取り組みが重要です。A社が講じることにした主な予防策を以下に挙げます。
- 契約書の整備と見直し:他社と共同開発や業務委託を行う際には、知的財産権の帰属や利用範囲について契約書で明確に定めておきましょう。また契約内容は事業や技術の変化に応じて定期的に見直し、必要に応じて更新します。専門家のチェックを受け、自社に不利な条項がないか確認することも欠かせません【4】。
- 事前の権利調査(クリアランス):新製品や新サービスを企画・開発する段階で、他社の特許権や商標権を侵害していないか事前に調査する習慣をつけましょう。例えば特許庁が提供するデータベース「J-PlatPat」を活用すれば、既に他社が取得している特許を検索して把握できます。こうした事前調査は知財トラブル予防に不可欠であり、自社のアイデアが他社権利に抵触するリスクを大幅に減らせます【5】。
- 知財リスク管理と専門家への相談:自社内で知的財産を管理する担当者や部署を決め、定期的に知財戦略の見直しやリスク評価を行いましょう。他社から権利侵害の警告を受けた場合の初期対応手順(マニュアル)を策定しておくと迅速に対処でき安心です。また、日頃から弁理士や弁護士といった知財の専門家に相談できる関係を築いておけば、有事の際の心強い味方となります。必要に応じて「知財保険(知的財産訴訟保険)」などの活用を検討するのも一つのリスクヘッジ策です。
裁判せず解決したことで得られたメリット
こうしてA社は裁判を回避し、話し合いによって知財トラブルを解決することができました。裁判に訴えなかったことでA社が得られたメリットは計り知れません。まず、訴訟に費やすはずだったコストを大幅に節約できました。交渉やADRによる解決であれば、一般に裁判よりも費用は低く抑えられる場合が多く、中小企業でも利用しやすいと言われます【2】。今回A社が支払うことになったライセンス料は、もし裁判で敗訴した場合に科されていたであろう賠償金額よりもずっと低いものでした。また解決までのスピードも格段に速く、警告を受けてからわずか数ヶ月で和解に至りました。一方で裁判を選択していたなら、今頃まだ一審の審理中であった可能性が高いでしょう。迅速な解決によって、A社は事業へのダメージを最小限に止めることができました。
さらに、話し合いによる解決を選んだことで、X社との関係修復の余地が残った点も大きな収穫です。裁判で徹底的に争っていたら、たとえ決着しても相手との関係改善は困難だったに違いありません。それが今回、両社が納得ずくで和解契約を締結したことで、一定の信頼関係を取り戻すことができました。和解後、X社はA社に対し「これからも貴社の発展を見守っています」と声をかけてくれ、A社も「将来は御社と技術提携できる日を目指したい」と返答するなど、良好な雰囲気で締めくくられました。
また、紛争解決まで非公開で進められたため秘密保持の面でも安心感がありました。裁判になれば公の記録が残りかねないところでしたが、今回は契約交渉というクローズドな場で合意に達したため、技術情報や係争の事実が社外に広まることも避けられています。このように裁判をせずに済ませることができれば、費用・時間・信用といったあらゆる面でメリットが大きいのです。
最後になりますが、特許権をお持ちの方は、特許売買・ライセンスプラットフォーム「PatentRevenue」(https://patent-revenue.iprich.jp)に特許を無料登録することもぜひご検討ください。自社の特許を登録しておけば、ライセンス先や買い手となる企業を効率的に見つけることができ、知財をビジネスに活用する取り組みを強力に後押ししてくれます。
(本記事はAIを用いて作成しています。)
参考文献リスト
- 日本弁理士会, 「調停・仲裁による知財紛争解決」『PATENT』64巻1号 (2011), pp.4-7. https://jpaa-patent.info/patents_files_old/201101/jpaapatent201101_004-007.pdf
- 法テラス (日本司法支援センター), 「ADRとは何ですか。」(よくある相談Q&A). https://www.houterasu.or.jp/site/faq/saiban-jidan-005.html
- 京都総合法律事務所, ニュースレターVol.13「知的財産トラブル入門」(2022年5月発行). https://kyotosogo-law.com/wp-content/uploads/2022/05/NewsLetter-vol.13.pdf
- 一般社団法人発明推進協会, 「特許権侵害の権利行使を受けた際の対抗策と侵害を未然に回避するための予防策」セミナー案内 (2025). https://www.jiii.or.jp/kenshu/chizaikenshu_kenshukai/chizaikenshu_kenshukai20250128.html
- 特許庁, 「知的財産権を事業に活かそう(中小企業支援サイト)」J-PlatPatの紹介ページ. https://www.jpo.go.jp/support/chusho/index.html
- 日本弁理士会, 「企業の知財部門が注力すべき特許の活用策について」『PATENT』75巻4号 (2022), pp.76-84. https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3976

